日記(fragment)のとても短いお話









05/29の日記

04:40
LOVE SONG
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「あのねぇ、あの曲は、」





あの時は千切れそうな気持ちで歌っていたし、壊れそうな気持ちで四人の演奏も聴いていた。

それはもちろん今でも忘れたわけじゃないよ。



LOVE SONGを歌った時のこと。
最後五人で手を繋いだこと。
ステージからの景色。
みんな、皆んな泣いてるから。

忘れられるわけないんだよね。











「ひ と り き り じゃ な  い 」







でもね。
この曲の不思議なところ。
長い時を経て。
いま、気がついた事があるんだよ。






「つ よ く あ い し  た 」






「ら ら  らららららら ら 」







この五人とここまで来られて。
いま、この曲をまた歌うとき。


〝もう二度と離れないよ〟って。


そんな誓いのような曲に思えてくるんだ。


あの時とは逆の、この曲が発するメッセージ。
同じ曲なのに。
同じメンバーで歌い演奏するのに。

不思議だね。







「それはきっとね、隆がもっと可愛くなったからだよ」

「…」

「あ、もちろんあの頃だって可愛かったんだからな?」

「…あの、イノちゃん」

「ーーーって、まぁ。それももちろんだし、あとはね」

「?うん」

「聞きたい?」

「…イノちゃんってばもったいぶって…」

「はははっ」

「もぉ、なに⁇」


「ーーーーーーあのね、」






ら ら  らららららら ら






「俺たち五人がさ、」





愛し合ってるから。










end.

happy birthday! Dear LUNASEA








06/28の日記

04:38
一話 挿話
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夜明けのほんの少し前。



今日もどうやら、雨みたいだ。

緩くエアコンのドライを効かせた寝室にも、その雨音が静かに聞こえる。







さぁぁぁぁぁぁぁ







きしっ…




でも。
そんな音は一瞬で頭をすり抜けて。
俺は今、恋人に夢中。





…キッ、きし








「ーーーーーーっ…ん、ん…っ…」



「ーーーりゅ、ぅ」


「…い…の……」





ギ…っ…きし、キシッ…




「ぁん…っ…ぁ…はぁ…っ…」

「ーーーーー隆…っ…りゅ…」




「ーーーーーーっ……もぉ…イっ…」



「俺…も、」



手のひらを重ねて、指先を絡ませて。
もう何度目だろう?

この夜、こうしてふたりでベッドに潜り込んでから。
静かな夜の中で身体を重ねて。
絶頂を迎えるのは。

気持ちよくて。
その瞬間を迎えるのが最高に幸せで。
でも、少しだけもったいない想い。

ずっとこうして繋がっていたくて。







「ぁ…っ…あぁ、ぁん…っ…ぁあ……ーーーーーー」


「ーーーーーっ…イイ…よ……りゅ…」









夜が明けなければいい。















「っ…ん、」

「ーーーは、」

「ぁ…っ……ん、」




ちゅく…っ…ちゅぷ、








薄暗い部屋でもわかる、隆の濡れた表情。
セックスの後のほんの少しの寂しさを埋めるみたいにキスを交わす。
涙で濡れた隆の睫毛も、汗ばんで額に張り付いた前髪も。
頬も唇も胸も艶々と赤くなって、俺の前で惜しげもなく晒されて。
だから俺は、また堪らずに舌と指先で隆に触れる。
すると隆の手と脚が俺に絡む。
今夜何度目かのその時間が始まる。

何度その瞬間を迎えたって。
飽きる事なんてないんだ。







「ーーーね…もっ…と、」

「もっと、いいか?」

「…ん」

「して、」


「いい、よ」





やっぱり明けなければいい。

雨に閉ざされたこの夜が。











end










07/17の日記

04:04
一話 挿話
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「…上限があるから頑張れることって、ない?」

「ーーーん、?」

「これはここまで…って、わかってるから」

「ーーー」

「できる……っ…て……」

「ーーーーーーーー隆、」

「そ、ゆの…ない…?」

「ーーーーーあのさ」

「…ぁ…っ…」





こうゆうことしてる最中に会話するって、俺は嫌いじゃないし、隆の話す声は、どんなのだって心地よくて聴いているのは大好きだ。
…けど。
それにしても今の状況でこの話題はどうなんだ?って思うんだが…

そう、今の状況。
今日一日を終えて、ベッドの上で。
隆と身体を重ねてる。

ーーーそんな時にこの話題だ。





「ーーーなに、隆は早く終えたいってこと?」

「…ぇ、?…」

「だってこの状況でそんなこと言われたらそう思うと思わない?」

「…っ…ち、違…くて」





じゃあなに?


否定されると顔を出す俺の虐め心。
いじめたい訳じゃないんだけど、わからせてやりたくはなる。
ーーーだからそれは行動で。
息つく間も与えないくらい隆を愛撫する。
脚を抱え上げて、今にも泣き出しそうな隆のものを咥えて舌先で弄る。
ジタバタと両脚をばたつかせて身を捩って逃げようとするから、覆い被さって、優しくその身体を抱きしめた。



「…っ……ん、ゃ…」

「俺もそんなこと言われてちょっと悲しいけど?」

「だか…っ…違…」

「ーーーーー挿入れるよ」

「ーーーっ…ぁ、」


「っ…りゅ…ぅ…」



「………ぁ…っ…あぁ…イ……」



…ノ…っ…


ーーーって、甲高い声で喘ぎながら、隆の丸っこい爪がぎゅうっと俺の背に食い込むと。
俺ももう、余計なことなんてどこかに吹っ飛んでしまう。



わかってる。
隆が違う違う言うのは俺の意地悪な発言について。
隆が何気なしに呟いたのは、もっと違う意味合いがあるんだって。




























「…イノばかぁ……」



くったりとシーツの上に身体を投げ出して。
悪態つく隆の目が涙で潤んでるのを見ると、さすがにちょっと可哀想に思えてしまった。



「ーーー意地悪だった」

「…違うって言ったのに」

「や、悪かったけどさ。でもあんなタイミングであんな話題出されたら普通思うじゃん」

「え?」

「…あんま良くないのかな…とか。だから隆は早く終えたいのかなって」

「!」

「違うって言ってくれるなら、ちょっと安心だけど」

「ーーーそうだよ。俺がイノちゃんとの…その…え…えっち…」

「ーーー」

「嫌だとか早く終わりたいとか、思うわけないでしょ?」

「ーーー」

「好きなんだから」

「ーーーーーん。ありがと」

「イノちゃんとじゃなきゃ、俺だって嫌だからね?」

「っ…隆、」




はにかみながら俺にそんな事を言ってくれる隆がめちゃくちゃ可愛い。
したばっかりだけど、まだまだ夜は長い。
我慢なんてする必要ないよなって、自分に言って。
俺は再び、隆の白い肌に唇を這わす。
びくんっ、と身体を震わせて。隆もまた、俺に向かって両手を広げてくれた。




隆を抱きながら、ぼんやり考える。

上限を設けているから頑張れる事って確かにある。
そこまでならやれる。もう目に見えているゴールに向かって全力でやり抜いて、そこまでいったらスキッと終える。もう振り返らない。後悔もない。
そんな短距離走みたいな熱がそこには在る。


それとは反対に。
終わりは決めない。
というか、決められないという方が正しいかも。
長く永く果てしなく、飽きることもなく、もしかしたらこの終わりは死の訪れの時かもしれないし、その先もそれを抱えていくのかもしれない。
その長さ故に後悔も振り返ることもあるけれど。
低温火傷みたいに、ジリジリと身体と心の深部まで浸透してる熱。愛情。

それって、俺にとっては音楽。
それから…





「隆」


「…んっ…なぁ…に?」

「隆だよ」



「?」

「ーーーーりゅう…隆…」


「ぁっ…ん…んっ…」





上限は存在しない。
終わりは見えない。

俺が愛しているもの。









end









08/04の日記

19:26
IR。夏の日
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「たまにはいいんじゃない?」

「ん?」

「こーゆうのも」







暑い。
 
暑いっていう感想しか出てこなかった俺らの会話が木陰に入った途端に変化した。


先に言ったのは隆。
額から滑り落ちていく汗を前髪を掻き上げる事で拭いながら、俺は傍らの恋人に目をやった。




(たまにはって、何がだろう?)



思った事をまんま隆に訊いてみる。
すると隆は、にっこり笑って俺を見てくれた。




「夏の日の木陰で、こうやって」

「ーーー今みたいな状況?」

「そう。汗かいて」

「あっちぃーって言いながら?」

「ふふっ、そうそう」

「木陰の有り難さを感じながら?」

「ね。陽を遮るだけで全然違う」

「ーーー確かにな」



これだけの猛暑日になると、炎天下を歩く間は余計な事が考えられない。
でもこうして日陰にいると、少し余裕が出てくるんだ。




「イノちゃん平気?」

「平気だよ。風が時々、スッてして」

「ん、良かった」

「隆は?」

「ぅん?」

「平気か?くらくらしてない?」

「大丈夫だよ、ありがとう」



汗だくになりながら木陰で気遣い合って。
大丈夫か?
大丈夫?って。

ーーーそうなんだ。
こうゆうふとした瞬間に、感じられる。
そばにいてくれる大事な存在に。
そばにいてくれる有り難さとか。

愛おしさとか。




「大事にし合ってるよな」

「ん?」

「俺ら」



隆は目を丸くして。

また、にっこり。
微笑んで。



「ね?だから、たまにはいいよね」

「だな」

「暑いけど、こうして一緒に外に出て」

「ん」



「一緒にいるんだなぁって、実感するの」





ーーーつ…


ーーーああ、また。
汗が落ちる。
隆の白い首筋を滑らかに伝って。

隆が確かに、ここにいてくれている証だ。





「ーーーでも、やっぱり暑いね、」

「なんか買おうか。コンビニか自販機で」

「あ、俺サイダー飲みたい!」

「いいよ」

「やった!」




行こう!って、クッと俺の手を引く隆の手を。
俺はもう一度木陰に引き込んだ。



「ーーーっ…?…サイダー」

「わかってる。ーーーーーーでも、」

「…ぇ?」

「その前に」


「…ノ…ちゃ、」





ジーワジーワジーワ…



ああ、すげぇ蝉の声。

ーーーでも。




この瞬間を忘れないように。
暑さと一緒に、お前の笑顔を。




「…ん、っ」




ジーワジーワジーワ…





「ーーー…っ……ノ…」



「…りゅ」






お前の言葉。

待ちきれないサイダー。

木陰で交わしたキス。



夏の想い出。
今年もまた、大事な日がひとつ。





end







08/26の日記

15:31
夏の最後は…
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ちょっと遠くない?

でも、静かに見られるからいいよ。



そうだな。
今夜はふたりして、密やかに過ごしたい気分だから。











「あ、上がったよ」



灯りをおとしたリビングから隆の声が聞こえる。
俺はキッチンでカラカラとカクテルを作って。
隆の声の方をちらちら眺めながら、出来上がったばかりのグラスをふたつ持って。




「どれ、」



すでに隆が座っている窓際のフローリングの、隆の隣に俺も腰をおろした。

そんな間にも。
遠くの方で花開く夏夜の華が…



ド…ン、
ドー…ン


振動も音も遠いから控えめな、打ち上げ花火が。
小さく丸く、俺の持つグラスに色鮮やかに滲んで消える。




「はい、隆ちゃん」

「わ、ありがとう!」

「夏の終わりの…カクテルね」

「イノちゃん作!ーーーいただきます」




カラン…

こくん。



隆が嬉しそうにグラスを傾ける一連の所作を、俺はじっと見つめた。
こく…こくん。

グラスに映り込む小さな花火ごと飲み干すようで。
赤や黄や青の光が隆の唇や瞳に滲んで。


ああ、夏が終わるなぁ…って。

俺も自分のグラスをぐっと傾けた。






「美味しい」

「ん?そりゃよかった」

「花火見ながらお酒飲めるって贅沢だね」

「まぁ、花火はだいぶ小さいけどな」



ここから見える大きさは500円硬貨くらいか。



「でもいいんだよ」

「ん?」

「イノちゃんとのんびり見られるっていうのが一番」

「ーーー邪魔されずにな?」

「そう」

「誰にも」

「そうだよ」




カラン…。

半分ほど飲み終えたグラスを、隆は傍らのローテーブルに置いて。


「ん?」


つつつ…
座ったまま、膝をかかえたまま。
俺の方へ、にじり寄って。




こてん。



「りゅ、」


俺の肩へ頭を預けた。


ーーーえ。まさか…



「…酔った?」

「ん…」

「ええ?」



あんくらいで?
いやいや。
ベースにテキーラ使ったけど、隆の方はジュースやソーダでだいぶ薄めたつもりだ。
ーーーでも、半分で…もう?



「…りゅ…隆」



まさかもうこのまま寝こけちまうのか⁈
花火が終わるまで目は開けてらんないのか⁇
夏の終わりのふたりの時間はもうこれで終了か⁈
ガックリ…

ーーーなんて。
多分俺が落胆で顔色悪くしてたのかも。


隆はしばらくそのままこてん…としてたけど。
しばらくすると、小さく掻き消えそうな声で。
くすくす笑って。




「ーーーーーイノちゃん、」




ばかだね。

…って。






なんで静かな場所がいいと思うの?
なんでここからがいいと思うの?
…なんで、

ーーーふたりでいると思うの?






夏の終わりの夜空の下で。
愛して欲しいからでしょう?












「っ…ん、」



ちゅっ…






最初は隆からの口づけで。
でも。
潤んだ瞳で見つめられたら、我慢できなくなったのは俺が最初。

唇を重ねたまま、隆の後頭部に手をあてて。
痛くないように、横たえて。
衣擦れの音とか隆の手首が床にあたる音が。
遠い花火の音なんかよりも大きく響いて。



「ーーーーー…りゅ、ぅ」




布越しに隆の身体を弄ると、ビクリと背をしならせて俺に手を広げた。

ーーー抱いてって。
ーーー早く、もっと…って。









ド…ドーン。

ド……ン…







「ーーーーーっ…ぁ、ぁあ……ん…」

「気持ち…イイ…?」


「ぅ、ん…っ…」



「っ…ん、俺も」

「…ん」



隆の中、気持ちいいよ。
そう耳元で囁くと、隆ははにかんでもっとキスを強請った。











薄暗い部屋で。
小さな火花で照らされる隆は綺麗で。
裸の身体を俺だけに曝けて。
脚を開いて、俺を迎え入れて。

何度も…




「…隆…っ…りゅ、ぅ…」

「…ぁん…あ…ぃの…っ…」





季節の終わりを。
今年もふたりで迎えられたんだって。

そんな幸福感が。
重ねた隆の瞳から、宝石みたいな雫になって溢れ落ちた。














ド…ン……




一番最後の、一番大きな花火だ。

隆を抱きしめながら。ぼんやりと眺めたそれは。
それきり。
あとはもう、いつもの夜空が広がるばかり。
とけたグラスの氷も、静かになった空気も。




ーーー少し寂しい?

ーーーぅうん、平気。

ーーー…あんま、見てる余裕なかったけど…。綺麗だったな。

ーーーん、

ーーーん。

ーーーでも、

ーーーん?


ーーーイノちゃんがいるもの





花火は消える。
一瞬の華を咲かせて。

でもさ。
俺らの恋は。

すぐに消えてしまうものじゃなくて。






「ーーーーーりゅ…う、」


「ーーーイ…ノ……」




眠りおちても、手を繋いだままの俺たちは。
大きな円を描いて。
また。

来年も。

これからも、ずっと。








end





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