短編集・2
「…っ…んく…」
「ーーーーー」
「ひっ…く、」
「ーーーーー」
「…ぅ、く…っ…」
「ーーーーーーー…」
まいったなぁ…
隆は泣く。
実はすげえ泣き虫だって知ったのは隆と一緒にいるようになってから。
ふたりきりの時に、それは唐突に。
一度泣き出すと、堰切ったみたいに泣く。
普段は気遣い屋の隆。
周りには見せてないだけで、抱えるものも、我慢も、たくさんあるんだと思う。
大人だから。
…とかさ。
それは関係ないよな。
泣きたいなら泣くべきだと思うし。
俺が。
その泣ける場所になってあげられてんのかな…って。
そう思うと。
嬉しい。
誰の前でもいいわけじゃないよって、言われてるみたいで。
愛おしい。
「…っ…ん、んっ…」
「ーーーーー」
「ふ…っ…ぅ…」
しかし。
今日はまた…泣き止まないなぁ…。
身体の水分が全部涙になってんじゃないか?ってくらい、隆の瞳からは次々と水玉が溢れてく。
睫毛も濡れてまとまって。
頬っぺたも唇も赤く潤んで。
しゃくり上げる涙声も。
ぶっちゃけ、可愛くて堪んないんだけど。
「…ぇ、えっ…ん…」
「ーーーーー」
…本人はそれどころじゃなさそうだ…。
理由はわからない。
わからないけれど。
俺にできる事。
俺しかできない、俺だけに隆がゆるしてくれてる事。
側にいる事。
肩を抱いて。
もたれ掛からせて。
背中をさすって、宥めて。
隆の全部を引き受ける事。
泣くのは悪いことじゃないけど。
案外体力使うって思うから(泣き暮れた後のぼんやり感って半端じゃないじゃん?)
恋人として。
なるべくなら泣き止める方向に導いてあげたいとも思う。
さて。
「隆」
「…ん、んっ…ん」
「そんな…しゃくり上げて」
「ぇくっ…ん…」
「ーーー…うーん、なぁ?隆」
「…?…ん、んっ…?」
時刻は夜。
19:00ってところ。
夜風も程よく、ちょい蒸し暑いって感じ。
「気分転換。少し出ない?」
夜散歩。
サンダル。
着慣れたTシャツ。
出掛けにシュッと、アロマのスプレー。
パッと広がるローズマリーとミントの香り。
蚊除けにも良い。
「…ん、」
「ーーー隆」
「っ…ふ、」
「いっこ先のコンビニ行こうか。アイス買お?」
「っ…」
「隆の好きなチョコと、」
「ん…っ…ん…」
「あとなんか…隆の欲しいもの」
「ーーーーーっ…ィ、」
「ん?」
「…ノ…ちゃん…の、」
「ぇ、?」
「ん…んっ…アイス…コーヒー」
「!」
ぎゅっと、隆の手を繋いだ。
それは俺からの返事。
嬉しいって意思表示。
ぐちゃぐちゃに泣いてるくせに。
しゃくり上げて、上手く話せないくせに。
俺を想ってくれる言葉。
それが嬉しい。
ヤバいくらい、愛おしい。
「ありがと。俺もアイスコーヒー、飲みたいって思ってた」
「…ん、」
暗闇で、隆がんほんのり微笑んだ気がして。
やっぱり可愛くて、繋いだ手を引いて。
顔を寄せた。…
ひゅ…っ…
どっ…ん…!
「え?」
「…ぁ、」
どんっ…どん…
どん…っ…
ぱらぱらぱら…
「ーーーーーあぁ、花火だ」
「ぅん、」
「すげぇ、ちょうど良かったな。外出たタイミング」
「ん」
ひゅるる…
どん…っ…
どどんっ…
「ーーーーー」
「ーーーーー」
花火見てる時って。
なんでか会話が途切れる。
好きなひとの側で見てんのに、感想のひとつふたつで、その後はじっと見入って。
でも。
隆と夏を迎える毎。
こうして花火を見る度に、思う。
ああ、余計な言葉は無くても平気なんだって。
側にいるから、それだけで。
「ーーーーー」
ちらっと、隆を見る。
よかった。
涙は止まった…みたいだ。
涙で濡れた頬に花火の光があたって。
瞳もきらきらして。
ーーーああ…ヤバい。
やっぱりめちゃくちゃ可愛い。
可愛いって、家からずっと思ってんだから。
「隆、平気か?」
「ん、」
「もう、」
「ぅん…ありがとう」
「ん」
「イノちゃん。…元気、出た」
「そっか、」
「ーーーん、」
「そっか…」
「ーーーーーー…ノ…」
ぎゅっと抱いた。
ふたりして少しだけ汗ばんだ肌。
ローズマリーの香りが夏の空気に混じる。
俺らの横顔に、花火の光り。
唇を重ねる。
「…んっ、」
髪を撫でて、頬に触れて。
「ン…っ…ぁ…ん、」
涙の味のキス。
「りゅ…っ…」
全部が愛おしいんだ。
「ーーー全部…ぜん…ぶ、」
隆。
「好きだよ」
end
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