短編集・2














beautiful world.番外

◻︎◻︎◻︎フェアリーの生まれた夜◻︎◻︎





















良い夜だ。









ぱち…ぱちっ…

ぱち…




カラ…

ぱきっ






「ーーーーーーー」


ぼぉっ…
ぱちぱち…っ…








春とはいえ今夜は冷える。
イノランは肩に掛けた外套の襟を引き寄せると、手折ったばかりの枯れ枝を火の中に焚べた。
オレンジ色の火の粉が細かく散って、イノランの表情を煌々と照らす。



「ーーーーー」



静かな夜だ…と、イノランは思った。
この辺りの林には妖獣は出ないだろうが野生の獣はいるだろう。
(もちろん手の届く場所に相棒の剣は置いて)
夜間の獣除けの為にも火を絶やすことは避けなければならないが、今夜は穏やかだ。
耳を澄ませると聴こえてくるのは、カサカサと動き回る小動物の足音と、時折夜風で揺れる草木の音。
ホゥホゥ…と林の奥から聴こえる梟の声と。
それから…





「ーーーーーーーーーーーん…」



イノランの隣ですやすやと眠る、フェアリーの寝息だけ。
もそもそと身動ぐフェアリー、リュウイチの姿を見て。
起こしてしまったか?…と、枯れ枝を焚べる手を止めてじっと見つめると。




「ーーーーーイノ…ラン…?」



ーーー案の定だ。
何度か瞬きをしたリュウイチは、ふっ…と目を開いて寝起きの掠れた声でイノランの名を呼んだ。




「…わりぃ、」




ぱち…ぱち…っ…




「起こしちまった」




草の上で外套に包まって横になるリュウイチは、イノランの方を向いてほんのりとした微笑みを浮かべて。
ごめんな、と。黒髪を撫でるイノランの手にすりすりと頬を擦り寄せた。
その仕草にイノランの胸がどきん…と高鳴る。




「夜は長い。まだ寝てな」



まだ眠そうな恋人に襲いかかって眠りの邪魔はしたくないと思うのに。
当のフェアリーときたらそんなイノランの心情などお構いなしだ。
コシコシと何度か目を擦ると、ゆっくりと起き上がって、ぅん…と伸びをする。
その時にフェアリーの羽がふわっと広がって、七色の光の粉と焚き火のオレンジ色の火の粉が混じってそれは綺麗だった。



「起きる」

「リュウ…」

「イノランが起きてるなら俺も」

「ーーーいいんだよ、俺は勝手に起きてるだけなんだから」



夜の森の獣からお前を守りたいから、とはイノランは言わない。
そんな事を言ったら、守られるばかりは嫌だと頑として眠らないことを知っているから。
ーーー案外、頑固な面もあるフェアリーなのだ。
それにそれだけではなくて。
静かでいい夜の時間を二人きりで過ごしたら、何度だって求めてしまいたくなる。
惚れたひとが隣にいるのに耐え続けるのはつらい。
それならこうして恋人の寝顔を守りながら、夜の火の番をしている方がイノランにとってはいい時もあるのだ。

すると、そんなイノランの苦悩(?)を知ってか知らずか。
リュウイチはぱちぱちと燃え続ける焚き火の火をじっと見て。


「あったかいね」


ふふっ、と。
微笑みながら、白い指先を火にかざす。


「イノランが守ってくれてる火」

「ーーー」

「ーーー俺も一緒に」



ね?


「ーーーーーリュウ、」


(かなわないなぁ…)



リュウイチには全部わかっているのだろう。
夜の危険も、二人の夜の意味も。

わかっているから、一緒にと願うのだ。













ぱちぱち…っ…






夜の青が深くなった。






時折ぽつりぽつりと話していた二人。
イノランが淹れた温かいお茶を飲み干した頃リュウイチが言った。




「ーーーね、イノランってお誕生日はいつ?」

「誕生日?」

「うん!」

「すげぇ久々。自分の誕生日とか」

「そ、なの?」

「旅してると、なかなかね。忘れる」

「お誕生日どころじゃない?」

「まぁ、な」

「ふふっ」

「ーーー俺が生まれたのは秋だ」

「わぁ、いいね」

「いい?」

「実りがたくさんある季節。森の中は美味しいものいっぱいでしょ?」

「…食い意地はってるみたいじゃん」

「いいの、それがいいでしょ?俺も秋は大好きだよ。空気が冷たくなってきて、森が色付いて、空が青くて高くなって」

「ーーーーーリュウが言うと…」

「ん?」

「自分の生まれた季節がめちゃくちゃ誇らしく思える」

「!」

「ありがとう、リュウ」



一番季節を感じられる自然の中で暮らしてきたフェアリーに言われるからこそ、嬉しさも大きい。
今年の誕生日はこの恋人と一緒に過ごせるのだと思うと秋が待ち遠しくなった。

ーーーでは?





「リュウは?」

「ん?」

「リュウは、どの季節に生まれたんだ?」



フェアリーにも生まれた瞬間があるだろう。
リュウイチにも、それは同様に。



「ーーー白い花の木の下で、」

「え?」

「イノランと初めて出会ったあの森の奥の…フェアリーの赤ちゃんが生まれる白い花が咲く木があって」

「ーーーーーリュウは生まれ…た?」

「ーーー今頃の季節にね」

「!」

「今頃はあの森の俺の生まれた木は白い花がいっぱい咲いてると思う」



どこか懐かしそうに目を細めるリュウイチは、生まれ故郷の白い花を思い出しているのだろうか。
今頃の…春の季節に生まれたこのフェアリーは。



「ーーーじゃあ、リュウ」

「ん?」

「誕生日…ってことか」

「ーーーーーん…。明確な日っていうのはわからないけど」

「でも、それでもさ」

「…ん」




生まれてきてくれなければ出会えなかった。
春生まれのリュウイチと、秋生まれのイノランが。
四季の輪の中で、同じ世界で生まれて。
出会って、恋して、今こうして一緒にいる事が奇跡のようで。




「…ぁっ…わぁ」

「ーーーリュウ」



ぎゅっと、イノランは傍らの恋人を抱きしめた。
愛おしくてたまらなくなったから。

生まれ故郷の森を恋しく思うこともあるだろう。
生まれた季節…春が巡るたびに懐かしく思うだろう。
仲間と離れて、恋したひとの側を選んだリュウイチ。
自らが選んだ事だけれど、それでも。

白い花を見つけるたびに、胸を軋ませているのだろうか?




「ーーーリュウ…」

「…ぁ」


正面から抱き寄せて、こつんと額を重ねて。
イノランの両手は、リュウイチの襟足の髪とフェアリーの羽を撫でる。
くすぐったそうに身を捩るリュウイチを許さないとばかりに、イノランはもっとぎゅっと抱きしめる。
額に口付けて、瞼にも唇を寄せて。

耳元で。



「リュウが生まれてきてくれたこと」

「っ…」

「嬉しいよ」

「ーーーん、っ…」

「リュウ、」

「…ぁっ…」



出会ってくれてありがとう。
これからもずっと好きだから。

そう、イノランは恋人に告げながら。




するりとフェアリーの纏う白い服を滑り落として、リュウイチの唇に自身のそれを重ね合わせた。
キスを始めたら止まらない。
何度も角度を変えて、舌を絡めて。存分に唇を貪って、そのまま首筋を舐めて、胸元へ。
白い布の隙間から覗く胸を手のひらで揉むとふっくらと膨らんで。ツン…と色付く先端は舌先で穿って啄んだ。


「…んっ…んん、」

「ーーーリュウ可愛い」

「ゃっ…ん」



焚き火のオレンジ色の火に照らされながら擦り寄る姿に、早々に我慢なんて出来なくなって。
イノランはリュウイチの腰を引き寄せて自らの膝の上に跨がせる。
一瞬目を丸くしたリュウイチだったけれど、すぐにイノランに腕を絡ませてにっこりと微笑んだ。



「ーーーお誕生日のプレゼントみたい」

「ん?」

「ーーー…いま、こうやって、」

「ーーーああ、そうだな」

「してくれる…の……っ…ぁ…」



言い終わる前に。
イノランはリュウイチの秘部に自身を押し当てて。
そのままゆっくりと揺すりながらリュウイチの中を満たしていく。



ちゅっ…くちっ…
…くちゅ…


イノランを受け入れる濡れた音が静かな夜の空気に響いて、それを聞くだけで鼓動がもっと高鳴るよう。



「ぁっ…あ…ぁん…んっ…ん…」

「ーーーリュ…ウ…っ…気持ちいい?」

「…っ…ん……ぁんっ…ぅん」


気持ちいい…
そう、ぎゅっと抱きついたイノランの耳元で囁いて。
羽を揺らしながら自らも求めて腰を振るリュウイチが可愛くて。ついさっきリュウイチの寝顔を見ながら考えていた事を思い出して苦笑した。


(側にいるのに触れないなんてやっぱり無理だ)

神聖で稀な存在のフェアリーを抱くなんて罰当たりかとも最初こそは思っていたが、リュウイチの側にいたらそんな考えは吹き飛んだ。


〝好きになったらひともフェアリーも関係ない〟


それは何度目かにリュウイチを抱いた時にリュウイチがくれた言葉だった。





「ーーーぁ…っん…ゃ…」

「ーーー何度…こうしても…足りない…よ、」

「ん…っ…ぅん」



こくん、と。
涙を溢して、はにかんで頷く姿が愛おしい。
込み上げる熱をどうにもできなくて、イノランは愛撫の手を止めずに抜き挿しを繰り返す。



「ぁんっ…ぁ…んんっ…」

「ーーーリュ…ウっ…」

「…ぁっ…ぁ…イノ…ラ…っ…もぅ…」

「いい…よ」

「ーーーーーっ…ぁ…ぁん」





夜の空気の中で、焚き火の灯りに照らされて。
剣士はフェアリーの手に手を重ねて、ぎゅっと絡めて。
声にならない声をあげて、放つその瞬間を二人で迎えたのだった。

































ピチュ…ピチュピチュ…
ルルル…リリリリ…






目覚ましは鳥の声。










「…ん、」

「リュウ?」




もそもそ。
イノランの腕の中でリュウイチが身動いだ。

結局昨晩もリュウイチを抱いてしまった。少々寒い夜だったのに…と、眠っているリュウイチを見つめながら反省もしたのだが。
好きなひとの柔らかな肌とあたたかい身体を前にしたら仕方がないと納得することにして。
せめて風邪など引かさないようにと、イノランは自分の外套もリュウイチの肩に羽織らせて夜を明かした。



「ーーーーーイノ…」

「起きたか?」

「ん、おはよう」

「おはよう、今朝も冷えるな。もう少し薪を焚べるからちょっと待っててな」

「ぅん」




薪に手を伸ばす。
少し離れた隙間も今は寂しくて。
リュウイチはイノランにぎゅっと抱きついた。



「リュウ?」

「…」

「寒い?」

「…」

「すぐにあったまるよ…火」

「ーーーーーなく…て」

「ぇ、?」

「そ…じゃなく…て」

「ーーーリュ…」





ちゅっ。


「…っん、」

「ーーーっ…は、」

「ふ…っ…」



これは目覚めのキスというにはあまりに深く。
伏せた瞼と震える睫毛に、イノランはまた愛おしさが込み上げて、その身体を抱きしめた。
リュウイチの気持ちがわかるから、尚更。




「ーーー俺も同じ。したばっかりだから」

「…ん」

「離れらんないな?」

「っ…ぅん」



だいすき。
そう言いながら擦り寄るリュウイチがやはり可愛くて仕方がなくて。
しばらくは飽きることなく唇を重ねてお互いを求めていたが。


くぅぅ〜



「あ」

「あ」



空腹の音で、ここらで中断とばかりに。
くすくすと二人で笑って。
リュウイチの服を整えて、朝食を一緒に作って食べて。


まだ空が朝靄で白む中、手を繋いで歩き出す。
歩きながら、イノランは心密かに考えていた。

人々の街はまだ遠い。
一番近い村でも、まだ三日はかかるだろう。
ならばこの森の中で。
進む先の林や花畑で。

隣を一緒に歩いてくれる最愛のフェアリーへ誕生日祝いを。

白い花で編んだ花冠か。
野苺や木の実を摘んだ籠か。
美しい鳥の羽。
艶々と光る小川の石か。

フェアリーへの誕生日プレゼントは、さあ何がいいだろう?



「ーーーリュ…」



…ウは、プレゼント何がいい?
そう聞こうとして、言いかけてやめた。
ちゃんと考えて、プレゼントをあげたいと思ったから。



「?ーーーなぁに?」

「や、なんでもないよ」

「ふぅん?」



(ーーー何か、特別なもの)

(見つけてあげたいな)



再び思案に暮れながら、朝靄の道を歩く。
そして頭の中に叩き込んである地図上で、そういえば…と、ある事を思い出して立ち止まった。



「?ーーーーーイノラン?」



急に足を止めたイノランを不思議そうにリュウイチは見つめる。
なに?という視線をイノランに向ける。
それを受けたイノランは、にこりと笑って。
次の瞬間。



「…っわぁ!」

「リュウ、」

「イノラ…っ…⁈」

「しっかり掴まってろよ」


急にだ。
ふわりとリュウイチを横抱きにして、愛剣は背に担いで。
イノランは朝の森を駆け出した。
疾走という言葉がぴったりな具合に木々の隙間を駆け抜ける。
しかもリュウイチを抱えながら。
息ひとつ切れない様子のイノランを間近で見つめながら、リュウイチはどきどきしながらイノランに身を任せた。






トッ。



どれくらい流れてゆく景色を眺めていただろう。
とある場所に来たところで、イノランの足が止まった。



「ーーーイノ…」

「着いたよ」

「…ここ?」

「ああ、」



すとん、と。
イノランは腕を緩めてリュウイチを降ろす。
少しばかり足が縺れてしまったリュウイチをイノランがすかさず支えて。
大丈夫か?と、肩を抱く。




「すごいね」

「ん?」

「イノラン。息のひとつも切れてない」

「あー…。まぁ、一応さ。体力必要な剣士だし」

「ん、」

「リュウを抱いて走るくらいなんてことないよ」


もちろんリュウにだけだからな?
そう言って頬にキスをして。

それより…と。




「リュウ、ほら」

「ぇ、」

「目の前。見てごらん」

「ーーーーーーぇ?……ぁ、」





イノランの指差す方を視線で追いかける。
するとその光景にリュウイチは目を見開いた。




「…ぁ、」



白い。
白い花を咲かせる巨木。
それは記憶の中の風景にそっくりな。



「ーーーーーリュウの生まれた花の木って、」

「っ…」

「こんなかなぁ?…って」




花の季節の祝福を受けて生まれたフェアリーは。
歌と、花の香りと、愛に包まれる。



「Jと旅してた時に手に入れた地図にも載ってたんだ。妖精の集う巨木って、地図にも描かれるくらい大きな木って。そういえばここの近くだったって、さっき思い出したんだ」

「ーーーイノラン…それでここまで」

「リュウの誕生日だからさ。ちょっと特別で素敵な場所に連れてってあげたいなって」

「ぅん、素敵」

「っ…ほんと?」

「うん。俺の生まれた、俺の住んでいた森の木によく似てる」

「ーーーそっか」

「ーーーありがとう、イノラン」




綺麗な微笑みで、ありがとうを言ってくれるリュウイチを見たら。
ああ、やっぱり。
ここへ連れてきて良かったと思う。
リュウイチの生まれた季節に、懐かしい故郷の風景を。
それがイノランが考えた誕生日プレゼントだった。





















あっという間に夕暮れ。
寄り道をしたから、町へ着くのはもう少し日にちがかかりそう。

でもそれは二人にとっては願ってもないこと。
白い花を黒髪に飾った美しく可愛いフェアリーと、二人きりでまだしばらく森を歩けるのだから。





「ーーー今日は嬉しかった」

「ん?」

「ありがとう、イノラン」

「ああ」



ぎゅっと、イノランの腕に手を絡ませて。
見上げて、見つめて。

でもね、と…。





「一緒にいられることが一番嬉しい」

「ーーーリュウ」

「それだけでいいの」




ぱたぱたとはためく羽は嬉しさの表れだから。
七色の光を纏う恋人に、イノランは何度目かのキスをした。




「誕生日おめでとう。お前と出会えてよかった」










end.

happy birthday!RYUICHI ˚✧₊*・






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