IR小さなお話






…1









悪戯がバレたみたいに、あなたは笑う。









スタジオでのひと時。

メンバーも、スタッフも。
広いながらも楽器やら機材やらで賑やかな部屋で。


ずっと熱中してたから、ちょっと休憩タイム。

コンビニ行く者あり、自販機行く者あり、トイレ休憩行く者あり…



自由時間っていったって、決して無人になったわけじゃない部屋で。

俺はイノちゃんと、引き続き隅のテーブルで譜面をじっと睨んでる。
ここのフレーズだけは今の気持ちで決めちゃいたいねって、休憩挟むと霧散しそうな気合いが消えないうちに。



やっぱりこうしようか?

そうだね。その方がより…

うんうん!

じゃあ、ここからこう繋ぐ感じで。

あとでやってみよう。

そうだね!




なんて会話しつつ。
さらさらっと、イノちゃんの持つ鉛筆で譜面に新たな文字が書き加えられて。




カタチになって。
ほっと、ひと息。





ーーーじゃあ、俺たちも休憩しよっか…って。
隣のイノちゃんに言おうとした……ら、








「っ…」





視界、いっぱい。
さっきまでのスタジオの風景が、大好きなひとの意地悪っぽい笑顔に置き換わる。
ーーーそれから、好きなひとの匂い。

声。





「ーーーりゅう」



「…ぁ、イノ…ちゃ…」





一瞬、そのあと。
柔らかく、深く。
知ってる感触。
大好きな体温。


俺の視界を塞いで、イノちゃんがキスしてくれる。





「…っ…ん、」



だめだよ


「ーーーふ…っ…」



みんな…いる…よ





ぎゅっと。
イノちゃんの腕に爪を立てて。


小さな抵抗。




だめだと思いつつも、場所も忘れて夢中で唇を絡ませる。


「っ…ん、」



ちゅ…



唇の隙間で、イノちゃんが苦笑い。






「隆の真剣なカオ…可愛くて」








「…したくなった」








「キス」









end






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