ハロウィーンの夜
・ハロウィーンの夜
この日ばかりは街中に溢れてる。
子供も大人も、魔女もおばけも。
ジャック オ ランタンが笑ってる。
「なぁなぁ!隆!これやるよ」
「えー?なぁに?スギちゃん」
今日は撮影の日。メンバーみんなスタジオに集合していた。
俺は先に撮影を終えて、集合での撮影まで控え室で休んでいたら、同じように休憩に来たスギちゃんが、話しかけてきた。
スギちゃんは、可愛らしいカボチャの絵のついた紙袋を俺に差し出した。
カボチャを見て思い出す。
あ。今日はハロウィーンだ。来る時に、着飾った若い子や小さい子が通り過ぎるのを見たっけ。
仕事に集中すると、ついつい忘れてしまう。
スギちゃんから紙袋を受け取って、中を覗いてみる。
「わあっ!」
「それさぁ、ここ来る前に寄ってきた、仕事のスタッフの子からもらったの。俺より隆の方が喜びそうだし、良かったらもらって?」
スギちゃんがくれた紙袋には、たくさんのお菓子!女の子が喜びそうな可愛いラッピングで、全部見えないけど、なんか色んな物が詰まってるみたい!
「スギちゃんありがとう!嬉しいな、なんか開けるのワクワクするね」
「良かった!後でイノとさ、食べてよ。今日は一緒帰るんでしょ?」
「え?」
「ん?」
「スギちゃん、なんでわかるの?今日、イノちゃん家行くって…」
ホント、なんでわかるんだろう。
俺言ってないのに…。
よっぽど俺が驚いた顔していたのか、スギちゃんはしばらくして、ニヤリと口元で笑った。
「そりゃーわかるよ、お前ら見てたらさ。雰囲気がルンルンしてるもん。それに今日はハロウィーンだしな?」
…ルンルンって。そんなに俺たち顔に出てるのかなぁ。それって…ちょっと、恥ずかしいかも。
それに、今日がハロウィーンだからって約束した訳じゃない。たまたま今日が日程の都合が良かったから。
少なくとも俺は。
…でも、もしかしたらイノちゃんは、ハロウィーンだから、会いたかったのかなぁ。
そんな事をあれこれ考え込んでいたら、スタッフからお呼びがかかった。
これから集合しての撮影。
俺は紙袋を棚に置くと、スギちゃんと共に撮影スタジオに向かった。
「隆ちゃん、じゃあ行こうか。」
着替えを終えて帰り仕度をしているとイノちゃんが来た。
「もう出られる?」
「うん、平気だよ」
にっこり笑って応えて、持って来たバッグを手にする。
そうだ、スギちゃんにもらったコレも。
「それ、なに?」
「お菓子たくさん!スギちゃんがくれたんだよ。後でイノちゃんも一緒に食べようね!」
イノちゃんはチラリと中を見て、苦笑いをして頷いてくれた。
…甘い物が苦手って知ってるけど、少しだったらいいよね?
先に帰るねって、3人に挨拶をして、俺とイノちゃんはタクシーに乗り込んだ。
10月も最後の日。
夕方だけど、もう暗い。
でも今日は至る所で、オレンジの灯りが揺らいでる。
「ハロウィーンだね」
車窓から街並みを眺めていたイノちゃんが、楽しげな声で呟いた。
「俺、すっかり忘れてたんだ。さっきスギちゃんに、これ貰うまで。」
「まあ、仕事入ってるとね、忘れちゃうよ」
「ねえ……イノちゃんは、ハロウィーンだから、会いたかったの?」
こんな一大イベントを忘れていた事が、なんとなく後ろめたくて。
イノちゃんが、楽しみにしていたとしたら、申し訳ないな…と思って。
そっと、イノちゃんを見た。
「そんなの気にしないの。会いたいから、会うんだよ?」
「イノ…」
「でも、まあ」
「?」
「隆ちゃんの仮装は、見てみたかったなあ」
イノちゃんの部屋にお邪魔して、早速夕飯を食べる。
途中TVをつけて、ちょうどやってたお笑い番組に、2人で笑って。その次のスポーツニュースで、今日の試合の結果を見て。
その頃になると、ちょっと眠くなってきてしまったから、ちょっと眠気覚し。
「イノちゃん、先にシャワー浴びて来ていい?」
「いいよ、タオル出そうか?」
「ううん、わかるから大丈夫。借りるね?」
「うん」
勝手知ったるイノちゃんの家。俺がいつも貸してもらうタオル。着替えはこの間家から持って来た。
熱いシャワーを浴びたら、少し頭がすっきりしてきた。
そして、スギちゃんに貰った物を思い出す。
イノちゃんもシャワーから出てきたら、一緒に食べよう。
ハロウィーンらしい事なんて、なんにもしてない。
さっきのタクシーでの会話を思い出す。
…イノちゃんは、やっぱり少し、楽しみにしていたのかな。
イノちゃんと交代で、待ってるあいだに袋を開ける。
キャンディー、クッキー、マシュマロ、チョコレート。甘そうな物が続々と出てくる。
うーん…。イノちゃんはやっぱり食べないかなぁ…。
それから。
「あれ、これは?」
お菓子の底に何か入っている。袋を逆さにしてみると、ザクザクとお菓子と一緒に出てきたもの。
「ぇ…。黒…猫の耳?」
黒いフサフサした、女の子が着けたら可愛いだろう猫の耳がついたカチューシャ。
「うわぁ…」
手にしているだけで、なんか恥ずかしい。
スギちゃんは知ってたのかな…いやでも。貰ったって、言ってたし。
『隆ちゃんの仮装は、見てみたかったなあ』
こんな時に、またまたさっきの会話を思い出す。
「でも、さすがに…これは…」
恥ずかしいと思う。
それに。女の子じゃないんだから、似合うわけがない。
……………。
……………………
きょろきょろと周りを見回して(イノちゃんはお風呂なんだからいるわけないんだけど)
そっと、自分の頭につけてみる。
恥ずかしくて、顔が熱くなるのがわかる。
…でも。イノちゃんの言葉が、ずっと消えなくて、こんなのが仮装になるのか分からないけれど。
もしも、喜んでくれるなら。
なにもしてあげられなかったから。
いいかな…と思った。
「…イノちゃんの為だから!なんだからね」
ベッドの上に背を向けて座る。
何て言うだろう。
喜んでくれるかな。
それとも、微妙な空気が流れるのかな。…引かれたりしたら…それはキツイかも…。
って、ぐるぐるとそんな事を考えてたら。
「隆ちゃん?どしたの、こんな暗い部屋で…」
「ーーーーーー………っ」
「隆ちゃん?」
お風呂上がりのイノちゃんが近づいてくるのがわかる。薄暗いから、まだ気づいてない。
振り向かない俺を訝しんでいるのかも。
どうした?って、肩に手がかかって、そっと反転させられる。そうしたら、イノちゃんが息を止めるのがわかった。
何か言われるのが恥ずかしくて、照れ隠しで、イノちゃんの首元に抱きついた。
「っ…隆ちゃん、」
「か…仮装…!」
顔が見られなくて、隠していたのに。
撫で撫でと背中をさすられて、もう片手は顎に指をかけられて、上を向かせられる。
「可愛い」
「っ…うそ」
「うそじゃない」
すげぇ可愛いよ?
イノちゃんは本当に嬉しそうに笑って、抱きしめてくれた。
その腕が、あたたかくて、優しくて。
めちゃくちゃ恥ずかしかったけど、イノちゃんが愛おしくて、縋りついた。
「りゅう、」
「え?」
「こんなの見せられてさ。我慢できないよ?」
「いの…」
「隆ちゃんありがと、愛してるよ」
イノちゃんのキスが落ちてくる。
啄むように繰り返していたら、目が合って。今度はもっと深くまで、求め合う。
大好きな、イノちゃんとのキス。
気持ち良くて、頭の芯が痺れてくる。
たまらない気持ちを返したくて、イノちゃんに全てを曝け出した。
「イノ…ちゃんっ だいすき…だよっ」
切れぎれの声で、精一杯の気持ち。
普段は恥ずかしくて出来ない事も、なかなか言えない想いも。
こんな不思議な夜なら、言えるんだ。
大好きな、あなたの為なら。
end
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