短編集・2






・ジャムパン









「あっ!!イノちゃんズルい!」




今日も朝から絶賛LUNA SEA レコーディング中。
数週間にも及ぶスタジオのお籠り生活に、さすがのメンバー達も疲労感。
にも関わらず、相変わらず元気なのは隆ちゃんだ。

良く透る、俺への非難の声がスタジオに響いた。
他のメンバー達も、なんだなんだと遠まきながら注目してくる。



「なにがズルいの」



ソファに座ってなかば呆れ気味に言う俺に、隆ちゃんはズイっと迫って更に声を張り上げた。



「だってイノちゃん先に取るんだもん!」

「だって真ちゃんがどうぞって言ったから」

「でもイノちゃん甘いのいつも食べないじゃん!」

「俺だってたまには食うよ。それにせっかく真ちゃんがくれたんだし」

「…っでもでも!」

「腹減ってるし」

「だったら他のでもいいじゃない!俺だってそれ食べたかったのに」



放っておくといつまでも続きそうな俺と隆ちゃんのやり取りに。
痴話喧嘩か…とボソっとJがスギゾーに呟いたのが聞こえた。

事の発端は真ちゃんが差し入れてくれた、人気ベーカリーのパンだった。


みんなレコーディングで疲れているからと、気を利かせてたくさん買ってきてくれた。
ちょうど昼時。コーヒーも淹れたてで、腹も減ってたから、1番に目についたパンに手を伸ばした。

どうやらそのパンが問題だったようだ。

真ちゃんの近所にある、ちょっと有名なベーカリー。その店の1番人気がいま俺の手にあるジャムパンで。
砂糖はあまり使わずに、丸ごと苺がゴロゴロ入っている。
とても人気で、連日即完売になるそう。
真ちゃんが行った時も、最後のひとつだったようで。俺達の痴話喧嘩?を見ながら、困った顔をしてる。

諦めきれずにグイグイ来る隆ちゃん。
ちょっと突けば泣きそうですらある。

普段だったら俺も多分、すんなり譲ってあげると思う。
でも隆ちゃんの表情を見ていたら、いじめっ子心というのか、好きな子ほどいじめたいって気分になってしまった。



「ごめんなぁ、隆ちゃん。それ1個しかなくてさ。今度また持ってくるからな」

「ほら隆ちゃん、真ちゃん困ってるよ?」

「…ん…うん……」



隆ちゃんは急にしゅんとして。ちら…と真ちゃんを見て、ごめんねって、ちいさく謝った。

さっきまでの元気が鳴りを顰めて、俺の横にそっと座る隆ちゃん。
俯いている。

(これ以上は、かわいそうかな)


俯いている表情が見たくて、そっと覗き込む。俺の気配を感じて、視線が合って、慌ててプイと顔を逸らされる。でもその頬は赤くなってて、ますます煽られる。

ーーー弱いんだ。惚れた弱みってことだよな…




「あげる」


俺の言葉に、ゆっくり隆ちゃんがこっちを向いた。今度はちゃんと視線を合わせてくれたから、俺も微笑んでもう一度。



「あげるよ?」

「…ぇ、いい…の?」

「うん」

「でも、」

「隆ちゃん程欲しがる人に食われた方が、ジャムパンも幸せじゃない?」



だから、はい。戸惑う隆ちゃんの手のひらにそっとのせてやる。
俺とジャムパンを交互に見て、いつしかその表情は極上の笑顔に変わっていた。



「ありがとう!イノちゃん」

「いえいえ。ジャムパンも幸せだ・・・」

「いただきまーすっ」



早…。
俺の言葉を聞き終わる前に、もうはじめの一口を頬張って顔を綻ばせている。



「良かったな!隆ちゃん」

「うん!真ちゃんもありがとう!」



本当に幸せそう。
はじめからあげる気だったけど、ここまで幸せそうだと、ちょっと。
…嫉妬。
ジャムパンに嫉妬。
それってどうなんだ?

やれやれと苦笑いをして、でもこのまま終わらすのは気が収まらないから。
相変わらず幸せそうな隣の隆ちゃんの頬を捉える。


「っ…⁈」

「なぁ」

「ん…?」

「ちょっと、ちょうだい?」


有無を言わさず唇を重ねる。
途端に甘酸っぱい苺ジャムの味と香りが口に広がる。

目の前には三人のメンバー。
見せモンじゃないけど、まぁこの際仕方ない。
隆はこの状況にしばらく目を丸くしてたけど、息つく間もなく唇を犯していると次第にとろん…と瞼を落とした。



「ーーーふ…っ…」

「…りゅう」


存分に味わって、唇を離す。
微笑んで、そっと囁いた。




「美味い」



隆ちゃんの頬は苺ジャムに負けないくらい、色づいていた。




end


.
26/46ページ
    スキ