涙。











◾隆一




ここ連日仕事仕事でさ。
俺もう帰るわ。
帰って寝る。


そう言って、うーん!と伸びをして立ち上がったイノちゃん。
何の返事も出来ないでいる俺を、イノちゃんはチラッと一瞥すると。


「じゃな、隆一。お疲れ!」


荷物を持って俺に挨拶をする様子は、笑ってるんだけど、あっさりしてて。
いつもはその奥にある、恋人同士としてのちょっとした声のトーンとか、絡む眼差しとか。
今はそうゆうのが、無い。
〝イノランと隆一〟っていう他人同士の、ごく普通の挨拶だけがそこにあった。


バタンと閉じるドア。
俺は声も出なくて、動けない。
情け無いけど、彼の名前を呼んで追いかける事すらも。
一体どうして?
だって久しぶりに会えるねってイノちゃんだって楽しみにしてくれていると思ってたのに。
それなのにあの反応はなんなんだろう⁇
ーーーあれじゃまるで…


「ーーー俺の…事…」


考えたくない。
そんな可能性考えたくないけど。

ーーーでも。
イノちゃん…俺との事を忘れているーーー⁇










◾SUGIZO




イノと隆は仲が良かった。
それこそ、もう。学生の頃に出会ってすぐの頃から。
出会って早々早速ぶつかる事が多かった俺やJや真矢を尻目に、この二人はいわばムードメーカー的な存在だったと思う。
ステージでは眼光鋭い隆一も、クールに黙々とギターを奏でるイノランも。
ステージから降りれば穏やか、朗らか、にこやかで。
ヒートアップした俺らの仲裁はもちろん、プライベートでもよく二人で連んでいるようだった。



(いつ頃からかな…)


そんな二人の間にある空気が優しいって気付いたの。
多分当人達は気付いてなさそうで。
いつも近くにいる俺ら三人がやっと気付くくらいの。
俺らも別に確認し合った訳じゃないけど、なんとなく知っていた。

好きなんだなぁって。
イノは隆が。
隆はイノが。
メンバー、親友、仲間って枠を越えて。
特別な愛情を抱えて側にいるんだとわかった。



「俺たち一緒にいる事を選んだんだ」


少々照れくさそうな隆と、こんな時でもストレートなイノに、そんな報告をされたのは、そう遠くない以前。
ツアーが終わって、新たな曲の構想を始めようかってタイミングだったと思う。
それを聞いた俺たち三人は、そりゃあ最初は驚きもしたけれど。顔を見合わせて微笑み合う二人を見たら。

ああ、やっぱりな。
そうか、やっとこうなったんだ。って、すぐに納得して、祝福の言葉を伝えたものだった。



それなのに。
一体どうしたっていうんだろう⁇






スタジオのベンチに座って唇を噛んで俯く隆は、可哀想なくらいに寂しそうな目をしている。


(…そりゃあ、そうだよな)



理由もわからないままに、イノにそんな風に言われたら。
気に障る事をしてしまったのか?
怒っているのか?
もしかして、もう好きとか…なくなってしまったのか?

隆はきっと、そう考えて気落ちしてる。




「ーーー隆…」

「ん、?」

「特に心当たりとか…無いんだよな?」

「ーーーうん。…だって、会う予定だったんだもの。今日ここで、イノちゃんと」

「ん。そっか」

「電話で話した時、イノちゃんもすごく楽しみにしてくれてるって伝わってきた。俺に早く会いたいって、思ってくれてるって」

「隆だって、そうだったんだもんな?」

「っ…ぅん。会えるって、どきどきしてた」



ーーー本当に、なんでなんだろう?
どう聞いても、二人ともお互いに会いたいと願って今日を迎えた筈なのに。


「ーーー何かあったんだ」

「え?」

「だってそうじゃなきゃ説明つかないだろ」

「…ん」

「イノにもう一度会ってみよう」

「っ…イノちゃんに⁇」

「そうだよ。だってこのままじゃ何も進まないし…。隆だって気になって何も手につかないでしょ?」

「ーーーん。そうだね」



躊躇いがちに頷く隆。
いつもの快活な隆らしくない。
それだけ気落ちしているんだ。

こんな隆は俺も見ていて辛い。
今こそ俺が力になる時だよな。

ーーーあの、何気無しに背中を押してくれた。タクシーの運転手の言葉みたいにさ。



「イノを呼ぶよ」

「ーーー今…?」

「隆が今はしづらいなら俺が電話をかける。もうそろそろ家に帰ってるぐらい…なんでしょ?」

「…うん、多分」

「ん、」

「帰って寝るって言ってた」

「じゃあ!」

「スギちゃん…」

「爆睡する前に、ここへ呼ぼうぜ」









◾INORAN




なんだろう…。
なんなんだ?

もやもやする。
何でだ?
ーーーそう、コイツ…隆一を見ると。

目を覚ましたら隣にいた。
ソファーの隣にちょこんと座って、小動物みたいに潤んだ目で。
目覚める俺を、じっと見つめて。

ーーーもやもや…?
や、違う。
もやもや…じゃない。
急かされる感じ。
そわそわ、どきどきする感じ。

何でだ?

だってコイツはメンバーで、仲良いし、尊敬もしてるけど…別にそれだけなのに。


〝イノちゃん?〟


そう呼ばれるだけなのに、背筋を通るこの感じは何だ?
寒気じゃない、嫌気でもない。
甘い…あまい、電流みたいな。



〝ねぇ、イノちゃん?〟



やめてくれよ。
そんな声で呼ばないで欲しい。
そんな甘い声は、恋人とかさ、好きな奴なんかに向けるもんだろう?
向ける相手を間違ってる。
俺はお前とメンバー同士なだけだろ。
仲良いけど、それ以上もそれ以下も無い。
INORANと隆一だろ?



〝ーーーイノちゃん…〟


やめろって。


〝ねぇ、〟


隆一。


〝イノちゃん…どうしたの?〟


ーーーっ…




「何でここにいんの?」


多分、振り切りたくて言った。
目眩がして。目の前の隆一に惹きこまれそうで。
(…っても、ヴォーカリストとしては、とっくに惹きこまれてんだけどさ)

背筋がゾクゾクするこの感覚は、放置すると取り返しがつかないって、俺自身が警鐘を鳴らす。
手遅れになる前に、突き放そうと思ったんだ。
隆一を。




「今夜は…って。恋人じゃないんだからさ」



傷ついた隆一の表情。
何でそれで隆一が傷つくのかはわからない。

でもそれを見て、心の何処かで良心が痛んでる俺が確かにいる。
何でだ⁇わけがわからない。

ーーーだめだ。
今はこれ以上コイツの側にいたらだめだ。
〝もとの木阿弥〟
そんな言葉がちらついた。
このままここにいたら、隆一の側にいたら。
俺は後悔するんだと、意味もわからず悟った。



「ここ連日仕事仕事でさ」
「俺もう帰るわ」
「帰って寝る」



そう言って立ち上がって、ろくに隆一の方も見ずにスタジオを出た。





カッカッカッ…


スタジオを出て家路に向かう俺の足取りは早い。
まるで逃げるように、夢中でアスファルトの音を響かせる。


〝ソウ、早ク逃ゲナ〟

〝振リ返ッタラ負ケ〟

〝隆一ノアノ瞳ヲ見タラ、セッカク忘レタ想イモスグ戻ル〟

〝ソシタラマタ、恐レルダケダ〟

〝隆一ヘノ深イ深イ愛情デ、何ヲシデカスカ分カラナイ、俺自身ニサ〟


ーーーそう囁くのは俺自身なんだろうか?
思わず振り返りそうになる俺を止める声。



pipipi…



思わずビクッとする。
ジーンズのポケットに突っ込んでいたスマホが鳴った。


「ーーー誰だよ」


ちょうど目の前では信号が点滅しているから、俺は立ち止まってスマホを取り出した。

(ーーースギゾー?)


電話の主はスギゾーで。
何だろう?と思いつつ通話ボタンを押す。
ーーーー押して、彼の言葉を聞いて。
後悔した。電話に出たことに。




『もしもし、イノ?』

「…スギちゃん?なに?」

『イノーーー今帰ってる途中でしょ?』

「そうだけど。ーーーなに?」

『帰ってる最中に悪いんだけど、もう一度こっち来れない?』

「え?」

『スタジオ。』

「ーーー何で…」

『隆一と今いるんだけど、お前に確認したい事があって』



〝隆一〟という名前を聞いて、ドクン…と抉られるように胸がざわめいた。


(隆一と距離を置きたいと思って、こうしてさっさと帰ってるってのに…また戻れって?)

さっきスタジオで感じた感覚。
これ以上アイツの側にいてはいけないという、警鐘。
それが再び俺を襲う。
ーーーっていうか、それもそうなんだけれど。

(隆一は今スギゾーと一緒って事なのか…?)


スギゾーはバンドメンバーだ。スギゾーだけじゃなく、真ちゃんだって、Jだって。スタジオで隆一と二人きりでいるなんて全然不思議でも無いし、なんて事ないことの筈だ。


(ーーーそれなのに、なに⁇何でこんなに…騒つくんだ。煮え繰り返るみたいに胸ん中が落ち着かない。ーーーこれじゃ…まるで)




『イノ?聞いてる?』

「ーーーああ、聞いてるよ。…わかった。今から戻るからさ…」

『ん、。悪いね』

「…いいよ、全然。…ちょっと待ってて」

『了解』




通話を切る。
スマホを持ったまま、俺は暫く立ち尽くす。ぼんやり見つめる視線の先には、青に変わった信号機。
このまま進めば帰れるぜ。ーーーそう言ってる自分もいる。
けれど、足は進まない。
平静を取り戻せない気持ちを極力抑えたいんだけど。

ーーー気付いてしまった。



「ーーーなんで…」


これって、嫉妬じゃないのか?
隆一が、誰かと二人でいるって。
その事にこんなに動揺するなんて。
ーーー隆一の側にいるのが俺じゃないって事に、悔しいって思うなんてさ。

ついさっき、隆一を置いて逃げるようにスタジオを出たのは他ならない俺自身だってのに。











このスタジオの扉を開くのに、こんなに気が重い事ってあっただろうか…。


さっき出たばかりのスタジオの部屋の前まで来た。
今更引くわけにいかないし、無視するなんてできない。
でもこの扉の向こう側に隆一がいると思うだけで落ち着かない。
そわそわして、どきどきして。
何なんだ?…どうかしてる。



「ーーーはぁ…。」


ため息ばっかり出るけど、意を決して。

こんこん。



…がちゃ。



ノックして、勢いよく扉を開いた。
するとすぐに視界に入る。
さっき振り切ったばかりの、黒髪の彼。
入って来た俺に、ちょっとびっくりしたようなカオしてる。



「ああ。ーーーごめんな、イノ」


スギゾーが座っていたソファーから立ち上がってこちらにやって来る。
スギゾーも、なんか神妙な表情で。
いつもの彼らしからぬ、探るような目で俺に言った。
ソファーを勧める彼の手振りを首を振る事で断って。
隆一から離れた窓際の壁に身体を預けた。


「もうあんまり回りくどく言うのは嫌だから、単刀直入に聞くけどね。イノ、隆の事さ…」

「隆一だろ?」

「ん?」

「ルナシーのメンバーの、隆だろ?」

「っ…イノちゃん、」



先手を取って、言い切った。
ピシリと、なにも言い返せないように。
すると隆一は、口をぎゅっと噛んで俯いてしまった。


「ーーー…」


こんな隆一初めてだ。
いつも朗らかで、笑顔を絶やさない奴だと思っていたから。
そんな隆一を見たからか。
スギゾーはため息をついて言った。



「…初めに隆に聞いた時は、そんな事あんの?って思ったけど。ーーーイノ、どうしたんだよ?そんな態度…らしくなさ過ぎじゃないのか?」

「ーーーらしくない?」

「そうだよ。そうでしょ?だって、隆だよ?メンバーとしての隆ってのも勿論そうだけど。お前らは違うでしょ?それだけじゃないじゃん」

「ーーー」

「一緒にいる事を選んだんでしょ?」

「ーーーっ…」






〝アーア…。セッカク、忘レテタノ二ナァ…〟

〝知ラナイヨ?何スルカワカンナイヨ?〟


ーーーそうだ。それが怖くて、離れたのに。
忘れる事で、距離をとったのに…


「隆、泣かせてさ。イノはそれでいいの⁇」


ーーー泣かせて?…泣かせた?…俺が…隆を…?


〝アア…モウ。振リ出シダ。結局、隆一ニハ勝テナインダ〟
〝ーーーデモ…マァ。頑張ンナ〟



自分自身に囁く声は、どこかに消えて。
その代わりに俺を再び覆うのは、好きだという気持ち。
どう転んでも変わらない、隆一を愛して…痛いくらいに愛おしいと思う気持ち。
このまま持ち続けては危険だと、自ら警鐘を鳴らしていた強い想いだ。

スギゾーの言葉はキッカケに過ぎない。
本当は初めから綻んでた。
忘れるなんて、できないんだ。




「ーーー逃げてたのに」

「え、?」



つい溢れた、俺の呟き。
それをちゃんとキャッチして反応を返してくれたのは、じっと俯いていた隆だ。
さっきまでの俺と違うって、感じ取ってくれたのかも知れない。



「イノちゃん?」

「ーーーやっぱ隆を前にしたら、俺は全然だめだな」

「ーーー」


あまりのバツの悪さに、がしがし頭を掻いて。
こんな時は自嘲する表情しかできない。


「ーーー隆を傷つけるのが怖くて、離れようって思ったんだ。…多分」

「ーーー離れ…る?」

「でも、逆だったんだな。ーーー離れる方が、結果的に隆を傷付けた」

「ーーー…」

「…ごめん」

「イノちゃん、」

「ごめんな」



隆はわかってくれたのか、わからないけど。
側で成り行きを見守っていたスギゾーは、次に見た時には、優しげに微笑んでくれていた。









◾隆一




スギちゃんは、俺の肩をポン…と叩くとスタジオを出て行った。
もう大丈夫でしょ?って、きっとそんな意味なんだって思えて。
閉じかけの扉に向かって、俺は慌ててスギちゃんにお礼の言葉を投げかけた。




「ーーー隆」

「イノちゃん…」


いつのまにか、夕方に差し掛かった空。
窓からの西日を受けて、イノちゃんの表情はよく見えないんだけど。
俺を呼ぶ声がいつもと同じって思えて。
窓辺にいる彼の元へ、俺はゆっくり歩み寄ったんだ。


いいのかな。
ーーーそっと手を伸ばす。

彼の服の裾を掴んで、顔を窺って。
その表情が、優しいものだってわかって。
俺はそのまま彼に抱きついた。



「ーーーっ…イノちゃん」

「隆…。ごめん」

「いつもの、イノちゃんだよね?」

「ん、そうだよ。ーーー本当に、ごめんな」



背中に回る彼の両手。
隙間が無いくらい、ぎゅっとしてくれる。
ーーー良かった。
忘れられちゃったのかと思った。
イノちゃんの恋人としての、俺を。


ぎゅうぎゅう、ずっとくっ付いて。
暫くした頃、俺の背中を撫でてくれながら。
イノちゃんは、ぽつりぽつり。
事の全てを話してくれたんだ。





















…………………………………





「ーーーばかだね。イノちゃん」

「ばかだよ」



事の全てを聞いて、俺の全身を包むのは怖さなんかじゃなかった。
イノちゃんが憂いた、何されるかわからない恐怖なんか微塵も感じなくて。
寧ろ、喜び。
それ程までに好きって思ってくれるなんて…怖いなんて思う訳ないでしょう?



「ね、教えてあげる」

「ん?何を…」

「俺がいつも、イノちゃんといる事をどう思ってるか」

「え、?」

「めちゃくちゃにされたい」

「ーーーーー隆…っ…」

「それこそ、全部全部、俺だってイノちゃんが欲しくて堪らない。
俺を目隠しして、閉じ込めてもいいんだよ?
鎖で繋いで、誰にも見られない何処かに俺を閉じこめて。
ぐちゃぐちゃにイノちゃんにを抱かれて、愛して欲しい。
イノちゃんと二人きり、そんな風に一緒にいる事だって望んでいないわけじゃないんだから」




目を見開いて、俺を見つめるイノちゃんに。スッと左手を差し出した。
ねぇ?俺は花嫁さんみたいに、白いドレスを着て隣に立つ事は出来ないけれど。


「形あるもので、俺を縛ればいいよ」

「ーーーかたち…?」

「空いてますよ?ーーー俺の、」



薬指。



俺が誰といても、あなたが誰といても。
怖さとか、嫉妬とか、時々気持ちがぐちゃぐちゃになってしまっても。

二人の薬指に嵌るシルシを見れば、思い出すでしょ?

この痛みを伴う程の気持ちは、愛故って。


































目隠しも、鎖も。
実践はしてないよ。
ーーーまぁ、いつかはって、そんな好奇心無くはないけど。
今はいいの。
ただただ、めちゃくちゃに繋がれるだけで幸せなんだ。








ぎっ…きし、ぎしっ…



軋む音。荒い息遣い。
ソファーの上で、絡み合ってるから。
脱ぎ落とされたジーンズと靴が床に落ちて。

ーーーもぅ、わけわかんない。





「ぁんっ…ん、ん…はぁ」

「ーーーはっ…りゅ…ぅ」

「ふぁ…っ、あ…」




もう何度目だろう?
わかんないくらい絶頂を迎えて。
それでも足りない。
お腹の奥がジン…と疼くから、何度だって強請ってしまう。
イノちゃんも俺をずっと抱きしめて、離さないでいてくれる。



「隆っ…ーーー可愛い、」

「んんっ…」



ちゅく…っ…ちゅ、



舌先を絡ませて、唾液が溢れるのも気にしないで。
セックスしながらのキスって、気持ちよくって、大好きだ。
それだけで、イッてしまうくらい…




「はっ…はぁ、ん…」

「ーーーイキそ?ーーーいいよ、俺も…っ…」



ソファーの上で手のひらを重ねて、ぎゅっと絡めて。
繋がった部分を、イノちゃんは激しく抜き挿しする。
濡れた音を立てて、奥まで入ってくる熱があまりにも気持ちよくて。
どうしよう…。朦朧とする。
でも、離れない。





「あんっ…あん、あぁ…あっ…ゃ…ぁ」

「っっ…ーーーりゅ…」

「っ…き…好きっ…だよぉ…」

「ーーーっ…‼」

「イ…ノちゃ…っ…」




真っ白になる瞬間。
耳元で、俺にだけ聞かせるように。
言ってくれたんだ。
ーーーイノちゃん…



〝俺…の、だから〟




















◾INORAN




結局今回の事は、俺がひとりで想いを爆発させて、怖がって、無責任にも隆を置き去りにした、隆にとっては傍迷惑な一件だった。

ーーー本当に、申し訳ない。






「ーーーっ…ん、イノちゃん」

「隆?起きた?」

「ん。…俺…?」

「何回目かで、気失ったんだよ」

「ーーーそっ…か」



ソファーの上で、くったりと横たわる隆を抱きしめていた。
目覚めたから、ゆっくり身体を起こしてあげようとしたら…だ。




「っ…ぁん」

「あ、」



体勢を変えた隆が、小さく身体を震わせて喘いだ。
そうだ、そうだった。
まだ俺たちの身体は繋がったまま。
そのまま力尽きて眠っていたんだった。

でも、そんな隆を見ると。
ちょっと意地悪したくなるって、俺はいい性格してると自身に苦笑する。



「ーーーも、一度。する?」

「え、?ーーーっ…あ」



ぐっと、隆の秘部を突くと。
おさまっていた熱が、再び。
隆も、自然と腰が動いて、俺を求めてくれる。

それが、堪らなく嬉しい。



「ーーーほら、気持ちイイ?」

「んっ…ん、ぁん」

「っ…隆」

「んっ…ぅん!」

「ーーー愛してる」




そう告げて、ハッとした。
愛してる。
その事実さえあれば、その気持ちが揺るがなければ怖いものなんかない。
傷つけて、痛んだとしても。

癒してあげればいいんだ…と。





濡れる隆の表情に見惚れながら。
俺は隆の左手を恭しく掬い上げた。


〝空いてますよ?〟


そう言ってくれた君に。
愛のシルシは、きちんとプレゼントしてあげる事にして。
一先ず今は、君の薬指に唇を寄せた。

君の瞳から、一粒の涙が零れ落ちるのを見た。















end



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