リュウ
◻︎◻︎隆
夢?
…よくわからない。
どっちでもいい。
夢でも現実でも、同じだもの。
ひとり。
また、ひとり。
星型の円陣を組んでいたはずの俺たちは。
ひとり…ひとり。
背を向けて、歩いてゆく。
それぞれに、離れていく。
でも、俺も人のことは言えない。
四人から見たら、俺だって背を向けて歩き出しているのだろうし。
手を離したのだろうし。
終幕は皆で考えて出した結論。
後悔はない。
もしも後悔するとしたら、それはこの先の在り方次第だと思う。
後悔してる暇はない。
後悔なんてしちゃいけない。
だから思い切りをつけて足を踏み出した。
「ーーーーーー…」
でもね。
俺の歩速は、しばらく歩いたところでだんだんと緩くなって。
次第に止まって。
そっと、振り返る。
「ーーーーーーーー」
ーーーこの空の色はなんだろう。
真っ白で、何も見えないし、何も無い。
木の一本すら、流れる雲すらここからは見えない。
ーーー人影も…無い。
「っ…」
あぁ、だめだ。
もう見えない。
彼らの背中。
足音も聞こえない。
気配すらも感じない。
最後の歌をうたったついさっきまで、五人は確かに側にいたのに。
俺の足はすっかりそこで立ち止まってしまった。
もう誰も見えない向こう側を見つめたまま。
「ーーーーー誰にも言わない」
「これから先も、言うつもりはないよ」
でもね。
「…俺は実は…すごく寂しいんだ」
「ずっと一緒にいたみんなと離れ離れになるの」
あのまま無理して一緒にい続けて、本当の意味での別離にならないように決めた終幕。
ーーー少なくとも俺はそう思って決めた。
「だから言わないよ」
「寂しいなんて」
「俺の独り言でおしまい」
「今だけだから」
「ーーーだから、」
今は少しだけゆるしてね。
ゆらゆら。
視界が揺らぐ。
目元が熱い。
鼻の奥がツン…として。
たった一度瞬きしたら。
溢れた雫が頬を伝った。
ーーーそのあとはもう、止めどなく。
立っていることもできなくなって。
へたり込んで。
声をあげて俺は泣いた。
. . .
. . .
. .
.
.
座り込んで、膝を抱えて。
どれくらいの時間が経ったのかな。
泣き過ぎてぼぉ…としてきた俺の頭と耳に。
「ーーー隆」
…ぇ?
声。
俺を呼ぶ、それも聞いたことのある声。
それはすぐ側で。
振り返ったら、そこから聞こえてくるんじゃないかってくらい近くから。
「隆ちゃん」
「ーーーーーーー隆」
「ーーーーーだ…れ、」
誰。
誰?
誰、なんて。
この声でわかるのに。
だってずっと聞いてきた声だもの。
低くて、優しい。
俺の大好きな声だもの。
誰?なんて、わかってる。
そうじゃなくて。
なんで?
ーーーここにいるの?
「ーーーほら、こっち向けって」
「んな、ぐしゃぐしゃに泣いてさ。泣き顔見られて恥ずかしい?」
「ーーー大丈夫だよ。俺しかいない」
「ここにはもう俺しかいないから」
「隆と俺と、ふたりだけだ」
ーーーーーふた…り?
「俺ら五人は別々の道を進んだだろ?」
「新しいスタートを切っただろう?」
「ーーーでも」
「ーーー今みたいな隆、ほっとけない」
「誰にも知られないように泣いている隆を」
「…ほっとけないだろ」
肩に触れる。
暖かい手。
服越しでも感じる温もり。
こっち向いてって、少し力を込めて肩を引かれる。
…恥ずかしい。
泣いて涙でぐしゃぐしゃな俺。
誰にも見せたくない。
…でも。
「隆」
「ーーーーー…ぁ……」
「隆ちゃん」
「っ…イ、」
「ーーーやっと…」
「ノ…ちゃ…」
「こっち見てくれた」
◻︎◻︎隆
「ーーーーー……イ…ノ……」
夢?
…夢の…続きなのかな。
そっと目を開けたら、目の前にあるのは真っ白な空じゃなくて。
何も無い道じゃなくて。
すぐ側で。
前髪が絡む程に近く、彼の瞳。
優しく微笑んでいるみたい。
こんな彼の表情をこんなに近くで見つめるのは初めて。
俺の髪に指先を埋めて、柔らかく撫でてくれる。
くすぐったくて、俺は少し笑ったのかもしれない。
その反動で、目元に溜まっていたらしい涙が溢れ落ちる。
頬を伝う感覚。
すると彼の指先が、そのあとをなぞった。
「ーーー泣き虫…って」
「ぇ?」
「隆が泣き虫って、初めて知った」
「ーーー俺…?」
「ずっと一緒にいたのにな。隆のほんとうのこと、知らないことがいっぱいだ」
「っ…」
「ーーーーー知られないように、悟られないように。俺もそんなふうに過ごしてきた部分あるからよくわかる」
「…イ、ノ……」
「そうしなきゃ自分が壊されそうな時もあったし」
「…っ」
「バンドは愛してたけど…愛してるけど」
「ーーーーー」
すり…
イノちゃんのおでこが、俺の額にぶつかって。
髪を撫でてくれていた指先は、俺の頬と…唇に触れる。
「もう、自由になっていいんだ」
自由。
別れと引き換えに。
手に入れたもの。
鎧を捨てて。
壁を取り払って。
ひとりで歩いて行く為の自由。
怖さと寂しさは、いつか晴れる?
「隆は強いし、何でもひとりでできるって思ってた」
「ーーー…な、こと……ない…よ」
「ん。俺もいま気付けた」
「ーーー」
「強いだけの奴なんていない。隆もそうなんだって」
「…ん」
「だから」
「?」
「ーーーひとりくらい、俺みたいな奴が側にいてもいいか?」
「!」
「隆が泣き過ぎて溶けちゃったら困るし」
「…っ」
「ほっとけないし」
「あ…」
夢の中のイノちゃんと、同じ台詞…
「ーーーーー隆のこと」
「…ぁ、っ…」
「好きだから」
ーーーさっきからずっとこうしたかったのかもしれない。
〝好き〟って言葉は、抵抗もなく俺の中に馴染んで。
熱のせいで気怠い俺の両手は、イノちゃんの襟足に縋りついて。
イノちゃんの唇が俺の唇に触れた瞬間も、驚きも嫌悪も躊躇いも何も無くて。
気持ちよくて、心地よくて。
あったかくて、安心出来て。
キスの隙間で、全部見せて…って。
イノちゃんが掠れた声で囁いたのを聞いて。
俺の頬を新しい涙が溢れ落ちた、それが合図。
「…っ…りゅ…う」
「ーーーーーっ…んっ…ん…」
キスだけじゃ足りない。
イノちゃんの手が俺の寝巻きを剥ぎ取って。
イノちゃんも、もどかしそうに自分の服をはだけて。
イノちゃんとこんなことをしようとしてる。
信じられないけど、止めることなんてできなくて。
余裕なんてないくせに、こんな瞬間ですら優しく微笑んでくれる彼が愛おしい。
「ーーーイノちゃん…っ…」
「…ん、」
「イノちゃんっ…イノちゃん……っ…」
「いるよ、俺はここにいる」
「ーーーイ…っ…ぁ…ぁあ…っ…」
「隆の側にいる…っ…」
.