キャンディ缶
キャンディ缶に入っているのは、あの時の弦の指輪?
「え…ーーーあの時の?」
「そ。隆ちゃんあの後さ、なんかどうしようどうしようって」
「ええ?」
「照れて俺と顔合わせてくんねーし。嵌めたはいいけど、失くしたら大変って騒いで。で、たまたま俺がピック入れてたキャンディ缶に入れてあげて」
「俺にくれたの?」
「ハハ!大事にし過ぎて忘れてたんじゃない?」
「えーっ⁉」
指輪をもらった経緯は覚えてるけど、キャンディ缶云々の経緯は全然覚えてない!ーーーよっぽどテンパってたのかな俺…
「え、じゃあ、この中に?」
「そりゃそうだろ」
「開けたい!みたい!」
「はいはい」
イノちゃんは錆び付いた缶を手に取ると、蓋を持って、んっ‼って力を込めて。ググッと一気に引っ張った。
ぱかっ‼っと音がして、カラン。という音と共に中身が飛び出した。
「あ!」
「ーーーーーーっと。」
うまい具合に、イノちゃんがキャッチ。手のひらに乗った弦の輪っか。
それは少し錆びついてたけど。
あの日の事が一気に蘇ってきた。
イノちゃんの手のひらをじっと見て。そのまま、イノちゃんの顔を見る。
あの日のイノちゃんとは、ずいぶん変わった。
短くなった髪も、歳を重ねて、あの頃にはなかった艶やかさ。男っぽさ。それから見た目だけじゃない、強さと優しさ。茶目っ気とか、豪快さとか、色んな要素を纏って。イノちゃんは今、俺の前にいてくれる。
「ーーー俺も変わったかな?」
「ん?」
「イノちゃん、すっごく素敵なひとになったから。…俺も変わってたらいいなぁって」
「それはもちろん。隆ちゃんも変わったよ?」
「ホント?」
「うん。ーーー可愛くなった。可愛いくて綺麗でエロい」
「へ?」
「前からそうだったけど、さらに。ーーーあとね?」
「ん…」
「歌声。ヤバい、最高だよ。」
「ーーーへへ」
イノちゃんは指輪を摘まむと、俺の左手をとった。
「今度は自信持って言える」
「ーーーうん」
「あの時ホントは喉まで出かかってた」
「ふふっ」
「ーーーーーじゃあ。今日までの間にもう言っちゃったけど。ーーーーー隆ちゃん好きだよ」
「うん」
「これからも、側にいてくれますか?」
「側に、いたいです」
「ん、ありがとう」
「俺も。ありがとう」
イノちゃんの嵌めてくれた指輪は、ちょっと錆びて、着け心地はあんまりよくないけれど。
すごいね。
錆びた年月、ずっと一緒にいるんだね。
あの時出来なかったキスも、今ならできる。だって胸を張って言えるから。
ずっと好きだよ。
これからも好きだよ。
あなたしかいないの。って…。
キャンディ缶に込められた、二人の約束。
end?
↓
「っ…あ」
「隆っ…」
「はぁっ…ーーーあ」
重ねた年月は、俺たちの間に愛を育んでいて。
言葉とキスで満足できる二人ではなくなっていた。
掃除したばかりの部屋の床で絡み合う。服はもうはだけてしまって、繋がった部分は音をたてて揺れる。
「や、ゃあっ…ぁんっ…ん」
「や じゃ、ねーだろ」
「あっ…あぁっ…ーー気持ち…」
「キモチイイ?」
「イノちゃっ…ん…イノっ…」
「りゅうっ…隆」
気持ちよくて、おかしくなりそうで。
こんな時は、ちょっと意地悪になるイノちゃんに、それでも大好きでぎゅっと抱きついた。
抱きついたら、イノちゃんも強く抱きしめてくれて。もっと気持ちよくて、力が入ってしまって、イノちゃんを内側で締め付けた。
「りゅっ…」
「あっぁあっ…」
「⁉」
真っ白になりそうな、その一瞬前。
突然イノちゃんの頬っぺたに、ピッと傷がついた。
その一滴の血が、下にいる俺の顔に落ちたみたいで。イノちゃんも、一瞬動きが止まった。ーーーけど。
ここまで上りつめたら後には引けなくて。イノちゃんが俺に落ちた血を舐め取ってくれて、そのまま最後までいった。
「ーーーごめんねイノちゃん、指輪外してすれば良かったね」
「別に、こんくらい平気。ごめんな?なんか逆に。錆びてて危険だったな」
「ううん!ーーーこの指輪はさ、キャンディ缶に入れて大事にするよ。時々思い出して眺めるのがいいね」
「だな。…ちょっと危ないし。それに…」
「?」
「本物をあげるって約束したし」
「あっ…」
「〝本物〟買いに行こうか」
「っ…うん」
「ーーーその前に」
「え?」
「仕切り直し。もう一回、しよ?」
「っ…ーーーーーうん!」
あの頃の俺たちが見たら。
恥ずかしくなるくらい、きっと。
俺たちは、お互いが好きなんだ。
end…?…?
…おまけ
「でもさ。スギちゃんの隆好き好きっぷりは、今でも健在だよな」
「うーん、そうだね…。でも、好きって言ってくれるのは嬉しいよね」
「まぁな?ーーー俺は心中複雑だけど」
「またそうゆう…」
「俺、隆の事には超!心狭いもん」
「もぉ…」
「だからさ、早く隆を捕まえたい。ちゃんと、形あるもので。誰から見ても隆は俺のってわかるように」
「ん、ーーー空いてるよ?俺の左手薬指」
「ありがと。もう何年も…」
「ちゃんと待ってたよ?」
「ーーん…」
「はいはい、お前らホンット!相変わらずらぶらぶで」
「スギちゃん」
「あん時やっぱ、俺の言った事は正しかったでしょ?俺はアイツに勝てないって」
「スギちゃんはいつから気が付いてたの?俺とイノちゃんが好き同士って」
「最初から」
「へ?」
「もっと言えば、隆が加入して歌声の第一声を出した時」
「ええ?」
「ーーー」
「イノの目の色が変わった!って思ったね。あ!恋におちた!って」
「ふぇ~」
「あの…スギちゃん。俺相当、恥ずかしいんだけど」
「いいじゃん別に。イノには、隆がずっと側にいてくれんだぜ?」
「まぁね?」
「側にいるよ?」
「イノ。お前だから、俺、身を引いたんだからな?」
「ーーーん。」
「大丈夫だよ?スギちゃん。俺、ちゃん幸せだよ?」
こうなったら、ずっと一緒にいないとね。
だからイノちゃん。俺を早く捕まえてね?
形あるもので。
end
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