短編集・2












君と一緒にこの日を迎えるのは何度目だろう。
ステージの上で、スタジオの中で。
作曲に熱中しながら、リハーサルをしながら。
ずっとその日は君とみんなと音楽とに包まれていたけれど。


君と〝特別〟になってから迎える初めての冬が来た。













season…❄︎゜.Christmas.










数日前からツリーを飾って、オードブルにシャンパン。
小さなケーキと、プレゼントも用意して。
今年は君と特別なクリスマスを…。少しでも楽しんでくれたら嬉しいな…と、実は内心どきどきしながら準備をしていた。
12月25日に会おうねって、約束をして。
待ち合わせの場所、公園のベンチで君を待つ。




「…ちょっと早かったな」




夕方。
仕事のあと片付けをいつもより手早く終えて。
コートを着込んで、ストール巻いて、一緒に作業していたスタッフにお疲れ様、メリークリスマス!と手を振って。
自分でもわかるくらい浮き立つ足運びで待ち合わせに向かったら、約束の時間にはずいぶん早い時間だった。
ひんやり冷たくなったベンチに腰を降ろす。
時間的には夕方だけど、もう暗い。
しかも雨が降りそうだ。
朝の天気予報では夜から雨模様だと言ってたもんな。
しかしそんなのも気にならない。
今は君を待つこの時間も楽しくて。




「…ガキじゃないんだからさ」



ちょっとばかり照れ臭い。
メンバーとしての君とは数え切れないくらい一緒にいるのに、君に会うのが待ちきれないみたいで。
こんな風に冬のベンチで空を見上げて君を待つ自分。



「ーーー恋人と待ち合わせ…って、これが初めてじゃないけどさ」



今まで感じたことがないどきどき。
こんな自分を俺は知らない。
…ってことはさ。



「ーーーーーー……そうゆうことなのかな」



ほんとうに好きになったひと。
想いが叶うかどうかもわからないけれど、好きでい続けたひと。
そしてやっと想いが繋がって。



「…そうゆうことか」



やっぱり照れ臭い。





「…ぁ、」

「え?」

「ーーーイノちゃん、」

「ーーー隆」




びっくりした。
だいぶ俺は思考の奥に引き込まれていたらしい。
いつの間にかすぐ側に来ていた恋人に、声をかけられてハッと気がついた。
…不覚。



「ごめんね、待たせちゃったかな」

「いや、」

「ーーー」

「俺も来たとこ。大丈夫だよ?」

「ほんと?…なら、よかった」




ほっとしたように微笑む隆。
それを見て、内心で苦笑する。
俺も来たとこ…なんて、よく言うよな。…俺。





「行こうか」

「ん、」



立ち上がって暗くなった道を並んで歩く。
間違いなく俺はこのとき気持ちが躍り出していて。
微笑んでくれてはいても隆がいつもより元気がないのも、体温が少し高いのも。
気が付けなかった、迂闊にも。












。・°❄︎ .・❄︎ ・゜





「綺麗だね」

「ん?」

「街。きらきらだね」

「ああ、だな」

「クリスマスだものね。ーーー生まれてから今日までクリスマスは何度も迎えてきたけど、イノちゃんとこんな風に過ごす日がくるなんて思わなかった」

「ーーーほんとだ」

「イノちゃんも?」

「そうだよ」

「ふふっ」

「でも、」

「ぅん?」

「こうなったらいいな…って思ってたのは、きっとずっと前からだ」

「っ…」

「好きだったから。ずっと」

「イっ…待っ…!」

「ん?」

「…っ…照れる…から……そんな」

「くくっ」

「恥ずかしい…よ」




歩きながら俯いてしまった。
黒髪から覗く耳や頬っぺたが赤い。
照れるって言葉どおり照れてくれている事がくすぐったくて、嬉しい。
でも俯きながら歩くのは危ないから、こうゆうのもいいかなって。隆の手を引き寄せて、そっと指を絡ませる。
…で、ここで何となく気づく。



(あれ、)



触れる手が熱い気がして。
とはいえ俺も外気に晒されてかじかんだ手だったから、俺よりあったかい隆の手が熱く感じたのかも…と。この時はさほど気にしなかったんだ。









秋口の頃、隆と交わした言葉がある。
隆と戯れるようにキスをしながら、いつかお前に触れてもいいか?と。
それは俺の本心だったし、心から望むことだから。
隆が頷いてくれたことに俺は心底歓喜した。
でも焦りたくはなくて。
その瞬間までの待ちの時間も愛おしくて。
いつかの時は自然とそうなるだろうと思っていた。
ーーーそんな余裕でいたけれど、冬とか、寒さとか、きらきら輝くこのクリスマスという日は。
そんな余裕を取っ払う雰囲気があるのかもしれない。

俺は今日隆と過ごす間に、それなれたら…と。
こころ密かに考えていた。









「お邪魔します」

「どうぞ、全然お邪魔じゃないんだから」

「ありがとう。ーーーね、イノちゃんのお部屋久しぶりだよ」

「そうだよな。でもあんま変化ないでしょ?」

「落ち着く感じは変わってないよ。インテリアとか俺も好き」

「嬉しいな」




出掛けに緩くエアコンを効かせてきたからほんのり部屋は暖かい。
リビング行っててねって、隆を扉の向こうへ促して。
俺はキッチンで準備…と思ったら。



「俺も手伝う」



そう言って隆も腕まくりして目をきらりと光らせた。
こうなると断っても引き下がる奴じゃないのは知ってる。それに俺も一緒にやれたら嬉しい。
じゃあお願い。冷蔵庫に入れておいたオードブルを皿に盛り付けるのを隆に任せて、俺はシャンパンとグラス、それからケーキを取り出す。
それらを運んで、隆がキッチンにいる間に寝室からそっとプレゼントを取ってきてリビングの置き時計の陰に見つからないように置いた。
そのタイミングで…




「イノちゃんできたよ」

「ありがと、隆ちゃん」

「美味しそう。こんなに用意してくれてありがとう」

「そりゃあ、」

「ん?」

「隆と過ごすんだからさ」

「!」

「な?」

「ぅん」





乾杯。

シャンパンは隆に似合いそうな薄紅色のを選んだ。
部屋のライトも今夜は控えめに、薄暗いからその分キャンドルを灯す。
ひとりで飾り付けたツリーも部屋の片隅で静かに光る。
側から見たらいかにもなクリスマスの様子って感じだろうけれど、いいんだ。
好きなひとと過ごす為に頑張って格好つけた感じ満載でも、それがいい。





「ーーーなんかすごく…」

「ん?」

「不思議」

「不思議?」

「ーーーん、イノちゃんと…こうしてるの」




早々にシャンパンで酔いが回ったのか。
とろん…とした隆の肩を引き寄せて、そのまま腕の中に閉じ込める。
すると今の台詞だ。



「隆とこうしているのが?」

「メンバーじゃなくて、ひとりとひとりで…って」

「隆を抱きしめているのがって?」

「そ、だよ」




腕の中の黒髪にきらりと光るのは、俺がプレゼントしたルビーのついた銀のヘアピンで。
(俯いて譜面に書き物してるとき、隆が度々長めの横髪を耳にかけているのを見てたから。つけてみていい?って訊いたらはにかんで頷いて。それが可愛くてもう堪らな…)
まぁそんな経緯のあとこうして抱きしめていい雰囲気になって。




「不思議だけど、でももう後戻りできないくらい隆が好きだって思う」

「っ…」

「好きなひとの前だから格好つけたいし、何でもしてあげたいって思うし、抱きしめたいし」

「ぅ、うん」

「ーーー触りたいって、焦ってるつもりはなかったんだけど、やっぱり今日って日は特別な気がする」

「ーーー特別?」

「うん」






キシッ…



「…ぁ、」




キャンドルの揺れるオレンジ色の光の中で、隆の黒髪がソファーの上に散らばる。
大事なものが壊れないように、大切に恋人を押し倒して、閉じ込めて覆い被さって。
じっと潤んだ瞳で見上げてる隆に微笑みかけた。




「ーーー抱いてもいいか?」

「…あ、」

「隆」

「ーーーイノちゃん、」

「ーーーーーいい?」



ふわっと頬に朱が散るって、こんななんだ。
潤んで濡れた様子ってこんなに綺麗なんだ。
綺麗で、可愛い。
守りたいし、全部欲しい。
興奮でおかしくなりそうな、愛おしい気持ち。




「…隆」



色付いた頬を手のひらで包んで、指先で唇に触れる。
すぐに薄く唇が開かれて、誘われるようで。



「…っふ…ぁ」

「…は…っ…」

「ーーーん、っ…んん…」



髪を撫でて、唇を重ねながら。
隆の服の裾から手を挿し入れて肌を弄る。
熱い…さらさらした隆の肌。
唇も…びっくりするくらい熱い。
微かな甘い声の混じる吐息も熱い。
俺の腕に縋る隆の手も…熱い。

熱い…熱い…隆の身体。
部屋があったかいから?
初めて抱き合う前だから?

それにしたって…こんなに熱いもんか?

ーーーーー…って……。



ふと、思い出す。
待ち合わせの後、手を繋いで歩きながら感じた、隆の手の…




「ーーー隆ちゃん、ちょっと」

「…んっ…ぇ?」

「ごめん、いい?デコ」

「?…デ?」



こつん。

隆の前髪を掻き上げて、額同士くっつける。
…と、途端に拾い上げる隆の体温。



「…熱」

「あつ?」

「ーーー隆、熱あるだろ」

「ぇ…」





















pipipipi。



「ーーーー38.3℃…」

「…え、そんなに?」

「ほら。しっかり発熱」



半信半疑なのか、隆は目を丸くしてこっち見るから。
間違いじゃないよって、体温計を見せてやると、あぁ…と脱力。
怠いとか熱いとか、そうゆうの無かったのか?



「…だって、」

「ん?」

「ーーー今日…もしかしたら…って、思ってて」

「ーーー」

「多分…熱が出てる以上にどきどきしてたんだと思う」







〝ーーーーーいつか…そうしても、いいか?〟

〝抱いて、いいか?〟


それは秋口の約束。







「イノちゃんと今日を過ごすの、楽しみと…恥ずかしいんだけど緊張…してたから。ーーー熱なんて気付いてる余裕なかったのかも…」

「…隆」

「ーーーーーごめんね、せっかくのクリスマスなのに、」




しゅん…と、ソファーの上で肩を落とす隆。
その姿がいつもより頼りなく見えて、なんてゆうか…




「隆」

「…ぅん?」

「りゅーう」



ぎゅっと抱きしめる。
いつもよりあたたかい隆の身体を。
いや、身体だけじゃなくて。
色んな感情でぐちゃぐちゃになってる可愛い恋人を。




「ーーー隆も待っててくれたんだ」

「…っ、」




俺の背におずおずと縋る隆の指先にきゅっと力がこもる。
その指先が教えてくれる。
そうだよって、隆の気持ちだ。




「すげぇ嬉しい。隆もそう思ってくれてたんだって、それだけで」

「…ノ、ちゃ…」

「今日は最幸のクリスマス」

「ーーーっ…」



そうだ。
今日を君といられる。
特別な気持ちで繋がれた君と一緒に。
焦ることは全然ないんだ。
その時が少し伸びただけって考えたら、また待ちの時間も楽しみってもんだ。
だってさ、冬はまだまだこれから。
温もりが恋しい寒さは続く。




「まずは隆の風邪しっかり治してさ、それから…」

「イノ、」

「今度は最後までセックスしよう」

「っ…ぁ」



言葉選びが直接的過ぎたか…。
途端に顔を真っ赤にさせた隆は俺を直視できないのか、俺の胸の中に顔を埋めて。
こくり…と、頷いてくれたんだ。














end...?





















ほら、それだけで俺は幸せ。



「ベッド行こうか」

「ーーーーー…(こくり)…」

「(…あーぁ…くそっ…可愛い!)ーーー今日はのんびり寝てよ」

「…ん、」





これだけ発熱してたら怠かろうし辛いだろう。
俺は隆を抱き上げると寝室へ向かう。
抱き上げられて隆は目を丸くするけれど、ベッドに着く頃にははにかんで俺を見上げてた。



「あったかくして、そうだ水も持ってこような」

「ありがとう」

「あれかな…額とか冷やした方がいいかな。うちデコに貼るやつ無いんだよな…買ってこようか…。あ、あと風邪っていったら…林檎?あ、プリンとかゼリー??」

「イ、イノちゃん…いいよ、そんな」

「遠慮しなくていいんだよ、隆いま体調が良くないんだし。消化にいいもの摂ってよく休んで…な?俺ちょっと買い出し行ってくるから」

「ーーーっ…」

「すぐ戻るよ」




キシリ…。隆をベッドに寝かせてそっと身体を離す。
俺の頭の中は隆の看病のことで実はこの時いっぱいで。
あれ買ってこれ用意してあげたいとか、そんな事を考えていたら…だ。




「ーーーここにいて」

「!」

「嬉しい。…でも、イノちゃんがここにいてくれるのが…もっと嬉しい。ーーーもっと…良くなる」

「ーーー隆、」

「一緒にねよ?」






ほら、それだけで俺は幸せ。







キシッ…


隆の横たわる隣に身体を滑り込ませる。
触れる隆の足先が熱い。
布団の中はほんわかあったかい。
俺も横たわると、間髪入れずに隆を抱きしめる。
守ってあげたい欲が込み上がる中で、看病する意欲で一瞬忘れていた興奮が、また顔を覗かせる。




(…っても、今日は我慢)



ぎゅっと目を瞑り、頬に触れるふわふわした隆の髪の感触を感じながら決意新たにしていると、そっと隆の手が俺の腕に触れた。
そして熱で掠れた声が、微かに空気を震わせた。




「だいすき…」




「ーーーーー」

「……イノちゃ…」




俺の腕に触れていた隆の手が少し重みを増した。
そっと顔を覗くと目を瞑って、すぅすぅと寝息を立てる。
少しだけテンポの速い、風邪ひきの呼吸で。

眠ったみたいだ。
安心してくれてんのかな。






「ーーーーーあーぁ…」



独り言は控えめな声で。
しかし言わずにはいられない。



「可愛いすぎだろ…ったく…」





ほら、それだけで俺は幸せ。




「隆」

「…ん、」




まだまだ続く冬の日々で。
またこんなふうに一緒にいよう。
あったかい部屋の中で、服も全部脱ぎ去って。
今は眠る君に。
次は交わした約束の中で君に伝えたい。





「愛してる」









end.
 
Merry Christmas.・❄︎。゜








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