短編集・2
季節は秋。
秋から冬に変わろうとしているこの季節。
空が高く感じて、空気がひんやりして。街の街路樹も、緑から赤や黄色に色づく季節…
あと何と言っても、ギターがいつも以上に良い音で鳴ってくれる季節。
俺は大好きだ。
そんな秋のある日。
「うわぁ !!イノちゃん見て見て!」
天気も上々の昼下がり。
隆の良く通る声が、紅葉した山々に木霊し……………ない。
「………」
「綺麗だねー!やっぱ秋になったら紅葉狩りとかさ、行きたいよねぇ」
隆はウットリと、眼前に広がる紅葉の様子を眺めて言った。
…………テレビの旅番組の。
「………隆…。」
「ん~?なにイノちゃん」
「や。……まぁ、いいけどね…」
「なんだよー、いいじゃん別に。行きたいなって思うくらい」
いくら俺でも、今は行けない事くらい分かってるよー!…と。多少不貞腐れ気味にそっぽを向く、隆。
そう、今は無理なんだ。
ルナシーのレコーディングが佳境に入っていて。とてもじゃないけど、のんびり紅葉狩りなんて行ってる暇は無い。レコーディングが終われば、そのままプロモーションが始まる。
それが終わればライブのリハだ。
散策に出られる時間が取れる頃には、冬景色になっていそうだ。
「…………」
スタジオに備え付けてあるテレビに、壮大な紅葉の景色が写し出される度。まだ未練があるのか、時々チラチラとテレビを目で追う隆を見ていたら、少し可哀想になってしまって。
( でも、どうしようもないしなぁ…)
恋人として、どうにかしてあげたいと思うけど…。
「…………。」
うーん…。と、しばらく思案を巡らせると、フト。いい考えが浮かんだ。
咄嗟にスタジオを見回して、今なら行動出来ると判断した。
スギちゃんが集中してる今なら!
俺はスッと立ち上がって、一番近くにいた真ちゃんに耳打ちする。
「少しだけ、隆と抜けるね」
「うん?ああ、いいけど。どっか行くの?」
「まぁ、ちょっとね?」
「ん。あんま、遅くなんなよ~」
返事の代わりに親指でサイン。真ちゃんはニヤニヤして手を振ってくれた。
…バレたかな…。
スタジオの片隅で、相変わらずテレビを気にしている隆の手を掴む。
「びっくりした!」
「ちょっと、来て」
「え、イノ…」
「今なら平気だから。ちゃんと許可?も取ったし」
「?なにが…?」
隆の手を引いて、スタジオの廊下をぐんぐん進む。心持ち、自分の足運びも浮き立っているのが分かって。俺自身も楽しみなんだと気が付いた。
若干困惑気味の隆に、にっこり笑って教えてあげた。
「デート♡行こ?」
地下の駐車場にある、俺の車に乗り込んで。昼下がりのやわらかい陽射しの中、車は郊外方面へと走り出す。
あれよあれよと言う間に連れ出された隆は、頭上に???をいっぱい並べて助手席におさまっている。
「イノちゃん、どこ行くの?レコーディングは?」
「だから、デートだって。許可も取ったって言っただろ?」
「…デート…。」
隆の声が小さくなったから、ちらっと横を見ると、頬が桃色!口元も、嬉しいのを抑えてるみたいに、キュっと噛み締めている。
(~~あ~…もう。…かわいい )
でも、あんまりデレデレするとカッコ悪いから。あくまでクールに、笑顔で応える。
「なんか。抜け出してデートって、どきどきするじゃん。最近ずーっと室内に篭ってたからさ、息抜きしよ?」
もう一度横目でも見たら、隆がはにかみながら頷くのが見えて。単純だけど嬉しくなって、ぐん…とアクセルを踏んだ。
………………
「うわぁ!綺麗だねー!!」
東京と県境の、とある公園。
公園って言っても、遊具のあるような所じゃなくて、木々の豊かな寛ぎの公園だ。
春はサクラ。今の季節はイチョウとモミジ。広大な敷地には、遊歩道や広場があって、皆んなのんびり過ごしてる。
比較的人の多い広場を抜けて、遠目にも分かる黄色に彩られたエリアへと、俺たちは進んで行った。
広場の方に比べると人通りも多くない。割と自然のまま残されているこの一帯は、ずっと先までイチョウ並木だ。
俺たちの足元は、完全に黄色に埋め尽くされている。
「イチョウ並木、綺麗だね…」
隆の感嘆の呟きを聞きながら、サクサクと足音をたてて進んでいたら、隆が立ち止まる。
「…隆?」
行こうよ。と、振り返って促すと。隆はしばらく逡巡して、そっと俺に右手を差し出した。縋るような目をしてる。
隆の表情とその行動で、すぐ分かる。
手を繋ごう。ってことだ。
何も言わずに微笑んで、俺は左手で隆の右手と絡ませる。指先を絡めた恋人繋ぎで。
隆は心底嬉しそうに目を細めて、きゅっと指に力を込めた。
(……あーーーーーーー…。かわいい )
さっきから、俺もこればっかりだ。
音楽は、俺たちの生きてる証だから。
妥協しないし、疎かになんて出来ない。手間だって惜しまない。
ーーーーーでもさ。それには、力の源が必要だ。どんな人だって、そうだよね?何かで力を得て、発揮するって。
その源が。俺にとっては、隆一。
いっしょにいるだけで、幸せ。
触れればもっと、パワーを貰える。
名前を呼ばれて、笑ってくれたら。
俺はもう無敵だよ。
今日のデートも、隆の為とか思ってたけど。俺自身の為だったのかもしれない。
既に幸福感でいっぱいの俺に、隆が窺うように言った。
「イノちゃん?」
「うん?」
「…あのね…」
「ん?」
「…イノちゃんと居るのが、やっぱり一番好き」
「ーーーーー……」
「すごーく、幸せ!って、思うもん」
じんわりと沁み入る。
隆の声と、やわらかな笑み。
やばい。
この景色と、この隆は。
一面の黄色の中の隆が、あまりにも綺麗で。かわいくて。
キスをしたくなって、肩を引いて向かい合って、頬に手を添えた時。
何処からか。
…ひらり…。
赤いモミジの葉が、舞い落ちて。
落ちた先は、隆の黒髪の。耳元で。
まるで赤いかんざしを、付けたみたいで。
唇と頬の赤と、よく似合ってて。
それはそれは、かわいかった。
「イノちゃん……?」
小首を傾げた隆の手をとって。
黄色に彩られる木々の中へ。身を隠すように、分け入った。
人気の無い鮮やかな林の、木々に隠れて。隆と唇を重ね合わせる。
大きな幹に、隆の両手を縫い止めて、求めるままにキスをする。
こんな外でするなんて、なかなか無いから。それだけで興奮する。
ものすごく、気持ちいい…
甘い声が、耳を掠めていく。
「っん…ん…っ…」
「はぁっ…」
「…っふ…ぅ」
「…隆っ……」
キスを首筋に移して、何度も舐めあげると、隆の口から吐息が溢れて、物足りなさそうに身を捩る。
服の裾から左手を挿し入れて、肌に直接触れると。身体を反らせて、逃げようとする。
もう片方の手で服を捲り上げて、胸の先端を舌で舐める。ビクリと、隆の身体が跳ねて、さらに甘やかな喘ぎを聞かせてくれた。
「ぁっ…やっ…やぁ…」
「嘘つき。…や、じゃないだろ?」
「んっ…ぁンっ」
「隆っ…お前を抱くのは、俺だよ…」
「あっぁっ…いの…っ」
「りゅ…う、もっと…」
欲しがって…
隆が首を振る度涙が散る。
振り切った両手が俺の背に回って、必死にしがみついて来る。
忙しない呼吸と俺の名前が、耳元で繰り返されて。加減なんて出来ない。
我慢なんて出来ない。
隆を、幾重にも落ち葉が積み上げられた黄色の絨毯の上に、押し倒す。
落ち葉のカサリ…という音も、耳に入らない。
黄色の葉に隆の黒髪が散って。そこに赤いモミジが彩りを添えて。
堪らなく、煽情的で。
いつもよりもっともっと…と、求めてしまう。
「ぁあんっ…」
「っは…りゅうっ」
「ーーーっあっ…あんっ…ゃっ!ア…ぁあっ」
「隆…っ」
性急に繋がった部分が熱をもって、激しく動く。
隆の爪が俺の襟足に跡を付けて。その痛みが、ゾクリ…と快感に変わる。
見下ろした隆の髪には、未だ赤いモミジの葉。潤んだ唇も、まるで紅を差したようで。
かわいくて、たまらなくて。
こんな隆、誰にも見せたく無くて。
抱きしめて、最奥まで。
隆を愛した。
イチョウの幹に身を預けて、黄色の絨毯の上に寄り添う。
来た時より、幾分陽が落ちて。
辺りはオレンジ色に染まっていた。
久し振りだった。
こんなに求め合って、愛し合ったのは。
忙しさに身を置いて、余裕を失くしてた。
…きっと隆にも、寂しい思いをさせていた。
「イノちゃん」
「ん?」
「…あのね…?」
「うん…」
「今ね。…さっきより、もっと…幸せ。俺の中が、イノちゃんでいっぱいになってるよ?」
「ーーー隆…」
「ね、イノちゃん…」
言葉を区切った隆は、じっと俺を見つめて。ほのかに染まった瞼をそっと閉じると。
緩やかな微笑みをのせて、触れるだけのキスをして。
俺に、囁いてくれた。
「俺も、イノちゃんだけだよ?」
「隆」
「だから、もっと、」
今日はまだ、離れたくないよ。
遅くなるなよ~って言われたな…と。
頭の何処かで思い出して、消えて行く。
縋り付く身体を受け止めて。
その唇を味わいながら、霞んだ思考で空を見上げる。
相変わらず鮮やかな、秋の風景。
たまには良いね、こんなのも。
抜け出して、デートして、セックスして、愛し合って。
後できっと皆んなに怒られるだろうけど。2人で謝ったら、教えてあげよう。
俺たちの秘密の部分は、内緒にして。
秋の行楽が、どんなに素晴らしいかってことを。
end
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