夏色。
涼しい木陰で休み休み。
サンダルを履いて、砂浜に続く道を歩く。
ジャリジャリと足音を鳴らして。
自販機で冷たい水を買って。
ようやく暑さに耐えられる夕方、少しだけの時間、波打ち際を裸足で歩く。
ぬるくて薄い波に濡れるだけで、夏だな…って思う。
ちゃぷん…ぱしゃ、
ーーーーーーーーざ…ざ……ん…
ざ…ん……
「ーーー暑いね」
日が暮れ始めても近年の夏は暑い。
夕立なんて言葉、ずっと聞いてないな。
「ーーーーー」
振り返る。
だいぶひとも疎らになってきた砂浜。
帰る準備を始めるひと。
夕方になって、やっと外に出られたって様子で波打ち際を散歩する犬とひと。
「ーーーーー…」
ーーー俺はといえば、ひとり。
「…別にいいけどね」
ざざ…ん……
ちゃぱん…ちゃぷん…
「ーーーーー別にいいもん…」
ひとりだって、海は好きだから。
海は好き。
それはもう昔から。
少しの隙間時間にもひとりで通ってた海。
あの頃みたいに水に入る事はずっと減ったけれど、ここへ来るだけで嬉しい。
「…そうだよ」
ひとりだって楽しい。
ーーーほんとに?
「ほんと」
ーーーほんとの、ほんと?
「ほんとのほんと」
ーーーーーーーー彼が…
「…」
いなくても?
「…ほんと…ぅ」
ーーーーーそっか。
「ーーー…」
ーーーそっか。
ざ……ん…
ーーーーーーーざぷ…ん…
「……嘘」
「嘘…」
ーーー嘘?
「さみしい」
「ーーーほんと…は、」
「さみしいよ」
ーーーイノちゃんと。
夏の僅かな二日間。
重なったオフ。
二人でささやかな、小さな旅行に出た。
行き先はちょっとだけ迷ったけど。
二日間しかないんだから往復に時間かけるより、近場にしようって。
通い慣れた海のそばのホテル。
シーズンオフの空いてる時なんかはよく来る大好きなホテル。
でも今の季節はあっという間に満室になる海のホテル。
諦めも用意して、予約サイトを開いた時に奇跡的に開いていた一室。
喜び合うより先にイノちゃんが手早く予約してくれて。
予約確認メールが届いて、そこでやっと喜び合った俺たち。
(夏休みって感じだね、嬉しいね)
(な、隆と久々に旅行!)
(うん!)
(すげぇ楽しみ!)
そんな風に言い合って、遠足みたいにオヤツとか買って。
前日なんかワクワクしてて仕事中もふわふわしてて。
何かあるんですか?って、葉山っちにも色々ばれて。
楽しんできてくださいね!って帰りに言ってくれて。
今日は早く寝ようね!って、前日の晩はイノちゃんとえっちはしなかったら。
じゃあせめて抱きしめさせてって、俺をぎゅっとしてくれて。旅先では覚悟しとけよって、イノちゃんは悪い顔で笑って。
翌朝は天気も上々。
良すぎて暑い夏の日で。
ーーーそんな楽しみな旅の始まり。
なのに、ちょっとだけだったと思う。
はじめは。
ほんの少しの言葉の…すれ違いっていうのかな。
すれ違って、冗談まじりみたいな言い合いになって。
その時にお互いごめんねって言えば良かったのに。
言えなくて。
もしかして謝るほどじゃないって思ったのかも。
そんなわけないのに。
謝れば良かったのに。
冗談まじりが、そうじゃなくなってしまって。
ホテルに着く頃、会話は必要なものだけになっていて。
部屋に着く頃には、背を向けてしまっていた。
「ーーーーー」
「ーーーーー」
何やってんですか?あなた方は…
葉山っちの溜め息まじりの声が聞こえた気がした。
いたたまれなくて。
「ーーーーーーー散歩…してくるね」
「ーーーーー」
返事は無くて。
ルームキーのカードを一枚持って、ドアのそばで。
そっと振り向いても、イノちゃんは背を向けたままで。
ぱたん。
俺は…外へ。
海へ。
滲んで揺れる視界を、どうにかするために。
to be continued …
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