四角な空と、ローズガーデン













「ーーーあの…」




あまりにも俺がじっと彼を見つめていたのかもしれない。
花々の隙間から、ちょっと居心地悪そうに俺の方を窺う彼の表情。
そりゃそうだ。
初対面で(俺はさっきのカフェでの件を覚えてるけど、彼がそうだとは限らないんだし)いきなり見つめられたら警戒もするだろう。
だから俺はハッとして、慌てて取り繕った。



「ごめん!いきなり押し掛けてこんな…」

「ぁ、いいえ」

「っていうか、ちゃんと会話すんの初めてなのにタメ口とか…ホント、」

「ーーーぁ、」

「ーーーごめん。…や、ごめんなさい。ちゃんと最初からやり直しさせてください」

「ぇ、」

「初めまして。さっきの朝のカフェで…覚えてる?…じゃなくて、覚えてますか?さっき、」

「ーーー」

「俺がカフェのカウンターでコーヒー飲んでる時に君が…バラの花を、」

「ーーー」

「雨の日に似合うバラなんですって、飾っていいですか?って。ホントに雨の日に似合うすげえ綺麗な花だって思ったし、」

「ーーー」

「鮮やかすぎない、落ち着いた色彩がすごく好きだって思ったし」

「ーーー」

「ーーー君の声も、」

「ーーー」

「佇まいとか…笑った顔…とか、」

「ーーー」

「もう一度会いたくて」

「ーーー」

「ーーーって、でも。俺はあの時ただそこに居合わせたカフェの客でしかなかったんだから、俺のこと覚えてなくてももちろん全然…」

「覚えてます」

「!」

「覚えてますよ。ちゃんと」

「ーーー」

「あなたのこと」




捲し立ててしまった感満載な感じだった筈なのに。
彼はにこっと微笑んで、そんなふうに言ってくれて。
傍らの大きなガラスのフラワーベースに挿さったほんのり青みがかったバラを指さすと。



「このバラでしょう?あの時の…」

「ーーーあ、」

「覚えています。カウンター席であなたはコーヒーを飲んでいた、」



覚えていてくれたんだ。


















遅ればせながら自己紹介をした。
俺が先に名乗った後で、彼も名前を聞かせてくれた。



隆一。

このフラワーショップのただ一人の店員だと言った。




「ひとりでこの店を?」

「はい。忙しい時なんかに手伝ってくれる友人はいるんですけれど、基本的には俺ひとりで」

「じゃあ経営者なんだ?」

「ーーーそう言われると聞こえはすごいものみたいだけれど…。でも自分でやれる範囲でやってるので」

「でもすごいよ。こんな素敵な店をひとりで回してるんだろ?」

「そう言ってもらえたら嬉しいです。花に触れることは好きなので」

「俺も…一応。経営とか仕事にしてるから…。大変さもわかるし、親近感があるよ」

「ーーーはい。ーーーぁ、あの」

「ん?」




急にだ。
なんとなく照れくさそうに、隆一が俯いた。
あの時カフェでも身に付けていた黒いエプロンの裾を、ぎゅっと小さく握りしめて、何か言いたげで。

どうかした?って、こっちから訊く事もできたけれど。
ふんわりと辺りを取囲む花々を背負って、何かを言い出そうとする隆一の姿を見たら。



(永遠に見ていたいかも…)



控えめな可愛いさとか、可憐とか。
きっとこうゆう感じを言うんだって。初めて気が付いた気がして。
俺は言葉の続きを催促することは勿体ない気がして、隆一が話してくれるまで。
じっと。
その仕草と姿を目に焼き付けた。






「ーーーーーぁ、の」

「ーーーうん」

「あの、俺…」

「ーーー」

「ーーーーー知って、いて」

「ーーー」

「あなたの、こと」

「ぇ、」

「今朝が初めてじゃなくて」

「ーーーーー」




今朝が初対面じゃない?



ーーーでも俺は。
もしも隆一とすでに何処かで出会っていたら…

忘れる筈は……






「前日に。俺はあなたを知ったんです」

「ーーーーー前日?」

「はい」

「ーーー」

「雨が降り始めた、その頃に」









前日の雨の頃。
前日と言ったらつい昨日の事。
俺ははまるで遠い記憶を引っ張り出すように手繰り寄せて。
昨日の、雨の降り出したタイミングで起こった事。




「ーーーえ、あの時?」




あの時とは。
俺が恋人と別れた瞬間。
正確には俺が振られた瞬間だ。
お世辞にも良かったですねとは言えないような(…っても、今まですっかり忘れていた俺は酷い奴だけど)…あの場面を隆一は…




「ーーーもしかして…そこに居合わせてた?」

「…は、い」

「……マジか」

「ちょうど配達の途中で、」

「ああ…」

「イノランさんのいたそばの横断歩道で信号待ちをしていたので…」

「ーーーーーん、そっか」

「…ぁの」

「ん?」

「ーーーーーごめん…なさい。…なんか、」

「や、全然。ーーーまぁ、ちょっと恥ずかしいけどな。あの瞬間を見られてたって、」

「ーーーそんなことは…」

「でも、きっと遅かれ早かれあの結果にはなっていたんだって、今ならわかる。俺は相手に関心があるフリしてたんだって、振られてわかった。相手はそれをちゃんと気付いてくれて、先に言い出してくれたんだから」

「ーーー」

「もう一緒にいられないって。そうゆうの言い出すのって、勇気も覚悟もエネルギーもすごく必要だと思うから」

「ーーーーーはい」




隆一はすごく真剣な顔してる。
あの場面に居合わせて目撃した事を決して茶化したりせずに、俺の言う言葉にひとつひとつ丁寧に頷いてくれて。
憐れみとか、同情とか。
そんなのも微塵も見せないで。

きっとすごく優しいんだ。
隆一は。





「ーーーーー…」

「ーーーーーーーー」



急に、しんみり。
せっかく出会えたのに、言葉が途切れてしまった。
俺は再び慌てて取り繕って、慌てたついでに隆一の手をぎゅっと掬い取ってしまった。
隆一のびっくりした顔が目の前だ。




「っ…!」

「えっと…ごめん」

「ぇ…?」

「そんなに神妙になる事ないから。昨日の事はもう、俺の中でちゃんと整頓ができてる…っていうか」

「ーーーは…はい」

「俺の事はいい。平気だから。それよりも」

「…?」

「隆一のこと。変に気をつかわせちまって、それが…ごめん」

「ぅ、ううん!俺は別に…」




ぎゅっと繋いだ隆一の手は、あったかくて、さらさらしてて。手荒れだろう、指先が少しだけカサついている。
水や植物に触れる仕事故のものだろうと思うと、周りに広がるたくさんの植物が隆一の愛情をいっぱいに受けてるって思えて。
ここにいる隆一も、ここにあるもの全てが、心から愛おしく思えてくるから不思議だ。
ずっとこうして手を繋いで…離したくなくなる。


(でも、そんな訳にもいかないよな…。ほぼ初対面の俺がずっとこんな事してたら隆一だって…)


後ろ髪引かれる思いで、手を離そうと緩めたところで。
ここで隆一が、また少しだけ恥ずかしそうに呟いた。





「ーーー俺も実は…白状しなきゃいけない事…あって」

「…白状?」

「はい」

「俺に?」

「はい。ーーーあの、」

「ーーーーーーーブーケ…を、」

「ーーー?」

「そっと。…置かせて…いただいて…来てしまって、」

「ーーーーーーーーブーケ…」

「雨の日のあなたを見かけて…ちょうど俺もあなたが歩き始めた方と同じ方角に行く用事があって。ーーー配達の時は手元にいつも余分に花材を持っているので、有り合わせのラッピング材で…ブーケを作って」

「ーーーーーっ…」

「ーーー少しでも、元気になれるような気持ちを送れたらいいな…って」

「え、?」

「大きなお世話だったら本当に申し訳なかったし、通路の窓が開いてたからって不法侵入みたいな事して後で後悔も…」

「ーーーーーあ…」

「ごめんなさい!」

「ーーーーーじゃあ、」




済まなそうに頭を下げる隆一と、昨日いつのまにか届けられていた不思議な花束が重なって。
俺はここでようやく分かったんだ。



「っ…昨日の花…隆一が届けてくれたのか⁈」

「ーーーーーっ…はい」





俺の気持ちを満たしてくれた花たちの送り主は…隆一だったんだ。












コトン。




「どうぞ」

「ありがとう。ーーーすげぇ、美味そう」

「ただのインスタントのコーヒーだよ?」

「それでもさ」

「…朝もコーヒーだったのに……そういえば」

「いいんだって」

「コーヒー好きなの?」

「コーヒー好きだし、」

「?」

「君が淹れてくれたってところが」




ぽかん…
隆一の目が丸くなって。
そのあと、じん…と頬が赤くなった。




花々に囲まれた、さほど大きくはない木のテーブル(これは作業台なんだって。確かにハサミやらナイフやら、端に置かれた籠には多種多様なリボンが詰め込まれてる)
そんな、フローリストの大事な仕事スペースに、たった今隆一が淹れてくれたコーヒー入りのマグ。
向こう側に隆一、こっち側に俺。
店の隅に置かれていたアンティークの雰囲気が漂うスツールを隆一はズリズリと引っ張り出してくれて。
さらにはその上に乗っかっていた先客のフラワーベースを移動させて。


「ここどうぞ」


にこっと微笑んで。
そう言って、俺に特等席を作ってくれたんだ。





「それにしても、いいのか?こんな…俺が店ん中占領して…」

「ん?」

「コーヒーまで。俺はすげぇ嬉しいけど」



俺がここにいる事で客足が遠のいてしまっていたら申し訳ない(…っても、押しかけたのは俺なんだけど…)
すると隆一は、ぱちぱち瞬きすると、次の瞬間には、もう一度にこっと笑ってくれて。



「いいの」

「ーーー」

「雨の日はね、やっぱりどうしても空いちゃうんだ」

「そ、なのか?」

「そう、だって考えてみて」

「ん?」

「食料品買わなきゃとか、病院行かなきゃとか、学校仕事…とかはお天気あんまり関係ないでしょう?」

「ん、ああ…まぁな」

「ね?でもねぇ、俺の所みたいなお花屋はね」

「ーーー」

「そうじゃないと思うんだ」

「ーーーそうじゃない?」

「お花は綺麗だし、あったら良いものだと思うし」

「うん」

「でも。どうしても日々の生活に絶対必要か?って言われたら、そうじゃないと思う」

「ーーー」

「雨の日にまで来てくれるのは、お花と暮らすのが日常のひととか、プレゼントしたいってひととか、そういうのだと思う」

「ーーー」



側にある白い紫陽花の花を突きながら、淡々と隆一はそんな事を言うもんだから。
ーーー返事に困る(…し、紫陽花と隆一の構図が可愛すぎて目のやり場にも困る)
花屋本人がそんな事言ってどーすんだ⁈って思ったけど。
俺はふと、自分が関わる音楽について考える。

それを言ったら、音楽もそうなのかもしれないと。



音楽が無くても、花が無くても。
生きていくことに支障はない。

(や、俺は困るけど。音楽が無いなんて…ライブができないなんて無理だ)

でも隆が言うように、音楽と暮らすのが日常なこうゆう俺みたいな奴らを除いては、そうなんだろう。
これと同じに、隆一の花もそう。

困る事は無いんだ。






ーーーでもさ。





「似てんだな」

「ぇ、?」

「花も音楽も」

「音楽?」

「ん、俺は音楽を仕事にしてて」

「っ…そうなんだ」

「仕事だからってだけじゃ無いけど、音楽が好きだからさ」

「ーーーうん」

「音楽も花も別にそれで腹は膨れねぇし、」

「そ、だね」

「そこにあるってだけだけど」




そこにいてくれるから、日々を豊かにしてくれるもの。
パワーをくれるもの。
音楽も花も。


あと。





「ーーーなぁ、隆」

「ぇ、」





コーヒーマグの乗っかったテーブル(作業台)越しに。
俺は手を伸ばして、さっきみたいに、隆一の手を手繰り寄せる。
ぱち!と目を丸くして、俺の行動にびっくりしている隆一の表情を楽しみながら、触れた手を絡ませた。





「また来ていい?」

「え、?」

「隆の店」

「ーーーここ、に?」

「うん。ーーー俺さ、今気が付いた事があるんだけど」

「?」

「花と音楽って、実はすげぇ合うなって」

「…花と、」

「そう、音楽。ーーーまず、字面が素敵だなって。それに考えてみれば花と音楽って同じ空間にいる事も意外に多いんじゃないかとも思うし」

「あ…確かにそうかも」



音楽の在る場所に花は贈られてくることは多い。
事実、偶然とはいえ隆一がブーケを置いていってくれたみたいに。
そこに何かしらのメッセージを込めて。
決して押し付けじゃなくて、手に取るかどうかも自由。
でも、それを大事に思うひとにとっては心躍るもので。
必須じゃないけど必要なもの。
花と音楽は似たもの同士。

そして隆一と俺は。
それに携わる者同士。
どっか似てるところもあるのかも。

でも、少なくとも俺はそれだけじゃない。





「君に惹かれた」

「ーーーぇ、」

「すごく」

「…キミ…って、」

「そうだよ、隆のこと」

「っ…!」

「だって隆、すげぇ可愛いし」

「…かわ…?」




隆一はポカン…と口を開けて、俺を見る。
言ったのは俺なんだけど、そりゃそうだよなって思う。
同性の大人相手(しかもほぼ初対面の)にサラリと言う言葉じゃないよな。




「せっかく出会えた隆のこともっと知りたい」

「…俺、の?」

「ーーーーーそれで、もしよかったら」

「?」

「俺のことも知ってもらえたら嬉しい」

「!」




ぱちぱちぱち

隆一は瞬きを繰り返して、きらきら輝く目で俺のことを見て…(くれてるって思うのは自惚れじゃない…はず)
だから俺は少々図々しくなったみたいだ。
繋いだままの隆一の手はやっぱり離さずに。
店いっぱいに飾られた花達を見回して。




「…俺あんまり花言葉っての詳しくないんだけど、」

「花言葉?」

「そう。酒にもあるけど、カクテル言葉っていうの。そうゆうのに気持ちを乗せて相手に伝えるって一度はやってみたかった事なんだけど」

「ぅ、うん」

「花言葉。俺が唯一知ってるもの、それをいま隆にあげたい」



ーーーぅん…。



小さく囁くような、そんな隆一の返事を聞きながら。
俺は隆一の側のフラワーベースに挿さった一輪の赤いバラの花をそっと抜き取って。



「これはちゃんと買わせてな。ーーーこの花」

「ーーー赤い、バラ?」

「そう。ちょっと気障かもしんないけど、隆にしてあげたいことだから」

「ーーー」




赤いバラの言葉。
そうゆうのに疎い俺でも知っている。
ーーーだから、花に詳しい隆は。

すぐに気付いたんだろう。






「ーーー隆。カオ、赤い」

「っ…だ、だっ…て」

「それってわかってくれたからだよな?だからでしょ?」

「ーーーだって、」

「ん」

「っ…知らなきゃ花屋務まらないじゃない」

「ん。いつもは隆が客の要望に合わせて花を選ぶ側なんだもんな?」

「ーーーん」

「されるってのは、初めてか?」




想いを込めた花を、今は隆一が受け取る側。




「赤いバラ。俺の気持ちだから」

「イノ…」

「出会ったばっかりだけど、」



パーティー会場の片隅に届けられたブーケを見た時から。
俺はきっと。





「隆のことが好きだ」




愛してる。

自分でも驚く。
本当に、出会ったばっかりだってのに。
留めておく事なんかできなくて、ひといきで告白してしまう程に。


















ーーーそんな雨の日の。
翌日。





「はぁ?」


「だからー」

「告白してきたって…。いつ」

「昨日」

「ーーー…お前さ」

「ん、」

「…振られたばっかじゃなかったっけ?」




カラカラカラ。
軽やかに氷が回る。

例のパーティでJにすっかり世話になったから、飲みに連れて行ってやろうと密かに考えていた事を今日の仕事終わりに早速実行。
馴染みのバーのカウンターでそれぞれのグラスを傾けながら、お疲れ!

ーーーと。
それもあるけれど。



「タイミングなんて関係ない。偶然とか、縁とか、きっとそうゆうのが重なって、」

「ーーー」

「出会うべくして出会えたんだって、そう思える」

「ーーーーー運命とか…って、やつ?」




運命。
花と、音楽と。
雨の日の。



「ーーー多分ね」



だってさ。



「視線を通わすだけで。声を聞くだけで、」

「ーーー」

「こんなにどきどきするなんて、初めてなんだ」





俺はもしかしたら。
誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。

雨の日に隆一と顔を突き合わせた、あの時の気持ちを。




何をおいても、手放しても、なりふり構わずとも、求めてしまう相手。

自分の中の燃えるような気持ちを、初めて気付かせてくれる相手。

見つめているだけで、一日があっという間に過ぎてしまうような。


ーーーきっとそんなひとに、出会えたんだと。

















好きになったひとと想い合いたい。…って願望は、万国共通だと思う。
また店に立ち寄っていいか?という俺の願いを、隆は拒否しないでいてくれたから。
それから俺は、時間を見つけては隆の店の訪れるようになった。





「こんばんは」


「あ、イノちゃん、また来てくれたの?」

「仕事早く終わったからさ。隆の店が終わったら晩飯行かない?」

「うん!」



ーーー俺の呼び名もこんな風に呼んでくれるようになった。
最初はお互い何となく遠慮がちで、会話すら譲り合いながらって感じだったけど。
今はだいぶ俺たちの間の空気もほぐれてきたと思う。
一緒に食事も、もう何度目だろう?
隆とのこんな時間はとても楽しい。


パタパタと店じまいの片付けを始める隆を目で追いながら。
なにか手伝おうか?って聞くのも習慣になった。これも最初は遠慮してた隆だけど、だんだんと俺に手伝いをくれるようになった。



「店頭の植物入れちゃうよ」

「ありがとうイノちゃん、助かる!」



こんくらいなんでもないよ。

店頭のドア周りに置かれたブリキ製の大きなフラワーベースには、主に枝物の植物が活けられている。それと季節の鉢物。
ひとつひとつ、枝先や葉先を傷めないように店内に引き入れる。



「イノちゃんもお花屋さんみたい」


一日使った道具類を丁寧に布で拭きながら、隆はくすくす笑いながら俺を見る。
言われて、一瞬想像する。
隆と一緒に花々に囲まれて仕事をする俺を。


(ーーーいいかも)


さらに想像…(妄想)は進んで。
この花に囲まれた2人きりの空間で、俺はギターを弾いている。
隆は両手いっぱいの花を抱えて、俺に微笑んでくれて。
そんな隆に俺は、想いを込めてキスをす……



「ーーーって、ごほごほっ!げふん!」

「⁉︎ーーーイノちゃん大丈夫⁈」

「ごほん!…あ、ああ、大丈夫だよ」

「風邪?」

「や、大丈夫。風邪じゃないよ。ちょっと咽せただけ」

(…自分の妄想に)


「ほんと?」

「ごめん、ほんとに平気だよ」



それなら良いんだけど…。って、隆は心配そうな顔を微笑みに変えてまた片付けの手を動かし始めた。

ーーーーー全く。俺も自分の事ながら苦笑しか出ない。
隆に心配させるとか、何やってんだって思うけど。
だいぶきてるようだ。
隆のことが好きって、妄想が溢れるほどに。
こんな自分は初めてだ。


でも。

じゃあ、隆は?



俺の唐突な告白を、どう捉えてくれているん
だろう。







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