日記(fragment)のとても短いお話
05/27の日記
22:59
君にエール。
---------------
ピンポーン♪
「はーい」
「よう」
「J君、こんばんは~」
「ーーーーーーー何してんの?オマエら」
仕事終えて、家帰って、飯食って。
これからテレビ観ながらまったりしようと思ってた矢先。
突然鳴ったインターフォン。
聞こえてきた声は、聞き間違うはずない。
幼馴染と、その恋人のヴォーカリストのものだった。
「J君、はい!お土産」
「あ。あぁ、サンキュ」
「それアイスだから。早く冷凍庫入れないと溶けちゃうよ?」
「おー…。おぅ」
「ーーーJ」
「あ?」
「ーーー入ってもいい?」
「え?あ、おう」
「ん。んじゃ上がるね、お邪魔しまーす」
「お邪魔しまーす!」
いまいち状況が飲み込めない俺の横を通り抜けるイノと隆。
さっさと靴を脱いで、律儀にも玄関の端に靴を揃えて。すっかり間取りも知ってる俺の家。リビングの方へと、スタスタ進んで行った。
「ーーーえ。…何しに来たの?」
「別に。ーーー通りすがり?」
「嘘つけ!」
「嘘じゃねえって。俺と隆ちゃんは毎晩散歩に出掛けるんだから」
「うんうん!今夜もね?夜散歩に出たんだよね?」
ねー!…って。
顔見合わせてイチャついてんじゃねーよ!
「今夜は良い夜でさ。月も綺麗だし。ちょっと遠くまで歩こうか?って」
「気づいたらJ君の家までね」
「だからそれが嘘だろっての!」
同じ都内とはいえ、どんだけ離れてると思ってんだよ。
「まぁまぁ、細かい事はいいだろ?」
「一緒にアイス食べようよ」
「Jのは隆ちゃんが選んだんだもんね?」
「うん!J君モナカのアイスね?」
「あ…ーーーサンキュ」
「イノちゃんはガ◯ガ◯君で、俺はカップのいちごアイス!」
ーーーそのチョイスはどうなんだ…?
あれよあれよという間に、テーブルに用意される三種のアイス。つい五分前は、こんな未来想像してなかった。
なんなんだ、この珍客どもは。
貰ったモナカアイスをバリバリ食いながら、目の前のイノと隆をジッと眺める。
ーーー隣の隆に視線を向けながら、時折微笑みを浮かべてアイスを齧るイノ。
ーーー向けられた視線に気付いて。照れ臭そうにはにかんで、いちごアイスを口に運ぶ隆。
こんな風に、お互いに夢中です。って二人、こんな間近で見るのは初めてかもしれない。それに大抵いつも、スギと真矢君も近くにいるもんな。
そもそもコイツら俺がここにいるってわかってんのか?惚気に来たのか?
ーーーなんて。俺が悶々とモナカを食ってたら、いつのまにか隆がこっちを見ていて言った。
「J君。明日ベースの録りだよね?」
「え?ーーーーあぁ」
「どんな風になるのかってね?楽しみにしてるんだぁ」
「ーーー」
「Jの応援に行くー!ってさ?隆ちゃん急に言いだすから」
「だって今回の良い曲だもん!みんな上手くやってくれるってわかってるけど、応援したいじゃん」
「!」
「陣中見舞いってやつ?」
「そ。アイスの差し入れ持ってね?」
どう?応援された?って、隆は目をキラリと光らせる。隣を見ると、イノもイノなりにぬる~い微笑み。
それ見たら。
なんだろうな。
別に元気が無かったわけじゃないけど。
ーーーうん。…元気出た。
明日の録り。
めちゃくちゃ楽しみになった。
ご馳走さまでした。って、手を合わせて。
イノと隆は立ち上がって、玄関に向かう。
靴を履いて、外に出る前。
二人は振り返って、手を振った。
「突然ごめんね。でも楽しかったね!」
「おう。だな」
「じゃーな。J、ちゃんと早く寝ろよ?」
「オマエらもな」
「んー?…オレらはまだかな」
「ん?」
「もう!イノちゃん」
「え?なに…」
「ま。ご想像にお任せします」
「…あー…」
じゃあね!J君おやすみ!
明日頑張れよー。
そう言って、珍客どもは帰って行った。
「なんだったんだ…」
でも、まぁ。
アイツらなりのエールなんだってわかってる。
応えてやろうじゃん?
重低音で。
end
・
05/28の日記
22:53
実践
---------------
今夜ものんびり夜散歩。
もう完全に日課になっている。
仕事→夕飯→ちょっとテレビ→夜散歩
こんな流れが出来上がっている気がする。
てくてく とことこ夜道を歩く。
今日は暑かったね~
でも夜は涼しいね~…なんて話しながら。
いつもの家から一番近い自販機の方に進みながら、隆がチラチラ見てくるなぁ…と思っていたら、ぽつりと言った。
「ーーーイノちゃん?」
「ん?」
「あのね?ーーー今日ちょっと…してほしい事…あるんだけど」
「ーーうん?なに?」
「自販機のね、そばにさ?電柱あるでしょ?」
「電柱?ーーーんー?うん…( どこにでもあると思うけど…) 」
「ーーー」
「?ーーー電柱がどうしたの?」
「ーーー夜の電柱の陰でね?」
「うん」
「ーーーーーーーーキスしたいなって」
「!ーーーーー」
「ーーーーーーいい?」
「ーーーいいよ?…今する?」
「電柱がいいの。電柱に押さえつけてキスされたいの」
「…なんだよ、そのシチュエーション」
「ーーーーー別に…」
「ん?」
「なんでもないよ?」
「ーーーーー嘘。ーーー隆、白状しろ」
「えー?白状って」
「言わないと、ここでするよ」
「え?」
「ここで押し倒すよ」
「嘘だぁ!」
「ホント。俺はどこでだって隆を抱けるよ?」
「‼」
「ほらほら、早く言わないと~」
「わかった!わかったから!シャツに手つっこまないで!」
「ん」
「ーーーーーーーーーーーーーーー曲の歌詞…にね?」
「ん?」
「歌詞にするのに、そんなシチュエーションでキスしたら、どんな風にドキドキするんだろう?って…実践して研究」
「ーーーーーー」
「試してみたいなぁ…って」
「ーーーーーーーー」
「ーーー付き合ってくれる?」
「ーーーーーーーーーーー隆ちゃん」
「〝電柱の陰でキス〟じゃなくて、〝電柱の陰でえっち〟に変えない?」
「ーーーは?」
「俺、そっち試したい」
「ええっ‼?」
「いい?」
end
・
05/29の日記
22:56
おめでとう!
---------------
「ね。イノちゃん、これでいいの?」
「うん、大丈夫。ーーーいいよ?」
「ん!じゃあ、いくよ!」
「OK!」
~♪♬
「お。」
「ん?」
「あ?」
スギゾーと真矢とJの元に。
ほぼ同時にそれぞれのスマホに届いた、一通のメッセージ。
これまたどんな偶然か。
仕事の内容は三者三様だけれど。
たまたま重なった休憩時間。自由時間。待機時間。
軽やかな着信音も、すぐに耳に届いて。
画面に現れた未読メッセージにも、すぐに気が付いて。
差出人の名前に。三人は離れた場所で、同時に微笑んだ。
「隆とイノだぁ」
「イノと隆ちゃんからだ!」
「隆とイノから?」
何故だか、ゆっくり見たいな…と。またもや同時に思った三人。
仕事の仲間やスタッフの間をすり抜けて。
暫しひとりになれる場所に身を落ち着ける。
再び取り出したスマホ。もう一度画面を開いて、未読メッセージを開けてみた。
添付ファイルが付いていて。⁇…と思いながらファイルを開くと。
「!」
「!」
「!」
♬happy birthday to you…
happy birthday to you…
♪happy birthday dear LUNA SEA…
happy birthday to you…♬
「みんな!これからもよろしくね!」
「最高のプレイしような~っ ‼」
届いたのは、イノランと隆一からの。
バースデーメッセージ。
イノランのギターと、隆一の歌と。そこに寄り添うような、イノランのコーラス。
こんな事を仕掛けてきた二人に、三人も堪えられない笑顔が広がった。
「ーーーやっぱ、隆とイノのハモり合いは良いね」
「最っ高!隆ちゃん、イノランちゃんありがと~‼」
「…ったく。お前らだって、当事者じゃねぇかよ」
みんなで集まってお祝い…。今はちょっと出来ないけど。
こんなのも良いよね?
「みんな喜んでくれたかなぁ?」
「大喜びでしょ」
「だったら嬉しいな!イノちゃんと一緒に歌うのも嬉しいしね」
「俺らのハモりは、スギちゃんにも太鼓判もらってるからさ」
「また歌おうね!」
「ん!また一年よろしくな!」
happy birthday LUNA SEA ‼
end
・
06/11の日記
22:27
葉山君のお土産
---------------
ぽりぽりと、隆がなんか食べてる。
「隆ちゃん、なに食ってんの?」
隆の座ってる、スタジオのテーブルの隣に腰掛けながら、何だろう?って思って聞いてみた。
「金平糖!」
「金平糖…。また懐かしいものを…」
「んとね、葉山っちがね?くれたの。お土産だって。古都に行って来たんだって」
「へぇ」
「綺麗でしょ?水色とー、紫とー、ピンクと白!紫陽花っていうんだって」
「ーーー」
「美味しいよ?イノちゃんも食べる?」
「いや、俺はいいや」
「そ?」
「うん…。ーーーつか、葉山君…」
「うん?」
「流石だわ。隆の好みよくわかってる」
「そうだよねぇ、葉山っちがくれるお土産、いつも美味しいよ?」
「ーーー油断なんねぇ…」
「ん?なんか言った?」
「ん?んーん。ーーー良かったな、隆ちゃん」
「うん!あっ 、そうだ!葉山っちがねぇ、イノちゃんにもお土産って」
「俺にも?」
「これ!イノランさんに渡して下さいって」
「ーーーありがとう。なんだろ」
「なんだろ~?」
「隆ちゃんも楽しみなの?」
「えへへ~」
隆の期待を受けながら。
ガサゴソと袋を開ける。…と。
「……」
「……」
「……なにこれ」
「ーーーこれは…この贈り物の意図はなんなの?」
「…まさかこれでライブ出ろって?」
「ええ~っ⁉」
「ーーー」
「ーーー」
「ーーー今度さ」
「うん?」
「これつけたまま…する?」
「絶っっっ対!!!やだっっ !!!!!」
「ーーーあの…冗談だから」
俺だってヤダよ!
ーーー大仏のゴムマスクつけたままなんて!
end
・
06/13の日記
22:47
かき氷
---------------
今日は暑かった。
日射しもそれなりだったけど、何より湿度が高くて…。
暑い暑いって言うと余計暑くなるよって、隆に言われそうだ…。と思いながらも、汗でしっとりした身体で家に着く。
まず一番にシャワー浴びよう。
そう決めながら玄関に入って、ただいま~。
「イノちゃんお帰りなさい!」
「隆ちゃんただいま」
一足早く帰っていた隆がとんできて。
で、恒例の。
キスをしようかと顔を寄せて。……ん?
「ーーーイノちゃん?」
どしたの?まだ?…って顔でじっと見てくる隆。だから!
可愛いんだから!絶対、他所ですんなよ!ってぶつぶつ言いながら。
「隆ちゃん、ちょっと口開けて?」
「えー?くち?」
「そう。ちょっと見して。舌出して」
「ええっ?…イノちゃんえっち」
「なんでだよ!…まぁ、そうだけどさ。いいから!」
「ん…。はい」
あーん。と口を開けて舌を見せてくれる隆。そしたら…
「青っ‼」
「はほ?」
「はほ、じゃなくて青!隆ちゃん舌、真っ青だよ⁉」
「え~⁇」
「ーーーこの青いの…」
これは誰しも経験する。夏の風物詩⁇…かどうかは分かんないけど…
「隆ちゃんかき氷食べた?」
「う?うん。今日食べたよ?えっとね、ソロのメンバーと仕事終わりに喫茶店で」
「…ブルーハワイだろ」
「うん!葉山っちがね?イノランさん驚くからやめた方がいいですって言ってたんだけど…俺好きなんだよね」
( 葉山君わかってるなぁ… )
「ーーーでも…ーーやっぱり嫌だった?」
「ん?」
「舌の青い俺…」
「ーーー」
「葉山っちの言う通りやめとけば良かったかな…」
( ーーーーーー……やれやれ )
「ーーー」
「いつもと違うキスができていいじゃん?」
「!」
「新鮮で」
「っ…うん!」
「ーーーじゃ、改めて」
「うん」
「ただいま」
「お帰りなさい」
ちゅっ。と交わしたキスは、何と無くいつもと違う楽しい気分。
それから。
甘かった。
end
・
06/14の日記
22:43
君にエール。②
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ピンポーン。
「はーい、ちょっと待ってください」
「こんばんは」
「スギちゃん、こんばんは~!」
「ーーーーえ…。ーーー何してんの?」
仕事終えて、家帰って、食事して。
これからパソコンに向かって、家での作業をしようと思ってた矢先。
突然鳴ったインターフォン。
聞こえてきた声は、聞き間違うはずない。
もうひとりのギタリストと、その恋人のヴォーカリストのものだった。
「スギちゃん、はい!お土産」
「あ。あぁ、ありがとう」
「それアイスだから。早くしないと溶けちゃうよ?」
「あ…ああ」
「ーーースギちゃん」
「うん?」
「ーーー入ってもいい?」
「え?あぁ、ごめん。どうぞ」
「ん。んじゃ上がるね、お邪魔しまーす」
「お邪魔しまーす!」
いまいち状況が飲み込めない俺の横を通り抜けるイノと隆。
さっさと靴を脱いで、丁寧に玄関の端に靴を揃えて。すっかり間取りも知ってる俺の家。リビングの方へと、スタスタ進んで行った。
「ーーーえ。…何しに来たの?」
「別に。ーーー通りすがり?」
「ーーー嘘でしょ」
「嘘じゃないよ?俺と隆ちゃんは毎晩散歩に出掛けるんだから」
「うんうん!今夜もね?夜散歩に出たんだよね?」
ねー!…って。
人の前で顔見合わせてイチャついてんじゃないよ。
「今夜は良い夜でさ。星も綺麗だし。ちょっと遠くまで歩こうか?って」
「気づいたらスギちゃんに家までね」
「いや…それが嘘でしょ?」
同じ都内とはいえ、どれだけ離れてると思ってんの。
「まぁまぁ、細かい事はいいだろ?」
「一緒にアイス食べようよ」
「スギちゃんのは隆ちゃんが選んだんだもんね?」
「うん!スギちゃんはサ◯レ レモンね?」
「あ…ーーーサンキュ」
「イノちゃんはパ◯コ チョココーヒーで、俺はハー◯ン◯ッツ 抹茶味!」
ーーーうん。
あれよあれよという間に、テーブルに用意される三種のアイス。つい五分前は、こんな未来想像してなかった。
つか。仕事しようと思ってたんだけどな…。
貰ったシャーベットにスプーンを突き刺して、輪切りになってるレモンを齧りながら、目の前のイノと隆をジッと眺める。
ーーー隣の隆に視線を向けながら、時折微笑みを浮かべてカチカチのアイスを手のひらで暖めるイノ。
ーーー向けられた視線に気付いて。照れ臭そうにはにかんで、抹茶アイスを美味しそうに頬張る隆。
こんな風に、お互いが愛しくて周りが見えませんって二人、こんな間近で見るのは初めてかもしれない。それに大抵いつも、真矢とJも近くにいるからな。
そもそもこの二人、俺がここにいるって忘れてんじゃないの?らぶらぶっぷりを見せつけに来たの?
ーーーなんて。俺が、久し振りのシャーベットをシャクシャクと堪能していたら。いつのまにか隆がこっちを見ていて言った。
「スギちゃん。明日ソロライブの初日だよね?」
「え?ーーーーあぁ」
「きっとね?カッコいいんだろうなぁーって、楽しみにしてるんだぁ」
「ーーー」
「スギちゃんの応援に行くー!ってさ?隆ちゃん急に言いだすから」
「だってライブ初日だもん!スギちゃんなら、すっごくこだわって創り上げるってわかってるけど、応援したいじゃん。初日って、やっぱドキドキするし」
「!」
「陣中見舞いってやつだよな」
「そう!アイスの差し入れ持ってね?」
どう?応援された?って、隆は目をにっこり。隣を見ると、イノもイノなりに口の端を上げて不敵な笑み。
それ見たら。
なんだろう。
別に緊張してたわけじゃないけど。
ーーーうん。…元気出た。
明日の初日。
すっっっげぇ、楽しみになった。
ご馳走さまでした。って、行儀良く手を合わせて。
イノと隆は立ち上がって、玄関に向かう。
靴を履いて、外に出る前。
二人は振り返って、手を振った。
「お邪魔しました。でも楽しかった。美味しかったしね!」
「そうだね。こっちこそご馳走様」
「じゃね。スギちゃん、いくら夜型だって今日はちゃんと寝ろよ?」
「今夜はさすがにね。ーーつか、イノと隆も早く帰って寝ろよ?」
「んー?…オレらはまだかな」
「ん?」
「もう!イノちゃん」
「ーーー」
「ま。ご想像通りだから」
「イノちゃんっ‼」
「ーーー…ははっ…」
じゃあね!スギちゃんおやすみ!
明日頑張ってな。
そう言って。バカップル…もとい。突然のお客様は帰って行った。
「ーーーやれやれ」
結局、超仲良いところを見せられただけな気もするけど…
でも、まぁ。
あの二人なりのエールなんだってわかってる。
応えてやろうじゃない。
響き渡る、目の覚めるような音色で。
end
・
06/18の日記
23:18
一番の。
---------------
ルナシーのライブのリハーサル。
暗闇に包まれる中で、強烈なライトが降り注ぐステージ。
それを。
俺は今、客席から見てる。
楽器隊のリハの様子を、じっと。
「隆一さん、お疲れ様です」
「あー、葉山っちだ」
「ーー今朝だって会った…ってゆうか、さっきも一緒に楽屋にいたじゃないですか」
「あはは、そうだよね」
今回のアルバムは葉山っちも参加してくれてるから、今日のリハも来てもらってる。
ここいいですか?って、俺の隣に座る葉山っち。そして俺と同じように、ステージをじっと見る。
「ーーカッコいいですね」
「カッコいいよねぇ」
「隆一さんだって、一部分でしょう?」
「ま、ね?5分の1だけど」
「じゃあ隆一さんだって、カッコいいって事です」
「ふふっ 、ありがと」
葉山っちからしたら、俺はきっと、5つの内の1つ。
もちろん俺も、そう思ってる。
ステージに立てば、俺たちは五人って。それは心の底から感じる。
ーーーでもね?
こうやって、一歩外側からステージを見る時。
ほんの一瞬なんだけど、4つと1つ…みたいな感覚に襲われるんだ。
「ーーーねぇ?葉山っち」
「はい?」
「俺ね、いつもここでこうやってステージ見てると、思う事があるんだ」
「ーーーはい」
「ーーー聞きたい?」
「…聞いていいんですか?」
「いいよ?一緒に音楽やってくれる葉山っちだから」
「っ…光栄です」
「でも四人には秘密だよ?」
「え」
「葉山っちにしか言わないからね?」
「って事は…」
「責任重大」
「っ…喉乾いてきました」
「あはは!そんな、怖い事じゃないよ」
「はい…」
「ふふっ ーーーえっとね?」
ハードな曲になって、大音量に負けないように。でも四人に聞かれちゃ困るから。ちょっと大きめの耳打ち。
「ーーー」
「ーーー?…ごめんなさい、聞こえないです」
「え~?だから…ーーーーなの」
「っ…肝心の内容が」
「ええっ⁉」
サビの部分で、大音量は最高潮。
こんな隣で話しても聞きづらい。
それにぶっちゃけ、何度も言うのは正直恥ずかしい話なんだよ!
周りはどうせ大音量だからいっか。って。
葉山っちの耳が壊れない程度に大きな声で。三度目の正直で思い切り大声で言った。
「四人の一番のファンは俺なんだよ!!!!!」
シーン…と。
静まり返る、ステージ。この空間。
隣の葉山っちはもちろん、スタッフも。
そして当然、ステージ上の四人も。
え?
何が起こったの?
急に鳴り止んだ音に目をぱちぱちさせてたら、楽器を持ったままの四人が、ステージスレスレの所まで来て、俺を見た。
ーーーちょっと、照れた表情で。
それから、嬉しそうな顔で。
え。
ーーーその表情。もしかして…
「ーーー聞こえちゃったの?」
嘘でしょ?
あんな大音量だったのに⁉
「ーーー隆一さん、かなり大声でした…」
「ウソ⁉」
「あれは演奏も止まる勢いです…」
苦笑いの葉山っちの言葉を聞きながら、恐る恐る四人に向ける視線。
そしたら。
「隆、ヤバい。すっっげえ嬉しい」
「りゅ~ちゃん!俺も隆ちゃんの大ファンよ!」
「お前、自分の声量忘れてねぇ?」
スギちゃんと真ちゃんとJ君が、照れ照れしてるのがわかる…
ううっ…こっちだって照れるよ‼
「隆ちゃん」
「っ…イノちゃん」
「ほら…」
「え…?」
「おいで」
「!」
「〝五人〟だろ?」
「っ…!」
ステージを見ている時の俺の心を読まれたのかと思った。
この展開に動けないでいたら。
葉山っちが。
「隆一さん」
ぽん。…と、背中を押してくれた。
縺れた足運びは、次第に引き込まれるように。
光差すステージへ、俺の足は進んで行く。
イノちゃんが手を差し伸べてくれて、繋がれて、ステージ上へ。
五人のステージへ。
俺はいつか、叶えたい事があるんだ。
でもそれは、決して叶わない事なんだけど。
それはね?
五人一緒に、五人のライブステージを見る事。
この五人が、大好きだから。
end
・
06/19の日記
23:06
ウォータークラウン
---------------
雨粒でも、涙の雫でもいい。
蛇口から落ちたひと雫の水でもいい。
とにかく、ひとつの雫が。
ぽちゃん。
…って、水面に落ちた時。
スローモーションで見ると、どんな風に見えるか知ってる?
「王冠?」
「当たり。隆ちゃんよく知ってんね」
「それくらいは…。てゆうか、イノちゃん俺の事ばかにしてない?」
「心外!俺が隆ちゃんをばかになんかする筈ないだろ?」
「…ふぅん?」
「あ。信じてない?」
「信じてるよ?ーーーで、なんでその話?」
「今日、雨脚強いからさ」
「ーーーそうだね」
「さっきね?窓から外見てたんだけど」
「うん」
「テラスの手摺りに雫が落ちてて。…で。」
「その話になったと」
「そう」
「ふーん?」
「ん?ーーーなに」
「え?」
「隆ちゃん、なんか含みのある言い方」
「そんなことないよー。ーーーってゆうかね?」
「うん」
「こうゆう会話って、イノちゃんと一緒ならではだな…って」
「俺?」
「うん。だってね?例えばスギちゃんだったら…。もっと科学っぽい事言いそう。〝重力があるから雫は落ちるんだよ。例えばこれが宇宙空間なら~〟とか」
「言いそう!」
「でしょ?ーーJ君なら、〝そりゃそうだろ〟って。なんか簡潔に…」
「言うね。〝当たり前だろ〟とかな」
「あはははっ!」
「真ちゃんは、そうだな」
「うん」
「〝草木が喜ぶな‼〟って、大らかな…」
「優しい!」
「真ちゃん優しいから」
「スギちゃんとJ君も優しいよ」
「隆ちゃんも優しいじゃん」
「イノちゃんだって」
気付けば褒め合い。
話もどんどんそれてって。…何の話してたんだっけ?
ーーーあぁ、そうだ。水の王冠の話だ。
何でそんな事考えてたのかって。
テラスの手摺りに落ちる雫を見てて。
それで。
時折テレビやなんかで見かけるスローモーションの映像。
水の王冠。
ウォータークラウン。
まぁ、いつもの事なんだけど。
それを隆が頭にのせたら似合うだろうな…って。
可愛くて、綺麗だろうなって。
…そんな想像したから。
目の前の隆をじっと見つめて。
頭のてっぺんに、ちょこんと小さな水の王冠を戴いた隆の姿を思い描く。
小首を傾げて、俺に微笑みかける隆を想像する。
ーーーーーーー。
ーーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーうん。
「めちゃくちゃ可愛いわ」
「…はい?」
「隆ちゃん可愛い」
「っ…!」
「俺の。」
「イノちゃんっ 」
ぐいっと、隆の肩を掴んで。バランスを崩した隆を、受け止める。
( 王冠がのっている。…と仮定して )隆の黒髪をくしゃくしゃと撫でると。
雨で湿気を含んだ、いつもより癖の出た黒髪が。無造作に隆を、綺麗にした。
「可愛いし、綺麗」
「っえ、」
「やっぱ、隆は俺の。」
「っ…今更!」
「ん?」
「ずっと前からでしょ?」
俺のシャツの襟をぎゅっと掴んで、隆に引き寄せられて。隆からのキス。
照れながらも唇を絡ませてくる隆に、夢中になる。
黒髪に手を差し入れて、もっと撫でたら。
気持ちよさそうに吐息をこぼして、頭を揺らす。
( のっていると仮定した王冠が ) その反動で、ぱらぱらと崩れて、隆の黒髪を滑り落ちる。
細かな雫が、ぽたん。…と、俺の腕に落ちた。
落ちた雫は、想像じゃなく。
隆の閉じた瞳から落ちた。
艶を滲ませた、ひと雫の涙だった。
end
・
06/21の日記
22:58
幼馴染と、恋人。
---------------
「J君、来てたんだ」
「オマエも来てたのか、隆」
ばったり出会ったのはライブ会場…のバッグヤード…の入り口。
ルナシー5分の2の俺とJ君が。
今ここに。
「ちょうど時間あったからさ」と、J君。
「イノちゃんに誘われてたの」と、俺。
そう。
今日はイノちゃんのソロライブ。
偶然、同じタイミングで会場に着いた俺とJ君。顔見知りのスタッフから、パスをもらって、二人揃って楽屋の方へ。
通路を進みながら、J君とぽつぽつ雑談。
「隆はいつも来んの?イノのライブ」
「予定が合えばね。いつも声掛けてくれるんだけど、なかなか行けなくて」
「まぁ、そうだよな。俺も、今日はたまたまスケジュール変更になってさ」
「そっか。でも、ホント珍しいよね?」
「だな!俺らが揃って陣中見舞いとかな」
ーーーそうだ。
キャンペーンとか仕事では俺とJ君はいつも一緒だけど。プライベートで一緒って、いつ以来だろう?
しかも。
J君はイノちゃんの幼馴染。
俺はイノちゃんの恋人。
だいぶ違う関係だけど、共通点はあるんだなぁ…。
フト。J君の手元を見ると。ーーー重そうな袋。
「J君それなに?」
「ん?ああ、エナジードリンク2ダース」
「わぁ、喜ぶね」
「まぁ、一応…手土産」
「J君優しいね」
「ーーーつか、隆こそ」
「ん?」
「それ。紙袋、なに?」
「あ、これ?えへへ~!えっとね、〝口寂しい時セット~〟‼」
「なんでドラ◯えもん風なんだよ!」
「あはは!いいでしょ?飴でしょ?チョコでしょ?キャラメルにガムにクッキー!」
「子供の遠足か!」
「ちょっと食べたい時あるじゃない。こんなのもいいかなぁ…って」
「…まぁ、オマエからなら、イノはなんでも喜ぶだろ」
「J君からだって、喜ぶよ」
なんて話しながら。
控え室の前について、J君と二人、ノックしてドアを開けた。
「こんにちは~」
「お疲れ~っス」
「あ!隆ちゃん!ーーーと、J!」
「こんにちはイノちゃん。J君とばったり会ったんだよ」
「ま、偶然な」
「なんだよ、なんかすげえ不思議な感じ」
「あはは、三人揃っちゃったね~」
「今日は俺と隆は気楽なモンだけどな」
「もう、ついさっきまで練習してた!ライブで新曲披露するからさ」
「いいね~。今日来てよかった。オマエの必死ぶりが見られるってわけだろ?」
「さすがJ。言うね~。まぁ、楽しみにしててって感じで」
「ーーー」
イノちゃんとJ君は、まるで悪友同士みたいに、楽しそう。
小さい頃から仲の良い…。
こんな時俺は、つい。一歩引いて、二人を眺める。
俺の知らない、空気がある。
ーーーなんて思ってたら。
「隆ちゃん、来てくれてありがと」
「あ、うん!スケジュール平気だったから」
「そっか。すげえ嬉しい」
「ふふっ!よかった。イノちゃんのライブ久しぶりだから、楽しみにしてるね?」
「うん。ーーー先帰る?かえり」
「うん、イノちゃんは打ち上げあるでしょ?俺の事はいいから、ゆっくり楽しんできて?」
「ごめんな、先、寝てて?」
「うん」
「ーーー」
視線を感じて横を見ると、J君が、へぇ。って顔で俺たちを見てた。
ちょっと、鳩が豆鉄砲くらったみたいなJ君。
ーーーどうしたんだろ?
じゃあ、ゆっくりしてって。って、イノちゃんはメンバー達とステージに。
いってらっしゃい!って手を振ったら、向こうに行きかけたイノちゃんは、ちょっと考えて戻ってきて。ぐっと俺を引き寄せると、触れ合うくらいのキスをして。
J君の前で!って呆気にとられてる間に。
J君には不敵な笑みを投げかけて、今度こそ向こうに行っちゃった。
「ーーったく、アイツめ」
「もぅ…イノちゃん」
やれやれって苦笑いのJ君。
そっか。きっとJ君にとっても、恋人の顔のイノちゃんが、新鮮なのかもしれない。
俺にとって、幼馴染のイノちゃんの顔に、一歩立ち止まってしまうみたいに。
「隆、今日の帰り、呑まねえ?」
「えー?俺とJ君で?」
「そう。アイツにちょっと、ヤキモキさせてやろうぜ?」
「ーーーなんか根に持ってる?」
「別に?たまにはいいんじゃね?」
「うーん。でも、まぁ。いいよ?」
「お、行く?」
「いいよ?でも、さすがにイノちゃんが帰る前には帰らないと、今夜俺寝らんなくなっちゃうけど…」
「いいじゃん。うんと遅れて、うんと愛してもらえば?」
「ええっ⁉俺、明日仕事行けなくなっちゃうよ!」
「はははっ!」
笑いごとじゃないんだってば!
end
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06/22の日記
23:24
赤い糸
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運命のひととは、赤い糸で結ばれてるって言うよね。
雨がざあざあ降る夜のこと。
イノちゃんの家で、俺は夕食の後片付け。
後片付けって言っても、大したことない。
カレー皿と、サラダボウルと、グラスと…。それくらい。
あ!あとカレー作った鍋!これが一番、やっかいだ。
いつだったか、イノちゃんが買ってきてくれた赤いエプロン。
この家で料理したり、キッチンに立つ時は、これ。
〝隆ちゃん、赤似合うよね。〟って、いつも言ってくれるから。実は密かに、気に入ってるエプロン。
「隆ちゃ~ん、片付け任せてごめんねぇ」
イノちゃんの声が、リビングから聞こえてきた。
イノちゃんは今、仕事の真っ最中。
ソファーの前のローテーブルにパソコンを置いて、ものすごい速さでキーボードを叩いてる。
なんでも仕事の〆切が変更になったみたいで。夕方、血相変えて慌てて帰ってきたイノちゃん。
「も~せっかくさ?今日は帰ったら隆ちゃんとのんびりしようと思ってたのに~」
「仕方ないよ。俺のことはいいから、イノちゃん頑張って!」
「うぅ~…ホントごめん!…あと、もうちょいなんだけど」
「間違うと余計に時間かかるから。ほら、集中して!」
「ん!」
「コーヒー淹れてくるね」
「隆ちゃんありがとー」
イノちゃんの済まなそうな声を聞きつつ、俺は再びキッチンへ。
ポットでお湯を沸かしながら、コーヒーの準備だ。
フィルターをセットしながら、コーヒーの香りが鼻先をくすぐった時。
ふと。
「ーーーふふっ」
こっそり、小さな笑みが、溢れてしまった。
ーーこうゆうのって、なんかいいよね?
もちろん、イノちゃんは大変かもしれないけど。
だってさ?
好きなひとが大変な時に側にいて。それで、色々してあげられるのって。
大切にし合ってる同士の、特権かなって。
それに、大変な時に側にいる事をゆるしてくれてるってさ。
それって。
すごく、嬉しい。
イノちゃんには悪いけど。
焦ってる姿も。
ちょっと苛ついてる声も。
申し訳無さそうに、何度も声を掛けてくれる事も。
嬉しくて、幸せで、笑っちゃうんだ。
「イノちゃん、コーヒー。持ってきたよ?」
「ありがと!」
「ちょっとだけ休憩できる?」
「うん、もう少しだから。ーーーそれにさ?」
「ん?」
「隆ちゃんが淹れてくれたんだから、今はコーヒーを堪能します」
「ふふっ」
テーブルにコーヒーカップを置くと。イノちゃんの手が伸びて、腰が捕まえられて。
そのままぎゅうっ…と抱きしめられた。
「イノちゃん」
「元気補充。すっげえ、和む」
「ホント?あとちょっと頑張れそう?」
「うん。あー…ホント、隆ちゃん大好き」
「なんか会話おかしくない?」
「えー?おかしくないよ。大好きだから大好きって言ったんだし」
「ーーー嬉しい」
「嬉しい?」
「うん。ーーー俺も好きだもん」
「ーー前から思ってたけどさ。俺らって相当らぶらぶだよな」
そう言いながら、イノちゃんは俺の唇にキスをして、腰あたりで結んであるエプロンの紐を解いた。
解いて、シャツの中に手を差し込んできた。
「ーーーなにしてんの?」
「ん?いや…触りたいなって」
「ダメ。仕事先に終わらせてから」
「ええ~?ちょっとだけいいじゃん」
「途中で止まんないでしょ?仕事終えてゆっくりのがいいじゃん」
「んー…まぁ、ね?」
ちぇー。って顔して、渋々手を離すイノちゃん。でも名残惜しいのか、もう一度キスしながらエプロンの紐をずっと指先で弄ってる。
赤い、エプロンの紐を。
俺の着ている、赤いエプロンの。
それを見たら。
「イノちゃん」
「ん?」
「俺とイノちゃんはね。今結ばれてるんだよ?」
「え?」
「運命の赤い糸。…ならぬ、運命の赤いエプロンで」
「!」
「このエプロン気に入ってるから。だから、ずっとこれ大事にして、イノちゃんに色んな事してあげたいな」
「隆ちゃんっ…」
「俺は逃げないよ?ーーーだから、頑張って仕事終わらせて。…そしたら」
「ーーー」
「エプロン、脱がしていいよ?」
「っ…」
「ね?」
「っ…ーーーーーーー隆っ…」
「ん?」
「ヤバい…。それマジで誰にも言うなよ?」
「言うわけない!」
「隆ちゃん大好き!愛してる!」
「俺も好き!」
「りゅ~っ‼」
「はいはい」
end
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