短編集・1













仕事を終えて、家に帰ったら。
隆がソファーでうたた寝してた。

ヘッドフォンをかけたまま。












《変わらないままで。》











朝はマネージャーの車で仕事に行った。取材を受けて、雑誌用の撮影をして。順調に仕事をこなして、昼過ぎには終了した。その後は、同行したスタイリストさんが次のライブ用の衣装について相談したいって事で、事前にピックアップしてくれていた服を見に都内のセレクトショップへ。こうゆうイメージで…って前に伝えていたとおり、ライブへの意気込みが上がるアイテムばかりで嬉しくなった。





「じゃあこれとこれ、ちょっと試着してもらっていい?」



一緒にいいね!って言い合った数着から、スタイリストさんに手渡されたアイテムを手に試着室へ進む。
この店は初めて来るけど試着室のある奥の方には、オーナーの趣味だろうか?いろんなアーティストや映画のポスターがびっしり貼ってあって、面白くてついつい見入ってしまう。
懐かしい映画とか自分も好きなアーティストのポスターの前では顔が緩む。

へー…。ここ良い店だなぁ…なんて思いながら試着室のドアを開けようとした時だった。




「!」



ーーー隆だ。



今まさに入ろうとしていた試着室のドアの横の壁に。
何という事だ。愛しい恋人の姿があった。



「ーーー」


そっと近づいてポスターの前で立ち止まる。
いつの頃のだろう。
ずいぶん前のものだってことはわかる。視線を移すとポスターの下の端に1997と書いてある。
ーーーホント、すごく前の隆だ。


明るいオレンジの光の中で。ヘッドフォンを首にかけて、目を閉じて微笑む横顔の隆。画面いっぱいに写る隆はふんわりした雰囲気で、あどけなさも感じられて。

ーーーー見惚れてしまった。





( ーーーすげえ前の写真なのに… )




今とあんまり変わらないんだ。

今朝、出がけに感じた隆の印象。
にこにこして、柔らかくて、明るくて、可愛くて。まるで音符に包まれているみたいな、そんな隆と。
ずっと前の、この隆は。

本当に、変わっていないんだ。


















天気も良かったし、まだ午後の時間も早かったから。スタイリストさんと別れた後はマネージャーの車では帰らず。
俺は買い物がてら、徒歩とタクシーで帰る事にした。
思いがけず、あのポスターの隆を見られたせいもあるのかもしれないけど。
なんだかとても弾んだ気持ちだ。
ーーーや。弾んでもいるけど、何というか。愛おしさが止まらない感じだ。
きっと、惚れ直したんだ。隆のこと。

そんな気持ちのまま街を歩いていたからか、気づくと俺の両手は隆へのプレゼントでいっぱいだった。

ケーキの箱、パン屋の袋、ワインの包み。果ては柄にもなく花束まで抱えていたから、自分自身に苦笑いした。











…………


タクシーで帰りついて、両手が塞がっていたから苦労して部屋に入る。
玄関には、隆の靴が綺麗に並んでる。
もうすっかりどちらかの家で過ごす事が多くなった俺たち。
こうして相手の靴を見つける度、嬉しくも照れた気持ちになる。


ただいま~。と帰宅の挨拶をするも、いるはずの隆からの返事は無く。俺は首を傾げて玄関を上がった。




「りゅう~?」



両手いっぱいのプレゼントを持ったままリビングに行くと。



「!」



隆がソファーでうたた寝してた。

ヘッドフォンをかけたまま。




リビングのテーブルに荷物を置いて。目が離せないまま、そっと隆の側に寄る。
午後の明るい陽射しの中でソファーに背を預けたまま、隆は気持ち良さそうに眠ってる。iphoneに繋がれたヘッドフォンは首にかけたままで。緩やかな指先がコードに絡んでいる。
規則正しく上下する肩と僅かに聴こえる寝息が妙に俺を安心させた。




「ーーーかわいい」




身体を横から見ると、ちょうどさっき見たポスターと同じ構図だ。
背景の色合いも、隆の雰囲気も。




「やっぱ、変わんねー」




音楽に包まれる隆は、やっぱり見惚れるくらい好きだ。もちろん、それだけじゃないけど。
こういう隆は、別格だ。


でもさ?
すごいよね。
ずっと前と、今と。
こんなにも変わらないでいてくれる隆が。
まったく変化してないって事じゃない。変化はもちろんある。
進化した歌声だったり、音楽との接し方だったり色々だ。
そうじゃなくて、基本的なところが。
隆というひとの持つ、大切な部分。

それが変わってないことが嬉しくて、愛おしい。

きっとそこに、俺は惹かれたんだ。













「ーーーん…」

「隆?」

「ぁ…イノちゃん?ーーーおかえりなさい」

「ただいま」




起こすのが忍びなくて、でも側にいたくて。
隆の隣に座って、俺の肩に寄りかからせていたら。しばらくして、隆は目を覚ました。
ぱちぱち瞬きの後、俺を見つけて微笑んでくれる隆。そんな反応がいちいち可愛くて堪らない。



「イノちゃん?」

「ん?」

「ーーーどうしたの?」

「?…なにが?」

「なんか…嬉しそうなカオしてるよ?」



ーーー顔に出てんのかな。
デレデレした顔じゃないだろうな…。
それはちょっと恥ずかしい。




「んー…まぁね?」

「なになに?なにがあったの?」

「ん?気になんの?」

「うん!イノちゃんが嬉しかったこと聞きたいもん」

「ーーーそう?」



キミの事だよって言ったら、どんなカオするかな?



「ん…とね」

「うん?」

「ーーーーー隆ちゃんの事」

「え?」

「惚れ直した」

「⁉」



きょとんとして、頬染めて。
ほらやっぱり、俺はキミに見惚れてしまう。




「かわいい」




音楽に愛されて。光に包まれて。
優しく微笑むキミが、俺は大好きだよ。



愛おしい気持ちをすぐに伝えたくて。
隆の後頭部を引き寄せて、そのまま唇を重ねたら。隆もすぐに両手を回してくれる。
今まで何度もしてきた隆とのキス。
どきどきして、愛しくて、もっともっとって気持ちは、恋人になった時から変わらない。



「っ んっ…」

「りゅうっ …」

「ーーーンっ …ん…」



「ーーー好きだよ」




「いのちゃん」



俺も好きって、溢れるように笑う隆。

キミをかたち作る大切な部分。
それを守れるように、失くさないように。俺も努力して、キミの側にいるから。



ずっと変わらないでいて。

俺の側で。

ずっと…。






end?










「何これ、イノちゃんどしたの?こんなに」

「や、隆ちゃんの事さ、改めて好きだって思ったら…」

「え?」

「もう好きで好きで、愛しくて愛してる!って気持ちが抑えらんなくて」

「ちょっ…恥ずかしいよ!」

「んで、まぁ…プレゼントってことで」

「うぅ…」

「ーーー嬉しい?」

「う…うん、嬉しいよ?イノちゃん、こんなにたくさんありがとう」

「どういたしまして」

「…」

「…」

「……」

「……」

「…でも」

「うん?」

「プレゼントも嬉しいけど…」

「うん」

「ーーーイノちゃんと一緒にいられるのが一番嬉しい」

「っ…!」

「…一緒にいてくれる?」

「っもちろん!」

「ずっとだよ?」

「ずっと!」

「ずっと…」



LOVE.LOVE.LOVE.



end



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