短編集・2






◾️バニラとキャラメル◾️ ◾️ ◾️










一日を終えて、ようやく家に帰り着く。


エレベーターで部屋の前に来た途端、イノちゃんはさっと鍵を取り出す。
カチャ…。
ーーー少しもどかしそうに、鍵を取り落としそうなって(なんで?)施錠を開けて、のんびりトコトコイノちゃんの後をついて来た俺の手を引いて。




ぱたん。




ドアが閉まった。








「ーーー隆、」

「ぇ、あ…」

「っ…隆」




閉じたドアに俺を押し付けて。
イノちゃんはぎゅっと俺を抱きしめて顔を寄せる。




「…ん、」



顎を掬われてすぐにキスされて、イノちゃんの舌先がまだ閉じたままの俺の唇をこじ開けようとするみたいに触れた。


ーーーすぐにしたいって、イノちゃんが求めてくれてるって、わかる。
スタジオで葉山っちと別れてから、駅のタクシー乗り場までも、タクシーの中でも、家の前に着いてからも、ずっと手を繋いでいた俺たちだったから。


触れたいなって、思っているのは。
俺も同じ。




ーーーでもね?





「…っぁ、待っ、」

「ーーーなんで、」

「…っ…て、ぇ」

「いいだろ、もぅ…部屋ん中だ」

「……んっ…違っ…」

「スタジオからずっとだ…」



したかった。
早く抱きたいって、イノちゃんはちょっと切羽詰まった声で耳元で囁く。
それを聞いて、きゅっと胸が切なくなった。
嬉しくて、俺もそうだよって、言いたい。


ーーーけど。

でも、ちょっと待って!





「…っ…ぁ、まだ、靴!履いてるもん!」

「ーーー靴くらいいいよ別に」



脱がせてやるし。なんて、ニヤリと悪い顔で笑うイノちゃん。
なんて顔で見てんだよ!
そうこうしてジタバタ暴れる俺の靴はあっけなく脱がされて。
靴下だけは履いたままってのもたまにはいいよな?なんて!また意地悪い顔で俺をじっと見る。




「イノちゃんのえっちー!」

「そりゃそうだよ。隆に関しては果てが無いくらいにな?」

「開き直んないで!」



はいはい。って、軽くあしらわれて。
ひょい、と。イノちゃんは俺を抱き上げて(お姫様抱っこ!)
トントン。
軽い足取りで、このままだとリビングのソファか寝室のベッドに押し倒される!





「キッチン!」

「ん、?」

「お台所!」

「ーーーなに隆、キッチンでしたい?」

「違うの!そ、じゃなくって」



俺がキッチンって言ったから。
イノちゃんは進路変更。
キッチンの方へ足を進める。
ひとまずホッとしつつも、このままだとホントにキッチンで押し倒されるかも…
そんな事を危惧して、俺はずっと手に持っていた物をイノちゃんに突き出した。





「これ!まず冷凍庫に入れたいの!」

「ーーーあ、」

「葉山っちにもらったアイス!溶けちゃうもん」

「ーーーそうだな」




お二人でどうぞ。
そう言って葉山っちが帰りに手渡してくれたのは、某アイスクリーム店の箱。
色んなフレーバーのアイスが6個も入ってて、俄然俺は嬉しくなった。
久しぶりに食べたくなって葉山っちは店内でトリプルにして食べたって。
それがすごく美味しくて、俺たちにもお土産って。





「冷凍庫にしまってから!」

「ーーーーー葉山君がせっかくくれたんだしな」

「そうだよー」

「ーーー是非ともしまいましょう」

「うん!」





すとん。

イノちゃんは俺を冷蔵庫の前で降ろしてくれて、箱の上に乗っかってるドライアイスを取り除いてる俺の横で、冷凍庫の中にスペースを作ってくれた。
トントントン。
空けてくれたスペースに無事にカップを6個しまって。
どれから食べようかなぁ…なんて、楽しみで、今の状況をちょっと忘れてにんまり。




そんな背後から。







「ーーーじゃあ、もういいかな?」

「ぇ、?…ぁ、」

「アイスに見惚れて笑ってる隆が可愛すぎてもう待てないよ。もぅ、待ったなしだからな?」

「っ…も、ぅ」



ひょいと、またイノちゃんは俺を持ち上げて。
今度は抱っこじゃなくて…乗せられて座らせられたのはキッチンのステンレスカウンターの上。
ふと隣を見ると、お鍋やボウルとかがちんまりと並んでる。




「ーーーっ…ここ、で?」

「ーーーいいでしょ?たまにはさ、こんな場所でも」

「…イノちゃんを見下ろしてるよ?…俺」

「そんなのもたまにはいいよ。ーーー隆、」

「…イノちゃん、」




ちゅくっ…


「…ん、っ…」



少し見上げる形で俺を見つめるイノちゃんの首元に抱きついて。
待ちきれなくて重なった唇はすぐに深く、何度も角度を変える。
キスを交わしながら、イノちゃんの手は俺のジーンズを寛げて下着ごと床に落として。
シャツのボタンも片手であっという間に外して、俺の肌に手を這わす。




「…ぁん……ゃ…っ…」

「ーーーもう硬くなってる。…気持ちいい?」



胸の先端を舌先で弄られながら、下腹部は彼の利き手でゆるく扱かれる。
くちゅくちゅと濡れた音と、イノちゃんのだんだん余裕が無くなってくる声。
同時に触れられて、堪らなくて。
俺は無意識に脚を開いて、イノちゃんに先を強請った。



「ーーーいつもと違う場所だから」

「ん…んっ…」

「興奮しちゃった?」




「ーーーっ…ね、早…」




カチャ。


小さな金属音は、イノちゃんがベルトを外した音。
それをぼんやり聞きながら。
彼の動作を、スローモーションで見るように目で追っていたら。




「っ…ぁ、」


俺の秘部に、イノちゃんの熱く硬いものが触れる。
いつもは丁寧過ぎるくらいに指と舌先で慣らしてくれるトコロだけど。
今は、もう挿入れたいって、イノちゃんの掠れた声が聞こえる。



「ーーー…いきなりだけ…ど、平気…か?」

「んっ…ん、」

「もう、隆にはいりたい」




いいよ
ちょっとくらい、痛くたって平気
俺も、イノちゃんと
早く





「ーーーぁ…っ…あ、あ…」

「っ…き、つ」

「あっ…ぁ、…」

「ーーー隆っ…」




指先で解さずに繋がったのは初めて。
きつさとか、少しの痛みも、初めはあるけれど。
でも。
ゆっくりゆっくり、イノちゃんが奥まではいって。
きつさに耐えてもっと奥を突かれると。
いつも以上に感じる、互いの温もりとか、気遣いの気持ち。
痛いか?平気か?って、腰を撫でてくれて、キスをしてくれる。
俺も大丈夫だよって伝えたくて、イノちゃんに縋り付く。




「りゅ、う…」

「ぁんっ…ぁ、あぁん、」

「…りゅ…っ…」

「…ぁ、ゃあ…っ…気持…ち、いい」

「隆…っ…りゅ……りゅう、」



イノちゃんが…
いつもよりも、もっともっとたくさん。

繋がる間、俺の名前を呼んでくれて。
それが、すごく嬉しくて。

愛おしくて。



「…イノ…ちゃんっ…」



俺は涙が溢れて、声が詰まって。
たった一度彼を呼ぶだけで、精一杯だった。



















白と薄茶のマーブルアイス。
カップ入りのそれに、ピンク色の小さなスプーンを添えて。
イノちゃんはくったりする俺に手渡してくれた。



「はい、バニラとキャラメルの」

「イノちゃんありがとう」





キッチンでめちゃくちゃに愛し合ってしまった俺たちは。
(その後はお掃除もイノちゃんがしてくれて)
一緒にお風呂に入って、お風呂の中でも…その…

そんな俺たちだったので、葉山っちから頂いたアイスにありつけたの23時近かった。
ほかほかになった俺は、イノちゃんが持ってきてくれたアイスの冷たさにホッとひと息。
ひとくちめのアイスの美味しさったらない。




「イノちゃんは食べないの?」

「俺は今はいいや」

「そぅ?」

「胸いっぱいで、今はもう…」

「ん?」

「隆が可愛くて」

「っ…」

「可愛くて可愛くて堪んない」

「ーーー恥ずかしいよ…!」

「アイス食べてる隆も可愛くてさ」

「…それしか言えないの?」

「いいじゃん、俺にとっては事実なんだし」

「っ…!」

「ーーーこんなこと言っていいのは俺だけなんだし」




ぽとん。


「ぁ、」



イノちゃんの言葉に照れて呆気にとられていたら、すくったばかりのアイスを落としちゃった。
手の甲の上。

そしたら。




「隆、」


ちゅ。

「ぁ、イノ…」


ぴちゃ…っ…


「ーーー美味いな」

「っ…ば、」

「バニラとキャラメル」


「ばかぁ…」



あと、隆も。

そう言って、イノちゃんはここでも。
時間を忘れて、俺の全部を愛してくれた。











end






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