短編集・2












CALL











イノちゃん







「え?」






声が聞こえた気がして、辺りを見回した。
…けれど。
聞き覚えのある声の主は見当たらない。

それはそうだ。
〝彼〟が今ここにいるはずない。

だって〝彼〟は今、取材の仕事に行っている筈なんだから。





「ーーー幻聴?」



だとしたら、相当か?

隆は先日新しいアルバムを世に送り出した。スタジオで、自宅で。ずっと大切に作り上げていた曲達だから、完成したアルバムを手渡してくれた隆は、それはそれは誇らしげで嬉しそうだった。
ーーーで、アルバム発売となると始まるのが各種キャンペーン、取材や、その先に続くライブの準備だ。
隆は今日は音楽雑誌の取材。
その後会えたらいいねって、昨夜電話で話してたんだけど。
実を言うと俺も自身のアルバム制作で、忙しい時期で。
なんとかスケジュール調整できないかと思案したんだけど、結局は時間が取れなさそうで、無理かなぁ…って。電話越しに落胆の溜め息をついた昨夜だ。
ーーー会いたかったなぁ…。

ガシガシと頭を掻きながら、抱えていたギターを数時間ぶりに置いた。
レコーディングの真っ最中の俺。

隆は発売後の多忙。
俺は発売前の多忙。

二人とも音楽という共通点はあるものの、互いに忙しくて最近はゆっくり会えないでいた。




「ーーー…」



深く考え過ぎると会いたくて堪らなくなるから、振り切るように立ち上がった。




「んーっ…」



誰もいないスタジオで伸びをする。
ちょっと休憩しよう。ずっとギターとパソコンと格闘してたから。
気分転換がてら、目の前のコンビニでも行って来ようかな。

テーブルに投げ出したままの財布とスマホをポケットに捩じ込んで。空調の効いたスタジオの外へ出た。






ミーンミーンミーン

ジー…ジジジ





「うっわ…」



蝉の大合唱だ。




「夏だもんなぁ」



スタジオに篭り切りだと忘れがちになるけど。突き刺す日差しが、俺を現実に引き戻す。
今が夏真っ盛りで。
昼下がりで。
暑すぎて、この時間は人通りも少ない事も。
そう言えば腹も減ってる事も。




「やっぱちゃんと外出ないとだめだなぁ」



日を浴びて。
時間と季節を感じないと。




「ーーー…」




暑い最中を、隆とも歩いたっけ。
あれは去年の今頃だ。
あっつい中を、海に行って。
夏草の隙間を歩いて。
夏の日デートを、楽しんだっけ。



陽炎のたつアスファルトを歩きながら、そんな事を思い出して。歩き進めるその先に、コンビニの看板が見えてきて。さ、なに買おうか…と思案し始めた時だ。





イノちゃん




「…!」




思わず立ち止まって振り返る。

まただ。
今度は幻聴なんかじゃないと思う。
確かに聞こえた。

この声。
隆の声。

どことなく縋るような。
静かだけど、熱を内包しているような。
そんな声。
しかも…

俺を呼んでる?




ミーンミンミンミーン…

ワシャワシャワシャ

ジージー…





「ーーー…」




蝉の合唱賑やかなこの道。
午後の日差しに照らされて、明る過ぎる真っ白な道。
やっぱりそこには隆の姿は無い。
ーーー当たり前なんだけどさ。




「ーーー」




腕時計にチラリと目をやる。
ーーー取材の真っ最中って頃かな?新しい曲達について、熱く語っているだろうか。


こんなに度々、空耳?幻聴?が聞こえるなんて、やっぱり相当会いたいんだろうな…俺。

再び、頭をガシガシガシ。



ーーーそうだ。
後で隆が終わりそうな頃を見計らって、電話をかけてみよう。
お疲れさまって。
仕事どうだった?って。

そこでいつもの元気いっぱいの隆の声が聞けたら、今日度々感じた隆の声?…の不思議で持て余した俺の気持ちも落ち着きそうな気がする。




「そうだ。そうしよう」




そして隆の都合が良ければ、明日こそ会いに行こう。

そう考えたら、楽しみになってきて。
俺は意気揚々と、涼しい店内に足を踏み込んだ。













…………………



今日のスタジオでの作業がひと段落したのは、もう夕暮れ時だった。

片付けをして、テーブルに散っていた細々した物を鞄に詰め込んで。
そうだ、一度隆に電話…と思って。
ジーンズの後ろのポケットにしまっていたスマホを取り出した。

隆、仕事終わったかな。

心躍らせながら、隆の番号を呼び出し…ーーーた時だった。



pipipipi…



「っ…⁉︎」




逆に鳴り出す俺のスマホ。
…タイミング良過ぎて、ちょっとびっくりする。
しかも画面を見ると…




「え?…葉山君⁇」




pi



「はい、葉山君?」

『イノランさん!すみません』

「どしたの?なんか血相変えて」

『イノランさん、もう仕事終わりですか?』

「ん?ああ、今スタジオ出るとこだけど」

『今日は車で…?』

「うん、そうだけど…ーーーそれが……?」

『‼︎良かった』




なんだなんだ⁇一体どうしたんだろう?
いつもの葉山君らしからぬ様子。
しかもどうやら電話の向こうで、誰かと喋っているようだし…。




「葉山君?大丈夫?」

『はい!すみません、まるで訳わかんないですよね…。えっと、実は今隆一さんのマネージャーの車なんですけど』

「え?隆ちゃんの?」

『隆一さんの仕事、僕も一緒に同席したんですけど…。仕事終わって、マネージャーに送ってもらってる途中で、隆一さんがちょっと頭痛がするって。…ここ最近連日仕事で、今日はこの暑さだから疲れからだろうってご本人は言うんですが…』

「隆が?」

『水分摂って頭痛薬飲めば治るよーって、隆一さんは言ってるんですど。マネージャーはちょっと心配だからって、今すぐ送るからって、家に向かっている途中なんですが』

「うん」

『ーーーその…。…隆一さんが』

「⁉︎隆が!!!?」




なんだ⁉︎
その言いづらそうな葉山君の口調は…
そんな深刻な事態になってんのか⁇





「隆が⁉︎隆がどうしたんだ⁇」

『ーーーイノランさんに会いたいと…』




ーーーーー。



「へ?」

『イノランさんは今日はスタジオに居るはずだから、家じゃなくてスタジオに連れてって…と』

「ーーー」

『家帰って寝た方がいいんじゃないですか?ってマネージャーが言うんですけど、イノちゃんに会う方がどんな特効薬よりも効くもん!って…譲らなくて』

「っ…」




ちょうど近くまで来ているから、まだスタジオに居るなら隆一さんを受け取ってもらえないでしょうか?…って運転中のマネージャーが言っています。
そんな風に、少々恐縮した感じで言うから。
マネージャーや葉山君に我儘言う隆の様子を思い浮かべて、苦笑しつつも可笑しくて。…嬉しくて。




「もちろん!待ってるよ」

『ありがとうございます!隆一さん喜びますよ』

「いえいえ」



願ってもないよ。
だって会いたかったのは俺も同じなんだし。
それにちょっと、心配だしな。
時折無茶する奴だって事も知っているから。報せてもらえて良かった。
隆のマネージャーと葉山君に感謝だ。




「すぐ出られるようにしとこう」




残りの荷物を肩に掛けて、ギターケースを持って。使用してた機器の電源をチェックして部屋を出る。
通りがかりのロビーに向かう通路の途中の自販機でイオンウォーターを買う。
手のひらに冷たさを感じながら出口に向かうと、そのタイミングで葉山君がドアを押し開いて入って来た。




「イノランさん!」

「葉山君、ちょうどいいタイミング」

「すみません、突然で」

「ん?全然!なんも気にしないでよ」

「良かったです、イノランさんがここにいてくれて。ーーー今隆一さんを連れて来ますね」




すぐ外に停車しているんだろう。葉山君は踵を返すと外に出て、間も無くすると隆を連れて再び建物に入って来た。


ーーー頬っぺたがちょっと赤いかな。

パッと見、元気そうに微笑んでるけど。
やはりどこか辛そうな様子が見え隠れしてる。




「葉山っち、ありがとう」

「いえ、隆一さんもこの際だからゆっくりしてください。…やっぱり疲れが溜まってたんですよ」

「…ん、ごめんね。煩わせちゃって」

「言う事聞いてちゃんと休んでくれれば大丈夫です。マネージャーも心配してたし…」

「うん」

「ライブ用のアレンジは進めておきますから、マジで!ちゃんと!休んでくださいね」

「…ん、はい」

「ーーーじゃ。…隆一さんの特効薬が待っててくれていますよ」

「っ…ーーーうん」




葉山君に、トン…と背中を押されて。
隆は、トトト…。俺の前に寄って来た。
ーーー皆んなに我儘言ったっていう後ろめたさがあるのかな?ちょっと窺うように見上げる隆の視線は、揺れている。




「…イノちゃん」

「ん、おかえり」

「ーーー怒んないの?」

「なんで?」

「ーーー我儘言ったからさ。…俺」

「そうだな」

「…うん」

「葉山君とマネージャーにお礼が言えていればいいよ」

「え?」

「僕達はちゃんと言っていただきましたから、大丈夫ですよ。また元気な顔を見せてくれるのが一番です」

「ん!じゃあ、いいんじゃない?」

「っ…」




にこにこして立っている葉山君に、頷いてみせる。
隆の手を引いて、緩く繋ぎ止めた。




「隆を連れてきてくれてありがとう。報せてくれて良かった。マネージャーにもよろしくね」

「はい!」

「確かに隆を受け取ったよ。しっかり休ませるから安心してな」




そう告げると。葉山君はホッとした顔をして、手を振ってスタジオを後にした。












スタジオの駐車場に、二人で向かう。
いつもはスタスタと元気よく歩く隆が、やっぱり今日は、少しおとなしい。
口数もちょっと少なめだ。

今日の隆は、いつも以上に守ってあげたくなる雰囲気を纏う。





隆を助手席に押し込んで、さっき買ったイオンウォーターを手渡してから。車のトランクと後部座席に鞄やらギターケースを詰め込む。

エンジンをかけてエアコンを入れても、冷房が効いてくるまで少しかかるから。ひとまず少しだけ窓を開けて、新鮮な空気を取り込んだ。

夕暮れの夏空の下を、走り出す。







「隆、体調平気?」

「ん、さっき鎮痛剤飲んだから。だんだん効いてきたみたい」

「頭痛治まってきたんだ。…良かった」

「うん」

「でも今日は無理しないで。…ちょっと買い物寄って、うちに来るか?」

「うん!」

「ーーー」

「?…なに?」

「…いや。ーーー久しぶりだなって」

「え?」

「隆とこうして、ふたりっきりでのんびりすんの」

「…ん、そうだね。そうだよ」

「ーーーこれ言ったら、あの二人に申し訳ないっていうか…不謹慎かもしんないけど」

「うん?」

「会えて嬉しい。なかなか時間取れなくて、ちょっと悶々としてたからさ。…こんなかたちでも、会えて嬉しいよ」

「イノちゃん…」

「ゆっくりしよ?久々にさ」



コクンと頷いた気配がしたから、横目で隆を見ると穏やかに微笑んでいた。

緩くて、甘くて、ほんのりした隆。
こんな姿は、きっと俺にしか見せてくれない。
これから先も、それでいいと願う。




家の冷蔵庫の中をパパッと思い出して、必要そうな物を頭の中にリストアップする。近場のマーケットに寄って、それらを買って。再び俺の家を目指して走る。
その途中で。




「…あの、イノちゃん?」

「ん?どした」



隆がもじもじ。ちょっと控え目に俺を呼ぶ。
しかしその視線は、車窓の外に向けられて。
じっと、空を見つめてる。




「どした?」

「…うん。あのね、イノちゃんの家に行く前に…一箇所だけ。寄っちゃだめかな」

「…どこ?」

「ーーーーー防波堤」

「ーーー海?」

「うん」




海。

ーーー海か。




こんな時。本来なら、やめようって言うべきなんだろうけど。

あの二人の心配してた姿を思い浮かべると、速攻帰って休ませるべきなんだろうけど。





「ーーーーーう…ん」




知ってるからさ。
隆にとっての海。

ずっとずっと、本当にずっと前から。海が隆に与えてきたチカラを、知ってるから。

だから、いつもより弱ってるこんな時こそ。
行きたいっていう海に連れていくのが、良いんだろうって。





ーーーごめん。
葉山君。
マネージャー。

無理はさせないから。






「いいよ」

「!」

「行こう?海」

「ーーーっ…ありがとう」




それに、そう言えば、まださ。
夏らしい事、隆としてないもんな?










ザザ…ン
ザパァ…ッ…

ザ…ン


ピイ…ピー…ピイ…





波の砕ける音が、蝉の鳴き声を打ち消して。
その隙間に聞こえるのは、自由なカモメの声だ。






都内から行ける、隣県の一番近い海。
今日は砂浜じゃなくて、テトラポットが続く防波堤沿いに車を停めた。



ーーー風が気持ちいい


日が暮れたせいか、日射しの暑さがストンと抜け落ちて。空気はまだぬるいんだけど、海風が良い。

防波堤のコンクリートの地面をジャリジャリ歩いて、堤防すれすれまで寄った。






「ーーーはぁ…」




隆が大きく息をついた。

そして深呼吸すると、胸の高さくらいのコンクリートの壁にもたれ掛かった。





「ーーー来れて良かった」

「ん?海?」

「うん。ーーーゆるっ…て」

「ゆる?」

「ーーー音楽してても、深呼吸できるんだけどね?ーーーでも、海はちょっと違うんだ」

「ーーー」

「真っさらになれるんだ。ただの隆一になって。呼吸ができる」

「ーーー」

「ーーーーーゆるゆるになって、力が抜ける」

「ーーー隆」

「ん?」




「隆」


「…っあ」




後ろから隆を抱きしめた。
思ったよりも元気そうだと思ったけど、こうされる事を待ってるみたいに感じて。




ーーー俺もこうしてあげたかったし。






「イノちゃん」





イノちゃん。…そう俺を呼んだ隆の声が。今日時折、空耳みたいに聞こえた隆の声と同じに思えて。

ーーーああ、そうか…って。
気が付いた。




ずっと会えなくて、会いたくて。
抱きしめて、抱きしめられたくて。
無意識にも呼んだ、恋人の名前。

同じ想いを抱えてた俺に、届いたのかもしれないな。

この夏空を飛び越えて。
この夏の暑さに負けない、恋心の熱さを乗せて。








イノちゃん。




ねぇ、イノちゃん。

元気にしてる?





俺は元気。

毎日歌って、歌って…




歌に乗せて、あなたを呼ぶよ。




イノちゃん。


イノちゃん…





どうかこの声が、届きますように。















家に着いたら、もう夜だ。

暑さのせいか、食欲もそこそこな俺ら。
軽く食べて、順番にシャワー。

俺が風呂から出ると、隆はぼんやり。
髪も乾かさないで、リビングの床にペタンと座って外を見てた。
頼りなさげに見える隆の背中の、襟足が。
いまだ濡れて毛先がまとまっているのを見つけて、俺は溜め息をついてドライヤーを手に取った。





「乾かさないで。風邪ひくぞ」

「…平気だもん。夏だから」

「そーゆう油断が!隆、いま弱ってんだから」

「弱ってないよー」

「弱ってんだろ。俺を甘く見んな」

「っ…」

「お前の事、ちゃんと見てんだからな」




ーーーあ。でも…最近は、そうじゃなかったか…。会えてなかった。
…偉そうに言えないか。





「イノちゃん」



「ーーーまた呼んだ」

「?」

「呼んでくれた」

「え?」

「俺の名前」

「ーーー」

「お前の声で。今日一体、何度聞いたと思ってる?」






弱った時。
不調の時に呼ぶ名前は。

何よりも誰よりも欲しい相手の名前だって、気付いているか?




それこそ、特効薬になりうる。
ただ一人の名前。





隆は濡れた髪も気にせずに。
座ったまま、俺を見て。

両手を広げて、俺を待つ。

俺が受け止めるのを、待ってる。





「ーーー特効薬さん」

「ーーー」

「イノちゃん」

「ーーー」

「もっと呼びたいの。…イノちゃんの名前。呼んだら元気になれるから」

「ーーーーーー」





「イノちゃん」


「ーーーーーーー」


「ーーーイノちゃん…」


「っ…ーーー」


「ーーーーーイノちゃ…っ…」




掠れた隆の声に、堪らずに。
広げられた両手を、受け止めた。






















蝉の鳴き声と違う。
波の砕ける音とも違う。


それらと全然違う音なのに。
こうしているだけで、夏の暑さを連想させるのは。

暑い最中で、濡れた音を響かせてきた。隆とこれまで何度もしてきた、夏空の下でのキスのせいだろう。









「っ、ん…ぁ」

「りゅう」





冷たいリビングの床は、こんな時心地いい。
身体の熱さを冷ますのに、ちょうどいいから。
早々に貪り合う唇の隙間で、俺は隆に問いかけた。




「っ…隆、身体、平気か?」

「ん、へい…き。…したい」

「無理すんなよ」




…言って、苦笑。
無理すんな…なんて。今さら無理だろう?…って。

案の定。
隆はふるふる首を振って、ムリ!って。しがみ付く。



「ここで止める方が無理だもん。会いたかったんだよ、イノちゃんに」

「ーーーっ…隆」

「名前、いっぱい呼んでいいでしょう?」





縋り付く身体を、返事の代わりに押し倒した。
指先を絡ませる。
片手で素肌を撫でる。
散々に犯した唇をやっと解放して、そのまま首筋から鎖骨へと舌を這わせた。




「あっ、ぁ…イノちゃ」

「ーーーもっと」

「イノちゃんっ…イ…っ…」

「もっと」




胸を吸い上げて、甘噛みして。
仰け反った背に手を差し入れて、脚の間に自身の身体を押し入れる。
指先で後孔を解して、唾液で濡らして。

ここまでして、体調が万全じゃなかった隆に、もう一度。




「へい…き、か?」



こくこく。涙を浮かべて頷く隆に、微笑んで。
噛み締めた唇に、もう一度キス。




「ン、ん…」

「はっ…」

「んっ」




ちゅくっ、ちゅ。



キスで蕩けた隙をついて、ゆっくりと。今日はいつも以上に優しく、隆と繋がった。




「あっ、ぁ、ん…あん」

「隆…りゅ…」

「っ…んっ、イ…ぁん、いの」

「もっと…っ」

「ん…っ…え?」

「もっと…もっと呼べよ」




甘ったるい声に頭が痺れそうだ。
そこに俺の名前が混ざるから、堪らない。
もっと呼んでほしくて、隆の最奥まで突き挿れた。




「あっぁん…や、イノちゃんっ」

「ーーーっ気持ちイイ?」

「イノちゃ…っ…イノちゃん!あっ…あ、イノ!」

「りゅっ…ーーー最高…っ」




久しぶりっていうのもあるけど。
やっぱり隆を抱くと、満たされる。
心も身体も、あったかくなる。
気持ちよくて、幸せで。

もっともっと。
愛してあげたい。



会えない日々を埋めるように。
隆を抱いた。



















…………………



「ーーー汗かいちゃったね」

「そりゃ…そうだよ。だって、あんなさ」

「ふふふっ、俺も頭痛、すっかり消えたみたい」

「スッキリしたんだ?」

「そうだね。ーーーお風呂入る?」

「いいけど。…もういいのか?」

「え?」

「ーーーもうしなくていい?」

「っ…」

「また暫く…ゆっくり会えないけど」

「ーーーうん」

「ーーーいい?」




じっと、隆を見ると。
頬を染めて、俺の胸に顔を埋めた。



「ーーーもぅっ」

「葉山君も言ってたじゃん?ゆっくり休んでって」

「休んでない!寧ろ…」

「でもいいじゃん。安息感は、めちゃくちゃあるだろ?」

「っ…う、う…ん」

「心も身体も気持ちよくて、体調万全だろ?」

「ーーーっ…うん」



「ーーーーーだから、さ」




ギッ…。



「もっと聞きたいな。俺を呼んでくれる隆の声」

「イっ…」

「今日めいっぱい充電して、お互い音楽やり切って、暑さに負けないで、また会おう?」

「ーーーイノちゃん」

「な?」




「うんっ」






にっこり微笑む隆の唇を、早速奪って。
飽きる事なんてないけど、飽きるくらい。
抱き合って、名前を呼び合おう。


翌朝の真っ白な日差しが、俺たちを起こすまで。







end









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