日記(fragment)のとても短いお話
08/19の日記
23:07
可愛いきみ。
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二人で出掛けた帰りがけ。
とあるショッピングモールのレストラン街で夕飯を食べて、屋上階の駐車場に向かおうとした時だった。
屋上階のひとつ下の階にある映画館フロア。その片隅のゲームコーナーの前。
そこで隆が、ピタリ。足を止めた。
「ーーー」
ーーーなんだろう。ゲームコーナーの一点をジッと見てる。
隆が珍しい。
そう思って、隆の視線を辿ってみたら。
そこには一台のクレーンゲーム機。
ぬいぐるみとか取るヤツ。
( ーーーぬいぐるみ? )
何台かある内の、どうやら隆が興味を持ってるらしいのは。
なんだか白くてふかふかもふもふしてる…動物?ーーー動物なのか?それか何かのキャラクター?
まぁ、よくわかんないけど。それが気になってるみたいだ。
「ーーー欲しいの?」
「えっ…?」
もしかしたら無意識に立ち止まってたのかな。隆はハッとして、振り返って俺を見た。
「アレなに?ーーー動物?」
「え…ぁ…。」
「あの白いヤツでしょ?ーーー取ってやろうか?」
「え!ホント⁇」
「ーーーやっぱ欲しいんだ?」
「‼」
( っ…可愛い )
必死で誤魔化してるけど、目は例の白いもふもふに釘付けだ。
俺に指摘されて恥ずかしそうにしてるけど…。欲しいんだろ?
俺は先立ってそのゲーム機の前に進む。
隆もちょっと躊躇った後、俺について来た。
「ーーー」
ホント。なんだろう…これ。
ケース越しにジッと見るけど、よくわからない。白いもふもふの丸い塊に見える。
…けど。
傍らの隆は目をぱちぱちさせて、それらに夢中だ。
「ーーーちょっと待ってな?」
「っ…う、うん」
そんな姿見せられちゃ、やってやらない訳にいかないよな?
早速コインを投入して。
俺は久々のクレーンゲームを開始した。
「わぁい!イノちゃんありがとう‼」
「どう致しまして」
挑戦して( なんと!)二度目でゲットした隆ご所望の白いもふもふ。
ころりと出てきたそれを隆の手に渡してやったら、心底嬉しそうに微笑んだ。
「ーーーそれなに?」
「ん?これ、うさぎ!」
「うさぎぃ?…だって耳とか顔とか無えじゃん?」
「あるよ!ほら見て!イノちゃんよく見て‼」
「ええ~⁇」
隆に突き出されたそれを、間近で眺める。
そしたら、よく見たら。
くたり…と垂れた長い耳と、もふもふの毛に隠れた赤い目。
ーーー確かにうさぎだ。
「ーーーうさぎだな」
「でしょ?これさ、ルナシーのうさぎに似てない?」
「え…あ、ツアーグッズの?」
「そう!家にも並べてあるもんね?今日からこの子も一緒に並べてあげようっと!」
「ーーー」
「イノちゃんホントにありがとう!大事にするね?」
ーーーそうか。それで気になって欲しかった訳か。
…俺には正直同じに見える…。けど、まあいいか。あんなに隆が喜んでるんだから。
「ふふっ…ふかふか」
「……」
ーーーにしても。
似合うなぁ…。ああゆうの。
大の大人なのにな…
可愛いよなぁ…。
「隆ちゃん」
「ん?なぁに?」
「ーーー」
「…?ーーーん?」
「ーーー…」
白くて、ふかふかもふもふしてて、極め付けの赤い目。
ーーー隆みたいだ。
…って思ったけど、言わないでいた。
「良かったな?」
「っ…うん!」
ーーー可愛いなぁ…。
end
・
08/21の日記
23:25
我儘な可愛げ。
---------------
「隆。イノ帰っちまうぞ?」
スギちゃんが。ずっとスタジオのソファーでそっぽ向いて座ってる俺に、ため息を含ませて声を掛けた。
ーーー知ってる。イノちゃんが帰り支度してること。
ーーーでも今は、とてもじゃないけど振り向けないの。
「隆?いいのか?今日はひとりで帰るのか?」
ーーースギちゃん…。俺、子供じゃないもん。ひとりで帰れるよ…。
「あ、ほら。イノ、もう支度終わったぜ?帰っちまうぜ?」
「っ…」
ーーースギちゃんの実況中継みたいな言葉が俺に突き刺さる。
頑として振り向くまいとしてるのに、決心が揺らぐ。
…なんて、自分の気持ちとスギちゃんの言葉の間でゆらゆらゆらゆらしてる間に。
「お疲れ」
ガチャ。ーーー…バタン。
ーーーイノちゃんが。
スタジオを出て行ってしまった。
ーーー俺に。声をかける事もせずに。
「ーーーーーーーーーっ…」
ーーーどうしよう。
イノちゃんが…。
見てくれなくて、何も言ってくれない事が。こんなにも悲しく思うなんて、知らなかった。
いつもいつも一緒にいるから、気付かなかった。
ーーー完全に固まってしまった俺の側で。スギちゃんがため息をついた。
「ーーーきっかけは?」
「え…?」
「隆がイノにプイってしてる理由だよ」
「ーーー別に」
「…な訳ないでしょ?」
「ーーー…」
(ーーーーーーーーふう…)
「ーーー」
「まぁ、無理には聞かないけど…」
「ーーー」
「でもさ?隆」
「ーーー…ん?」
「もっと素直になってもいいんじゃない?」
「…え?」
「だってさ。イノにどんなに我儘言っても、甘えても、無茶振りしても許されるのって」
「ーーー」
「隆だけでしょ?」
「!」
「縋って纏わりついて…って。ーーーそんな隆、めちゃくちゃ可愛げあると思うよ?」
「っ…ーーー」
そのタイミングで。
pipipi…pipipi…
テーブルに置いた、俺のスマホが鳴り響く。
画面には…
「ーーーイノちゃん…」
スギちゃんをチラッと見ると。早く出ろって目配せしてる。
ーーーーーーーうん。
pi。
「ーーーはい」
『ーーー隆ちゃん?』
「ーーー…うん」
『何してんの。ーーーずっと待ってんだけど』
「っ…先に帰って…」
『帰るわけねえだろ』
「ーーーっ」
『ーーー今日はまた、なに臍曲げてんのか知らないけど』
「……」
『ーーー可愛いだけだ』
「っ…!」
『ーーー駐車場で待ってるから』
pi。
言い返す前に切れちゃった。
スギちゃんは一部始終を見守って。
荷物を持って、俺の肩をぽんっと叩いた。
それで。
「手がかかる方が可愛げあるよ?」
そう言って、スギちゃんは帰っていった。
俺は暫し、スマホと睨めっこ。
でも、どんなに画面を睨んでも。
やっぱりどうしても会いたいのは、電波の向こう側にいる、イノちゃんなんだ。
pipipi…pipipi…
pi。
『はい。ーーー隆、まだ?』
「ーーーイノちゃん」
『うん』
「ーーー時々イノちゃんにムカついちゃうことあるけど」
『うん』
「ーーーイノちゃん大好き」
『ーーーーーうん』
「好き」
『うん』
「だからーーー…迎えに来て?」
我儘を言ってやった。
でも、いいよね?
『ーーーいいよ。お前なら』
これからもいっぱい。
我儘言うよ?
end
・
08/26の日記
23:03
夏草
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ジーワ ジーワ
ジジジジジ…
ミーン ミーン
「セミ!せみ!せ・み‼」
「いや~。大合唱だな」
「夏真っ盛り!」
「いやでも隆ちゃん。暦上はもう秋だよ」
「ーーーそうなんだよねぇ…」
残暑厳しい昼下がり。
日射し照りつけるこんなアッツイ日に、俺と隆は何してんのか?って言ったら。
まぁ、相変わらず。仲良くデートの真っ最中だ。
特に行き先も決めず、俺の車で適当に走って。成り行き任せで着いたのは海沿いの街。ずっと続く海岸線の道路を走ると、すぐ側を小さな緑色の電車が並走してる。
あの小さな電車も乗りたいね!って隆が言ったから、その駅の近くのコインパーキングに車を停めた。
ここからその電車に乗って沿線を回ろうと思うけど…
車から降りた途端に吹き出る汗。
ーーーーー暑っ…
「ーーーでもさ?隆ちゃん。何もこんな時間に外デートしなくても」
「ええ?」
「こんな日射しの強い時間は屋内デートのがいいんじゃない?」
「っ…だって」
「ん?」
「ーーーこの夏、忙しくって全然遊べてないじゃん」
「ま…ね?」
「お互いソロとルナシーでスタジオ通いばっかりで、夏らしい体験してないよ?」
「ーーー仕方ないけどな?」
「もちろん、好きでしてる仕事だけど。…季節感もちょっとは味わいたいな…って」
「まあ、そうだな」
「うん」
「ん。いいよ?」
「えへへ!」
まあ、確かにそうだ。ここ最近はずっとスタジオに篭ってた。たまには陽の光も浴びないとな?
ーーーにしても。
「暑いな」
「あと三ヶ月もすれば寒くなるよ。…そう考えると、四季ってすごいね」
「な。今はまだ数ヶ月後に暖をとってる自分が想像つかねえ」
「コタツとか?」
「うわ…アッツ」
「お鍋とかおでんとか」
「や。今は遠慮しとこ。ーーー今はその辺でアイス…」
「アイス!食べたい食べたい!かき氷でもいいよ!」
「いいね。探すか」
「うん!」
そんな感じで、ジワジワ蝉が賑やかな道を。
隆一と二人で歩く。
ジジ…と、セミの気配を真上に感じて見上げたら。真っ青な空に飛行機雲が横切ってた。
時折吹く風が、汗で濡れたシャツの隙間を通り抜けて気持ちいい。
丈の伸びた夏草が、サンダル履きの俺たちの足元をサラサラと撫で上げた。
「ーーーん…。」
「ん?隆、どした?」
「ーーーんーーー…プールの匂い」
「プール?」
隆の言葉に鼻を突き出す。
そしたら。
「あ。ホントだ。塩素の…」
「ね?」
「あと、プールサイドのコンクリートの匂い」
「あはは!わかる。足の裏熱いんだよねぇ」
「ーーーどっから?ーーーあ、小学校」
「え?…あ、ホントだね!ちびっ子の声がする」
「いいなぁ。プールの時間?俺も飛び込みてえ」
「ね!涼しそう」
くるりと見渡すと、坂の上に小学校らしき建物が見える。
ーーー途端に、懐かしさが込み上げる。
「ーーー小学生か」
「懐かしいね」
「な。ーーーその頃はまだお互い知らなかったな」
「そうだね」
「ーーー」
「ーーー」
「ーーーでも。」
「ん?」
「良かった。ーーー隆と出逢ったのが、そこそこデカくなってからで」
「う?」
「だってさ?ーーー」
「うん」
「だからこそ、すぐにできた」
「?ーーーなにが?」
「わかんない?」
「…わかんない~」
「ーーーーー自覚。…隆が好きって、自覚。」
「!」
「好きって自覚して、告白して。すぐだったろ?」
「え?」
「ーーーーーキスも、色々」
「っ…!」
「ちびっ子の頃じゃ無理だろ?」
「‼」
「だから良かった。」
「ーーーーーうん」
隆は俯いて黙ってしまった。
ーーー照れてるってわかる。
嬉しくて恥ずかしい時、隆は黙るから。
「ーーーーーさて。アイス探しますか?」
「ーーーーーうん」
「…かき氷でもいいよ?」
「ーーーーーっ…うん」
「ーーーーーおごるよ?」
「ーーーーーうんっ!」
暑くて汗だくの午後。
でも、俺たちは手を繋いだ。
隆の手は、ちょっと湿ってて、熱くて。
きっと俺の手も同じだ。
離れ離れの子供時代を、それでも同じ空の下で過ごした俺たちは。
大人になって、今こうして一緒にいる。
幾つもの夏をこえて。
これからも幾つもの夏を迎えて。
隆と一緒に、夏空を見上げるんだ。
end
・
08/30の日記
23:10
俺のだよ?
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ルナシーのライブの打ち上げ。
大きな会場は人で溢れてた。
あちこちで始まる乾杯と、労いの言葉。
ツアーファイナルを迎えた俺たちに、関わってくれたスタッフ達、駆け付けてくれた先輩、後輩、仲間達。
ライブの後の程良い疲労感と重なって、俺たちは楽しい時間を過ごしていた。
立食パーティー形式の会場。俺たち五人は点々とバラけてグラスを傾ける。
一時間程経った頃かな?
アルコールもちょっと小休憩とばかりに、ソフトドリンクを取りに場を離れる。
あちこちでメンバーの笑い声。…楽しそうだなぁ…なんて思いながら、テーブルの方に向かったら。
あははは!って、一際軽やかな笑い声。
ーーー隆だ。
隆はあんまり酒は飲まないから、手にはやっぱり冷茶のグラス。隆を慕う後輩が数人、隆を囲んで談笑の真っ最中だ。
皆んな隆が大好きだから、隆と一緒に酒が飲めて嬉しそう。隆もそんな後輩に、にこにこ笑顔で話し掛ける。
「ーーー」
ーーーこうゆう光景を見ると、つい顔を出す感情がある。
別に誰も悪いんじゃない。
俺だって、大事な恋人が慕われているのを見るのは嬉しい。朗らかな人柄故だよなぁ…って、惚れ直したりして。
でも。
でもさ?
ちょっと、隆にくっ付き過ぎじゃない?
とか。
あんま、触るんじゃねえよ。
とか。
隆の恋人として、当然の感情が湧いてくるんだ。
ーーーだからって別に、殴ったり、引き剥がしたりはしないけどさ?
知らしめてやりたいとは…思う。
隆は俺のだから。
事によっちゃ、黙って見てねえよ?
ーーーって。
だから…。
ソフトドリンクを取りに行くのは止めにして。その足を、隆の方へと向けたんだ。
「隆」
「ん?あ、イノちゃん!」
「なに。皆んなで飲んでんの?」
「うん!皆んな昨日今日って来てくれたの!」
隆の嬉しそうな顔に微笑んでやって、そのまま隆の後輩君達の方を向く。
イノランさんお疲れ様です!
ギタープレイ、めちゃくちゃカッコ良かったです!
最前で暴れてました!
また早く観たいです‼
そんな有難い言葉を嬉しく受け取りつつお礼を言って。
( 嬉しいけど、これとそれとは別 )
皆んなのグラスを見ながら、こう言った。
「皆んな飲んでる?食べてる?」
「今日のご飯美味しいよねぇ」
俺の言葉に隆が一緒になって、テーブルの上のオードブルを指差した。
隆は飲まない代わりに、ちょこちょこ食べてるようだ。いくつかの小皿に、サラダやクラッカー。ナッツやデザートが乗っている。
ーーー!
それを見て、俺は。
困った事に、思いついてしまった。
ーーーなにをって?
それはさ…。
「隆も食べてる?」
「う?うん!皆んながたくさん持ってきてくれたんだ」
「(ム…) へぇ、良かったな?」
「うん!イノちゃんも食べる?」
「ん?いや、俺はいいよ。腹いっぱい。ーーーーー隆は?」
「ん?」
「ん…ーーこれ。このナッツ美味い?」
「それまだ食べてない」
「そ?ーーーんじゃ…口開けて」
「え?」
「食わしてあげる」
「っ…いいよ、自分で食べる」
「いいから。今日、最高の歌を歌ってくれたご褒美」
「ぇ…ええ?」
チラッと周りを見る。
俺と隆の雰囲気に、周りの皆んなも…ソワソワしてる?
ホントに、我ながらいい性格してんな…って、苦笑がでる。
隆の事になると、容赦ねえ。
「どれがいい?」
「ぇ、う…うん。じゃあ…これ」
「ん。いいよ?」
「うん」
隆の頬は薔薇色だ。
なんだかんだ、隆も嬉しいんだ。
ナッツをひとつ摘んで、隆の口元に近づける。俺はきっと、にっこりしてる。
「隆、あーん」
「ん…ーーーあーん」
コロ…と放り込んだ小さなナッツ。
モゴモゴと、ちょっと恥ずかしそうに咀嚼する隆が可愛い。
ーーーこくん。
飲み込んだ後の、はにかんだ顔も。
最高に可愛い。
気付くと、周りにいた子達が。
ちょっと照れくさそうに、俺たちから距離を置いていた。
いいか?
今日は大サービスなんだからな?
ホントだったらこんな可愛い隆。
誰にだって、見せたくはないんだ。
隆は、俺のなんだから。
end
・
09/02の日記
22:27
スギちゃんのある日の事。
---------------
君がアイツの誰より大切なひとだって事は知ってるよ?
それからーーー逆も然り…って事も。
「わっ…‼」
「!!!っ…隆!」
「っ…」
「ーーーーーーー…と」
「ーーースギちゃん…」
「あぶねえ…ーーー隆、大丈夫?」
「っ…うん、ありがとうスギちゃん」
「気を付けろよ~顔から転んで傷作んなよ?」
「うん、ちょっと急いでて…ーーーホントにありがとう」
「いいって」
じゃあまたね!って、隆はまたぱたぱたとスタジオの廊下を駆けてった。
余裕の顔で手を振る俺。
ーーーでも、内心はね?
( ーーーなんだろう?ご褒美? )
( 日々スタジオに篭りきりで曲作りに励んでる俺への、神様からのプレゼントなのか? )
( ーーー今の、あの、隆との抱擁は‼ )
連日のスタジオ作業で、今が朝なんだか夜なんだかよくわからない位、煮詰まった俺。
コーヒーでも飲むか…って自販機目指して廊下を出たら。窓から差し込む陽射しで、今が昼前なんだって知った。
ちょっとさすがに仮眠とるか…ってフラフラ進む通路。
ーーーそしたら。
わっ…‼って、気付いたら目の前に隆のドアップ。
何事⁉ーーーそう思った瞬間、隆は両手に抱えてた巨大なクマのぬいぐるみごと、俺にぶつかった。
思わず体勢を崩して倒れ込みそうになった隆を、反射的に受け止めた。
ぽわんっ!と床に落ちるクマ。
何でこんなの持ってんの?って疑問が湧くより先に。今のこの状況に、俺は歓喜で眠気が吹っ飛んだ。
ーーー隆を…
ーーー隆を…抱きしめてる!
ーーー大好きな大好きな隆を!
ーーー可愛い可愛い隆を!
近頃すっかり貫禄が出て。今やルナシーの盛り上げ隊長。煽るわ、叫ぶわ、寝っ転がるわ。ヴォーカリストとしても、隆と張るくらい歌う様になったアイツ。
もうひとりのギタリスト。
そんなアイツと隆がらぶらぶだって事は知ってる。
アイツは隆が好きで。
隆もアイツが好きで。
ちょっと隆にちょっかい出そうもんなら、冷え冷えした視線で睨まれる事も経験済みだ。
でも。
でもさ?
ーーーーーー俺だって隆が好きなんだ!
ーーー別に、アレやコレやをしたいって事じゃない。
ただ隆に微笑んでもらいたい。目の前でにっこり笑ってくれるだけで幸せなんだ。
( そんな願いが…今! )
( しかも隆を抱きしめた。にこにこして、ふんわり可愛い隆をこの手で!)
( しかも何なんだあのクマは!よくわかんねえけど似合いすぎだ‼ )
ーーー至福。
今日はもう、さらに頑張れる。
ありがとう隆。
そんな自分だけの幸せに浸っていたら。
向こうの部屋から隆のよく通る声。
「イノちゃーん!」
「隆?どしたの?そのクマ」
「ソロの撮影で使おっか~?って、スタッフと話してたの。持ってきてくれたんだぁ」
「へぇ、隆によく似合うじゃん」
「え?…えへへ、ホント?」
「ふわふわもふもふで。それに抱きついてる隆、めちゃくちゃ可愛いし」
「ね。ふかふかで気持ちいい。イノちゃんも抱きしめる?」
「ん?」
「イノちゃんもいいよ?このこ抱いて」
「ん…ーーーーー俺はいいよ」
「ええ?ーーーそう?」
「うん」
「ーーー気持ちいいのに」
「いや、俺はさ?」
「ん?」
「隆を抱きたい」
「ーーーっ…」
「…いい?」
「ーーー…う」
「おいで?ーーーほら」
「…うんっ」
ーーー隆の声が、嬉しそう。
ーーーアイツの声も、優しさが滲んでる。
「ーーー」
君がアイツの誰より大切なひとだって事は知ってるよ?
それからーーー逆も然り…って事も。
でもね?
同じ〝好き〟だけど、ちょっと違う〝好き〟で。
俺も君が好きだよ。
end
・
09/18の日記
22:49
眠りの君。
---------------
眠る隆一を、そっと抱き上げた。
「…ん」
俺の胸に頭を預けるように抱えると、隆一は小さな声を洩らす。
深い眠りによって脱力した身体は。いつもより少しだけ、重く感じる。
「ーーー」
抱き上げた隆一を、そのまま寝室の方へ。
なるべく揺らさないように、丁寧に運ぶ。
寝室のドアにほんの少し隙間が開いていた。
助かった。
両手が塞がっているから、少々行儀が悪いが、その隙間に足先を入れ込んでドアを開けた。
部屋は暗い。
開かれたカーテンの間から差し込む月明かりだけだ。
でも、何も明かりが無いよりはマシだ。
例によって手が塞がっていて電気もつけられないから。
それに。
月明かりも、目が慣れてくれば良い照明になるんだ。
青白くて、黄色い。
あたたかな光だ。
ギシ…。
眠る隆一を、そっとベッドに降ろす。
降ろしたそばから、黒髪が布団に散って。
重力に従って落ちた両手も無造作で。
全て、計算なんか無い。
自然に身を任せる、隆一の姿が。
それはそれは。
綺麗で。
煽情的。
お伽話の眠り姫なんか目じゃ無いよな。
でも。
そんな隆一の頬には。
涙の跡が幾筋もある。
目元もよく見れば、泣き腫らしたあと。
「ーーー…」
ーーーちょっとした行き違いで起きた。
喧嘩。
相変わらず頑固で頑なな隆一と。
今日はちょっと虫の居所が悪かった俺。
タイミングも悪かったんだ。
多分、お互い謝るタイミングを探してたのに。お互いのそれに気付けなかった二人。
結果言葉に言葉を重ねて、険悪な雰囲気。
黙りこくる隆一。
冷たいひと言を言い放つ俺。
とうとう隆一は。
俺に背を向けたまま、声を殺して泣き出した。
「ーーーやっぱ、ダメだなぁ…」
隆一の震える肩に気が付いた瞬間。
俺の背筋はピンとして。
結果、泣かせてしまった事に。
ーーー罪悪感。
隆一がいつのまにかソファーの背凭れに顔を埋めて眠ってしまうまで。
動けなかった。
ーーー情けない事に…。
「恋人の涙ってさ」
「ヤバイね」
隆一の涙を見て。
襲ってきたのは罪悪感と。
それから…
これ以上無いくらいの、愛おしさ。
めちゃくちゃに愛してやりたい、そんな愛情。
「ーーー隆」
髪、額、鼻先、瞼、頬、それから…
唇に。
ひとつひとつ大事に、キスをする。
最後の唇は、味わうように。
「ーーーごめんな」
目が覚めたら、もう一度言うよ。
そうしたら、悲しさで泣かせてしまったお前を愛しんであげたい。
今度流す涙が。
悦びの涙であるように。
end
・
09/30の日記
21:36
君との…
---------------
The moment I wish for eternity with you.
…INORAN→RYUICHI
俺の上で。
眉を寄せて、目を潤ませて。
涙を零して。
汗ばんだ肌で、俺に縋り付いて。
苦しげに、不規則な呼吸。
でもその表情は恍惚に濡れて。
快感も痛みも。
全部我慢して。
それでも我慢しきれずに。
こぼれ出た声。
そんなギリギリの隙間で、俺には微笑みを見せてくれる。
そんな君。
ギターを弾く、俺の隣で。
四人の真ん中で。
叫ぶように。
血を吐くように。
高く飛べるように。
透けるように。
愛し合うように。
光を振り撒いて。
歌う、君。
あどけなさも。
頑固なところも。
可愛いらしさも。
美しさも。
妖艶さも。
全部、見てみたい。
今まで見せてくれた君を全部合わせても。
まだ、足りない。
初めて見る君の表情を見つける度に。
俺は、まるで宝物をもらった気分になれるんだ。
だから、そんな。
君と一緒にいられる時間。
君との永遠を願う。
end
・
10/01の日記
21:32
願う。
---------------
The moment I wish for eternity with you.
…RYUICHI→INORAN
俺を膝の上に抱えて。
その両腕は、俺を支える。
背に回して。
俺の首筋を撫でて。
汗を滴らせて、俺を突き上げる。
唇と舌先で、俺の身体をひとつひとつ愛してくれる。
苦しげに、不規則な呼吸。
その表情は快感に歪む。
でも、優しい。
俺が気持ちよくなるように。
きっと色んな事を耐えてくれてる。
それでも堪えきれずに。
俺を呼ぶ、掠れた声。
愛情がいっぱいで。
そんな声で呼ばれたら、こっちが堪えられない。
そんなギリギリの隙間で、俺に囁いてくれる。
愛してる。…って。
そんな君。
歌を歌う、君の隣で。
隣にいつもいてくれる、君。
そのギターの音色に、今までどれだけ救われたかわからない。
時を刻むように。
炎のように。
遠く遠く振り返らずに、躊躇いを棄てて。
融けるように。
愛し合うように。
光を振り撒いて。
ギターを弾く君。
意地悪なところも。
茶目っ気のあるところも。
男らしいところも。
色っぽいところも。
優しさも。
全部、知りたいの。
今まで教えてくれた君を全部合わせても。
まだまだ、足りないよ。
初めて知る君の表情を見つける度に。
俺は、胸がきゅんとした気分になれるんだ。
嬉しくて、誰にもあげたくない。
ーーーすごい独占欲…。
だから、そんな。
君と一緒にいられる時間。
手を伸ばして。
なくさないように。
君との永遠を願う。
end
・