短編集・2
テーブルの上のガラスの皿には、赤い実が食べられるのを待ってる。
苺、チェリー、柘榴…
それから、隆。
こぽこぽ…
時折静かな部屋に響くのは加湿器の音だ。
タンクに入れた水が空気の輪を浮かべながら、こぽこぽ…
…ぐす。
今度は隆が鼻を啜った音。
「ん、」
ちょっと辛そう。
何度も寝返りを打って唸ってる。
「水飲むか?」
そう。
風邪っぴきの隆。
気温の変化が大きいからなぁ。
昨夜もだいぶ寒くて厚手の布団を出したんだけどーーー
「仕方ないよな、ゆっくり治しな」
「うー…」
「ん?」
「ーーーーつまんない」
つまんないって、君ね。
そりゃせっかくのオフが…って気持ちはわかるけどさ。
仕方ないだろ、風邪なんだから。
…それに、残念なのは俺も同じ。(言わないけどね)
「早く治さないと明日の仕事も休みになっちゃうよ」
「やーだー」
「一緒にスタジオ行くんだろ?」
「スタジオデート」
「あの…葉山くんも来るんだけど?」
「葉山っちが来るまで」
隠れて。
人目を避けて。
そんな風に愛し合う時は、無駄なものが削ぎ落とされて。
隆だけに (隆は俺だけに) 夢中になる。
二人きりの時間を最後の一瞬まで使い切るみたいに、貪欲に。
ーーーやば…
モードが。
こんな事考えた所為だ。
風邪ひき隆を目の前にして、色っぽい気持ちになってしまった。
「ーーー」
ちらりと、ベッドでうーうー言う隆を見る。
今日の仕事の帰りに買ってきたフルーツの詰め合わせパックの。
〝赤い実セット〟って書かれてた。
それを帰って、洗って、皿に盛って、隆に出した。
熱に浮かされながらも嬉しそうに手を伸ばして。
最初の一個のチェリーを食べた隆の唇が、ルージュ塗ったみたいにさっきから赤い。
ーーーまるでさ。
「隆ちゃん、唇がフルーツみたい」
「ーーーふ、ぇ?」
「赤い実。ーーーなんかすげぇエロい」
こぽこぽこぽ…
ずず…
「なぁ、」
ベタだけど。
人肌ってさ、こうゆう時いいんじゃないか?
裸になって、素肌を合わせて。
温もりを与えあって。
何より、好きなひととするって。
めちゃくちゃパワーをもらえる気がしないか?
それこそ、風邪なんか吹き飛ぶくらいの。
きしっ…ぎっ、
「…っ…ん、ふっ…」
「っ…はぁ、」
言いくるめた感、満載だけど。
頬を撫でた指先をそのまま唇に移したら。
隆も満更ではなかったみたいで、風邪なのにイヤだとは言わなくて。
ーーーもしかして、隆ちゃんもしたい?
そんな風に訊いたら。
こくん、と。
恥ずかしそうに頷いた隆。
〝ーーーしたくならない?風邪の時って…いつも以上に…〟
そんな事を言ってくれたから。
遠慮もなにも、どこかへ行って。
俺はいつもより熱い身体に、身を沈めた。
ぎっ…ぎ、きしっ…
「ぁんっ…あ、あぁっ…んん…」
「熱っ…い、な。ーーー」
「んんっ…!あ、ぁあっ…」
「…りゅ、の中」
「イっ…ぁあっ…イ…ちゃ…」
「ーーーーーっ…隆…」
赤い。
赤い…実。
テーブルの上のものなんか比べ物にならない。
ツン…と美味そうに色づいた隆の敏感な部分を舌先で舐める。甘噛みして、音を立てて吸うと。
隆は首を振って涙を零す。
さっきからずっと繋がってる隆のそこは。
揺する度、突き上げる度に濡れた音を立てる。
熱の所為で、めちゃくちゃ熱くて。赤く熟れて。
それが気持ち良すぎて。
隆の奥まで、もっと奥まで。
隆が俺の腕や背に爪を立てて耐える程に。
「ーーーっ…ぁ、ああんっ…」
「隆っ…ーーーっ…」
愛して、愛して。
愛してあげる。
その俺だけの赤い実を。
「ーーーーーイノちゃん…お腹すいた」
「お」
「ん?」
「その言葉が出てくれば隆ちゃんはもう平気だな」
「だってあんなに動いたんだよ?」
「ん?足んない?」
「な、なに言ってんのー!」
「俺はまだまだいけるけど」
「ええっ⁈」
「じゃあさ、なに食いたい?飯」
「え、え?ーーーんと、じゃあ…カレー?」
「いいよ!作ってあげる!ーーーだからさ」
ぎしっ…
やばいね。
隆の照れて頬っぺた真っ赤にしてる顔見たらさ。
ーーーまた、
ちゅく…っ、
「ん、ぁ」
「もう少ししよ」
「っ…ん、ゃ…」
「そんな顔するから」
真っ赤に熟れた。
美味そうな果実みたいなさ。
end
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