クリスマス イヴ



















プレゼントは何がいい?



その問いかけは、どちらからとも無く。
じゃあ、せーの!で、一緒に言おうよ。
そんな提案で。

ーーーきっと。
ふたりの答えが同じものだと分かっていたのかもしれない。

手を伸ばしても触れられない。
物ではなく、けれどももっともっと恋焦がれる…






「イノに会いたい」

『隆に会いたい』





一緒にいたい。
側にいたいよ。
たったひと言を告げた途端。
堰を切ったように溢れ出る想い。
ふたりして同じ気持ちなんだと確信したら、隆一は鼻の奥がツン…と滲みる気がして。

すん…。

ひとつ、鼻を啜った。





『ーーーーー隆、?』

「…ぇ?」

『泣い…て、』

「ーーーないよ。大丈夫」

『ーーー』

「平気だから」

『ーーーでもさ、』

「…へいきだよ」

『ーーーーー平気じゃないだろ。少なくとも、泣かない様にって、我慢してるだろ』




電話の向こうの恋人が唇を噛んでいる。
我慢して、会話を続けてくれている。
そう思ったらイノランは堪らなくなった。
本当に今すぐ行けるのなら飛んで行きたいと。
抱きしめて、全部を閉じ込めてしまいたいと思った。





『触れ合えないけど、隆ちゃんの声はすぐ側に感じるよ』

「ーーー声?」

『そう』

「電話越しでも?」

『もう耳元で隆が囁いてる』

「っ…だって、電話ってそーゆうものでしょう?」

『声だけじゃなくてさ。隆の体温も匂いも、全部』

「なん…っ、」

『ん?』

「…それってちょっと、」

『ーーー』

「なんか、えっちな言い方…」

『ーーー』

「抱き合う前にいつもイノちゃんが言ってくれるみたいな…」




耳元に吹きかかる吐息も感じないはずなのに。
くすぐったくて、隆一は無意識に耳元に手をあてる。
触れた耳朶は熱くて、変だった。
気分が。
さっきまでの恋焦がれるだけのものじゃ無くなって。
まるでいつもの部屋で、ふたりで見つめ合っているみたいで。

ーーーそしてそれは隆一だけじゃなく、イノランもそうだった。



『触っていい?』

「…え」

『電話越しだけど、隆に』

「ーーー俺、に?」



どうやって?
そう、言おうとしたけれど。
イノランの言う意味を理解してしまった瞬間、隆一の顔はぼぉっと熱くなった。



『クリスマスイヴだもんな?いつもみたいに一緒にいられたら朝まで隆のこと愛してあげたいって思うけど。ーーー今年はさ、』

「っ…」

『こんなのもたまにはどうかなって』

























リビングを後にして、隆一は寝室に向かう。
薄暗くひんやりと静まり返った、いつもはふたりで眠る部屋。
けれども今はひとり。…電話の向こうにひとり。
いつものふたりが、形を違えてここにいる。
それがなんとなくぎこちなくて、かえってそれがどきどきして。
間接照明とエアコンを緩くつけると、ほんのりと暖まり始める空気にほっとした。






『ーーーベッドの上?』

「…ん、」

『ん。じゃあ、どうしようか。服脱いだら寒いよな?』



抱きしめて、あたためてあげられないから。



『服着たままで、』

「ーーーぅん」

『シャツの前、開けられる?』



イノランもまた、旅先の自室のベッドに寄りかかって。
月明かりの照明で。
先走りそうな気持ちを宥めながらも、イノランは鼓動が煩くて仕方がなかった。
だってこんなのは初めてだから。
目の前に隆一がいないのに、隆一に触れている感覚。
指先が震える。




「ーーーはだけた…よ?シャツ」

『ん。ーーー隆、』

「ね、イノちゃん、」

『うん?』

「ーーーどうしよう」

『ーーー』

「すごく、どきどきする」

『…隆、』




それは俺もそうだよ。
耳元で囁きながら、こう続けた。



『今、隆の指先は俺の指先だよ』

「イノちゃん…の?」

『そう。いつもみたいに、隆を抱く時の…』

「…ん、」

『思い出して』





首筋に指先を滑らせて。
鎖骨から、胸。
布越しなのに、隆一のそこはもう固くなって先を欲しがっている。
触れたいのに、触れるのはいけない気がして。
隆一は躊躇いながらイノランを呼ぶ。
どうしたらいいの?と、すでに泣きそうな声がして、イノランの鼓動はどきんと跳ね上がった。



『触って、隆の気持ちイイところだろ?』

「っ…ん、」

『誰も見てない。だから、隆』

「ーーーっ…ぁ、」



少しだけ爪を立てて、隆一は胸の先端を突く。
緩く動かして穿るように愛撫すると、もう声は抑えられなかった。



「ぁ、ん…んっ…」

『ーーー隆…』

「ゃ…っ…イノちゃん、なんか…変…っ…」

『ーーーいい子。…すげ、電話越しなのに、』

「んっんん…」

『お前の声…最高』



電話の向こうで隆一が自分でしている姿を思い浮かべて。
イノランは堪らなくなってベルトを寛げる。
たったこれだけの時間なのに、もう服越しでもわかるくらいに勃ち上がって苦しいほど。
物理的な距離というものが心底もどかしく感じる。
本当ならすぐに隆一を抱きしめて繋がりたい。
唇を重ねて朝まで求め合いたいのに。



『ーーー隆、ベッドの棚の引き出し、』

「…ぇ、?」

『ローション、入ってるから。指先に垂らして、』

「ぁ、」

『できるか?』

「ーーーぅ、うん、」




隆一は言われるままにローションを取り出して。
少々の躊躇いに打ち勝ちながら、左手の指先に透明なトロリとしたジェルを垂らす。
ーーーいつもは。
イノランが舌と指先で丁寧に慣らしてくれるトコロ。
イノランと繋がるトコロ。
そこに恐る恐る、ぬるぬると光る指先で触れた。




「ぁんっ…」

『ゆっくりでいい。撫でるみたいに、少しずつ挿れて』

「ーーーっ…ぁ…あ、はぁ」

『…隆、っ…」

「っ…ん、んん…ーーーーー」

『ーーー挿入ったら…動かして、』

「ーーーーーんっ…ぁ、あん、」

『…りゅ、』



躊躇いがあった最初とは比べ物にならないくらい、今はもう夢中で。
ぐちゅぐちゅと濡れた音は、隆一をさらに追い立てる。
そしてその喘ぐ声は、電話の向こうのイノランが興奮するのにじゅうぶんだった。
下着の中に手を突っ込んで、目を瞑って自身を扱く。



「ぁっ…ゃ…っ…あん、ぁあっ…」

『…隆、りゅ…うっ…』

「イノちゃ…っ…イノ…ぁ、あぁんっ…」

『ーーーっ…可愛いよ、隆』

「ーーーーっ…も、イっ…ちゃ…ぅ」

『っ…ん、一緒に、な』




互いの手の動きが速くなる。
もっと奥までと、隆一はうわ言のよう喘ぐ。
電話の向こうの隆一が声にならない嬌声を上げた瞬間、イノランも。

一緒に。
本当は一緒に。
素肌を重ねて、唇を重ねて。
この特別な夜を過ごせたら。














そのあと、くったりと気怠げな声の隆一と。
空が明るくなるまで話し込んでいたイノラン。

隆、一度眠りな。
そろそろ電話切るよ、と。
イノランは後ろ髪引かれる気持ちを隠して言うと。





「ね、イノちゃん」

『ん?』

「おやすみの前に、イノちゃんにクリスマスプレゼントをあげる」

『え、』

「だって今日はクリスマスだものね。俺が今あげられるものは物じゃないけど。ーーーあのね?」



隆一がはにかみながらくれたのは、クリスマスソング。
耳元で聴かせてくれる、少しだけ掠れた隆一の声は。
イノランしか聴けない、これこそ特別なプレゼントで。



『ーーーこんなプレゼントもらっていいの?ってくらい、マジで嬉しい』

「よかった」

『ありがとう、隆。俺もあげたいんだけどさ、なにを送ったらいいのかわかんなくて』

「もぅ、もらったよ?」

『え、』

「イノちゃんに、プレゼント」

『…俺?』

「えっち、してくれたじゃない」

『ーーー隆、』

「俺だけだものね?」

『当たり前』

「ふふっ」

『じゃあね、帰ったらーーー。年明け、お前のところに帰ったら』

「ん?」

『今度はちゃんと、セックスしよう』

「っ…うん!」




ーーーじゃあ、ツアー頑張って。

ーーー隆も、風邪引くなよ?

ーーー引かないよ。ちゃんと元気にイノちゃんを待ってる。



そんな会話の後。




「おやすみなさい」

『ん、おやすみ』



電話越しにキスをして。



「メリークリスマス、イノちゃん」

『メリークリスマス』




『愛してるよ、隆』










end



























「隆ーぅ!メリークリスマス!」

「おはようスギちゃん」

「どうだった?昨夜はなんとか…イノと電話で話せた?」

「話せたよ!葉山っちにケーキももらって、いいイヴが過ごせたよ」

「そっか、それならよかった。もう隆が寂しくて泣いてたらどうしようって気が気じゃなくて…」

「大丈夫だよぉ、ありがとうスギちゃん」

「うんうん!ーーーで、プレゼントは結局どうなった?」

「ああー。…うん、えっとね」

「うんうん」

「ーーーーえっ…と、」

「ーーーーうん?」

「ーーー言わなきゃダメ?」

「いや、別に無理やり聞こうとは思わないけど、」

「スギちゃん呆れるといけないから」

「ーーー呆れる?なんで?」

「え、だって…」

「ーーー」

「ーーーーーーぅー…。」

「ーーー」

「ーーーーーーーやっぱナイショ」

「ええ?」

「ごめんね」



(ーーーさすがに言えないよねぇ)







end







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