短編集・2
クリスマスのふたり
「隆ちゃん!メリークリスマース♬」
とってもご機嫌な様子で、事務所のメンバールームに入って来たのは真ちゃんだ。
そしてその後に続いて、Jとスギちゃんも。
「皆んなおはよう!真ちゃん…まだお昼だよ?」
気が早い~って笑うと、真ちゃんは首を振りながら俺の隣に寄って来た。
「だって隆ちゃん、クリスマス会えないじゃん?俺だって本当はサンタになって、隆ちゃんにプレゼントあげたいんだけどさ」
「…うん?」
「でも隆ちゃん、今夜はさ…」
「イノが隆を離すわけないもんなぁ」
心無しかいじけた様子の真ちゃんに引き継いで、スギちゃんとJが、うんうん…と頷いた。
…そう。俺は今夜、イノちゃんと会う約束をしているんだ。
《隆ちゃん、イヴとクリスマス。一緒に過ごそう?》
数週間前に誘ってくれた時の、イノちゃんの輝くような笑顔を思い出して、つい顔が緩んでしまう。
年末は仕事も圧縮されたみたいに、たくさんあって。加えてライブのリハや打ち合わせなんかがあると、プライベートの事は、ついつい追いやられがちになってしまう。
ついこないだハロウィンの時にも、ハロウィンを忘れるという失態をしたばかりだ。
(忙しいと行事を疎かにしちゃうの…気をつけよう…)
だからクリスマスこそは!と自分なりに準備を進めていた。
時計を見ると、まだ余裕ある時間。この場所なら、プレゼントを買って行くのにちょうどいい。場所も通り道だ。
イノちゃんへのプレゼントは、随分前に決めていた。オフの日に、ひとりで悩み歩いたんだ。その時買っても良かったけど、クリスマスまでまだ数週間あったから。
直前で買った方が、街のクリスマスでワクワクした空気とか、俺自身の気持ちとか。新鮮なまま一緒にラッピングされる気がして、今日まで用意しなかった。
(よしっ!)
仕事を早く終わらせて、買いに行こう。そして、今日は別の仕事に行っているイノちゃんと、待ち合わせをするんだ。
主に色々なチェックをする仕事を終えて、マネージャーと来月以降の打ち合わせ。
かなりのハイスピードで仕事をこなして、まだ残っている3人に挨拶をする。
「じゃあ、先に出るね。お疲れ様!」
おー。お疲れ!と言いながら、3人はそれぞれ立ち上がって、ごそごそと荷物を探る。
「?」
「はい!隆ちゃんメリークリスマス☆」
「真ちゃん!」
「ん。俺も」
「え。Jも⁉」
「もちろん俺も!」
「スギちゃんまで!」
あっと言う間に両手にプレゼントが積まれてビックリしたけど、すごく嬉しいよ‼
皆んなありがとう‼ってお礼を言うと、満足そうに笑ってくれた。
せっかくくれたんだから、ここで開けようとしたら、激しく止められた。
「これはイノと開けてな」
「そうそう!やっぱクリスマスになんないとさ」
「必ず!イノ一緒に見るんだぞ‼」
「う…ん…?」
3人の珍しい程の威圧感に口ごもる。
な…何なんだろ…。
なんか変だな…と思ったけど、そんな事言ったら悪いから。もうそろそろ時間だったし、3つのプレゼントを抱えて事務所を出た。
「う~…寒いっ」
待ち合わせの場所まで、12月の夜の街を歩く。
夜の7時頃。イルミネーションがずっと続く道を進んでいく。
綺麗だなぁ。クリスマスだなぁ…なんて思いながら。いつもより景色を眺めて上向き加減でいたら、もう待ち合わせ場所の目の前だった。
大きなクリスマスツリーが立っているその場所は。
小さな噴水や、ベンチも点在していて、もちろんキラキラとイルミネーションも輝いて。
カップル達の待ち合わせ場所みたい。
待ち人を探す、カップル達に混じって。俺もイノちゃんを探さないと…とチラチラと周りを見回す。
( んーー…)
まだほんの少し早いから、まだ来てないかな?
見渡した感じ、イノちゃんらしい人は居ない。
もう少しかなぁ…と思っていたら。
ぐんっと、後ろから腕を掴まれた。
「‼?」
ビックリして振り返ったら…
「見っけ。」
「‼ーーーーっ…イノちゃん」
「こんばんは、隆ちゃん」
思わず、くっ…と、息を止めてしまった。
目の前には、口の端をニコっと上げた
イノちゃん。
もうっ !ホントにビックリしたよ。
「隆ちゃん、驚きすぎ」
「だってっ …」
「……隆」
「っ …」
スッ…とイノちゃんは間合いを詰めて、ほんの隙を突いて、俺の頬に指先を這わせた。
イノちゃんの視線はじっと俺に向けられて、その瞳にはイルミネーションのキラキラした光が映って。見つめられたらドキドキしてしまう。
何も言えず口を噛みしめる俺を見て、イノちゃんはもう一度にっこり笑って言った。
「隆ちゃんの目の中、キラキラ」
「ーーー……っ…」
「超かわいい」
もうっ ‼ だから何でそう……格好いいんだよっ!
そんな事言われて、あんな笑顔向けられたら、ますます何も言えない。
かぁ…っと、顔が熱くなって俯いて何も言わなくなった俺に、イノちゃんはやれやれ…と、ため息をついたらしい。笑いを含んだ空気が目の前から感じられた。
「さ。じゃあ隆ちゃん、行こうか」
イノちゃんの表情がとっても楽しげに緩んで。それを見て、俺もやっと微笑んで見せた。
「うん」
「それにしても、隆ちゃん荷物多いね」
目的の場所まで歩く途中、イノちゃんが俺の方を見て言った。
「こっちの大きいのは、真ちゃんとJ君とスギちゃんに貰ったの。
…なんかね、必ずイノちゃんと一緒に見ろって言われた」
「うっわ…怪しい」
「ね。…何入ってんだろ」
「じゃ、帰ったらね。開けてみよう」
「うん」
イノちゃんは苦笑いを浮かべると、俺の手からひょいと。3人のプレゼントの入った大きな紙袋を取り上げた。
「あ…」
「これで片手空くでしょ?」
…そういう事…?
手、繋ごうよ。って、事だよね?
嬉しくなって、空いているイノちゃんの左手に触れたら。そのまま、ぎゅっ…と指を絡めてくれた。
手を繋いで、すぐ側にイノちゃんを感じたら。外はとても寒いのに、ここだけぽかぽか。冬の陽だまりみたい。
それだけで、また嬉しくなって。もう片手に持っている、小さい紙袋を掲げて、イノちゃんに見せた。
「こっちは俺から。イノちゃんにプレゼント」
イノちゃんは一瞬目を見開いて。でもすぐに、嬉しそうに目が弓なりになる。
「隆ちゃんありがとう。俺も用意してるよ、後でプレゼント交換だね」
「うんっ 」
足が浮き立つよう。
これからが楽しみで。
何より、一緒に居られることが嬉しくて。
つい緩んでしまう顔を隠しつつ、早々に着いた場所は。
俺もよく知るところだった。
「隆ちゃんの好きな海外アーティストが、来日してるって知ったから」
そう。ここは夜景が本当に素敵な、ライブステージ。俺も何度も立ったことがある。イノちゃんもここ最近、このステージに立つようになった。
観る側としても、何回か来た事があったけれど。ここへはいつも一人で来るし、イノちゃんとライブに来るなんて、いつ以来だろう。
2人して見知ったスタッフさん達に挨拶をして、イノちゃんが予約していてくれた、カウンターの席へ。
飲み物を注文して、眼前に広がる景色に早速酔いしれてしまう。
ほぅ…と、ついた感嘆のため息に、イノちゃんも弾んだ声で言った。
「もう今日はさ、純粋にこの空間を楽しもうね」
「そうだね、今日は演る側の責任感無しでね」
「そうそう、音楽とお酒を楽しんで」
「…でもイノちゃんはいつもそうじゃない?」
俺の言葉にイノちゃんはちょっと考えて。そうかも…。と言って小さく笑った。
「良かったね~!イノちゃん今日はありがとう‼」
「どういたしまして!喜んでくれて良かった」
ライブが終わって、俺たちは今タクシーの中。
イノちゃんの部屋に向かう途中だ。
ライブの興奮冷めらぬ2人、音楽の話を止めどなく交わす。
ステージに立つ側と、観る側では。同じ空間でもやっぱり違うんだ。
立つ時は、袖に居る時の緊張感。練習から今日に至るまでの感慨。メンバーとの一体感。それらを全て抱えて、立つ者を待つステージにのる。
観る時は、この空間を心から楽しむ。聴こえてくる一音一音にドキドキして。ステージから投げかけられたパワーを受け取って、想いを混ぜ込んでステージに返す。
やっぱりライブっていいね。
そうこう話しているうちに、もうイノちゃんの家。
お邪魔します。と、勝手知ったる部屋にあがる。
リビングの、いつも座るソファーを背に、ラグの上にペタリと座る。
そして背後のソファーに置いたプレゼントをひとつづつ取り出した。
「それ、開けてみようよ」
俺用に紅茶と、イノちゃんはミネラルウォーター。床に座る俺より一段高い位置のソファーに座って。興味津々に3人からのプレゼントを手に取った。
「それ真ちゃん」
「お。真矢父さん!…んっと」
「………なにこれ」
「なにこれ……黒…猫の…なりきりエプロンドレス???」
……………
「……これ、J君」
「ん。………これ…?」
「……耳…。黒猫の」
「なんかこれ、ついこないだ見た事あるな」
「……うん…そだね」
…………。
「はい。スギちゃんの…」
「嫌な予感しかしないけど……………」
「……っっ⁉…し…下…着⁉」
「うわぁ…」
それでイノちゃんと一緒に見ろって言ってたのか!
フルセットで着用したら、可愛い黒猫になれるって‼???なに考えてんだっ‼
俺が着るとでも思ってんの‼?
着ない‼絶対!ぜーったい着ないよ‼
「隆ちゃん」
「やだっ‼着ないから!」
「わかってるよ」
「ーーー…え?」
憤慨した俺はイノちゃんの涼やかな言葉に、ピタリとおさまってしまう。
イノちゃんは優しく微笑むと、俺がしてるみたいに床にズルリと降りてきた。
「俺が隆ちゃんの嫌がること、しろって言うと思う?」
「ーーー…」
「もちろんコレ着たらめちゃくちゃ可愛いと思うけど…。でも無理矢理なんて俺だって嫌だよ。」
「イノちゃん…」
「……それにさ」
「?」
「隆ちゃんは、このままが一番かわいい。…このままが、一番エロいと思うよ?」
「なっ…なに言ってんのっ」
「言葉どおりだけど?」
ぎゅっと、イノちゃんが俺を抱きしめる。首筋に息がかかって、身体が捩れてしまう。
「隆ちゃん、いい匂い」
「っイノちゃん…」
んー?と言いながら、イノちゃんは唇にキスをして、首筋や鎖骨を舐めたり、軽く甘噛みしたり。ゾク…と背筋が痺れて、無意識に呼吸が荒くなる。
「や…っ…イノちゃん!待って…」
「なんで?」
「シャワー…っ 浴びてないよ」
「いいよ」
「え?…っあ…ゃ…待っ」
「隆ちゃんの匂い、好きだよ。めちゃくちゃ興奮する」
「ぁっ…イ…ノっちゃ…」
いつの間にかソファーの下で組み敷かれて、見上げるとイノちゃんは嬉しそうに俺を見てる。
抵抗していた俺の右手も、力が抜けてくたり…。と落ちる。
するとイノちゃんは、ソファーの上のプレゼントの中から、黒猫の耳のカチューシャを取り上げて。
ハロウィンの時みたいに、俺の頭にそっと付けた。
「ごめん。やっぱり…これだけ、いい?」
「…イノちゃん…」
「前みたいに、今夜だけ。黒猫隆ちゃんになってくれる?」
少し済まなそうに見つめてくるイノちゃん。そんな顔しないでよ。なんでも言うこと、聞いてあげたくなっちゃう。
恥ずかしいけど…。でも。
これだけでいいって、俺の気持ちも考えてくれる、優しいイノちゃん。
イノちゃんが喜んでくれるなら。
「いいよ」
「ーーーん。ありがと、隆ちゃん。すごく、かわいいよ?」
「…んっ…」
「っりゅ…ぅ…」
「ぁっ……ァっ ん」
霞んでいく意識の片隅で。
あ、肝心の俺からのプレゼント。
まだ渡してなかった事に気が付いて。
でも。
でも今は、与えられる愛情で溺れそう。
潤むイノちゃんの瞳は、まるでイルミネーションが映った、あの時の瞳みたい。キラキラしてて、とっても綺麗。
大好きだよ、イノちゃん。
今年もイノちゃんとこの季節が過ごせて嬉しいよ。幸せだよ?
来年も一緒に、音楽やろうね。
たくさん愛し合おうね。
Merry Christmas.
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