日記(fragment)のとても短いお話









08/22の日記

03:37
雫。
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隆にあげるって。
リハ中の俺に会いにきてくれたイノちゃんがくれたもの。

ポケットをごそごそ探って、取り出したそれを手のひらにそっと乗っけてくれた。

俺は思いがけないプレゼントに心が躍る。
見ていい?ってイノちゃんに訊いたら、いいよって。




そっと、ぎゅっとしていた手のひらを開いた。






コロ…。


「ぁ、わぁ…」




それはブローチだった。
雫の形の、多分ガラスでできた。
スタジオの照明に透かすと、キラキラして綺麗。
色んな青が混ざってて、見る角度で色が違う。





「ーーー綺麗…。イノちゃん、いいの?」

「今日フラッと見た店の中で見つけてさ。色とか形とか隆に似合うなって思って。ハンドメイドだから一点物だって」

「嬉しい、どうもありがとう!」

「良かった。オフだったから、せっかくだし届けちゃえって。渡せてよかった」

「リハ中にイノちゃんに会えるって嬉しい。しかもプレゼントまで持ってきてくれて」

「いやいや、ルナシーと違ってソロのリハは来たらお邪魔かなぁ…とか思ってたんだけど」

「そんな事ないよ!嬉しいよ!いつでも来てくれて良いんだからね⁈」

「ほんと?じゃあ、俺のも是非来てよ。俺もいつでも大歓迎」

「うん!」





ーーーーなんて、そんな会話をスタジオの片隅でイノちゃんとしていたら。
向こうからにこにこしながら葉山っちがやって来て。





「はい、お二人さん。そろそろつぎの曲やりたいんですけれど」

「あ、」

「そっか、ごめんな。葉山くんお疲れ様!」

「イノランさんも、今日は飛び入りでリハ参加されるんですよね?」

「え?」

「一曲…。いえ、二曲で三曲でも。ギターも取り揃えてありますし」

「ええ…⁇」

「いいね!ねぇ、イノちゃん!いいでしょう?」

「…あ、」

「イノランさん、是非!」

「ね⁈」

「ーーーあ、あぁ。ーーーーーーうん、」

「ん?」

「よろこんで!」





葉山っちの計らい?で、急遽イノちゃんが一緒に!
早速ずらりと並ぶギターの中の一本を抱えるイノちゃんを見たらまた嬉しくって、顔が緩んでしまっていたら。
イノちゃんが、隆…って。
スルリと手を繋いで、手にひらに握っていたブローチを取り出して。



「隆の今日の服にも良さそう」


って。
俺の着ている白のコットンシャツの襟元に。

ぱちん。


青い雫がひとつ。



好きなひとに貰ったものを付けるって、くすぐったくて照れくさい。




「ありがとう、似合う?」

「ん、似合ってる」

「ふふっ」








雫はね。
物事の最初の一滴。
生命の最初の一滴。




「隆の悦びの涙の一滴」




それがいつか、広い海になるように。





end






08/25の日記

00:18
チル タイム。
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チル タイム。









隆ちゃんと葉山君とのライブを終えて。
汗だくの身体をシャワーで流して。
今日のライブも良かったねー!とか二人と振り返ったり余韻に浸る間も無く、とにかく行きますよー!って、マネージャー達にあれよあれよという間に移動車に乗せられて。
夜間飛行の空の小さなライトを見送りながら夜の都内を突っ走り、到着したのはこれまた都内のとあるホテルだった。


今宵の宿泊施設です!って、またマネージャー達に笑顔で連れ込まれたのは最上階スウィートルーム。都内だからこのまま帰宅でも、泊まるにしてもシングル三部屋で良かったのにって言ったら、三人でライブの積もる話や余韻に浸る時間も欲しいかと思って広いお部屋をひとつ用意しました!だって。


「それとご褒美です。久々のユニット活動が私達も嬉しかったので!」

…って。
そっか。
結果三人で何かやる事って色々あったけど。きちんとユニットとしてっていうのは本当に久々で、それは俺らも嬉しい事で。
ファンの皆んなも喜んでくれたら幸い!って思ってたけど。ーーーそっか、マネージャー達もそう思ってくれてたんだ。
そうしたら、この思いがけない三人でのスウィートルームも嬉しいプレゼントだ。









「せっかくですから乾杯しましょうか」

「イノちゃんがお風呂入ってる間にルームサービスが届いたんだよ!見てみて!」

「ーーーほんとだ。夜食にシャンパンにツマミに…」

「ね?マネージャー達に感謝だね」

「そうだな」


既にテーブルにセットされた宴の準備。早速葉山くんがシャンパンを抜栓してくれて、次々にグラスに注ぐ。
待ちわびた隆がご機嫌いっぱいに、乾杯!ってグラスを掲げた。

乾杯!














夜は更けゆく…





「誰だよ、朝まで皆んなで語ろうよ!なんて張り切ってたの」

「あはは、隆一さんが言い出した時にはこの結果は想像してましたけれどね」

「一番に酔い潰れてさぁ」



夜景が素晴らしい、男子会をするには少々勿体無いかもしれない素敵な部屋の居心地いいソファー。俺の肩に寄り掛かって安らかな寝息を立てるのは隆。彼にしては酒も進んだようで、頬っぺたが薔薇色だ。寄り掛かる身体もぽかぽかとあったかい。
そんな俺らを見て向かいの席の葉山くんが軽やかに笑った。



「ふふ、でも隆一さん幸せそうですね」

「ん?」

「愛するギタリストを独り占めして。ライブの夢でも見ているんでしょうかね?」

「くくくっ、なぁ?」



そっと、隆の寝顔を見つめる。
ほんのり微笑んだような口元。
葉山くん言う通り、楽しかったライブの夢の真っ只中かもしれない。
ーーーほんと、幸せそう。
そんなカオしてくれたらさ…



「ーーーーーなぁ、葉山くん」

「はい」

「俺だいぶ酔ってるから今から変なこと言うけど適当に流してね」

「え?」

「独り言だから。言いたいだけ」

「ーーー」




葉山くんは、視線を窓の外へ向けた。
どうぞ、って。
言ってくれてる。




「ーーーこの三人でよかった」

「ーーー」

「三人だから、よかった」

「ーーー」

「ありがとう、葉山くん」




ーーーーーー言って、ちょっと照れる。
でもこうゆうの、こうゆう時しか言えないし。
言いたいのは、こうゆう時なんだ。


すると葉山くんは、外を見たまま。





「ーーーーー僕もそうです。お二人だから、ここにいるんです」

「ーーー」

「ここにいたいんです」

「ーーー」

「ーーーーーーそれに僕は、結局ね」

「ーーー」

「隆一さんが、」

「ーーー」

「気持ちよく。歌う、」

「ーーー」

「その為なら、どこまでも」

「ーーーーーーーーうん」

「あ、もちろんイノランさんが気持ちよくギター弾く為にもですからね?」

「はははっ、」

「ですからね⁈」

「サンキュ」

「はい」

「葉山くんの深い愛はしっかり受け取ったよ」

「なによりです」





ここからの栗鼠の船団は、航路も快調そうだ。







「ーーーっ…ん、」


「ぁ、」

隆が身動いで、俺の腕にぎゅっと抱きついた。
それから、


「ふふ、」


「なんだよ、めちゃくちゃ可愛い顔してさ」

「ほらイノランさん。僕に遠慮せず早く」

「ん?」

「してあげないと、です」

「して?」

「キス、を」

「ーーー」

「ね?」

「見せもんじゃありません」

「じゃあ向こう向いてます」

「だから!」

「じゃあ自販機行ってきます」

「いいっての」



そう言われると年甲斐なく照れる。
そんなお膳立てしてくんなくてもする時は遠慮なくするからさ。
ーーー今は、いいんだよ。
隆はふわふわ夢の中だし、葉山くんはいい感じに酔いが回ってるし。
俺も…もう。なんだかこの空間が愛おしくて堪んない。
今は、この三人でのまったり時間を満喫しよう。

愛すべき音楽で結ばれた、俺らの時間。









end






08/31の日記

07:24
優しい時間
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「おはようございま…ーーーーー」


スタジオに入ると、真っ先に視界に入った光景に、僕は慌ててトーンダウン。

するとそこにいた彼は。


は や ま く ん  お は よ ー


って、声に出さずの挨拶とニッとした笑顔を寄越した。



イノランさんにくっついて、隆一さんが眠ってる。
すやすやと気持ちよさそうに。
そりゃあ幸せそうに。



「ーーーーー熟睡ですか?」

「まぁ、昨夜ね。夜更かししたからさ」

「ーーーーーー夜更かし」

「まぁ、ご想像にお任せ」

「なるほど」


一瞬で浮かんだ、恐らく大正解であろう答え。
それを口にするのは無粋ってものだ。
仲良いい恋人たちの夜っていったら、想像は容易い。



「ーーー起きられそうですかね?隆一さん」

「起きるよ。リハ始まるよーって囁けば」

「そうですね」


そこはプロだ。
切り替えも上手い、二人だから。


ーーーーーしかし




「ほんと、気持ちよさそうですね」

「ん?」

「穏やかな寝息」

「な。可愛いよね」

「ーーーそうですねって、僕も言っていいんですか?」

「もちろん。だって可愛いもんは可愛い」

「ーーーはい」



優しいイノランさんの声。
優しい隆一さんの寝息。

優しい雰囲気。




優しい。
二人の時間だ。





end






09/06の日記

17:29
好き
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バスルームの鏡

雨降りの車窓

波打ち際の砂の文字

月への祈り

太陽への願い

何度も何度も 溢れた声

あなたの背中につけた爪痕









「ーーーーーっ……ぁ、っ…」


「っ…りゅ…ぅ…」





溢れる涙。


好きだって。
言葉にしても、カタチに残しても。


それらはすぐに、消えて見えなくなってしまうけど。








「す き …っ…」



「ん、すきだよ」


「ーーーーーっ…好…」

「わかって…る、」

「ーーー…き…ぃ、」

「…俺…っ…も、隆…」






何度でも、言い続ければいい。
消えて見えなくなっても、何度でも。









end






09/07の日記

03:10
指先で触れる
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すり…。





ベッド際のサイドテーブルに置いてある。
小さな卓上カレンダー。


その、つるつると滑らかな紙の上を。
俺は軽く指先で触れた。



9




2


9






「ーーーふふっ」



変なの。
たった3つの数字。
それを順に触れただけ。

それなのに、この胸のどきどきは何?
心の奥がふわっとあったかくなって。
頬は緩んで (…多分)
唇も微笑みのカタチに緩んで (多分ね?)

その数字の向こうで俺を見つめてるひとを思い浮かべる。





「ーーーイノ…ちゃん、の」

「バー…ス、ディ…」



そっと、そっと…
誰にも聞こえないように。
囁くように、声に出したはずなのに。
(だって恥ずかしいでしょ?)


ーーー聞こえてたみたい…







「すっっっ…げぇ、」


「っ…ひゃ、」



裸の胸に、急に後ろから絡みついてくるのは…俺を抱きしめる腕。
途端に鼻先をくすぐる、コロンと煙草のほのかな香り。


その両腕の主は、勝手知ったる?とばかりに、俺の…




「っ…ぁ、ィ…ノ、」

「だいたいなんだって、こんな無防備な格好で寝っ転がってんだよ」



お風呂上がりであったかい恋人…イノちゃんは。俺がベッドに寝転んでいて抵抗できないのをいいことに…やりたい放題!



「ーーーね、」

「ぁっ…んん…」

「可愛いすぎなんだけど」



後ろから胸を弄られたら抵抗なんてできない。すぐに声が溢れてしまう。
ーーーでもイノちゃんはそれが嬉しいみたい。
にこにこしながら脚も絡ませてきて、いつのまにか反転。
俺の上から、イノちゃんが見下ろしていた。




「ーーーなに、」

「っ…ぇ、?」

「何、見てたの?」

「ーーーあ、」

「風呂上がりだからって裸でベッドなんて揃い過ぎだろ」

「…揃、?」





ちゅっ


「ふ、ぁっ…」

「ーーーほら、何…」

「んっ、ぁん」

「…見てた…のか、言ってみろよ」




ちゅく…っ


「…んっ…ふ、ぅ…」





唇を重ねられて。
イノちゃんの指先は、俺の身体をやわやわと撫でる。
気持ちよくて、思わず飛んじゃいそうになっちゃう…けど。


俺がさっき見て、触れていたのは。
大事な3つの…数字。

9と、2、9。




あなたがここにいてくれる、今までも、これからも。
その証になる、大切な。


929



待ち遠しいね。




「…ね、」

「ーーーん?」

「ーーーーーっ…ぁ…ノ、ちゃ…」



その瞬間は、どうか。

俺の全部を、あなたに。






end






09/09の日記

04:10
これをあげる。
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「イノちゃん、これあげる」

「ん、?」

「ふふっ」






隆が俺の手のひらにぎゅっと持たせてくれた…


一枚の紙片。






なんだ?って思って、それに視線を移す…と。








「ーーーーこれ、」

「あ、ぅん。ーーーあのね?」

「隆、の?」

「二ヶ月先までだけど…」

「いいよ、嬉しい。すっげぇ嬉しい」

「ほんと?」

「もちろん!ありがとう、隆」

「っ…へへ」







はにかんで、俺に手渡してくれたもの。







二ヶ月先までの、隆の休みの予定。
一緒にいられる日。









end






09/28の日記

03:45
内緒
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内緒。

内緒だよ?




みんなには内緒。
あなたにも内緒。
これは俺だけの秘密。









「隆ちゃん?」




びっくぅ!…っ…




「ーーーなんか今、すげぇ驚かなかった?」

「っ…そ、そそそそそんな事無い!よ?」

(…あるだろ)

「…まぁいいけど。ーーーただいま」

「おかえりなさい!お疲れ様、お腹すいた?」

「ーーーん、そうだな」

「先にご飯にする?お風呂入る?」

「ーーーんー。」



ーーーあ。
ここまで言って、お決まりの台詞を思い出してしまった。
別に狙ってたわけじゃないんだけど…でも。
たまにはこんなにもいいかな。
イノちゃんはどう思うかな。




「ーーーそれとも、」

「ん?」

「…俺にする?」



ゴットン!




「わぁ!イノちゃん落としたよ!お仕事鞄!」

「っ…お前が!そんな事いきなり言うから!」

「ふぇ?」

「いいよ。お望みどおり」

「え、」

「お前から」

「…っ…イノちゃん」





イノちゃんの帰宅早々、リビングの真ん中で抱きしめられる。
抗議しようとしたら、唇が重なって文句も言えない。
馴染む感触に、もう何も言えなくて。
俺もいつのまにか彼に縋り付いていた。




「…っ…ん、」

「ーーーなんか、」

「ん、」

「どうした?」




隆、可愛い。
って、言うから。






「内緒」

「ーーー内緒?」

「ふふっ」






内緒。
まだ、もう少しだけ。

明日には教えてあげられるから、待っててね。







end






09/29の日記

06:04
恋文
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早朝。




〝いつもの海岸で待ってるよ〟





隆から届いたのはそんなメッセージ。
一緒に行く海は決まってる。
家から高速を飛ばして行ける一番近い海。
一番静かな海岸。



オフだったし、気まぐれな恋人の誘いにのって。
まだ太陽が昇りきる前の時間。
早速着いたのは来慣れた海岸。
ーーー人は少ない。
やっぱり、静かな海だ。









ザ。


砂浜に足を踏み入れる。








「ーーーっても、肝心の隆ちゃんはどこだ?」


見渡してみても、恋人の姿は見えない。
誰もいない波打ち際で遊んでると思ったのに。



ザ、ザク。


ざざ…ん…



サクッ。


ーーーざ…ざざ…




砂を踏む音。
波の音。


それらを聴きながら、海岸を歩く。






ーーーすると。








「あ、」



ちょこんと、見つけた。
探し人の姿。
ーーー見つけたけど…




「寝てる?」





朝陽を浴びたコンクリートはあったかいのかも。
テトラポットに寄りかかって。
気持ち良さそうに。




「ーーー」



俺はしゃがんで、隆を見る。

ちょっと微笑んでいるように見えるのは、いつもの隆だ。
眠っていても、俺に微笑みかけてくれてるようで。





「可愛い」



手を伸ばして、髪に触れた…ら。




「ーーー手紙?」





隆が膝の上で大切そうに持っている。
封筒の表面に、イノちゃんへって、書いてある。





「ーーー俺に?」




ちょっと迷ったけど、俺宛なんだったら、いいかな。
そう思って。
その手紙をそっと抜き取って、封筒を開けた。


出てきたのは一枚のカード。
ーーーバースデーカードだ。





「そっか。俺の誕生日…だから」




隆ここへ俺を呼んだわけがわかって、嬉しくなる。
サプライズみたいな、朝の出来事だ。





ーーーで、手紙は。
なんて書いてあるのかな。







「ーーーーーっ…」









………………



イノちゃんへ



出会ってくれて ありがとう

ずっと好きだよ



お誕生日おめでとう






………………










ーーーどうしよう。
嬉しすぎだ。






「ーーー俺もだよ」


「隆」


「大好きだよ」









end




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