夏色。













さっきまでいた海岸のすぐそば。
まだホテルに帰る気になれなくて。
あてもなく夕暮れの道に出て、足の赴くままに歩いていると。
もしかしたら夏祭りがあるのかもしれない。
地元の子かな?
金魚模様と朝顔の浴衣のちっちゃな子達。
兵児帯の鮮やかなピンクや青が夏らしい。
そんな人の波が出来ていて、俺もそちらの方へ着いて行く。





「あ、」



やっぱり。

太鼓の音。
向こうの神社に小さな御神輿。
町内の夏祭りなんだ。
法被を着た威勢の良い男衆の中に我らがドラマーが混じっていそうで、つい微笑みが溢れてしまう。





〝なにやってんだぁ?隆ちゃん〟

〝せっかくの夏旅なのにイノとケンカか?〟



そんな朗らかなドラマーの声が聞こえてくるようで。




「いいでしょ」

「…ほっといてよ」




そんなの。
わかってるんだから。



本当だったらこんな夏祭り。
…彼と一緒ならどんなに楽しいか。













ちり…ん

りーん…






ああ、夏の音だ。

薄いガラスの内側から、水色のそよ風が溢れるような。





神社の脇の道に少しの屋台。
古い木枠いっぱいに吊り下がっているのは風鈴。
それぞれに絵も色も違って、音色も違って。
眺めているだけで気持ちがほわん…と解れるよう。





「わぁ、かわいい」




花火、波紋、魚、西瓜、朝顔…




「きれい」



せっかくだからひとつ買おうかな。
でも、たくさんあってちょっと迷う。




ちりん…






〝隆〟


〝隆、どれがいい?〟




「え、?」




耳元で。
彼の声がした気がして。
はっとして、振り返る。




でも。




「ーーーーーー気のせい…か」



気のせい。
いるわけないのに。
俺がここにいるって、知るわけないんだから。

ーーーそれなのに今、なんでこんなに落胆してる?

ーーーどこかで。

もしかしたら迎えに来てくれるって、期待してるからじゃないの?






ーーーーーばかみたい。

甘くて。

ばかな俺。











コトコト。


屋台のおじさんが手渡してくれた小さな箱には、買ったばかりの風鈴。
俺が歩く度にコトコト箱の中で音がする。
早くここから出たいって。
夏風に揺れたいって言ってるみたい。

俺が選んだ、青い朝顔の絵の風鈴。




来た道をゆっくり引き返して海岸へ戻る頃。
もう夕暮れ空は夜の気配。
向こうの空に陽の光をほんの少し残して、反対の空には星が光る。


ずいぶんひとりで過ごしたんだな…。
いい加減、そろそろ戻らないと…










ざ…ん…

ざざざ…ん





暗くなった海岸。

人影は、もう無いみたい。



そうだよね。
だってもう、家に帰る時間。

いつもの俺だったら、すぐにあなたの元へ帰ってる。

誰もいない海岸を歩くとき、いつも側にあなたがいてくれる。

でも今は…
あなたはいない。





今日何度目だろう?
あなたがいるかもって思いながら、振り向くの。




ざ…ざ……ん…

ーーーーーざ……





「ーーーーーばかみたい…」


「…っ……ばかみたい!」






期待している自分も。
甘い自分も。
せっかくの旅なのに素直になれない自分も。
ごめんなさい、が言えない自分も。

ひとりだと。

こんなにも弱い自分。




全部全部。







「…っ……ふ…」


「ぅ…っ…ぇっ…ぇ…」





ぽたんぽたん、涙が落ちる。

一緒にいたい。
いつだって、どんな時だって。
離れたらだめなのに。
生命あるもの。
限られた時間を一欠片も無駄にしたくないのに。
あなたと過ごす時間を、一秒でも多く欲しいのに。

意地張って。
こんなことしている場合じゃないのに。



このまま会えなくなったらどうするの?





「ーーーーーーなさ…」

「…ノちゃ……ごめ…っ…」





どうするの?
















「ーーーーーー隆…っ…」





ざざっ…ん…

ざぷ…ん…





「隆っ…隆!」




ーーーーーあ、




「…んくっ…」


「隆!」


「ーーーひっ…く…」




ざざ…ざ…ん

ざん…




「ーーー隆」




声…
好きな…声。




何度目なのか…もういい。
きっと俺は涙でぐちゃぐちゃ。
好きなひとに見せられる顔じゃないと思うけれど。

今振り向いたら、後ろにあなたがいるってわかるから。
いてくれるのがわかるから。






「ーーーーーっ…ィノちゃ…」






暗くなった海で抱き寄せてくれる優しい腕に。

まずはごめんなさい、と。
それから、数え切れないくらいの好きを。














end?…



























砂浜で抱きしめ合って。
二人で何度もごめんねって言い合って。
手を繋いで、ホテルまでの海岸線を歩いて。
夕飯は部屋で食べようって、途中のコンビニで食事も買って(イノちゃんが買ってくれちゃって)

ようやく部屋について、シャワー浴びて。
テーブルに置いた小さな小箱を見つけたイノちゃんが、それなに?って。





「風鈴?買ったのか?」

「うん」

「へぇ、どんなの?」

「えっとね、」






ちり…ん





「青い朝顔」

「夏らしい」

「可愛いでしょ?たくさんあって迷っちゃった」

「…綺麗だな」

「ね?」

「絵も音もそうだけど」

「ん、?」

「隆が」

「ーーーぇ、?…ぁ、」






ぼふんっ





視界がまわって。
ぎゅっと手首が抑えられた。
シーツの感触。
真上には…不機嫌そうな…イノちゃん。

…まだ怒ってる?






「…ちょっ…」

「なに。じゃあ隆は屋台で無防備に風鈴見てたってのか?」

「っ…そうじゃなきゃ選べないでしょ?」

「わかってないな」

「はぁ?」

「ケンカして気怠げな顔で、海で汗かいて髪も肌もしっとりさせて、凶悪なまでに可愛い顔で祭り会場ほっつき歩いて風鈴見てたって事だろ??」

「ーーーーーっっ…」

「ーーー意地張ってすぐ迎えに行かなかった俺が悪いんだけど…」

「…ぇ、」

「隆が頑固なことは知ってんだから、そこをちゃんと加味してあげられなかった俺のせいだから俺が悪いんだけどさ」

「違っ…俺も、」

「俺が悪いの。好きな奴すぐ迎えに行かずに泣かせたって時点で俺が悪い。それにさ、」

「ーーーイノ?」

「つか、そうじゃなくて」




キシッ…





「ーーーーー隆…可愛いんだから」

「ーーーぁ…」

「無防備なのとか可愛いとか綺麗とか、」

「っ…ん、」

「ーーー泣き顔とかさ」





ちゅ、ちゅぷっ…





「ん…んっ、」

「ーーーーー気が気じゃない。他の奴に見せんな」




啄むキス。
何度も何度も、唇を触れ合わせて。
物足りなくて、舌先をそっと出して強請ったら。
噛み付くみたいに深いキス。

ーーーイノちゃんの表情。
ヤキモチの苦笑と、それから。
もぅ…余裕のないカオ。


俺の手から風鈴を奪い取って、サイドテーブルにそっと置く。
その手はそのまま俺のシャツの裾に入って、さらさらと肌を撫でて。
ギターを弾くみたいに、指先で。
やわやわと胸も撫でて、乳首を摘んで穿られる。
ゾクゾクと快感で身体が震える。



「ーーーっ…ぁ、あん…ぁん…」

「昨夜セックスしなかったし、今日は色々あったから」

「っ…ん、」

「お前をめちゃくちゃ優しく愛してあげたい」

「イノ…ちゃ…」



いつも優しいよ。
泣けてしまうくらい、柔らかく愛してくれてるよ。




「ーーーノちゃ…すき」

「俺も隆がすき」

「 だいすき…」

「ーーーすき…だ」

「っ…ぁ…」

「隆かわいい」



着ているものを一気に脱がされて、イノちゃんもシャツを放って覆い被さる。
ぐっと脚を開かれて、恥ずかしくて閉じようと力を入れたらダメだよって秘部にキスされる。



くちゅっ…ちゅくちゅくっ…




「ぁんっ…ゃ…ゃだ…っ…」

「気持ちいい?まだ指と舌だけだよ」

「ーーーっ…イノ…ちゃ…っ…の欲し…」

「ーーーーー挿れて…いい…か?」



いいよ。
ひどくしてもいいよ。
ぐちゃぐちゃにひとつになりたい。





さっきよりもっと。
頭を抱えるようにキスされて。
唾液が溢れても気にしない。
唇の隙間で、好きと愛してるを繰り返し囁いてくれて。
胸を吸われて気持ちよくて仰け反った時に両脚を抱えられて。
熱くて硬い、イノちゃんの欲望が。
ゆっくりゆっくり、俺の中を犯していく。




キシッ…キシッ…ギッ…





「ぁ…ぁ…っ…ん…ぁん…」

「隆…隆っ…」

「ぁあっ…もっ…奥まで…」







気持ちいい。
痛くて、気持ちよくて。

さっき海で堪え切れなくて泣いていたことが、ゆるゆると解けていく。


でも、忘れてはだめなんだよね。

今はこんなにそばにいる。

だから、どうしても忘れてしまいがちだけれど。


生命あるもの。

いつかはある。


だから、忘れてはいけない。






「あんっ…ぁん…あぁ…っ…」

「ーーーっ…りゅ…出す…ぞ」

「っ…ぁ…あぁっ…」



好きなひとを、時間の限り、愛すること。
あと幾つの夏を一緒に過ごせるのかなんて。

神様しか知らないんだから。


















夏の早朝は水色の明るさ。
シーツはぐしゃぐしゃだけど、タオル地の掛け布団が気持ちいい。




爽やかな旅先のホテルの朝。
一日の始まり。

ーーー俺たちはというと。







キシッ…




「ぁん…っ…」

「足んない」

「も、朝…だよ」

「隆が可愛いのが悪い」




俺の身体は花びらみたいな痕でいっぱい。
昨夜からおかしい。
何度好きだと言っても言い足りない。



ギシッギッ…キシッ…



「ぁん…あんっ…ぁん…」

「ーーーっ隆…」

「ーーーね…イノちゃ…だけ、だよ?」

「ーーーん…?」

「気持ちぃ…の、」

「っ…!」



飾ることなんかしないで。
想う気持ちをそのまま言葉にした。
…ら




「ーーーっ…りゅう…りゅっ…」



イノちゃんは俺をぎゅっと抱きしめて、手加減無しに突いてくる。
じわじわとお腹の奥に広がる熱が愛おしくて、俺ももっと、求めてしまう。




「ぁんっ…ん…もっと…っ…欲し…」

「隆…っ隆…りゅうっ…」

「ーーーっ…ぃイ…ぁあっ…」









〝いい想い出ができましたね〟

〝心も身体も〟



葉山っちの悪戯っぽい声が聞こえた気がした。


そう。
夏の日の想い出。
ケンカ?して、少しだけ離れていた時間を取り戻すように。
俺たちはもうしばらくこのままで。






end






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