日記(fragment)のとても短いお話









02/06の日記

22:00
微糖
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隆一さんとイノランさんと、僕と。
スタジオの帰り、三人で夕飯兼ねてバーで飲んで。

その帰り道。







「寒いと思った」

「急に冷え込みましたもんね」

「ね、」




雪だ。




飲んだ後のせいもあると思うけれど、寒さが身に沁みる。
店を出た時はちらちらと降っていた雪が、あっという間にその量が増す。
でも割とさらっとした雪質なのかもしれない。傘が無かった僕たちでもグッショリと濡れずに済んでいるのは助かった。
黒のアウターの表面に、ぱらぱらと雪の粒が転がり落ちる。





「早く帰ろ」



はぁ…っと、息を吐き出しながら。
隆一さんは手のひらを擦り合わせて、白いニットコートの襟をかき合わせる。

そういわれて見ると、今日の隆一さんはやや薄着かもしれない。
コートの下にタートルネックが覗いてはいるけれど、首元にもマフラーも無しで、寒そうだ。




「ーーータクシー乗り場は混んでるだろうな」

「…そうですね」



イノランさんが駅に白く続く道を眺めながらつぶやいた。
僕はその言葉に同意。
こんな天候の夜はバス乗り場やタクシー乗り場は列をなす。
きっと今頃、この先の駅もそうだろう。





「隆一さん、大丈夫ですか?」

「ん?うん、大丈夫」

「風邪ひかない様にしないと…」

「帰ったらすぐにお風呂に入るもん。だから、へいき!」




にこっ。
隆一さんは、そう言って笑うけど。
鼻先や頬は赤くなって見るからに寒そう。
でも、そんな風に笑う隆一さんが、今の雪景色にとても似合う。






ピ。

がしゃん。



「ほい、隆ちゃん」

「ぁ、」


ピ。

ガタン。



「葉山くんも」

「え?ぁ、はい」



イノランさんが手渡してくれたのは、すぐ側に立っていた自販機の…カフェオレ。
隆一さんのは、ミルクティー。
ポンと手のひらの中におさまったそれは…じんわりと。




「あったかぁい」

「な。とりあえず、急場凌ぎ」

「イノちゃんありがと」

「ご馳走様です」

「いえいえ」



じゃあ俺も、って。
イノランさんが買ったのは、やっぱり缶コーヒー。




「ふふふっ」

「隆、熱くない?頬っぺた」

「ん?んーん」

「ーーー寒い?」

「平気だよ」

「帰ったら、風呂な?」

「…ん、」





ーーーはいはい。

ーーー聞かなかったことにしましょうかね。



隆一さんはミルクティーを頬にすりすり。
(好きなひと)イノランさんから貰った事が、心底嬉しいって感じだ。
そしてイノランさんも、そんな隆一さんを何とも愛おしげに見つめるもんだから。

僕はといえば。




カシッ。


カフェオレのプルタブを開けて、グッ…と。






「美味い…」

「あったかい、」




舞い散る雪もとけそうなふたり。
なるべくそっちを、気にしないフリして。
僕は僕で、この時間を楽しむ。
案外、好きだったりする。
このふたりのやりとり。



「ーーーーー」



微糖って書いてあるのになぁ。





「甘い…」






end






02/10の日記

18:33
冬 キャラメル。
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《冬 キャラメル》










きしっ…







「…ん、」


きっ…



「ーーーっ…ぁ、」



きし…きしっ…

「んんっ…ん…」




ぎっ…






「ーーーーーもっと、」


「…っ…ぁ、だ…」

「隆」

「…っ…め…」



「なんで?」

「ーーーーーっ…葉……来ちゃ…」


「ーーーへいき」

「…ゃ、」

「声、きかせろよ」



「…ぁっ、」

「ほら」



「っ…ぁ…あっ…」


「ーーーーーっ…隆…」



ぎっ…きし…



「…誰も…いないんだから」




「ぁ…っ…んん…イ…」

「…ん?」

「…イ…っ…」




「〝イノちゃん〟?…それとも、」

「…?」

「〝ーーーイっ…ちゃう…〟?」

「っ…」



どっち?



ぎ…ぎし…っ、き…



「…ん…ゃっ…ぁ……」



イノちゃんのばか!
意地悪!
ばかばかばか‼︎


切れぎれの艶いっぱいの涙声は隆一さん。
そして、悪党みたいに卑猥たっぷりで意地悪な声はイノランさん。



「ーーーーー…。」




意地悪ですよイノランさん。
隆一さんを泣かせちゃダメです。
そもそも真っ昼間のスタジオで何してんですか。
聞こえてますよ。
ドアの外にいるのが(実はぜんぶ知ってる)僕で良かったですよ。
(…でも、実は僕が全部知ってて何も言わないってことをイノランさんは全部承知の上で、今ドアの外にいるのが僕だってことがわかってたとしたら末恐ろしいですが。…でもイノランさんならありえそうだ…。)


ーーーなんて。
突入して声掛ける勇気なんてあるわけない。





「ーーー部屋入れないし…」




さてどうしようかな。
僕がここを離れた間に他の誰かがたまたま訪れたりしたらマズイ。
そりゃあとんでもなくマズイでしょう。



「ーーーーー待つか」


もうしばらく。
ここで門番をつとめよう。






カコ。

…ころ。



手持ち無沙汰を紛らわせるように。
ポケットに入れていたオレンジ色の小箱を開ける。
すると銀色の紙に包まれた小さな四角形が転がり出て手のひらに乗った。


これはキャラメル。
隆一さんにあげようと、途中のコンビニで僕の飲み物と共に買ったもの。

でも、いいや。




「甘々でしょうからね」


キャラメルよりも。
蕩けるように甘くて、意地悪のほろ苦さで。






end






02/20の日記

03:54
羽と香水。
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「隆一さん、どこでくっ付けてきたんですか?」

「え、?」




隆一がスタジオに着くなり、微笑みながら葉山が呼び止める。
咄嗟に振り返った隆一の髪がサラリと揺れて。
葉山はくすくす笑って、目当てのものに手を伸ばした。



「ここです。髪に」

「ーーー髪?」

「ほら、白い鳥の羽が」

「…ぁ」



言われてすぐに思いつくのは、ここへ来る途中の空での事。
海の上を海面すれすれに飛んでいた隆一は、群れになっていたカモメと共に暫しの競争。
その時だろうと、隆一は葉山に教えた。
カモメは隆一にとって友人なのだろう。
にこにこと話してくれる隆一は嬉しそうで、そんな隆一を葉山は羨ましくも思うのだ。

羽や、小さな新緑の葉、薄紅の花びら、何やらわからないカケラ。
隆一は度々こうして、お土産を髪や服にくっ付けてスタジオに現れる。
それが微笑ましくもあり、隆一らしくて。
葉山はそんな痕跡を見つける度に、隆一がここまで通ってきたストーリーを想像するのだ。





ある日。





「ーーーーーあ、れ?隆一さん」

「え?」

「隆一さんでしたか」

「ん?」

「イノランさんかと思いました」

「イノちゃん?」



そういえば彼は今日は別の仕事を終えてから来ると言っていたから、今はまだここにはいないのだったと、葉山は思い直す。
ーーーーでは、なぜ?


入って来た隆一をイノランと間違えた?




「香りが、」

「ーーー香り?」

「はい。イノランさんがいつもつけてる香水の…」

「あ、」

「香りがしたので。ーーーてっきり」

「っ…」



その途端。
ぽ、と。
頬を染める隆一。
それを見て。

葉山は瞬時に、理解したのだ。




(ーーーあ、そうか…)



通り過ぎるだけで、香るその匂い。
彼と同じ香水の、その痕跡。

それが隆一に残るわけ。


葉山は、やはりこの時も、隆一がここへ来るまでのストーリーを思い描いた。



(ーーーそれは、)


(気が付いても、言えないけれど)





「…ぁ、あの。ーーー葉山っち」

「はい」

「えっと、」

「ーーはい。ーーーとても、いい香りですよね」

「っ…!」

「隆一さんにもお似合いですよ」




(やっぱり、こうゆうところが、)

(可愛いんだなぁ)




触れ合い、愛を囁いたその名残り。
隆一に彼の香りが残るように。
もしかしたらイノランにも、今頃くっついているのかもしれない。


例えば隆一が髪にくっ付けてきた、白い鳥の羽が…






end






02/21の日記

03:50
ヴァイオリニストとピアニストの朝の語らい。
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スタジオで曲作り。
僕と隆一さんと、イノランさん。
Tourbillonの、ユニットの。

完全な早朝型なふたりに合わせて、ユニットで集まる日の僕の朝も自然と早くなった。
寝起きてすぐのシャンとした頭は何事をするにも効率がいい。
ーーー三人で摂る朝食も美味しいし。



そんな、朝。
スタジオの自販機で、コーヒーを買い求める。
財布だけ握って、足取り軽く自販機コーナーへ向かったら。

ーーー見覚えある背中。





「ーーーびっくり…」

「ん?ーーーおおー、葉山くん」

「スギゾーさん、おはようございます」

「おはよー。朝からスタジオ?こんな時間にこんな場所で会うなんてすごい偶然だね」

「あ、はい。ユニットの、」

「ああ、じゃあいるんだ?あのふたりも」

「ええ、二階の部屋に。それにしてもホントびっくりですよ。スギちゃんは今頃は夢の中だよ〜って、いつも聞いてたので」

「ん?ああ、イノ隆?」

「あはは、はい!」



イノ隆…。
すごい、あのふたりを言い表す最も最適な呼び方だ。



「今朝はちょっとね。昨夜から古い友人と飲んでてさ。徹夜明け、その帰り」

「ーーー帰り道にスタジオで音楽ですか?」

「俺にとって一番いい酔い醒ましだからね。音楽と楽器の前では背筋が伸びる」

「なるほど」

「一曲弾いて帰れば、心地いい睡気も襲ってくるよ」




スギゾーさんらしい。
買ったばかりだろう緑茶のペットボトルを握りしめて、にかっと笑う。
スギゾーさんの笑顔って、くしゃっとして、すごく好きだ。





「さて、じゃあ俺は帰ろうかな」

「会っていかなくていいんですか?お二人に」

「ああ、イノ隆?」

「ふふふっ、そうです」

「ーーーんー…」

「スギゾーさんに会えたら喜ぶんじゃないですか?」

「ーーーまぁ、いいかな。今日は、」

「そうですか?」

「これからルナシーの長いツアー回りでしょっちゅう会うしさ」

「まぁ、そうですね」



長い長い、全国ツアー。
もちろん僕も楽しみで。



「ーーーっていうのも勿論あるんだけどね。あのね、実は、ここだけの話なんだけど」

「?ーーーはい」

「葉山くんにだけ教えてあげる。イノ隆には内緒だよ?」

「ぇ、ええ」

「ーーーあのね」
















ばいばい、またねー!



スギゾーさんはくくっと半分くらいの緑茶を飲み干して帰って行った。









「ーーーーーそうか、」




僕は買ったばかりのコーヒー缶を眺めながら、独り言。
たった今、スギゾーさんが教えてくれた内緒話。






〝ユニットでのあのふたりに自然に触れ合えんのはね〟


〝葉山くんだけだと思ってるよ〟





「ーーーそんな事はないと思うけど…なぁ、」



イノランさんも、隆一さんも。
ルナシーとしても、ユニットととしても。
同じ人物なんだし。


ーーーでも。


付き合いの長いスギゾーさんが言うんだから、そうなのかもしれない。




「ーーーそうか…」





〝イノも隆も〟

〝葉山くんのこと好き過ぎだからさ〟





「…そっか、」





ーーーそれはなんて嬉しい。






end






03/17の日記

11:44
卒業の歌 2024
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葉山君のピアノの音色が聴こえる。

ーーー隆の、歌声が聴こえる。













《卒業の歌》












晴れの予報の隙間にたった一日の、雨降り予報。
前日の夜に隆とニュース観ながら話してた。



「明日あたりは卒業式も多そうなのに」

「雨降りだと友達と写真撮るのも大変そうだな」



ーーーそんな夜の語らい。
ふと窓の外を見ると、風が強くなってきたようだ。
雨ももう降り出したのかも。窓に時折、雨粒が当たる音。

街ゆく並木道の桜も、そういえばまだ蕾が多い。今年はいつまでも寒い日が続いたりしたからな。

そんな、寝る前にちょっとしんみりした気分になってたら、隆も俺と同じだったようで。




「くっついて寝ていい?」

「いつもそうじゃない?」

「ん、いつもそうだけど」

「ーーーもっと?」

「ぎゅっ…って」

「いいよ」



おいでって、ベッドに入る前に隆を抱き締めて。そのまま布団に潜り込む。
雨降りでひんやりした寝室で、隆の体温が気持ちいい。



〝卒業〟というキーワードで、切なくなったのかもな。




そんな一夜を明けて、翌日は朝から雨模様。
今日、卒業を迎える皆んなは。
体育館や、昇降口や。
過ごし慣れた教室で、最後のひと時を過ごすのだろう。

ーーーでも。
雨の卒業式って、なんかいいなって思う。
雨の音にすっぽり包まれた校舎は、外の余計な音なんかは届かなくて。
この日を迎える、そこにいる皆んなの音と声で溢れるから。





ーーーさて。
そんな、ちょっと切ない気持ちで迎えたふたりの朝だけど。
仕事の予定は待っていて。
今日も午前中からスタジオ。
葉山君と隆と俺と。









「今って、卒業式になに歌うんだろ」



車に乗り込んで少し走ると、いつも通りかかる中学校の校舎が見える。
隆は車窓越しに目で追いながら、ポツリと呟いた。




「卒業の歌?」

「うん」

「今は俺らの時代とは違うと思うけどな。ポップスでも歌謡でも、もっと幅広くて自由な感じ」

「歌い慣れた好きな音楽と門出を祝えるっていいね」

「な。俺らも作る?」

「ん?卒業の歌?」

「卒業に拘らなくてもいいんだけど、春の歌とか」

「三人でね」

「ルナシーで卒業の曲ってのも…」

「季節とか行事とかに拘るって感じじゃないものね。でもほら、ルナシーでもクリスマスの、」

「そうだな。そうゆうの急にぽん!と作るから、目が離せない」

「ふふふ、」

「ルナシーから目が離せない!」

「あはは!」

「でも本当に、ユニットでなら何でも出来そうだもんな。だから卒業の歌、春の曲、全然ありだと思う」

「うんうん!」




隆とテンポよくそんな会話をしながら、いつのまにかスタジオ。
いつもの玄関をくぐり、いつもの通路を歩く。
そして突き当たりの部屋、トゥールビヨンって書かれた(本日は葉山君の字で)プレートの掲げられたドアを数回にノックして。



「おはよー」

「おはようございまー…



言いかけて。
言葉を飲み込んだ。




ドアの隙間から溢れ出る音色。
葉山君がピアノを弾いてる。
到着早々、贅沢すぎる出迎え。

俺も隆も、しばしその音色に聴き入った。

しかも、葉山君が弾いてる曲が…





「ーーー卒業の歌だ」



呟いたのは隆。
聞いた覚えがあるのは、どこでだったか、聞いたことがあるからだろう。








「ーーーーーあ、おはようございます」




聴き入っていた俺らをハッとさせたのは、葉山君の声。
彼も俺らの到着に気がつかなったんだろう。ちょっと慌てて、照れくさそうに笑う。
聞かれてましたかって感じで、曲がぱたりと止んだ。





「いいのに、続けて」

「いえ、ちょっと弾こうかなぁって感じだったんで」

「ちょうどイノちゃんと卒業の歌の話してたから思わず聴き入っちゃった」

「そうなんですか?」

「時季的に今そうじゃん?」

「そうですね。ーーーでも、今日は雨降りの卒業式ですね」

「でも雨降りのもいいよね。落ち着いてて、」

「しっとりして」

「ね、葉山っちもう一度弾いてよ」

「ーーー歌ってくれるんですか?」

「いいよ。でも、こうゆう歌は俺が歌っても彼らには敵わないよ」

「卒業する彼らが歌うからこそ伝わる気持ちってあるもんな」




そんな会話を、いつかの春にもした気がする。
卒業の歌を聴きながら、ちょっとしんみりした気持ちで。


ピアノの前に座り直す葉山君を目で追いながら、いつかの事を思い出す。

卒業する事。大人になった俺らには、この先まだそれが待ち受けているのかわからないけれど。
今この瞬間、今目の前にあるもの、隣にいてくれるひと、追い求めて止まないもの。
それらとは、この先ずっと、離れる事なく。
一緒にいたいと思う。





「ーーーーー隆…葉山君………音楽」



挙げればキリが無いけど、今俺の目の前に…というふうに絞れば。







「これからもよろしくね」



「ぇ、?」

「なぁに?イノちゃん」







今日までありがとう。
そしてこれからも、どうぞよろしく。








end






03/25の日記

22:42

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「隆一さん、ロビー見ましたか?」

「え、?」




今日はとある会場でソロのライブ。
葉山っちと、俺と。
ピアノと歌だけの、小さな会場でのライブだ。

まだ開場まで時間がある頃、早めのご飯を少し食べて、控え室のソファーで
ちょっとだけうとうと…してた俺に。
いつものゆったりした物腰で、葉山っちが言ったんだ。




「ーーーロビー?ぅうん、まだだけど…」

「そうですか。開場前に、あとで見てくるといいですよ」

「え?」

「隆一さんが乙女になりそうなものが届いてます」

「…お、」



乙女?



「ーーーえっと。…それって、どーゆう…」

「あ、じゃあ今から一緒に見にいきますか?」

「え、え⁈」

「ね?是非ぜひ!」

「う…ぅ、うん」



な…なんだろ。
葉山っちが妙にうきうきしてるのが気になるけど…
座っていた俺の腕をぐいぐい引っ張って。
通路を抜けて客入り前のロビーの方へ。




「ね、なにがあるの?」

「見てのお楽しみです」

「えー?」



パッと開けた空間。
明るい照明と艶々のロビーの床を突っ切って。
葉山っちはにこにこと俺を目当て?の場所を指差した。



「ーーーすごい、今日のお花」



ライブの日にはお祝いのお花が届くことは多い。
初日や誕生日、記念日なんかは特にたくさんいただいてしまう。
贈り主の人たちがチョイスした花々は、妙にその人の雰囲気や特徴が反映されていて微笑ましくって、嬉しい。

そんな中で、今日はひとつのお祝いが届いていた。
それはふんわりと大きく広がって、明るい色彩のせいなのかな、春を迎えた今の季節にぴったりで。

ーーー何より、




「ーーーーーイノちゃん、」



贈り主名は、俺の大好きな彼。
今日だって出掛けに、いっぱい抱擁とキスで送り出してくれたのに。




「ピンク色の花。ーーーすごいですね」

「ーーーん、」

「これはもうイノランさんにしかできないですね」

「ん、ぅん」




〝今日はせっかくの隆のライブなのになぁ〟

〝俺も見に行きたかった〟

〝仕事しながらずっと隆のこと想ってるよ〟

〝もちろん、葉山くんのことも〟




ーーーうん



〝いってらっしゃい〟

〝帰ったら、また…〟

〝な?〟





「ふふっ、」


嬉しくって、照れてしまって。
思わず溢れる笑みを抑えられなかったら。




「ーーーほら、やっぱりです」

「ん?」

「隆一さんが恋する乙女みたいに」


イノランさんをここへ今すぐ呼びたいくらいです。って、葉山っちは笑って。

イノちゃんが贈ってくれたピンク色の花々中から、一輪の。




「ーーーバラ?」

「ステージで胸に飾ったらいかがですか?」

「葉山っち、」

「今日の衣装によく似合うし、イノランさんも喜びます」

「ん、」



やっぱり照れ臭いけど。でも、力が湧いてくる。





〝一緒にいるよ〟




そう言ってくれてるみたいだから。




end






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