日記(fragment)のとても短いお話









10/09の日記

03:59
ふたりの時間の過ごし方。…1
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「隙あり」

「っ…ぇ、?」




テレビの前のラグの上にペタンと座って、紅茶とチョコレートを置いて、車の雑誌を嬉々として開いて…って。
そんな休日のまったり幸せ時間を過ごしていた俺の…背後から。

ーーーそんな掛け声と共に、ぎゅっと俺をホールドしたのは、イノちゃん。
途端にふわん…と感じるのは、大好きな恋人の匂い。…なんだけど。




「ーーー動けないよ」

「そりゃそうだ。俺が抱きしめてんだから」

「っ…チョコと紅茶と読書の時間!」

「隆ちゃんの幸せタイムだ」

「だから、ね?ーーースキンシップはもうちょっと待ってて」

「だめ。もうこうして隆に触れちゃったから、待てないよ」

「~~っ…我儘」

「結構。ーーーだってさ、隆ももう、今さら引けないでしょ?」




引けないよ!
それはそうなの!
だってイノちゃんに触られてるんだから。
ひとりの楽しい時間も、イノちゃんがいるだけで簡単に覆る。

もっともっと、触って欲しいって、思っちゃう。



ーーー諦めて。後ろからイノちゃんに抱きしめられたまま、コクンと頷いた。
イノちゃんの手が、俺の髪をそっと撫でて。
服の上から俺の身体に触れて。





「…じゃあ、こっからはふたりの時間な?」

「ーーーっ…ん、」













ーーーちゅ、ちゅっ…ぴちゃ…



「っ…ぁ、」



布越しって、変な気分になる。
恥ずかしくて、耳を塞ぎたくなるくらい濡れた音が響く。
イノちゃんの舌先が俺の項を舐めて、利き手は敏感な…。




「ーーー隆のここ、もうこんなだよ?」

「ぃや、ぁ」

「嘘。気持ちいいだろ?」


だってこんなに勃ってる。
そう言いながら、服の上から俺の胸を弄って。自分でもわかる、硬くなった乳首をイノちゃんの指先が穿ったり摘んだり。



「…ぁ、あんっ…ん…」


「えっちな声」




こっち向いて。
肩を引かれて向かい合って、いつのまにかシャツのボタンを外されてはだけてしまってて。
イノちゃんの膝に上で跨って、今度は舌先で舐められる。

ちゅくっ、ちゅぷ…ぴちゃっ、



「んっ、んんん…っ…」

「っ…声我慢すんな。隆の気持ちいい声、もっと聞きたいんだからさ」

「ゃだっ…ぁ、」

「ーーー俺しかいないよ?ーーーほら、」


ゆるゆると胸を揉まれて、乳首を吸われて甘噛みされて、気持ちよくってもう声が堪えられなくて。イノちゃんの膝の上で、自然と腰も動いてしまう。
それを見てイノちゃんは嬉しそうに微笑んで、イノちゃんも自身のそこを俺の秘部に擦り付けてくる。
服越しでも苦しそうに硬くなって、勃ってるってわかって。

微笑みながらも、もう余裕がなくなっていそうなイノちゃんを見たら。
きゅうっ…と、胸が切なくなった。




キッ…キシ、ギ…




寄りかかったソファーが軋んでる。
床に敷いたふかふかのラグの感触が素肌に気持ちいい。
肌寒くなってきた季節だから、あったかくて、ふわふわで。

でも。

ーーーーーあつい。
あつい、イノちゃんと繋がったトコロ。
朦朧としそうなくらい、あつい。
…こんなところで、もう止められないけれど。






「…んっ、ぁん、イ…」

「…ん、?」

「ーーーね、ぇ」

「な…に?」



抱き合い始めて、どのくらい時間が経ったかわかんないけど。
でも、そういえばって。
物足りないって、ぼーっとした頭でも思っている事があって。
汗を滴らせながら、快楽で眉を寄せながら、俺の奥まで…身体中を愛してくれてるイノちゃんに。
今言うの、強請るのはダメかなぁ…って思ったけれど。





「ど、した?」

「…んっ、ん、ぁ…っ…ノちゃ、」

「ん、」

「ねぇ…ーーーキ、」

「?」

「…ス、まだ」

「ーーー」

「…してな…っ…ぁ…ぁん、」


「!」




元々、ぎゅっとくっいてたふたり。
俺はイノちゃんの膝の上で、イノちゃんと繋がって。
でも俺が強請ったら。
イノちゃんはもっとぎゅうっと俺を抱きしめて。
もっともっと奥まで激しく突いて。

ーーーそのまま。

今日初めてのキス。
見つめ合って、涙で濡れた俺の瞼に触れて。
優しく笑ってくれて、それから…
触れ合うだけの可愛いキス。
でもそれはすぐに過ぎて。
角度を何度も変えて、舌先を絡ませて。
唾液が溢れても構わなくて。

気持ちいい…
呼吸が、苦しいけれど
ふわふわして、朦朧として
もう、あなたしか見えないくらいの


涙が溢れるくらい、愛してるって思える瞬間





「…りゅっ…」

「イ…っぁ…も…」

「ーーーん、一緒…に、な」

「っ…あ、ぁあん…イ…ぁあっ…」




















ーーーーーーーーーー



チョコは大人しく待っててくれた。
…紅茶は待ちぼうけすぎて冷めちゃったけど。

どちらも俺は大好きだけど。


ーーーでもね。





「やっぱりイノちゃんと一緒にいるのがいいや」

「お、嬉しい」

「まだまだオフの一日は残ってるよ?」

「ーーーそれは、」

「ふふっ」

「最高」







end







10/13の日記

22:18
IRとJの語らい。
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好きです。



ーーーって言うのって、なんて難しい。
それがまだ初対面ならいいかもしれないけれど。
既に友人、同僚…とか。
そんな関係が築かれた後は、なかなか一歩は踏み出せない。

ダメだったら、その後は?
もう友達じゃいられない。
一緒に仕事できないかもしれない。

そんな不安と葛藤が付き纏うから。









「そーゆう不安は無かったわけ?お前ら」



ウォッカ入りのグラスを傾けながら、Jが言った。
酔い加減が良いようで、機嫌良さそうに、面白そうに。

…くそ。

そうそう簡単に俺と隆の馴れ初めなんかは言えないからな



カラ…ン





俺がなかなか答えなかったら、Jは肩を竦めて今度は隆に矛先を向ける。
オレンジ色のカクテルを美味そうに味わいながら、隆は目をくりくりさせて小首を傾げ。
(…可愛いから他の奴の前ではやめろって何度も…)


隆は?どうだったの?なんて…






「ーーー考えたよ?もちろん」



…素直に応える隆。
いいのに、そんな言わなくて。
でもそこが隆のいいところなんだな。




「イノちゃんに好きって言って、嫌がられたらどうしようって」

「ーーーん、」

「一緒にバンドやってくれなくなったらどうしようって」

「ーーー」



あまりに隆がちゃんと真面目に応えるから、Jもいつしか真顔でそれを聞いてる。
口に運んでいたグラスの手も止めて。






「隆、いいよ」

「イノちゃん」

「Jも、もういいだろ。結果的に俺らは今こうして一緒にいる。それだけで」

「ーーまぁ、な」

「ーーーーー今までの隙間の物語は俺らの秘密。ーーー俺らだけの」

「…わり、」



酔い回り過ぎたって、Jがしゅんとしてしまったから。




「奢りとか」

「イノちゃんひどい!」

「いいよ。奢る」

「まじ?」

「Jくん可哀想!」

「いいよいいよ」

「でもっ!」

「お祝いって事で」

「!」

「俺からお前らに。ふたり一緒にいる事で、間違いなく良い音が鳴るからな」

「ーーー」

「ーーーJくん、」





「幸せにな」






このまま、これからも。






end






10/21の日記

00:16
ギター
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秋が来た。





からりとして。
爽やかで、冷たくて。
鮮やかさは逆にくすむけれど。
博物館に並ぶ植物標本のような乾いた草木は、深呼吸する毎にいい香りがする。
空気の端に夏の名残をおいたまま、冬の世界に飛び込んで行く。

秋って。
一番、好きな季節。

楽器たちが、美しく鳴ってくれる季節。









カタ。




「ーーーーーー」


久しぶりに出してきたギター。
リビングの壁際の、柔らかく陽が差す場所に立て掛ける。
光を浴びたギターは、そのボディの表面に細かな傷を浮かび上がらせる。





「久しぶり、元気?」



つい。
そんな挨拶もしてしまう。
久しぶりのギターは、まだ黙ったまま俺を見てる。


〝早く弦を取り替えてよ〟
〝このまんまじゃ、挨拶返せないよ〟


そんな事言ってそうで、俺は買ったばかりのぴかぴかの弦を手にとって、そいつのネックをそっと掴んだ。






「わぁ、俺そのギター初めて見るかも」

「ーーー隆、」

「どしたの?そのギター」

「そっか、隆はコイツとは初めましてか。これはねぇ、ずーっと前に自宅でちょこちょこ弾いてたヤツ。レコーディングとかライブでは使ってないから知らなかったのかもな」

「うん。初めてみる。ーーーどこのメーカーのなの?」

「わかんないんだよねぇ。誰かにカスタムされて売られてたものだから、原型がわかんねぇ。でもなんか気に入って買った記憶がある」

「へぇ、おもしろいね」

「昨日ギター倉庫整理に行ってさ、引っ張り出してきちゃった。久々に弾こうかなって」

「うんうん、いいね!ギターも喜ぶね」

「な」




〝そのひとは誰?初めましてだね〟



なでなでとギターに触れる隆に、コイツもそんな事言ってそう。
もちろん言葉はないけど、雰囲気で。
音楽好き、楽器好きな気持ちって、絶対に楽器にも伝わってると思うから。



だから俺は、ちゃんと教えてやった。
ーーーあのね、このひとはね。




「俺の最愛のひと」







end






11/19の日記

20:31
見つめる
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「…っわ、とと…」

「!…隆」

「ジェ…」



びっくりした。
ラジオ局のスタジオの通路の角を曲がったところで、まさかいると思わなかった…

目の前に、いきなり隆一。
向こうも相当驚いたっぽい。




「ーーーびっくりしたぁ。ごめんね、J君」

「や、俺は平気だけど」

「ちょっと急いでて…。ぶつかんなくて良かった。やっぱ走っちゃだめだね」



ちょっとばかりバツが悪そうに苦笑する隆。
俺も気にしないで歩いてたから隆だけが悪いんじゃないんだけど。


それにしても、だ。





「ーーーーー」

「?」

「ーーーーー」

「ぅ?ーーーJ君?」

「ーーーーー」

「…?…え、と。ーーーなぁに?俺の顔…」

「ーーーーー」

「なんか、変…?」

「ーーーーー」

「ーーーーーとか…」





じっと見つめていたんだろう。
目の前に急に現れた隆を。
ずっと一緒にいて、隆を見るなんて何でもないと思うのに。

ーーーなんだか。



(コイツ、)



こんなに可愛かったか?




いや。俺やスギゾーが可愛いとかってのは大概無理があるけど。
真矢君は貫禄たっぷりで可愛いっていうんじゃないし。
イノについてはもうチャラ…いやいやいや。もうあいつも可愛いとかじゃない。昔はそう思ってた時期もあったけど、今はもう影番…。イヤイヤイヤ。
誰よりも怒らすと怖い奴。

まぁ、そんな俺らルナシーだけど。



その中でもコイツ。
隆はさ。
年々、歳を重ねるほどに可愛くなっていく気がすんのは俺だけか?



(こんな間近で見るとなおさら…)




「ーーーJ?ほんと、どしたの?」



(ーーーくそ。首傾げんじゃねぇ)



「じぇーい?」


(唇!尖らせんじゃない!)


「ーーー変なの。俺ねぇ、ここで待ち合わせしてるからもう行くね」

「待ち合わせ?」



誰と?って言う前に。
隆の表情がぱっと変わって。
花が綻ぶっていうのかな。そんな顔して笑って。

なんだ?

後ろを振り向くと。




ーーーーーあぁ、くそ。振り向くんじゃなかった…。






「イノちゃん!」

「隆」



ぱたぱたぱた!

俺の横を通り抜けて、俺の背後にいた奴。
俺の幼馴染。
井上だ。



「Jと一緒だったんだ?」

「今ね、廊下の角でばったり!ぶつかるかと思ってびっくりしちゃったんだぁ」

「そっか」



こいつらは恋人同士。
隆の仕事終わりを迎えに来たんだろう。



「J」

「あ?」

「ーーー潤」

「ーーー」



一言目より二言目。
そこには、静かでありながら。
声に意味が込められる。




ーーー隆は俺の。

ーーー可愛いだろうけど、あげないよ。





「可愛いって思うだけだっての」




怖くて手なんか出せねぇよ。
それに隆も。


お前にしかそんな風に微笑まないんだから。





end






12/19の日記

05:32
挿話3…キス。
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「こんなに遅くなっちゃったね」

「まぁ仕方ないよ。週末なんだし」

「ん、」




とっぷり暮れた陽。
時刻は既に夕方を通り越して、夜になって、深夜の域に突入してる頃。
俺と隆は冬空の下、駅に向かって歩いてる。
電車は間もなく終電が出るだろう。
でもそれに乗る為に走るのは諦めた。

「イノちゃん、あと二分でホームに入れば終電間に合うよ!」

ーーーなんて言ってたのはさっきの事。
しかし幾らライブで培った体力をもってしても、現在地からたった二分でホームに辿り着くのは無理だった。



「隆、諦めよ。タクシーで帰ればいいよ」

「ーーーう…ぅん」

「なに。電車乗りたかったの?」

「ん…。だってさ」

「うん」

「終電乗る機会なんてずっと無かったし」

「まぁ、そうだよな」


めっきり車移動が主だもんな。



「ーーーたまにはいいかなぁ、って。思ったの。終電で、イノちゃんと」

「ーーー」

「すぐ、二駅だけど。なんかいいでしょ?終電で、好きなひとと」





ーーー終電で。
ーーー好きなひとと。



深夜の路線を。
走る、走る。


終電にしか無い、あの空気の中で。





(ーーーほんとにさ、可愛いことばっか言う)



そんなこと言うから、俺もそんな気分になってしまう。
(家まで我慢とか、そんなのは吹っ飛んだ)




「ーーーな、隆?」

「ん?」

「終電は今回はちょっと残念だけど、それはまた次の機会のお楽しみにて、」

「?…うん」

「今日は俺がしたいなって思ってたことしてもいい?」

「イノちゃんが?ーーーなぁに?」



小さく首を傾げる隆(くそっ、可愛い!)の手をそっと繋いで。
目当ての場所へとゆっくり歩く。
終電は間に合わなかったけど、駅のタクシー乗り場には数台が停まってるから、あれに乗って帰ればいい。

ーーーけど、その前に。





「イノちゃん、何処へ…」

「こっち」

「ぇ、?」



隆の手をぎゅっと繋いで、向かうのは周辺地図の大きな案内板。
長いことそこに立っているんだろう、その案内板は表面が凸凹してて擦り傷いっぱいだ。
ーーーそんな四角い板は、ひとふたり隠すのにはちょっと心許ないサイズだけど。


ひとがいる場所で隠れられる数少ない場所。
案内板の裏。背後には年季の入った駅舎に続くコンクリートの壁。
そんな無機質な隙間に隆の手を引いて連れ込むと、俺はすぐに隆を抱きしめた。



「っ…イノ、」

「シー。声出すとその辺のひとに聞こえるよ」

「ん、っ」




ぱくっ!と、隆は手のひらで口を押さえる。
でも、頬っぺたは赤い。
この状況に照れてるってわかるから、嬉しくなる。



「こんな場所でくっ付いてると終電逃した恋人同士って感じしない?」

「っ…」

「帰りたくないって、別れを惜しんでる恋人同士みたいじゃないか?」


俺たちは同じ部屋に帰るけど。
でも、こんなのもいい。





「ね、」

「…ゃ」

「嘘」

「恥ずか…っ…し」

「声出さなきゃバレないよ」

「イノちゃん!」

「ーーーーー隆、」

「っ…ぁ、」

「黙れ、って」




きつくきつく、抱きしめて。
だってくっ付かないと、見えてしまう。
こんな場所でこんな事してるって、誰にも見せたくないんだからさ。



「ーーーっ…ん、ふ…ぅ」

「はっ、」

「ぁん…」



性急に求めてしまう。
隠れた場所で、密やかなキス。
帰る時間も気にする必要ないから。
君と二人で、心ゆくまで。






end





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