IR小さなお話






…4







「愛してる」


「愛してるよ」



「隆、愛してる」











朝に昼に晩にイノランさんが囁くその言葉。
そのまま聞いたら、側にいる者は照れ臭さも感じてしまいそうな愛の言葉。

ストレートで潔い。
言うのだって簡単ではないだろうけれど、それを口にするイノランさんに迷いなんて無さそうで。
逆にそれを真正面から囁かれる隆一さんの方が時折目が泳いでる。
頬を染めて、ぎゅっと唇を噛んで。


(今も、ほら)

(愛してるって、歌うのと言われるのとは違うんだろうなぁ…)


そんな光景は、懐かしい洋画の小さなラブシーンみたいで、見ていて気持ちがほっこりする事もしばしば…
慣れもあるのかもしれないけれど、僕はとても好きだったりする。








「好きだよ隆」

「〜〜っ…ぅ、」

「愛してる」

「ーーーーーっ…ィ…」




コトン。


イノランさんは、そう今日も囁きながら、隆一さんが座るテーブルに淹れたばかりのミルクティーのカップを置いた。
ふわぁ…ん。
白くて甘い香りの湯気が隆一さんの照れた顔を覆って。
そんな様子を心底満足気に、イノランさんは、にこ。





「ーーーーー美味しそう…」

「美味いよ。淹れたてだし」

「…ありがとう」

「ん、召し上がれ」

「いただきます。ーーーーー…でも、イノちゃん」

「ん?」

「…やっぱり…ちょっと。ーーー恥ずかしい…」

「なにが?」

「…その。…ぁ…愛して…るって、いうの」

「ーーー」

「ーーーイノちゃんに…何度言われても…慣れないもん」




きっと隆一さんは、意を決して言ったんだろう。
ミルクティーを啜って、チラリ。
頬杖ついて、真正面からじっと見つめているイノランさんに気遣うように。




「ーーーそれってさ」

「ぅん?」

「じゃあ、もう言わない方がいい?」

「ぇ、?」

「愛してるって、隆に」

「…ぁ、」



あ。隆一さんが泣きそうな…

顔して…。





カタッ!


「ん!」


再びミルクティー入りカップを手に取って。
隆一さんは勢い良くカップをあおる。
こくっこくっこくっ
ーーーいい飲みっぷりですね…って言いたいくらい、一気飲み…。

イノランさんも目を丸くして凝視して。



「ぷはっ!」



「りゅ…隆?」


タン!と、空になったカップをテーブルに置くと、隆一さんはキッ!っと目を釣り上げてイノランさんに言い放った。


「じゃあ俺も言うよ!俺は今までイノちゃんと比べたらいつもいつも言ってきた訳じゃないけど、そんな風に言うなら俺も言う!」

「!」



「イノちゃん愛してる」

「りゅ、」

「俺だって愛してるんだよ」

「ーーー」

「今までもこれからも生まれ変わっても、この先なにがどうなっても、俺がいつか最後の歌を歌うときも、イノちゃんが最後の音色を奏でるときも、例えばイノちゃんが他のひとを好きになっても、俺のこと嫌いになっても」

「ーーーーー」

「俺はあなたを愛してるから」









はい。
この勝負(勝負だったんでしょうか?)圧倒的な差で隆一さんの勝ちです。
愛に勝ち負けは無いでしょうけれど、隆一さんの方が一枚上手でした。

「ーーーというか、隆一さんにはそんな計算も企みも一枚上手とかそんな考えは無いのでしょう。イノランさんを想う気持ちが一気に溢れたという感じで、そのままを素直に言っただけなんだと思いますが…ーーーーー



「葉山くん…」

「はい?」

「ーーー嬉しくて…」

「はい」

「…ちょっと今ヤバいから、」

「ーーー」

「それ以上言わないで」

「大丈夫ですか?」

「…じゃない」



僕の言葉を遮ったのは。
滅多に見られない、顔を真っ赤にしたイノランさん。
そして彼をこんなにした当の隆一さんは相変わらずにこにこ顔。
さっきとは形勢逆転。

でもそれが僕からしたら可愛らしくて堪らない光景で。




「僕はそんなお二人を愛していますよ」





end






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