短編集・2
この日の、この時間。
年越しの、この雰囲気。
厳か…な気持ちもちょっとあり。
でもそれ以上にあるのが。
「来年はどんな一年かなぁ」
年末最後までスタジオに篭ってた。
音楽は、どんな時だって音楽で。
いつでもどんな時でも、側にあるものだから。
こんな一年の終わりまで、音楽に浸っていられる事が幸せなんだ。
「りゅーちゃん、支度終わった?」
帰り支度をする俺の背後から、イノちゃんが言った。
今日は俺の用事の仕事だったけど、夕方頃にテイクアウトの夕飯を持って遊びに来てくれたんだ。
「隆、買い出し出掛ける暇も惜しんでると思って」
そう言って笑いながら差し出してくれたのはお蕎麦。
それから何故か熱々のマルゲリータピザ。
年越し蕎麦ってのはわかるけど、何故にピザ⁇
そう訊ねたら…
「店の前通りかかったら美味しそうだった」だって。
イノちゃんらしいって、嬉しく受け取って早速一緒に食べた夕飯。
美味しかった。
ご馳走様。
「今年もイノちゃんといっぱいご飯食べたね」
「今年最後の夕飯も一緒にな?」
「来年も色んな所行きたいねぇ」
「もちろん!それも今から楽しみ」
「うん!」
スタジオのテーブルで向かい合って、イノちゃんとの楽しい時間。
その時にこの後の予定を決めた。
「せっかくだから、初詣行こうか」
ーーーーーだった。
で、22時くらい。
帰り支度をしてるところ。
外はすごく寒そうだからあったかい格好で。
コートとマフラー。ポケットに手袋も入れた。
「行こう、隆」
「うん」
二人で、スタジオを飛び出した。
「さ…むい、ねぇ」
「ホント。芯から冷える」
寒さに身体を竦ませながら、向かう場所はスタジオから近い神社。
色んな季節に時々イノちゃんと散歩にも来る、お馴染みの神社だ。
いつもはひっそりとした雰囲気の神社だけど、この時期ばかりはたくさんの参拝客が来ている。
「屋台も出てる!」
「隆、欲しいものある?」
「え?…んー」
「りんご飴」
「?…りんご飴?イノちゃん食べたいの?」
「や、じゃなくてさ。隆に買ってあげたいものNo.1だから。りんご飴って」
「ーーーなんで⁇」
「可愛いから」
「…へ、?」
「りんご飴頬張ってる隆はヤバいくらい可愛いから」
「っ…ばかぁ」
そんな不純な動機でりんご飴を選ぶんじゃないよ!って憤慨したら、いいじゃん。だって!
「隆に買ってもらえたりんご飴は幸せだと思うよ?」
そんな事言いながら、ぐいぐい俺を引っ張って。あっという間に俺の手にはピカピカのりんご飴。
神社の提灯の光を浴びて、それは真っ赤な宝石みたいに光ってる。
ぺろ。
…カシ、カリ。
ぱりぱりと赤い飴を齧る。
薄く纏われた飴を突き抜けて、りんごの果汁が口に広がった。
「ん、美味しい」
「ーーーーー」
「…ん?イノちゃん?」
どうしたの?じっと見て。
物欲しそうな…眼差し。
ん?物欲しそう…?
「イノちゃん?」
食べる?って聞いたら、いいって。
でもその代わり。
「…ヤバい…。やっぱ可愛い」
「ん⁉︎」
「ーーーりんご飴を食べてる隆を食べたい」
「っ…もぉ!」
だからそうゆう不純な目でいっつも見てんじゃないよ!ってまた憤慨したら。
「仕方ないだろ、可愛いんだから!」
ーーー開き直んないでよ…。
りんご飴は一度に食べきれないから、お店で貰った持ち帰り用の手提げ袋に入れて、ゆらゆら持ち歩く。
その後も可愛いからって理由でイノちゃんに薦められる、お面やらヨーヨーやらを丁重にお断りして。
人の波に乗って、境内へ。
チャリンチャリーン。
ガラン、ガラガラン。
お賽銭を投げる音、鈴を鳴らす音。
人々の声。
順番が来て、二人並んで手を合わせて。
それから御みくじも引いたよ。
結果は…ナイショ。
やっぱりここでも二人並んで御みくじを結びつけて。
松明の炎に頬を火照らせて。
人通りがちょっと落ち着いた所で。
イノちゃんの手が、俺の手を捕まえた。
「ちょっとあったかくなった?」
「動き回ってたからね。ーーーでもまだ隆の手冷たい」
「手袋持ってきたんだった」
「ーーー手袋よりもさ」
「うん?」
「こっち」
ぎゅっと繋いだ手。
繋いだまま、イノちゃんはコートのポケットに手を入れてくれた。
イノちゃんのコートの中はあったかくて、ポケットの中でも絡む指先がじん…としてきて。
こんなのを味わうと、湧き上がる気持ちは幸せなもの。
「音楽とイノちゃん」
「ん?」
「俺に必要なもの」
「っ…すっげ、嬉しい」
「ふふっーーーその二つとも、年の終わりに一緒にいられた。俺こそすごく嬉しい」
「ーーー俺もだよ」
ごぉ…ん、ごぉ…ん…。
除夜の鐘が聞こえる。
もうすぐ今年が終わるね。
この日の、この時間。
年越しの、この雰囲気。
厳か…な気持ちもちょっとあり。
でもそれ以上にあるのが。
来年はどんな一年?という思いと…
「ね、イノちゃん」
どうかこれからも一緒に。
そんな願いと想い。
「0時になるな」
腕時計の針は間も無く天辺に。
カウントダウンライブでは、その瞬間に皆んなでジャンプしたりもするけれど。
こんな二人きりの年越しはね…?
「ーーーイノちゃん、」
「え、りゅ…」
「ん…っ…」
見送る年と、迎える年のその瞬間は。
終わりと始まりのキスを。
…ちゅ、
「っ…ん」
「ーーーーー隆、」
閉じた瞼をゆっくり開けたら。
目の前にはびっくりしたカオのイノちゃん。
いつもいつも、キスはイノちゃんからが多いから。
びっくりしたでしょ?でもたまにはいいよね?こんなのも。
「今年も隆といっぱいキスできるってわけだな」
「ええ、?なんで」
「元日にありって言うじゃん。だから今年も、隆をめいっぱい愛するから」
「っ…ぅ、うん!」
結局いつもみたいに仲良く始まった年。
どんな事が待っていても、きっと今の気持ちをしっかり持っていれば平気だね?
「今年もよろしく。イノちゃん」
「隆も。よろしくな?」
キスの後で少し照れくさい。
でも、まだ繋いだままの手。
今夜も一緒に帰ろうね。
a happy new year.
End.
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