IR小さなお話






…2









ふたり
人生のメリーゴーランドに乗って

まわる…まわる













久々のオフはふたりでドライブ。
いつもの海岸を飛び越えて、もっと遠くの海へ行った帰り道。
少し遠回りして都内へ向かう途中の郊外に見つけたのは。


広い丘にぽつんと佇むメリーゴーランドだった。








「誰もいないね」

「平日の、もう夕暮れだしな」

「ーーーここ、何時まで?」




吸い込まれるように駐車場に俺は車を停めた。
停めたら降りずにはいられない。
入り口まだ開いているからまだやってるのかな?って、辺りをきょろきょろ。
するとスタッフらしき男性が、あと30分大丈夫ですよってにこりと笑った。





「あと30分か」

「少しだけ見てみない?せっかく来たし」

「そうだな。30分あれば、」

「ね」




声が揃った。





「メリーゴーランド」













近くに来たら割とでかい。
周りにある遊具はそこそこ年季が感じられるけど、このメリーゴーランドの木馬たちは綺麗だ。
宝石や花のついた装飾で飾られた木馬たちは動きそうな程躍動感溢れる。





「隆はどれにする?」

「んっとねぇ、」

「あ、白馬いるよ。花で飾られた」

「えー?」

「隆に似合う」

「…そう?じゃあ、この子にする。イノちゃんは?」

「ーーーそうだね」

「ね、その子は?向こう側の、ちょっとかっこいい茶色の」

「スウェードの飾り着けてウェスタンって感じ。じゃあアイツにしようかな」

「うんうん」




…ってわけで、ふたりとも馬に跨る。
久々だこんなの。



ーーーでもさ。





「ね、隆」

「ん?」

「コイツと隆の白馬さ、ちょうど対極にいるな」

「あ、そうだね。こっちと向こう。一番遠いね」

「そうだよ。隆が遠い」

「ふふふっ、やだねぇイノちゃん」




遠くて寂しいね。





朗らかに隆が笑うと同時に、動き出す。
メリーゴーランド。



流れ出したメロディーは。
これは聴いたことがある。



人生のメリーゴーランド。






「ーーー」



俺と隆とふたりしかいない、メリーゴーランド。
初めは若干の照れもあったけど、二周程も回ると慣れてきて心地いい。
対極だから手を伸ばしても恋人には届かないけれど。
当の彼は髪を風に遊ばせてにこにこして。

一番遠くの馬に乗るその姿から、俺は目が離せなくなる。




「隆、」



一番近くで見てきて、人生で一番側にいて。
人生で一番、俺が愛したひとで。
…じゃない、言い回し訂正。


人生で一番、俺が愛してるひとで。
これから先も。
それは変わらない。

このメロディーの流れる映画に出てくる魔法使いみたいに。
ただひとりのひとに。





ーーーでも、その馬に乗って対極にいたら捕まえられないんじゃない?
ーーー永遠に、お互い追いかけっこじゃないの?




そんな心配は無用だ。






ゆっくり、ゆっくり。
木馬達がスピードを落とす。

音楽は終わりに近い。





ぴたり。




木馬が止まる。






「お気をつけておかえりください」



そんなスタッフの声を聞きながら。
そろりと白馬から降りる隆の側へ駆け寄って。

愛するひとを迎えに行く。





「っ…イノ、」



「隆」





手をとって。
ぎゅっと繋いで。

隆の手を引いて。




時計を見ると、閉園まであと5分弱。






したいことがあった。
してあげたくて、伝えたい言葉があった。


さっき見つけたメリーゴーランドの側に広がる薔薇の蔓延る庭かげ。
刺々しい緑の蔓と、美しい花のアーチに囲まれて。







どうか。
俺の大好きなひと。
俺が愛するひと。


「隆」





「ーーーイノちゃん、?」






人生どうなるかなんてわかんないし。
一瞬先がどうなるかもわかんない。

だからさ。




後悔なく。
絶対に、後悔したくないから。




「何度でも言うけどさ、隆が好きだよ」

「っ…なぁ…に、いきなり」

「愛してるから」





何度言っても言い足りないんだよ。




「ーーーっ…ぁ、」

「隆」

「…ん、」




抱きしめて、唇を重ねた。
隆からの返事は、おずおずと縋り付く両手と、絡み合う唇でわかる。



「…隆、」

「ーーーん」




掻き消えそうな声で、隆が呟いた。





「ーーーさいごまで…」












end







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