round and round (みっつめの連載)













ざああああああああ

ざああああああああ…






pipipi pipipi
pipipi pipi…




「ーーーはい。ーーー葉山君?…うん。おつかれ」


「ーーーーーーーーうん。…そっちは大丈夫?雨すごいね」


「ーーーーーん。そっか、俺の方も平気」


「ーーーーーーーーーーーー隆、?」


「ーーーーーーん、空」


「大丈夫だよ。…って、俺が言うもんじゃないんだと思うけど」


「ーーーーー大丈夫だよ」


「ーーーうん、ありがとう。また連絡すんね。マネージャーによろしく」


「じゃね。ーーー葉山君も気をつけて」






「ーーーふぅ…」




ため息ひとつ。イノランはたった今通話を切ったばかりのスマホをテーブルに置いた。
電話の向こうの人物は葉山だった。







ざあああああああああああ




雨は先程よりも強く。
もはや波音よりも雨の降る音、雨粒が窓に打ちつける音の方が大きい。

空の上にいる恋人を少しでも感じていたくて、イノランは雨足がどんどん強まる中、しばらくは灯台の足元でじっと空を見上げていた。
しかし水を吸い込まない岩場の地面は大きな水溜りをあちこちに作り出し、打ちつける雨は跳ね返りも凄く。
後ろ髪引かれつつも、とうとうイノランは隆一の家の方へと避難したのだ。

タオル借りるね。
そう、今は不在の家主である隆一に言葉をかけて。
もう勝手知ったる隆一の部屋の棚からタオルを取り出す。
髪はもうしっとりと濡れて、服も裾の方はじんわりと湿っていた。
灯台の側にいるだけでこんな。
ならば隆一はもっと…と思うと、やはり心配は拭えない。
そんな時にかかって来た葉山からの電話は、イノランの気持ちを少し和らげた。














ざあああああああああああ



オフ日だった今日、葉山は自身の用事をあちこちと済ませて、この後に事務所にも立ち寄るからその前に腹拵えにと立ち寄ったカフェ。
ゆったりした店内に入るとカウンター席に落ち着いた。
割と朝早くから動いていたから空腹感もある。
オーダーした軽食とコーヒー、それらをじっくりと味わおうとした時に。



ぽつ…ぽっ…



「…あ、」



通り沿いの開放感ある窓に面したカウンター。
葉山の目の前のガラス窓に雨粒が落ちた。
さっきまで天気良かったのになぁ…なんて、コーヒーを啜りながら、まるで灯台にいるイノランと同じ言葉を呟いていると。
その間にも、雨足は強くなってきた。




ざあああああ

ざあああああ



店内のBGMにも負けない雨音。
急な大雨に店員が慌てて外に設置しているテーブルや椅子を屋根の下に引き込んでいる。
道行く人たちも傘の用意が無いのだろう(あんなにさっきまで晴れていたのだから無理はない) 辺りの商業ビルやショーウィンドウ前に早足で身を寄せているようだ。




かちゃ。


「ーーー…」


葉山はカップを置くと、空を見上げた。


「……」


食事そっちのけで見ているもの。
それは降りしきる雨…でもあるのだけれど。
それよりも。



「隆一さん…今日は空なのかな」

「イノランさんと一緒ならいいけど…」



そう、気になったのは、隆一の事。
ヴォーカリストにして、風使いである彼。
イノランと隆一から、その空の仕事についての話は聞かされていたし、実際に隆一が風を起こす場面にも居合わせた事もある。
何かの童話にでもあるような、そんな存在が本当にいるのだと最初は驚きもしたけれど。
何に対しても一生懸命な隆一と、それに寄り添うイノランを目の当たりにして。
葉山は何の抵抗もなく隆一の存在を受け入れた。

それまで当たり前にあると思っていた空というものが。
隆一と出会って、もっと大切に空を見上げる時間が増えたように思う。

今ではもう居てくれなくてはならないくらい、葉山にとって隆一は大切なメンバーだし、大切な友人なのだ。
だからこそ、気になってしまう。




「ーーーーー……大丈夫かな…」


…と。





ーーーーーそんな杞憂でかけたイノランへの電話。
訊いてみたら、やはり隆一は空の上との返事。
葉山はそっと、眉根を寄せた。



「隆一さん…」

「ーーーーー無理だけはしないでくださいね…」














そんなイノランと葉山の心配が的中してか…


空の上はまるで闘いの場のようだった。







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