日記(fragment)のとても短いお話









2022/08/27の日記

23:38
ただいま。
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「隆がどっか飛んでっちゃいそうだった。ギターを弾く手を、思わず隆に差し伸べたんだから」




ライブが終わって汗だくの身体をスッキリ流して浴室から出てくると。
イノちゃんも楽屋のシャワーを浴びて、濡れた髪を豪快にタオルで拭きながらそう言って笑った。



「ハイトーンボイスとか、やっばい」

「ホント?良かった?」

「最高だよ。側で聞いてて飛んで行きそうな隆に焦る反面、ああ〜…やっぱり隆の声だぁ…って」

「ふふっ…じゃあイノちゃんは俺を繋ぎ留めてくれるの?」



天井知らずの風船を枝に括るみたいに。
今にも空に飛び立ちそうな鳥を止まり木に繋ぐように。


でもイノちゃんは目をぱちぱちさせて、俺の洗い立ての髪をわしゃわしゃした。




「そんな事しないよ。そんなの窮屈で隆が可哀想だろ?」

「ーーーじゃあ、?」

「お供するよ。何処へだってな?」

「っ…ホント?」

「今更!つか、この役目を他の誰かに譲るなんて絶対嫌だからさ」

「俺だってイノちゃんのコーラス無いのなんてヤダよ!」

「っ…嬉しい」

「ーーーね」



顔を見合わせて、にっこり。
いいね。
こうやって、少しずつ。
でも、確実に。
俺達にとって、5人にとって、必要で重要で大切なのもが増えていく。

若かったあの頃には考えられないような事が、今、俺たちのステージにはある。
次もまた、自分達にも想像つかない事をするんだろうな。



「でも、取り敢えず…な?」

「ん?」



イノちゃんの左手が俺の頭を引き寄せて、おでこ。

コツン。



「ぅあ、」

「隆のデコ、あったかい」



シャワー浴びたからだよー。
イノちゃんも、あったかいよ?

間近でにこにこ顔のイノちゃん。
そしてもう一度、取り敢えずな?って、呟いて。





「おつかれ、隆」

「ーーーうん、イノちゃんも」

「ん。ーーーーーあと、」

「ぅん?」




「おかえり。隆」




end







08/31の日記

22:52
Gift envelope
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運試し。
ずらりと並ぶグッズを前に、一個買ってみた。



ええ⁇隆一さん、いいですよ!買わずとも差し上げますから。
そう言ってスタッフは代金を差し出す俺を止めたけど。
ここはちゃんとしないと、運試しもなにもないもんね。

…って、自分のが出たらそれはそれでどうなんだろ…って思うけど。


そう。
俺が買おうとしてるもの。
Gift envelope

何が出るのかわくわくドキドキ。
これを手にすると、皆んなが楽しみにするのがわかるよね。




「じゃあ、本当にお買い上げでいいんですか?隆一さん」

「もちろん!俺が一番乗りって、なんだか申し訳ないけど」

「そんな事ないですよ。ーーーでは…」



はい。

そう言って、スタッフが手渡してくれた小さな黒い封筒。
今日のライブのロゴ入りでなかなか素敵だ。

なんだろう?
何がはいっているだろう?


わくわくわくわく!





「ーーーーーあ、」


そっと覗いた封筒の中に見えたもの。
あれ⁈もしかして⁇



「ーーーーーわ、イノちゃん…の」



チャーム。


思わず、ゆるっと顔がにやけてしまったかも。
いけないいけない。変に思われちゃうよね。

ーーーでも…



「うれしい…かも」


小さく呟いて、喜びを噛み締めて。
小さなそれをぎゅっと握りしめた。



「…密かに荷物のどっかにつけようかな…」


雑誌に載ったアーティスト写真とも違う、スマホの画像とも違う。
別の嬉しさが、こういうグッズにはあるんだなぁ。





「でもイノちゃんにバレたらちょっと恥ずかしいよね」


すぐバレそうだけど。
ま、いっか。








end






09/03の日記

23:27
何度でも。
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その時の景色や、状態や、何より心に込み上げてる気持ちで。



愛してるって。
何度も言うと有り難みや新鮮さが無くなりそう…とも思うけど。
実際はそうでもないんだな。
俺と隆の間では、飽きる事がない。

俺は何度でも言いたいし。
言う度に、隆は恥ずかしそうに顔をそむけたり、微笑んだり。
だから何度でも言いたいし、言って欲しい。






「愛してる」


ブフォ!


「…んだよJ…。コーヒー吹くなっての」

「っ…げほ!…誰のせいだよ‼」

「ん?誰?」

「お前だイノだお前!休憩中ったってスタジオで何言ってんだ」

「…何って、隆ちゃんへの愛の言葉。」

「隆はここに今いないだろうが!」

「帰ったら言ってあげようって気持ちがさ、今…こう、ぐわ~っと湧いてきて」

「ーーーはぁ…」

「心の中で呟いたつもりだったんだけど…ごめんね」



声に出てたらしい。
がしがしと頭を掻いて脱力してるJに、ちょっとだけ済まない気持ちで、詫びる。
ーーーでもさ、仕方ないでしょ?




「何度でも言いたいんだよ」

「ーーー相変わらず」

「ん?」

「お前も隆も」

「大好きだから」

「知ってるよ」

「Jの事も好きだよ」

「さんきゅー」

「スギちゃんも真ちゃんも」

「うん」




皆んな好きだ。
皆んなを愛してる。
誰が欠けても嫌だよ。


ーーーでもね。




目を閉じて、歌う彼を思い浮かべる。

髪を振り乱して、全身全霊で歌う、隆。
朗らかに、笑う隆。
その陰で、堪えてる涙とか。

もうだめだ。
俺を捕らえて、夢中にして。
離さない。

特別な想い。




「呆れてんだろ」

「んー?いや、べつに」

「そ?」

「…けど、」

「?」

「隆もなんじゃねぇの?」

「ん?」

「アイツも同じくらいさ、お前のこと」






end






10/18の日記

23:45
一緒に。
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歌詞なんて。

思いついて閃けば、あっという間…なのに。
ひとたび拗れて悩み始めると。





「ーーーあぁ…。今日はだめかも…」



どツボにはまって、先に進まない。



「せっかく良いメロディーができたのになぁ」


このメロディーを書き上げた時には確かに浮かんでいたイメージがあるのに。
自分でギターを弾いてそのまま録音なんて作業をしていたら、せっかく思い浮かんでいたイメージピッタリの言葉はどこかに飛んでいってしまっていた。


「ーーー忘れちゃうってことは、この曲はここまでの運命だったって事なのかなぁ…」


結構上手くいった!って思って出来上がったメロディーだけに、ちょっと残念。
別に全く違う歌詞を当てはめてもいいんだけど、この生まれたばかりのメロディーは…さっき浮かんでいたあのイメージが似合う気がして。
だったら忘れんなよ!って自分に言いたいけど。
忘れちゃったものは…仕方ないかぁ…









「こんちわー」




うんうん唸っている俺の元へ、イノちゃんがやって来た。
手には差し入れの…ホカホカのカフェオレ!


「根詰めてんの?ちょっと休憩にしな」

「ありがとう」


イノちゃんが手渡してくれたコーヒーショップのカップ入りのカフェオレ。
ふんわり湯気がすでに美味しい。
いただきます、と笑うと。
イノちゃんは満足そうに、俺の頭をなでてくれた。




「ーーーで、隆は何を唸ってたの」

「…あぁ、うん」

「ーーー歌詞?」

「んー。ーーー入れたいなぁって思ってた言葉をどっかに置き忘れちゃって…」

「あはは、わかる!俺もよくあるよ」

「ホント?ねぇ、そーゆう時、イノちゃんはどうしてる?」

「諦める」

「っ…」

「この曲はここまでの運命だったって、潔く」

「…ああ、ーーーぅん、」


(だよね…)


「で、あといっこ」

「え?」

「誰かに曲を託す」

「!」

「それもアリじゃない?」

「っ…うん」



そっか。
うん、そうだよね!






じゃあ!




「イノちゃんに、お願いしてもいい?」

「俺?」

「うん!」

「ーーー俺でいいの?」

「イノちゃんが、いいの!」



この曲は元々、ね。
好きなひとのことを考えながら作ったメロディー。
ーーー俺の好きなひと。
イノちゃんのことを。



「イノちゃんに歌詞をつけてもらえたら、この曲は喜ぶと思う!だから、いい?」




一緒に作った曲になる。



「いいよ。よろこんで」








作詞・INORAN
作曲・RYUICHI








end








11/07の日記

23:51
月、嘘、恋。
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夜空を見上げると。
丸い月。




「イノちゃん見て」

「ん?」

「月。昨日はやっぱりまだちょっと欠けてるなって見てわかる感じだったけど」

「ああ、」

「今夜はほら。もう円に近いよ」

「毎日見てると一日で結構変わるなって気付くよな」

「ね」



ーーーそっと。
寄り添ってそんな他愛ない話をさも楽しげにしてる二人。

俺の前に、イノと隆。
イノと隆のずっと前に、真矢とJが何やら談笑しながら歩いてる。
そして俺は、一番後ろから、そんな光景を眺めながら月夜の散歩。(…って、ただ移動中ってだけなんだけどさ)


そう。
で、俺の前にいる二人。

オンとオフをしっかり切り替えてるせいか?
仕事中にベタベタいちゃいちゃって、あんまりしない二人だけど。
時折だ。
こんな今みたいな瞬間もあるんだ。

恋人同士の空気を、ちらりと覗かせてくれる瞬間が。


イノランと隆一。
本当なら手も繋ぎたいのかもしれない。
きっと今が二人きりなら、手のひとつも繋いで。
肩を寄せ合って。
ここから見えるその柱の影でキスすらするのだろうと思う。

でも今は、それができない二人。





月が見てる。
今夜は満月に近い。
こんな良い晩は、俺もちょっとばかり嘘をつこうと思う。
誰も傷つけない、愛嬌ある、嘘を。





「イノ、隆」


「ん?スギちゃんどしたの?」



二人が立ち止まって振り返る。
俺はちょっと苦笑を浮かべて(演技ね)ここぞとばかりにこう言った。



「さっきのスタジオに忘れ物しちゃった」

「えー?」

「なにわすれたの」

「車のキー。ーーー大事」

「大事だよ!大事過ぎ」

「取ってくる。先に行ってて」

「うん、スギちゃんも早くおいでね」

「マネージャー呼ぼうか?」

「すぐそこだから平気。ーーーじゃあね」




ちょっと心配げな二人の顔が視界に入ったけど。
俺は微笑んで踵を返す。
その反動でポケットの中のキーに付けたチャームがかすかな音を立てたけど。

ーーー内緒。







可愛い。
可愛い、密やかな恋人達の時間をあげたかった。
だって今日みたいな月夜はさ。
二人きりにしてあげたいじゃん。

だから俺は、しばし退散。






「ーーー」





角を曲がる時にそっと振り返る。
遠く、夜闇に霞んでいるけれど。

手と手を繋ぐ。
二人の姿が、ここから見えて。





〝ちょっとだけならいいかな〟

〝ちょっとだけな。ーーーほら、〟



そんな会話を想像して。
(でも多分、そんな感じだろう)



可愛いものが見られたと、俺は上機嫌。
時間稼ぎにその辺の壁に寄りかかって、夜空を見上げることにした。






「ーーーけど、月は見てるよ」





お前らの恋。






end






11/16の日記

23:29
your place.
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ひとりでは開けることが出来ない扉も、ふたりなら開けることができるよ。

それとか。

ひとりでは見られない景色も、ふたりなら見つけることができるね。


ーーーねぇ、一緒にいるって、そうゆうことなんじゃない?













「…っん、」




隆の、背中の羽根の生える…

肩甲骨の辺り。



滑らかな曲線を舌先で舐める。
白くて綺麗な肌に、赤い痕を散らす。



「隆。すげ、綺麗」


「ーーーっ…ゃ、」





羽根。
君の翼。
見えないけど、確かにココに生えてるって思える。
君の真っ白な翼。




「ほら」


「あぁんっ…」



手を前に滑らせて、背後から胸を弄る。
ギターを弾くために伸ばしている爪の先で、傷付けない加減で先端を穿ると。
隆は背中をしならせて、甘く喘いだ。



ぎゅっと。
また、羽根の生える背中が動いて。

白い翼が、羽ばたいて見える。







君は空から。
俺は地上から。

困難が多いこの世界を、一緒に見ていこう。
一緒に生きるこの世界を。
空と、地上と。
両方から。


一緒ならさ、なんだって平気って気がしない?





「そこ…ばっか、り…やだぁ」

「ここ?」

「イノちゃ…っ…」



意地悪!って、君は潤む瞳で俺を見る。
散々俺に揉まれてピンク色に色付いた隆の胸を、俺は唇を寄せることで解放して。
今度は待ちきれなさそうに濡れるそこと繋がった。



「ひっ…ぁ、」

「ーーーりゅっ…」



揺らすたびに不安定に彷徨う隆の手。
それが可愛くて、俺は腕を回して隆の身体を抱き込んだ。

すると、ほら。
ーーーまた、だ。





ばさっ…



白い、真っ白な。
翼。


すぐにでも飛んでいきそうな隆を、俺は地上から手を繋ぐ。

空と、地上と。



その間に住む俺たちは。
ここから先の、未だ見ぬ未来へ進んでいく。


でも、怖くない。
それすらも楽しもう。
だってそばには、君がいるから。





end



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