短編集・2







・屋上から









( 眠…)


ふう…と吐き出した煙が、青空に消えてった。
見上げると淡い白い雲が、ゆっくりと流れていく。

眠気でぼんやりした頭で、煙なんだか雲なんだか。
よくわからない。

ポカポカした昼下がり。
こんな心地いい日に外にいるなんて、いつぶりだろう。



( あったかいなぁ…)



今日もLUNA SEA のレコーディング。
ここしばらくずっとスタジオに籠っている。
楽器隊の録りは今日でほぼ終わる予定。やっと何となく終わる気配が見えてきて、煙草とアコースティックギターを抱えて、屋上に出たのはついさっき。



ふうっと最後の煙を吐き出して、灰皿に短くなった煙草を押し付ける。
そして傍らのギターに目をやって、思わず苦笑いが溢れた。

休憩なのに持ってきちゃうって…。

日差しで温かくなったベンチに腰掛けて、何とも無しに相棒のギターを爪弾く。



( そうだ 、)


思い立って、少し姿勢を正して、さっきとは違う音楽を奏でる。

歌も、口ずさむように。


これはLUNA SEA の曲じゃない。
ソロで出そうかなって思っている曲。
少し前から、あたためてきた曲。
想いを込めた、大切な曲だ。
…なんでって?


ずっと想っているから。

ずっと想い続けるから。


あのひとのことが大事で、あのひとを大事に思う自分も、あのひとと一緒に存在できるこの世界も。
繋がりである音楽も。
全てが愛おしくて。
随分と毒されてるなぁ…と、苦笑と溜息がこぼれた。






「イーノちゃーんっ!」

聞き慣れた声が飛び込んできて、ハッと我にかえる。

声のした方に寄って、屋上のフェンス越しに下を覗くと。




「隆ちゃん」


にこにこした笑顔でこっちを見上げてる。
今日はひとつ仕事をしてから来るって言ってた、最愛のヴォーカリスト。


「お疲れ様!よく俺がここにいるってわかったね」

「だって聞こえたもん!」

「え?」

「ギターの音色!」

「!」

「ね、そっち行っていい?」

「ん?」

「待ってて!」



返事をする前に、隆ちゃんの姿はもう無くて。
せっかちなんだか。
元気だなぁ。



ばたーん!

まもなく派手な音をたててドアが開かれて、さらさらと黒髪を遊ばせながら駆けてきたのは隆。



「隆ちゃん、階段登んの早すぎ!」

「っっ…だってっ!」


息を整えて顔をあげた隆ちゃんは、しばらくジッと俺を見つめる。あんまりにも見てくるから、気恥ずかしくなってくる。

でも次の瞬間、隆ちゃんに笑顔が広がった。思わず息を止めてしまうくらいの。



「遠くからでも、姿が見えなくても、イノちゃんのギターの音色だってわかるって、それってすごいでしょ?」


褒めて?と言わんばかりに、にこにこしながら、心底嬉しそうに顔を寄せてくる。


「イノちゃんのね、すぐわかるよ?…匂いも声も、全部」



ちらりと寄越した眼差しは、なんだか熱い。
俺は、この目に弱いんだから。



「…隆ちゃんだけだよ」


俺の全部がわかるなんて。
そう言って隆ちゃんを引き寄せて、腕の中に閉じ込める。
傍らに置いたギターの弦に、隆ちゃんの指先が微かに触れて、シャランという柔らかな音が屋上に響いた。

隆ちゃんを抱きしめながら聞いた、その音色は、いつまでも俺の中で鳴り響いて。
とんでもなく大きな、幸せな気持ちが広がる。


「ねぇ、隆ちゃん。さっき俺が弾いてた曲ね?」

「ぅん?」

「隆ちゃんにあげる。俺の気持ちだから」


だからこの曲歌って欲しいな。
そう耳元で強請ったら。


すり…。
猫が懐くように頬を寄せて。
腕の中の隆ちゃんが、ちいさく頷くのがわかった。





end



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