魔法の言葉







イノランの手が隆一の肩に触れて、一瞬。

パリッ!


「⁉︎」


小さな静電気のような刺激と、火花が散った。
思わず肩をびくりとさせて、隆一は目を丸くしてイノランを見た。


「悪り…驚かせた」

「ーー今の」

「俺の魔法。今ので、お前にかけられた色んな魔法は無効化したよ」

「え!」

「ーーーそれから、」

「?」

「不可視の魔法。ーーーそれも一緒に今隆にかけた」

「不可…視?」

「そう。隆がここで視線を交わした人間全て。隆の姿を見ることができないようにした」

「ーーーそれって…」

「もう隆を追う事はできない。ーーー自由だよ」

「っ…イノちゃん」



彼らの手を取り、自らここへ来た事は変わらない。自らが過ごした家を想って行動した事だけれど。
けれども、ここへ来た事を悔やんでいた事も事実だから。
イノランが差し出してくれた自由が、今は嬉しさでしかなかった。




「ーーー誰かの作った仕組みに頼らないで、今度は自分でやる。過ごした家の為に、何かしたいのなら」

「ああ、隆ならきっと出来るさ」

「イノちゃん、本当にありがとう」



初めて見た。
隆一の晴れやかな笑顔。
寂しそうに見えた青い宝石も、今ならばもっと違って見えるのかもしれない。
そして隆一も。



「行こう」


繋いだ手をクッと引いて。
隆一を連れて、イノランは駆け出した。



通り過ぎる夜の景色。
イノランと手と手を重ねて走り抜けるこの世界に。
隆一は目の覚める様な眩しさを感じた。





「何処へ行くの⁇」

「何処へでもさ。隆の行きたいところ、何処へでもだ」

「っ…行きたいところ」

「けど、まずは」

「?」

「俺の住処。これからの二人の拠点にさ」

「ーーーイノちゃんの家?」

「まぁな?」

「行ってみたい!」

「もちろん!」




ぐんっ…と、イノランは駆け抜ける速度を上げる。
まるで風になったようだと、隆一は思う。


「…ぁ、」


風の匂いが変わった。
視界の端に映るのは…。


「ーーー海」

「ん?」

「俺、海が大好きだよ」

「ーーーそっか」



イノランは速度を緩めて、やがて足を止めた。
ここは海沿いの街だ。
今は夜だけど、海のよく見える丘への方へと、ゆっくりと歩く。
住処へ戻る途中でこんな寄り道もいい。
何より、隆一が好きだという海の景色を存分に見せてやりたかった。




「天辺だ」


二人並んで眺めた先の景色は、夜の海。
今は暗い海だけれど、きらきらした光が美しかった。



「ーーーー綺麗」

「隆は、海はよく来たのか?」

「唯一の息抜きだった。ーーー海を眺めて、好きな歌を歌う。用意された決められた歌じゃなくて、好きな歌」

「ーーー」

「ーーー好きな歌、イノちゃんに歌ってあげたい」









イノランの住処は、その海から程近い場所にあった。
角度によっては、ここから海も見える。





「どうぞ」

「お邪魔します」



イノランはキーチェーンに繋いだ鍵でドアを開けると、隆一の背を軽く押して言った。

海沿いの小さなアパート…という感じ。
新品なキッチリした…というより。ビーチハウスっぽい、明るい印象がある。
白い壁。
その大雑把にペンキで塗られた壁には、誰が描いたのかラフな感じでギターのイラスト。
隆一は、それが妙に可愛く思えてイノランに尋ねた。



「誰が描いたの?可愛いね」

「ん?ああ、俺」

「え?」

「真っ白だったからさ。壁」

「ーーーここ、賃貸?」

「ちゃんと大家に許可とってるし!」

「…他の住民の方の反応は…」

「平気。俺しかいない」

「へ?」

「ずっと、住民は俺ひとり。だからいいの。次にここのアパート入居する奴は、この絵を気に入って来る奴ってこと!」

「…ぷ」

「ん?」

「ふふっ…あははは!」



ドアの前で、隆一がけらけらと笑い出す。
屈託無く、惜しみなく笑顔を溢す隆一を見て。
イノランは、少しずつ隆一の素顔が見られている気がして、嬉しかった。









部屋の中は落ち着いていた。
あまりごちゃごちゃ物がない、大切なんだろうな…と思えるものが飾られた部屋。
その中で目を引くのが、壁側に置かれた数本のギターだった。
アコースティックと、エレキと。
じっと観察すると、細かな使い込まれた傷と、きらきら輝く弦。



「新品な弦のきらきらした音が好きでさ。ボディはどんだけ使い込んでてもね」

「ーーー大切なんだね」


触ってもいい?と訊くと、イノランは微笑んで頷いた。


「…」


ありがとうと、礼を言うと。
隆一はそっとそのボディに触れた。
指先が拾う少々ザラついた感触は、イノランの愛故のものだろう。
大切に弾き続けた、その証。
ーーーそう思うと。
自分が今まで過ごしたあの部屋には、用意されたあらゆる楽器が所狭しと並んでいたけれど。
ひとつとして、こんな傷のついた楽器は無かったと。
音楽が、歌う事が好きだったのに。
たったひとつの楽器すら、愛しんであげる事が出来なかったと。
隆一はここでもまた、後悔が顔を出した。




「ーーー俺、」

「ん?」


ギターに触れたまま、隆一は呟いた。
今、この愛されているギターに触れて思った事。


「…」

「ーーー隆?」

「ーーー俺。今まで、本当はちゃんと知らなかったのかもしれない」

「ーーー何が…って、聞いていい?」

「歌う事」

「ーーー」

「心を込めて、愛情込めて、歌う歌」

「ーーー」

「そんなのが歌いたい」

「ーーー」

「イノちゃんのギターみたいな、愛情いっぱい込めて」

「ーーー歌えるよ。隆なら」

「ーーー」

「俺がギター弾いてやる。一緒に歌う」

「イノちゃん…」

「俺に歌ってくれるんだろ?隆が歌いたい歌をさ」

「っ…ぅん」












ザァァ…。

隆一は今、遅い時間の入浴中だ。
ここに着いたのが、もう日付が変わった頃だったから。




「ーーーはぁ、」

大きなため息。
ーーーイノランだ。
何故かって。
こんなのは誤算すぎると、イノランは悶々と頭を抱えていたから。
今この部屋の屋根の下には隆一がいる。
…一緒に行こうと誘ったのはイノラン自身なのだから、そこは仕方ないのだけれど。

何が誤算かというと、自分自身こんなになると思ってはいなかったのだ。



(…ちょっと、落ち着こうか。…俺)



初対面にもかかわらず、好きだと伝え合ってしまった二人。
それがひとつ屋根の下に揃ってる。

どきどきして、気分も高まるのは致し方ない事だろう。



「俺ってこんなんだったっけ…」


一目見て、心奪われる。
ギターになら今までそれもあった。
それをようやく手に入れて、メンテナンスを繰り返して、自分の手に馴染んでいく様子が愛おしかった。
ーーーそんな現象が。
一目惚れっていう現象が、誰か…に対して起こるなんて、あの青い色を初めて見た時には思いもしなかった。
石を生み出す人物があの建物の中にいると噂を聞きつけて、最初は興味本位で忍び込んだ。
どんな奴だろう?
何故あの石はあんなに悲しげなのか?
その人物に会えばわかる気がして…



「…惚れるなんてさ」


会った途端に、惹かれてしまった。
青い宝石に負けないくらい、悲しみの気配を纏った隆一。
それを拭ってあげたいと。
逆に愛しんであげたいと思ってしまった。







がら。


「イノちゃん、上がったよ?」

「っ…」

「お風呂先にありがとう」






イノランが風呂を終えて出ると、隆一は窓を開けて夜風吹かれていた。





「湯冷めしない?」

「え?」

「髪もまだ濡れてる」

「ーーーありがとう。でも、平気だよ」




隆一の襟足の髪が湿っている。
イノランは持っていたタオルで、わしゃわしゃと拭ってやった。

ありがとう、と。
隆一は目を細めて微笑んだ。
その瞬間、夜風に触れて香った隆一の匂いは。
同じシャンプーの匂いの筈なのに、ひどく甘くて、いい匂いで。

イノランの鼓動は、落ち着くどころか。
ますます…





ザザ…ン



耳をすますと、波音が聞こえる。
海岸からこの部屋までは少し距離があるから、日中は色んな音に紛れて波音は聞こえないけれど。
こんな静かな夜は別だ。


心地いい。
子守唄みたいにかすかに届く。
水音。



「ーーーいい音だね」


隣に立つ、波音みたいに青色が似合う彼が呟いた。
その身から青い宝石を生む隆一。
隆一の歌も、零した涙も。
風呂上がりの隆一も、こんな夜に綺麗に映えて。
全部全部、綺麗な青…で。

…けれど。




「隆の魔法で生み出す宝石ってさ、青い色だけなのか?」

「ぇ、」

「いや、深い意味じゃなくて、素朴な疑問っていうか」

「ーーーああ、ぅん」

「ーーーん、」



ぺたん、と。
隆一は手を伸ばして、目の前の窓枠に触れた。
夜の温度で、ひんやりしていそうな金属に。





「ーーー青いのだけじゃないんだ」

「え?」

「…らしい」

「らしい?」

「ーーー聞いた話。俺はまだ、作れた事はないんだけど」

「ーーー青いの以外が…あるんだ?」

「うん。ーーーーーらしい」

「ーーーーーそれは…。やっぱり声と涙が元に?」

「うん。それは、変わらないんだけど…」






ザザ…

ザザザ…ザン




「込める気持ちがね、」

「ーーーーー」



「特別な想いを込めた時に生まれる宝石はね、」

「ーーーーー」



「薔薇色なんだって」





特別な想いとは…どんなものだろう?

隆一は常々、思っていた。





「俺は青い宝石しか作れなかった。ーーーというより、依頼が来るのが、青い宝石だったから」

「綺麗だもんな。隆の作る、青い宝石」

「ーーー見た目はね」

「違うって。見た目だけじゃなくてさ」

「ーーー」

「たまたまさ、とある店で、隆の宝石を使ったペンダントトップを見つけて」

「ーーー」

「まぁ、お値段もなかなかで。ーーーでも、惹きこまれて」

「ーーー」

「見つめているうちに、じっとその奥の色を見ているうちにね、」

「ーーー」

「ーーーなんだろう?めちゃくちゃ寂しそうな色だって、」

「…」

「気を悪くしたら、ごめんな?」

「ーーーーーぅうん」

「ーーー会いたくなった。無性に、会ったこともない、お前に」




「ーーーイノちゃん、」








ザザ…ザン

ザザザ…





いつのまにか見つめ合っていた。
こじんまりとしたアパートの、海の見える部屋で。

月明かりの、青い部屋。
聞こえてくるのは、波音。

青い宝石を生む彼は、まるでこのまま青い空間にとけてしまいそうで。
ーーーイノランは。





「好きって言ったの、本気か?」

「ーーーぇ、」

「俺が言ったのも、本気だって捉えてくれてるか?」

「っ…」




青い空間にとけてしまう前に。
捕まえてしまおう…と。

イノランは。

目の前の隆一に、手を伸ばして。
白いシャツに包まれた肩を抱き寄せて。
逆の手で、隆一の頬に、指先で触れる。



「…っ」

「ーーーーー嫌…じゃ、ない?」

「ーーー…ん、」



ひとつひとつ、丁寧に。
寂しさを纏う隆一を、怖がらせないように。
触れた指先で、くるくると頬を撫でると。
くすぐったいのか、隆一は小さな笑みを溢した。

溢れた微かな声は、甘さを含む。
まるで次の展開を期待しているようにも聞こえて。
イノランは。
もう一度、確かめた。



「ーーー嫌じゃ、ない?」


こくん。


「ーーーじゃぁ、隆」



青い部屋でもわかる、隆一の赤い唇に。
ツン…と、指先で突く。





「触っても…いい?」





ーーーこくん。




二度目に頷いた隆一の頬は、薔薇色で。
それに似た、特別な想いを込めた時に生まれるという薔薇色の宝石を。



見てみたかった。
堪らなくなった。
薔薇色の宝石ももちろん。
それを生み出す、特別な隆一を。





「触るよ」











悲しみに沈むから。
歌も心も、悲しさでいっぱいだから。
生み出された宝石は、青い色だったのか。
静けさと。
自由を求めて見つめる空と海の色を、そのまま映したみたいな。



だとしたら。











「ーーーっ…ん、」

「…隆」

「ふ…ぁ、」





まだキスだけなのにこんなに気持ちいいのは、やっぱり好きだからなのか。
決して広くはないアパートの部屋の、小さな寝室。
フローリングの上に置かれたシングルサイズのベッド上に、イノランが謂わゆるお姫様抱っこで隆一を運んだのはたった今の事。
隆一を布団の上に降ろした途端に、イノランは最初のキスをした。
躊躇いがちだった二人の触れ合いは、それでもすぐにその壁を壊して。
もっともっとと次を欲しがるのに、時間はかからなかった。





「っ…ぁ、」

「ーーーあのさ」

「んっ…ぇ?」




いつのまにか隆一を押し倒していたようだ。
手を重ねて、服の裾から手を入れて。
引っかかっているボタンがもどかしくて。
イノランは急く気持ちをどうにか抑えて、隆一の服をはだけさせた。



「なぁ、に?」



イノランの、あのさ。の続きが聞きたくて。
隆一はすでにぼんやりとし始めた頭で、問い掛けた。

けれども、その隆一の問い掛けの返答は、行動で。




「ぁんっ…」

「ーーー気持ちいい?」

「待っ…答え、て…ない!」

「ん?」

「っ…あの、さ、って」

「ああ」



唇は隆一の口を塞いで。脇腹を撫でていたイノランの手は、ツン…主張しだした隆一の胸の突起を探り当てて摘んだ。
途端に、隆一は甘い声をあげる。




「んっ…んん、」

「可愛すぎなんだけど」



指先で摘んでいるばかりだったそこを、先端を穿って、舌先で弄る。
びくん、と。
隆一が背をしならせると、イノランは微笑んで。
触れるだけでわかるくらいに硬くなった互いのそこを擦り合わせた。



「あっ…ぁ、」

「ーーーっ…りゅ、う」

「っ…イノちゃ…ーーーど、しよ」

「ーーーん、?」

「気持ちっ…い」




ころん…。



隆一のぎゅっと瞑った瞳から、涙が溢れた。
それはすぐに頬を伝って、シーツに染み込んでいったけれど。
それを見て、イノランは。



「ーーーっあ、」

「隆っ…」



隆一の脚を抱え上げて、その中心に自身を当てがった。
最初は痛いだろうと、ぬるぬると先端を擦るように焦らすと。
次第に隆一の腰が自然と揺れる。
もっと欲しいと、強請るみたいに。



「ゃ、あっ…」

「ーーーっ…あのさ、隆」


隆一と額を合わせて。
目をみて。
イノランはもう一度、言う。
今度はちゃんと、最後まで。



「お前にだけの魔法をかけるよ」

「ーーーま…ほぅ?」

「俺が隆にだけあげる、魔法の言葉…だ」




擦り付けていた隆一のそこに、イノランはゆっくりと自身を挿入する。
すぐにぎゅっとしがみ付いてくる隆一を愛おしく思いながら、なるべく痛みがないように優しく揺する。

キシキシと、ベッドが軋んだ。




「っ…あん、ぁっ…ああっ…」

「ーーーっ…平気、か?」

「んっ…ぅんっ…」

「ーーーーーーーっ…隆」




微笑んでくれる隆一に。


寂しさの、青じゃなく。
愛おしさ の、薔薇色を。


こんなこと言うのは、お前だからなんだからな?
そう、前置いて。





あいしてる






隆一の目に、涙が溢れた。







あいしてる



それはイノランが隆一だけに贈った、魔法の言葉だ。



浮かんだ涙は、やがて留めることが出来ないくらいに溢れて。
ついには隆一の頬を伝って。
今度はシーツに吸い込まれずに、球型になって転がった。




ころん。



白いシーツの上に落ちたのは、青い涙の宝石ではなかった。
それは暗がりでもわかる、仄かに光る宝石の色。
悲しみや寂しさじゃなく、愛情のいっぱい込められた色。
イノランに隅々まで愛された、隆一の朱を散らした頬の色と同じ。
薔薇色の宝石だった。











「ーーー初めて見た」


隆一は、たった今自身が生み出した薔薇色の宝石を見つめて呟いた。
手のひらに乗せた淡いピンク色の石は、まさしく薔薇の花びらのように可憐で可愛らしいものだった。


「…歌ってないのに」

「ん?」

「歌。魔法を込めた歌。ーーー歌うことで、宝石ができるんだと思ってたのに」

「ああ、」

「ーーー」

「歌っては…いなかったけどさ」

「?」

「隆の魔法が〝声〟そのものに込められているんなら」

「…声?」

「〝声〟はさ、いっぱい聞かせてくれただろ?」

「ぇ、」

「ーーー俺に愛されて、気持ちいいって、そんな声」

「っ…ぁ」

「甘くて、エロくて、めちゃくちゃ可愛い声から生まれたのが、この薔薇色の石なんじゃないのか?」




ころん、と。

隆一の手のひらの宝石を、イノランは指先で転がした。
お互い裸のままで、ベッドの上で、仲良く並んで寝転んで。
そんな愛情の証みたいな宝石を二人で眺めていたら。
隆一の胸に、あったかい気持ちが込み上げてきた。




「イノちゃんにあげる」

「え」

「あげる。イノちゃんに、持ってて欲しいよ」

「隆、」

「だって、イノちゃんがいなかったら、作れなかった」

「ーーー」

「ーーーイノちゃんだから、作れたんだよ」



だから、あげたいの。
そう言って、隆一はイノランの手の中に宝石をそっと渡した。
コロンと乗った宝石は、隆一の温もりを帯びて、あたたかかった。



「ーーー隆、ありがとう」

「ううん、俺も嬉しい」

「ん?」

「だって、俺が先にもらったんだもの」

「え?」

「ーーー魔法。イノちゃんの、魔法の言葉。ーーーあいしてるって、言ってくれた」

「だって、愛してるからさ」

「だから、嬉しい。お礼ができたみたいで、嬉しいんだ」




ね。
じっと、隆一はイノランを見上げて。
震える声で、問い掛けた。



「この魔法は、いつか消えてしまうの?」


魔法の無効化を得意とする彼。
いつかこの想いと共に、消えて無くなって、無かったことなるのか…と。
そんな不安を滲ませた、問い掛け。

けれど。



「ーーー俺が嫌だから」

「っ…」

「そんなの。ーーーだってもう、離せないよ」



再び重なる、身体。


「イ…っーーーーぁんっ、」

「ほら」

「んんっ…」

「そんな声聞かされたら、もう無理だ」

「ぁ…っあ、こ、え…?」

「声だけじゃない。宝石が欲しいんじゃない。宝石の為に泣かせたいんじゃない」

「ーーー」

「隆がいればいい。ーーーなぁ、これからは笑ってくれるか?」

「っ…」

「俺の隣で」

「イノちゃんっ…」




嬉しさで溢れた涙は、辺りに薔薇色の宝石を散らばらせた。
綻ぶように微笑んだ隆一に、それはそれはよく似合っていた。







end



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