鏡の国の隆一
「考え…ってーーー?」
鏡の前で座り込んでいた俺に、イノちゃんは立ち上がると手を差し伸べてくれた。
俺は反射的にその手をとって立ち上がったけれど。
…ーーーこのイノちゃんはこっちの世界のイノちゃんだ。
同じイノちゃんだけど、やっぱり全く同じじゃない。
…だからちょっとだけ、手を繋いでいる事が落ち着かない。
「なんだよ?」
「え?…うううん」
意識してるのは俺だけみたいで。
恥ずかしくなった。
イノちゃんに手を引かれて、スタジオの外に出て。
そのままずんずんと歩いて着いた場所。
「あ、駐車場?」
スタジオの地下駐車場。
そこの片隅に見慣れた車、
イノちゃんの車だ。
イノちゃんは助手席のドアを開けると、どうぞと言って俺に乗るように目配せした。
「ーーーいいの?」
「なんで?」
「だって。…俺が乗って」
「ーーー」
「こっちの世界の俺が先に乗るべきじゃないの?」
車の中は…言うなれば二人きりになれる空間だ。そんな特別な場所の、しかも助手席。なかなか素直にならないと言う、こっちの俺との仲を深めて。最初に乗せてあげるべきなんじゃないかなぁ…?って思ったんだ。
でもイノちゃんは、深い深いため息をつくと。
また俺の頭をクシャクシャ掻き回して、それから言ったんだ。
「お前も隆一。…違う?」
「っ…!」
「しかも今、困ってる。余計な事気にすんな」
「う…ん」
俺が良いって言ってんだから良いんだよ。って言われた気がして、それが嬉しくて。さっきまでとは違う、ワクワクした気持ちで。イノちゃんの隣に乗り込んだ。
「どこ行くの?」
「鏡のあるところ」
「え?」
「それから、条件が合いそうなところ」
「ーーー条件?」
「そう。さっきお前が言ってただろ?鏡と、条件が必要なのかもって」
「…うん」
「鏡なんてどこにでもあるけど、何らかの条件付きの鏡ってなると、かなり候補が絞れるだろ?」
「!…うん」
「こっち来た時、直前に何考えてた?」
「え?」
「ーーー多分…だけど。曰く付き…とか、想い出のある鏡+条件。つまり直前にしてた事とか考えてた事。それが重なった時に不思議な現象が現れんじゃないかなって。…信じ難いけどさ」
「ーーー」
「で、考えてた事ある?してた事とかでも試す価値ありそうだけど」
ーーー考えてた事。してた事。
…考えてた事は…あるよね。
今考えると、なかなか恥ずかしい事だけど。ーーー…え。それをイノちゃんに教えるの⁇
「隆一?」
「え?ーーーあ」
「ほら。戻る為には何でも試さないと」
「うん…。えっとね。ーーーーーイ…」
「イ?」
「イ…イイ…ーーーイノちゃんの…事、考えて…た」
「ーーーーー」
「っ…」
返事が無くて。だからチラッとイノちゃんを見たら。
その横顔が、優しく緩んだのに、気が付いた。
曰く付きの鏡なんて、そうそう巡り合えないけど。想い出のある鏡ならありそうだよねって。その一つ一つを片っ端から当たっていった。
好きな店のショーウィンドウにある鏡。
イノちゃんとよく待ち合わせるカフェにある壁の鏡。
お世話になってる楽器屋さんの奥にある、全身鏡。
これもお世話になってるスタジオの、控え室にあるメイク台の鏡。
ーーーなどなど。
ひとつひとつ巡っては、あの時と同じ、イノちゃんのことを一心に想う。
鏡と条件。
こうして挙げていくとたくさんあるなぁ…って思いつつも。
なかなか正解を見つけられなくて、焦る。
「ーーーーーわかんないね…」
「ん…。まあ、そもそもこんな探し方で合ってんのかも…わかんないけど」
「うん…」
「けど。何かしなきゃ何も進展しない。嘆いてても仕方ない」
「ん…うんっ!」
「他、なんかある?どんなんでもいいよ。音楽との想い出、メンバーとの想い出…」
「うー…ん」
「俺との想い出…」
「ーーーイノちゃん…との…?」
イノちゃんの何気ない言葉に。
ここで俺は、あ!と、閃いた。
…けど、あの鏡は…。
「ーーー…あの、ね?」
「うん?」
「…一個、あるんだ…けど」
「あ、ホント?」
「うん…。ーーーちょっと…強烈な想い出の…」
「ーーー強烈?なに?」
「…イノちゃんの…ーーー部屋の、鏡」
鏡越しに重なった視線。
イノちゃんの部屋の全身鏡。
イノちゃんの部屋の、クローゼットの横にある大きな鏡。
まだ俺たちが恋人同士になる前のこと。
まだ俺たちが親友やメンバーっていう仲より先に進んでいなかった頃のこと。
大きな鏡の前で。
俺はイノちゃんに貸してもらったギターを爪弾いていた。
そしてイノちゃんは、そんな俺のちょっと後ろで本を読んでいた。
お互いギターと読書に熱中する時間。
会話は無くても心地いい。
お互いがお互いの側にいるだけで安心して、心が解れて。そして、ちょっとだけドキドキしていたのは秘密にしてた…あの頃。
ふと。
顔を上げたんだ。
すると、鏡に映る自分。
ギターを抱えて、えらくご機嫌な自分に微笑んだら…
(ーーー…え?)
俺のちょっと後ろ。
本に熱中してると思ってたイノちゃんが。
じっと、こっちを見てた。
いつから見てたの?
…何でそんな…目で見るの?
ーーーそう。
イノちゃんの視線は、真っ直ぐで。
熱くて、優しくて。
そのまま俺の心の真ん中まで、撃ち抜かれそうな視線で。
恥ずかしくなって、逸らそうと思うのに。
…逸らせなくて。
大きな鏡の中で、不安定な視線を彷徨わせていたら。
ばちっ…って。
鏡越しに、イノちゃんと目が合ってしまった。
イノちゃんは、一瞬目を見開いたけど。
すぐに目を細めて、優しい笑顔を浮かべてくれて。
そんな顔されたら、ますます目が逸らせなくて。
俺とイノちゃんは、しばらく見つめ合っていた。
鏡の中で。
「ーーーそっち、もうちょっと側に行って、いい?」
「え…?」
「やだ?」
「っ…ううん」
慌てて首を振ったら、イノちゃんは嬉しそうに微笑んで。良かったって、言って。
読んでた本をパタンと床に置くと、ズリズリ…と、俺のすぐ真後ろに寄って来た。
「目は口ほどに物を言う」
「え?」
「…って、ゆうじゃん?」
「…うん」
「ーーーそう思ってくれたら嬉しいな。今のでさ?」
「!」
「俺はわかったよ?…隆の視線を見て」
「ーーー俺…の?」
「何度も逸らそう逸らそうとしてた…だろ?ーーーそれってさ」
「ーーー」
「俺と同じ気持ちだからじゃない?」
「ーーーイノちゃん…と?」
鏡の中で。
イノちゃんはもう一度溢れるような微笑みを俺に向けると。
くるり。
俺の身体を反転させて、向かい合わせにして。鏡には、そんな二人が映される。
「俺はもう、ずっと長いこと。隆を見る度ドキドキしてた」
「ーーーえ…」
「対面でも、鏡越しでも。隆を見る度ドキドキするよ」
「…っ!」
「俺だけかな…って思って、隠しとくつもりだったけど。…でも、今の鏡越しの隆を見て、勇気が出た」
「ーーー」
「好きだよ?隆ちゃん」
「ーーー…す…き?」
「うん。ずっと好きだった。この気持ち、言わないつもりだったけど、さっきの隆見てさ」
「ーーー」
「言おうって、今決めた」
「ーーー」
「鏡の中の隆が、めちゃくちゃ可愛い顔してたから」
「っ…ーーーなにそれ?」
「ん?そのまんま。さっきも言ったろ?目は口ほどに物を言うって。隆の視線が言ってた。ドキドキしてるって」
ーーーバレてる。
秘密にしてたのに。
「鏡は全部お見通しなんだな。姿も感情も全部そのまま映してくれる。ーーーだから、わかったんだよ?」
「イノちゃん…」
「好きだよ?隆」
「イノちゃんっ…」
「隆は?」
「え?」
「ーーー俺のこと」
「イノちゃん…の…こと」
「うん」
チラリと見た鏡は。
やっぱりこんな状態の二人をそのまま映してる。
隠しも、誤魔化しも無く。
ーーー真実を。
嘘つけないや。
秘密にもできないね?
「俺も」
「ーーー…」
「イノちゃんが好き」
ーーーそう。
イノちゃんの部屋の鏡には。
大切な、二人の始まりの想い出があるんだ。
「ーーーうわ…」
「え?」
「なんだよ…。そっちの世界の隆一と俺って…」
「?」
「ーーーそんな事になってたんだ?」
そう呟くと。
こっちの世界のイノちゃんは、がっくりと肩を落として。そしてちょうど到着した、イノちゃんの家の駐車場に車を停めて。
エンジンを切った。
「ーーーそんな事?」
「…そうだよ。なんだよ…。めちゃくちゃラブラブなんじゃんか」
「!」
「ーーー…羨ましい…」
ーーー羨ましい…。って、ちょっと恥ずかしいよ。
ただ俺はイノちゃんが好きで、イノちゃんも好きでいてくれて。それを告白し合った場所がイノちゃんの部屋の鏡の前で…。
ーーーそんな羨ましがる事なのかなぁ?
…あ。でも。
こっちの俺は、何やらものすごい天邪鬼…。素直になれない捻くれ者なんだっけ…。だったら…まあ、こっちのイノちゃんが羨ましいって思うの、ちょっとわかるかな…。
ーーーでも。
だったらさ?
「実力行使。もう、強引に迫っちゃうのもいいんじゃない?」
「は?」
「だからね?こっちの俺に。見た目はイノちゃんを毛嫌いしてるみたいな、天邪鬼な隆一に」
「ーーー…強引…に⁇」
「そう!」
「あのなぁ、そんなんして、ますます嫌われたらどうすんだよ?ただでさえアイツ、俺が触ろうとするだけでフーフー言ってる猫みたいになんのにさ」
「いいんだよ。イノちゃんはもしかしたら、俺に引っ掻かれて痛い思いするかもしれないけど。でも好きだもん。こっちの俺も、イノちゃんの事。絶対に」
「ーーー」
「究極の照れ屋。究極の甘え下手なんだと思う。付かず離れずしてても進展しないよ。痛い思い覚悟で突進したほうがぐっと距離が縮まるよ」
「ーーー…マジ?」
「マジマジ。俺が…もう一人の俺がそうって言ってんだから大丈夫!俺が許す!イノちゃん頑張れ!!」
「…隆一」
…なんて会話をしながら、気づけばここはイノちゃんの寝室。
寝室のクローゼットの横の…鏡の前。
ずっと前に。もう、ずっと前に。
向こうの世界の、まさにこの場所で。
俺とイノちゃんは、恋人同士になったんだ。
「ーーー…ここか?」
「…うん」
「色んな場所の鏡に想い出ってあるけど。イノちゃんとの想い出って言われたら…俺はこの鏡を一番に選ぶかな」
「ーーー」
「ーーーこっちに来てしまった直前も、イノちゃんの事を考えてた。イノちゃんの事想いながら、この鏡の前に立てば。戻れそうな気がするよ」
「ん…。そっか。」
「うん」
「ーーー…そっか…。」
鏡の前に立つ。
俺のちょっと後ろにイノちゃんがいる。
あれ?…この構図って、あの時に似てるって思って。
俺は鏡の中のイノちゃんに視線を重ねた。
「ーーーイノちゃん、ありがとう」
「ん?」
「こっちに来て、こっちのイノちゃんに出会えて。心細かった時にイノちゃんが声掛けてくれたから、嬉しかった」
「ーーー」
「言葉は…ちょっと悪~い。って思ったけど…」
「ははっ!」
「ーーーでもイノちゃんだった。どっちの世界でも優しいイノちゃん。根っこの部分は同じ。ーーーだからね?」
「うん?」
「こっちの俺も、きっと絶対に。あなたの事が好きだから。…だから、諦めないで」
「ーーー隆一…」
「ね?」
「ーーーああ」
イノちゃんの頷きを鏡越しに見て。
俺は手を伸ばした。
ひた。
冷たくて滑らかな鏡面に触れる。
イノちゃんとの想い出が詰まった。
イノちゃんとの始まりの場所で。
こっちの世界のイノちゃんに見守られながら。
向こうの世界のイノちゃんを想う。
鏡よ鏡…。
この世で、俺が一番愛しているひとの元へ…
すると、急にだ。
鏡がゆらりと、揺らいで見えた。
「ーーーあ…」
「隆一っ…!」
「ーーーっ…」
背後のイノちゃんが、ぐっと側に来て。
後ろから肩を引いて、そのまま一瞬の。
唇に、触れ合うキス。
イノちゃんは微笑んでいた。
「っ…イノちゃ…ーー」
「そっちの、俺!!ーーーーーイノランっ!」
「⁈」
「ーーー受け取れよ…っ!ちゃんと…ーーー」
「ーーーっ?」
鏡…ーーーが…?
真っ白に、輝いて。
「もう二度と…ーーー手を離すな!」
鏡が眩しくて。
俺は思わず…目を閉じた。
ーーーーーーーーーーー……っ…
「ーーー…?…あ、あれ?」
真っ白な眩しい光を見たせいで、目がちょっとチカチカする。
微妙に滲んだ視界をキョロキョロ見回して。だんだん目も慣れてきて。
見渡した、この景色が。
ついたった今のものと違っている事に気が付いた。
「ーーーイノちゃんの部屋じゃない…」
クローゼットも全身鏡も無い。
ーーーあるのは…。
「ーーーここ…」
ごちゃっとした。おもちゃ箱みたいな、賑やかな部屋。
そしてここがイノちゃんの部屋じゃなく、はじめにいたスタジオのあの部屋だってわかると。
俺は飾ってあるたくさんのギターやベースに咄嗟に目をやった。
ーーーあべこべの向こうの世界では、ここの楽器が全て左利き用になっていた。
…って事は。
ちゃんと帰れてたとしたら。
今目の前にある楽器は、右利き用の物の筈!!
「!」
ずらりと並ぶ楽器達は…
「ーーーっ…右利き!」
帰って来られたんだ。
イノちゃんの部屋の鏡から、はじめにいた、この部屋に。
「っ…良かったぁ」
襲いくる、安堵感。
思わず散らかりまくった部屋の床に、ぺたんと座り込んでしまう。
ーーーけど。
「そうだ、イノちゃんっ!!」
こっちの世界のイノちゃん。
急にいなくなった俺を、きっと探してくれてる…
心配かけない内に、俺もイノちゃんの所に行かなきゃ。
バッ!と起き上がって、物を蹴っ飛ばさないようドアのところまで急ぐ。
早く早くって急いでいたから気付かなかった。ドアの向こう側に、ちょうど人影がいた事に。
勢いよく開けようとしたドアは、ほんの数拍の差で、先に開かれた。
「っ…わ!」
「え?…っあ⁈」
前のめりになった俺の身体は、必然的に倒れ込んで。それを上手くキャッチしてくれたのは、イノちゃんだった。
「ーーーっ…イノちゃん!!」
「りゅ…ーーーっ…?」
「イノちゃん!!」
「お前っ…ーーーどこ行ってた!!?」
「ごめんなさいっ!イノちゃん」
戻れた。
イノちゃんの匂い。
イノちゃんの…いつものイノちゃんだ…。
「ーーーぬるくなっちゃったけど」
「ありがとう」
イノちゃんがさっき買いに行ってくれた飲み物。あったかいほうじ茶。
手渡されたペットボトルは仄かにあったかい。でもその温度が、今の俺には丁度良くて。受け取って有り難くいただいた。
「ーーーはぁ」
「…隆」
「うん」
「ーーー…どこ行ってたんだ?」
「…うん」
「…マジで…ーーーホント勘弁。急にいなくなるとかさ…。心臓に悪いよ」
「ーーーぅん。ごめんなさい」
隣同士でソファーに座って。俺は頭を下げる。心配…やっぱりさせてしまってたから。ここはちゃんと、謝らないと。
するとイノちゃんは、ふう…って肩を落として。
ぐっと俺を引き寄せて、抱きしめてくれた。
「ーーーいいよ」
「うん…。ホントに、イノちゃんごめんね?」
「もういいから。…隆が無事戻って来てくれたから」
ーーーでも、ホントに。どこ行ってたんだ?って、耳元で切なげに囁くから。俺はぎゅっとイノちゃんにしがみ付いて、起こった事を話して聞かせたんだ。
「ーーー反対の世界…ね」
「うん」
「……」
「ーーー信じてないでしょ」
「ん?いや、信じてるよ?」
「嘘だぁ?」
「信じてるって。隆の言う事だからな?」
「ーーーうん」
「ーーー超!天邪鬼な隆と…」
「口が悪くて情熱的なイノちゃん」
「…口が悪いって…今もじゃねえの?」
「そ…かな」
「情熱的…って、今の俺よりって事?」
「うー…ん。多分。…ーーー俺もよくわかんない。でも、根っこの部分は同じって思った」
「根っこ?」
「うん。優しいイノちゃん」
「!」
「すごく優しくしてくれたよ?」
「ーーーーーー…ふぅん?」
ーーーあれ?
イノちゃんの眉が…ちょっと。
キュッと、強張っ…
「優しかったんだ?向こうの俺」
「う、うん…」
「良かったじゃん」
「っう…うん」
「ーーーなんも。されてねえよな?」
「えっ?…う、うん」
「ん?」
「うんうん!ヘイキ!」
(…最後にキスされたけど…。黙っとこ…)
イノちゃんはちょっと訝しげに俺を見てたけど。多分…無理矢理信じてくれて。
もう一度俺を、ぎゅっ。
あの時、俺が鏡に問い掛けた。
世界で一番、俺が愛してるひとが。
今、俺を抱きしめてくれている。
いつだってこんなに近くにいてくれるのに。
ーーー本当に。
問い掛けるまでも無かったよね。
ふふっ…
思わず笑みが溢れた。
イノちゃんのこの胸の中が、馬鹿みたいに安心できて。
「なに笑ってんだよ」
「ん?別にー」
「そ?…ーーーあ、隆?」
「うん?」
「向こうの俺と隆は、結局どんななんだ?」
「仲良しだよ?きっと今頃ね、イノちゃんが頑張って、天邪鬼な俺をおとしてる筈だから」
「へえ…」
そうだな。今度はイノちゃんと二人で向こうの世界に行ってみたい。
そしたら物陰から、二人で二人の行く末を見守るんだ。
ちゃんと仲良くなってるかな?って。
素直になって、ちゃんと好きって言えてるかな?って。
「隆」
「ん、え?」
「負けてらんないね?俺らも」
「っ…負けないでしょ?」
「そうだよ。だって、ずっと好きって言ってる」
「うん」
「負けない」
「負けないよ?追い越されないように、もっと、もっと…ね?」
「もっと、もっと。…な?」
こつん。と軽くぶつけ合ったおでこは合図だ。
見つめ合ったら離れない。
いつしか絡ませた両手はしばらくこのまま。
催促の始まりのキスはイノちゃんから。
俺の瞼に触れて。
目を閉じたら、唇が重なった。
「っ…ん」
「ーーー隆」
「イノちゃん…ーーー」
「ん?」
「…ン…っ…イノ」
熱くなる身体。
少しだけど、離れてた分。
もう離れたくないと、夢中になる。
〝もう二度と…ーーー手を離すな!〟
「ーーーふふっ…」
「…ん?ーーーまた…なに…笑ってんだよ」
「なんでも…な…っ」
「余裕…こいてんなよ?」
「ぁっ…ーーーー」
〝…この世で俺が一番愛してるひとは…だあれ?〟
〝ーーー鏡よ鏡…〟
end
.
2/2ページ