短編集・2
こんな事は聞くものじゃないんだろう。
不確定な未来の話なんか。
もしも…なんて話なんか。
大好きなお前に、どんな答えを期待しているんだろう。
困る顔が見たいのだろうか?
ーーーだとしたら、やな奴だ。…俺。
◾️◾️恋
「ーーーっ…ぁ、あっ…」
「隆っ…ーーーーーーー」
「ぁんっーーーんっ…ーーーーーーー」
「ーーーっ…りゅ」
真夜中の寝室。
お互い仕事だった筈なのに。眠い眠いと目を擦っていた筈なのに。ひとたび同じベッドに潜り込んだら求めずにいられない。
大好きなひとが隣にいるから。
隙間なくくっついているから。
あったかくて、いい匂いで。
気付くと俺は…俺達は。
互いを求めて、素肌を重ねている。
眉根を寄せて、潤んだ目を見せてくれる隆。
頬を上気させて、甘い声で鳴く。
そんな隆が堪らなく愛おしい。
こんな隆は、俺しか知らない。
これから先も、俺だけでいい。
俺の背に回された隆の両手指の爪が、容赦なく皮膚に傷を付ける。
それが快感に耐える隆の反撃だって知ってるから。
それが嬉しくて。
もっともっと隆を弄って、奥まで俺で満たした。
「っ…くしゅ」
「ーーー大丈夫か?」
うん。ーーーそう言いながら、鼻をスン…とすすって、隆はもぞもぞと掛け布団に身を潜らせた。
寒いのかな。
たった今まで熱々だった身体が冷めてきたのかもしれない。
落ち着いてしまえば、夜中はそれなりに冷えるもんな。
「ーーーおいで」
「ぅん?」
「ほら…もっと、こっちだよ」
ぎゅっと布団の中で隆を抱きしめた。
外気に晒されていた肩や腕の辺りは、確かにひんやりしてる。
夏とは言え、寝冷えだって気をつけなきゃな。
「ーーー…ぅ、…ん」
「ちょっと隆ちゃん。…なに、そのエロ可愛い」
「ん?」
「声!」
「うん、って言っただけだもん」
「嘘つけ」
「嘘じゃないもん!」
「…ったく、ーーーまぁいいけどさ」
「ぅん?」
「可愛い声聞けるんだから。大歓迎だし」
「っ…ばぁか」
布団の中で、隆は反抗して俺を手で押しやった。ぎゅうぎゅうと腕を突っ張って、キッと引き結んだ唇は、少々不貞腐れて見える。
そんなカオ、俺には逆効果でしかないのに。
何度言ってもわかんないんだよなぁ…。
…そして。
そんな隆一を見ていると。
ちょっと意地悪したくなるのは、恋人を愛おしく思うが故で。
突っ張る腕を宥めて。
二人の間に少しだけ隙間を作って。
真面目な顔と、静かな声音で。
そっと、隆に問いかけた。
「なぁ、隆?」
「…なに」
「ーーー不貞腐れてんの?」
「…違うよ」
「ーーーふぅん?」
「…ぅん」
「ん。ーーーじゃあさ、隆?」
「?…なに」
「もしも。ーーー例えばだよ」
「ーーーーーうん」
「もしも俺がーーーーーいなくなったら」
「ーーー…ぇ…?」
「隆の前からいなくなったら、どうする?」
「ーーーーー……」
「ん?」
「…泣く」
「っ…」
「きっと、しばらく。毎日毎日泣くと思う」
「…りゅ、う?」
呆気に取られる俺。
まさかそんな答えがくると思ってなくて。
〝なに馬鹿な事言ってんの!〟…とか、一蹴されて終わりかと思っていたのに。
隆はプイ…と向こうを向いて、またモソモソと布団に潜ってしまった。
そして、それからね。って、さっきなんか比じゃない、えらく哀しげな声が聞こえてきた。
「イノちゃんの作ってくれた曲、もう歌ってあげない」
「…」
「スギちゃんとJ君と真ちゃんと葉山っちと…イノちゃん以外の皆んなが作ってくれた曲しか歌わない」
「ーーーーーーー」
「ーーー…歌ってあげない」
「ーーーーーーーーーーーー」
「イノちゃんなんか、どっか行っちゃうんでしょ?」
「ーーーーーーーっ……」
…ぐす。
…マジ。
ーーーーーーーーー完敗…。
「っ…ぁ、やぁっ」
「ーーー隆」
猫みたいに暴れる隆。
それは俺が抱きしめたから。
「悪かった」
上手い言葉なんか見つかんない。
だから掻き抱いた。
後ろから、隆を。
「…やだ」
「ごめん。悪かったよ、もう言わない」
「ーーー」
「誓う」
「…ばか」
「ばかだよ。俺は」
「イノちゃんなんか知らない」
「…それは…マジ勘弁」
…ぐし。
こんな展開になるなんてさ。
隆には申し訳なくて内緒だけど。
ーーー可愛すぎる。
涙声の隆。
こんな事は聞くものじゃないんだろう。
不確定な未来の話なんか。
もしも…なんて話なんか。
でももう、これで最初で最後。
もう言わない。
もう聞かない。
もう試したりしない。
もう確かめたりしない。
全部わかるよ。
お前の全部を、ちゃんと見てるから。
お前の声無き声も、全部受け止めるから。
恋してるんだ。
信じられないくらいに。
end
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