日記(fragment)のとても短いお話





06/27の日記

23:00
雨と二人きり。
---------------



夜。
高速道路。
サービスエリア。




「あー、雨、降ってきた」

「まぁ、梅雨だしな」








今日もイノちゃんとドライブデート。
どこかで遊ぶ…っていうより、流れる車窓からの景色を二人で楽しむってデート。

朝は晴れてて、お昼もまだ晴れてた。
お昼を食べて、ちょっとだけ寄り道しようって車を停めて、紫陽花が綺麗な小道を歩いた。




「イノちゃんの曲聴かせて?」


って言ったら。
それだけで、なんの事かわかったみたい。
i phoneを取り出して、ん。って、イヤフォンを貸してくれた。


「Hydrangeaーーーすきだな」

「そ?」

「うん。ーー歌っていい?」

「いいよ?…いいね、俺だけの特権」

「ふふっ」



そんな事で戯れ合いながら、紫陽花を堪能して、再び出発。
この頃から、空が少し、曇ってきた。




「降るかな」

「降ってもいいよ」

「イノちゃん雨すき?」

「うん。隆といる時の雨が、すごくすき」

「ーーー雨のカーテン…」

「隆と包まれたい」



やっぱ、あの曲すきだ。
さっきからずっと、頭の中で、あの曲を歌うイノちゃんの声が響いてる。

雨が似合うあのイノちゃんの曲。

ーーー雨、降らないかなぁ





「もうそろそろ、戻ろっか」

「ん…そうだね。戻るとちょうど、夜になるね」

「途中サービスエリア寄って」

「夕飯食べて」

「家に帰ろう」




元来た道を戻る、高速の入り口に滑り込んで。
ますます暗くなる空を眺めながら、俺の心はわくわくしてた。

だってさ?

言うなればこの車は、イノちゃんと二人きりの小舟だ。宇宙船でもいいし、小屋でもいいし、とにかく二人きりなんだ。

暗い道も、怖い道も。二人なら、逆に力が湧いてくる。
繋いだ手を、絶対離さないよって。
絆も強くなる。

今俺は、そんな気持ち。




「イノちゃん」

「んー?」

「ーーーこの気持ちを味わうために、イノちゃんといるのかも」

「ん?」

「イノちゃんと一緒だと、怖いものないの」

「へ?」

「もしこのまま全然知らないところに行っちゃっても、イノちゃんとなら平気だよ?」

「ーーー」

「二人きりってすごいね」

「ーーーよくわかんないけど、なんとなくわかったよ」

「ーーーどっち?」

「ん?ーーーまぁ、俺も隆と同じ気持ちだよ。…だよね?」

「うん!そうであってほしい」




そんな事を、またまた戯れ合いながら言い合って。( 車中って会話が広がるよね )
気付くともう真っ暗。
都心近くのサービスエリアに着いたら、雨も降り出した。





「ーーー夕飯」

「ん?」

「お腹すいてる?」

「んーー…さほど」

「うん。俺も」

「買って帰って、家で食う?」

「そだね、その方がいいや」

「家の近くでいいよな?」

「うん」

「ーーーじゃ、ちょっと休憩するか」

「うん…」

「ーーー」

「ーーー」

「ーーー」

「ーーー」

「ーーーーーなぁ」

「ん?」

「ーーー夜と高速とサービスエリアってさ」

「ん?うん」

「加えて、雨…って」

「?」

「俺の中で、最高の取り合わせ」

「最高?」

「そう。ーーー隆と二人きりでいる時の、最高のシチュエーション」

「‼」

「まさに今じゃん?」

「ーーーっ…」




イノちゃんの手が俺を引き寄せる。
ルームランプはつけてないから、薄暗いけど。
外の灯りがイノちゃんの瞳に映って、どんな表情してるかよくわかる。

優しくて意地悪な、俺を愛してくれる直前の顔だ。




「隆…」


唇が触れ合うすれすれのところで、俺はクッと顔を引いて言った。



「俺も。…すき」



色んな意味を込めた、すき。
夜も。
高速も。
サービスエリアも。
雨も。
紫陽花も。
ーーーイノちゃんも。



俺の言葉にイノちゃんは満足気に微笑んで。
唇が触れ合った途端、雨の音は聞こえなくなった。




end






07/01の日記

23:16
繋ぎ止める、歌。
---------------



歌。
唄。
詩。
歌唱。
歌心。
歌声。
歌姫。
歌う。
うたう。
ウタウ。
歌 を 。

歌う、隆。





「隆ちゃん」



誰もいない、海岸。

梅雨時で、ジメッとした空気が、海風と混じって身体に纏わりついてくる。
空を見上げれば、青空が恋しくなるくらい、どんよりした昼間の空。

落ち着くっちゃ、落ち着くんだけど。
やっぱ海岸に来たら、青い空がいいよね。

そんな、湿度も高い。不快指数満点の海岸で。
俺と隆は、今日も砂浜で過ごしている。

まぁ、なんだかんだで。俺たちはここが好きなんだ。
天気も何も関係無く、来たくなったら、ここへ来る。




隆はさっきから俺には目もくれず、ひとりで悠々と遊んでる。

砂浜に文字を書いたり。
波打ち際で、パシャパシャ水遊びしたり。
小さな貝殻を、手のひらいっぱいに集めたり。
空を見上げて。
強めの海風に逆らって飛ぶ、海鳥をじっと眺めたり。

そして、俺は…といえば。
ーーーそんな。自由な隆を眺めて過ごす。
隆の黒髪が風に揺れる度、そのまま飛んで行きそうで。
手を伸ばして、抱きしめて。
俺に、繋ぎ止めておきたくなる。




「隆ちゃん…。聞いてる?」

「んー…聞いてるよぉ」

「ーーーホントかよ」

「ホント」

「そ?」

「風で聞こえ難かったの。ーーちゃん聞いてるよ」




風で髪と、白いシャツをはためかせながら。隆は振り返って、俺に微笑んで見せる。
そしたら。
微笑んだ隆の後ろで、白い波が音を立てて割れていった。




「隆ちゃん」

「んー?なぁに?イノちゃん」

「ーーーこっち来てよ」

「えー?」

「風強いし。曇ってるし…隆と俺の距離、なんかあいてるし」

「うん?」

「ーーー寂しい。隆が希薄。もっと側に来てよ」



思った事を素直に隆に言ってみたら。
数秒間をおいて。隆はくすくすと笑いだした。




「イノちゃん…寂しがり」

「だって、一緒に来てんのに」

「イノちゃん、欲しがり」

「恋人と海に来たら、側にいてイチャイチャしたいって、普通思うだろ?」

「っ…」

「隆は違うの?」

「えっ…?」

「俺より、海と戯れる事を選ぶの?」

「っ…ーーイノちゃん~~」




ぐっと唇を噛んで。
隆は、ーーーヤバい。…泣きそうだ。

俺の意地悪な問いかけを真に受けて。
ひとりで楽しんでた事に、罪悪感を感じてるのかもしれない。




「や。ーーーごめん、泣かせたいわけじゃないよ」

「っ…ーーー」

「ーーただ、ちょっと」

「ーーー」

「隆があんまりひとりで楽しそうだからさ」

「ーーー」

「困らせたい…な…なん…て」

「っ…ーーー」




キッと。隆の泣きそうな目がつり上がって。
ザッザッ…と、俺の近くまで寄ってきて。
そのまま。

ぎゅっ…と。

隆が、抱きついてきた。





「っ…隆」

「ーーー待ってたの」

「え…?」

「イノちゃんから。俺を抱きしめてくれるの。…待ってたの!」

「っ…ーー!」

「抱きしめるより、抱きしめられる方が好きだって。知ってるでしょ?」

「っ…ーーーーーーー知ってます」

「っ…ん」

「知ってるよ、隆」




こうやって、俺は。
日々、隆に心乱されるんだ。

隆を想う日々は、愛おしくて、光に満ちる、そんな日々だけど。
その裏側では、大騒ぎだ。

余裕なくて。
カッコ悪くて。
隆に夢中で。




でも。





どう考えても。




大好きなんだよ。


隆。







さっきは隆を抱きしめたいって、ちゃんと思ってたんだよ⁇って今更言っても、きっと言い訳にしか聞こえないだろうから。

この際潔く。
隆に夢中でカッコ悪いサマを、たんと見せてやる事にした。

誰もいないのをいい事に。
抱きしめたまま、砂浜を転げて。
思う存分、キスを楽しんで。
さすがに最後まではできないけど。
お互いの身体に、触れ合って。

そして。




「ーーー砂まみれ」

「ペタペタする」

「口もじゃりじゃりする」




可笑しくなって、隆と笑って。
はだけたシャツのまま、もういいやって、手を繋いで、車に向かう。


その、道すがら。




「la la laーーーーー…lala…」



隆が、歌ってくれた。



何処にも行かないよ。

ここにいるでしょ?って、言ってるみたいに。




end






07/15の日記

22:32
幼馴染と恋人➁
---------------



「ねぇねぇ、J君」

「ん~?何だよ隆」

「あのさ?」

「?…おう」

「J君はさ?ーーイノちゃんのこと好き?」


ぶーっっ‼


「ちょっと!J君きったない‼コーラ吹かないでよ」

「オマエっ!隆が変な事言うからだろが‼」

「変じゃないよ!イノちゃんの事好きか聞いただけでしょ⁇」

「そんなん聞いてどーすんだよ⁉」

「いいじゃん別に!イノちゃんと幼馴染なんでしょ?ーーーどうなの⁇好き?大好き⁇」

「なんで選択肢が好きしかねえんだよ⁉」

「え⁉」

「あ⁇」

「ーーーそんな言い方…ーーーまさかJ君、イノちゃんの事嫌…」

「…いなわけねえだろ!どんだけアイツとつるんでると思ってんだよ!」

「じゃあ、好き?」

「うっ…」

「好き?」

「っっ…~~」

「J君」

「ーーーーーーーー( …はぁ…。 )…はいはい、好きだよ」

「っ…‼そっか」

「ーーーあの…隆、この事アイツには言うなよ?」

「うん?なんで?」

「っ…照れるからに決まってんだろ!つか…俺らは今さら好きだ嫌いだって感じじゃねえよ」

「ーーー」

「腐れ縁ってやつだ。スギと真矢君もそうだろ?」

「ーーーーーそっ…か」

「そうだよ」

「ーーーそっか…」

「ーーー」

「ーーー」

「ーーーーー………ま、ほら、あれだ」

「ーーー?…なに?」

「隆はイノが好きなんだろ?」

「え?」

「イノも隆が好きなんだろ?」

「っ…ーーーう…うん」

「だからさ」

「?」

「俺がこんな事ゆうのもなんだけど…」

「J君?」

「ーーーアイツをよろしく」

「‼」

「幸せにしてやって」

「ーーーーーーーーーーーーーーなんか」

「ん?」

「結婚式で、新郎の友人にコイツの事ヨロシクって言われるお嫁さんの気分」

「はははっ!」

「大丈夫だよ?」

「ん?」

「イノちゃんの事大好きだから」

















「イノちゃん」

「ん?なに?隆ちゃん」

「もしね?結婚式する事になったら、新郎側代表の挨拶はJ君にお願いしようね?」

「ーーーへ?」

「俺はどうしよう…ーーーあ、葉山っち?」

「ーーーはい?」

「司会進行はスギちゃんと真ちゃんね?」

「ーーーーーーーえ…あの。…隆ちゃん?」

「幸せになろうね?」

「ごめん、なんかすげえ好ましい話だけど、全然状況飲み込めて無い」

「え?だから」

「うん、最初から…」

「あのね?」



………end







2020/07/16の日記

22:41
逢いたい。
---------------



外は雨降り。
肌寒い夜。

湯船にたっぷりお湯を張って。
身体を沈める。



「はーーー……」



ーーーーーーー落ち着く。
自然と瞼が落ちて、肩の力も抜けて。
ゆらゆらしたお湯に身を委ねる。



「あったかい」


特に意識はしていないんだけど。日々少しずつ積み重なる、疲れとか、季節の変わり目の気怠さとか。
そうゆうのが、お風呂にゆっくり入るとリセットされる。


「ーーーーー」


でもね。
どうしてもリセットされない想いがある。

ここ数ヶ月で、それはどんどん積み重なって。何をしても、消えない。その想いを糧にたくさんの曲を作っても、その想いは消えないで。消えないどころか、増えてって。
本当は時々、どうしようもない想いに泣きそうになる。



「ーーー逢いたいなぁ」



その想いを口にして良いのか、ちょっと躊躇してしまう事もあるほど。
声に出したら止まらなくなりそうで。


ーーー逢いたい。

逢いたいのに、逢えない。
逢えないから、逢いたい。

ーーーこの言葉…前にインタビューでも言ったな…。一夜のライブの時かな…。

あの時と発する言葉は同じなんだけど。
ーーーなんだろう。
今は、先が見えないのが辛い。

それはなんでかって言ったら。

俺たちは知ってるからだよね。
ううん、俺たちメンバーだけじゃない。
スタッフも、ファンの子たちも。
みんなみんな。

ーーーあの、ライブの空間を。
ーーーみんなでひとつになれる、あの多幸感を。



「ーーーーー逢いたい」



「ーーーーーーー逢いたいよ」




ぽちゃん…ぴちゃん…

いつのまにか、滑らかなお湯の表面に。
一滴、二滴…落ちるもの。

涙。



「っ…」



泣いたって仕方ないのに。
でも、時々揺らぎそうになる。
強く持った気持ちが折れそうになる。
ーーーだって、俺だって。早くみんなに逢いたいんだよ。
ーーー早くあの空間に、戻りたいんだ。



「っ‼」



バシャっ!っと、乱暴にお湯で顔を濡らす。涙がわからなくなるように。
このぐちゃぐちゃな気持ちをはらうように。



そんな時、頭をよぎった言葉。


『隆ちゃんの歌声はね、みんなにとっての安定剤なんだよ』



「ーーー」



いつだったっけ。
まだ寒い時期に、イノちゃんが言ってくれた言葉。
今、また思い出した。


それに対して、俺は何て言ったっけ…。

ーーーーそうだ。



「いっぱい歌う。って、言った」


歌う事が、俺自身を保つ力になるって。
そしたら、俺もいるよ?って、イノちゃんが抱きしめてくれたっけ。



ーーー不思議。
さっきまでの揺らいだ気持ちが、スッと溶けていく。

ーーーそうだ。不安に揺らぐ事が、ここからも続くかもしれないけど。
歌っている間は、ただ一心だから。

もどかしさで、またこうして、ひとりで泣く事もあるかもしれないけれど。
歌は、ずっと一緒だ。
音楽も、音楽を愛するみんなも。
音楽が無くならない限り、ちゃんと繋がってるね?



「逢いたい…から。逢いに行くよ?」



真新しい曲達と、敬愛するこれまでの曲達に、今の想いと祈りをいっぱい込めて。
決して諦めないと。
目を閉じれば、あの多幸感溢れる場所にいるような。

そんな歌を。




end



.
3/26ページ
スキ