恋人はサンタクロース



















初めてのサンタクロース体験、どうだったかって?
それはもう、特別な体験。
子供の頃、一度は信じるサンタクロースに自分がなれて。
プレゼントを配るっていう、責任重大かつ、最高に幸せな役目ができて。
この体験が、また新しい音楽の糧になると思う。
クリスマスソング作ってみるのもいいよな!




夜明けに戻った俺ら。
ソリの後ろは空っぽ。
トナカイ達は、朝日を浴びると次々にギターの姿に戻っていった。
俺の胸にくっついていたサンタクロースの大切な星は。
役目を終えると自然と剥がれて、トムテが持ってきたオルゴールの箱の中に無事に収まった。このままサンタクロースの手元で来年のクリスマスイヴまで眠るのだろう。





「ありがとう」

「ん?こっちこそ、すっげぇ楽しかった」

「うんうん!貴重な想い出ができたよ、ありがとう!」



「ーーーこれ サンタクロース から」

「え?」

「ふたりへ クリスマスプレゼント」



きらきらきらきら…

トムテが差し出してくれたのは、(トムテにとっては大きな)手のひらに乗るくらいのスノードーム。
光に透かしてみると、中には…



「ん?…あれ」

「なに?どんなの?」

「…や、っていうか」

「ーーーあれ?中身がない?」



丸いガラスの中には、白い粉雪以外何も入っていない。
ーーーまぁ、これはこれで有りかも…って思ってたら。



「クリスマスの日 25日 一番幸せを感じた瞬間 中身が入る」

「!」

「これも魔法のスノードームなんだ」

「サンタクロースの魔法か」

「すごいね!どんなのができるのか楽しみ」

「な、」

「ありがとう!サンタさんによろしくね」

「彼にも、メリークリスマスって伝えてな」

「あと、君にもね!」



そう言って隆はツリーに飾っていたキャンディケーンをプレゼントすると、ここで初めてトムテが微笑んだ気がして。
ありがとう、って。
また、窓から外へ出て行った。

















ここから二人でクリスマスだな。

トムテが去って、少しばかり静かになった部屋で。
俺は傍にいる隆を抱き寄せた。
すると隆はびっくりした様子で、スルリと腕から逃げ出して。




「まだだめ!」

「ーーーなんでだよ…」

「だってまだ何もしてないでしょ?」

「まだって…」

「街のイルミネーションも、ディナーもケーキもプレゼント交換もしてないよ」

「…」



やれやれ…。
でもさ、イルミネーションはソリの上から散々見たし、クリスマスのご馳走もケーキも、もう少し後にしない?
…でも、



「プレゼントは先にあげようかな?」

「ほんと?」

「ああ、ほら。いいもの買ったって言っただろ?」

「そうだった、楽しみにしてたんだ」

「良かった、じゃあクリスマスディナーは今夜って事で。今から夕方まではさ」

「ん、?」

「二人の時間」














隆がくれたのはブレスレットだった。
俺が好きなブランドのものを知っててくれて、一部オーダーメイドしてくれたらしい。
すごく素敵な品。
隆がくれたんだ、大切に着けていきたいと思う。




「ありがとな、隆ちゃん。ーーー大切にするね」

「うん、喜んでくれてよかった」

「もちろん。ーーーじゃあ、俺も」

「っ…うん」



なんだろう?って隆がそわそわしてる。
そんな期待されると、ほんの僅かに痛む良心…

俺が用意したプレゼント。
もちろんこれだけじゃないけど、ちょっと今年はどうしてもって思って用意した…




「隆ちゃん、あーん」

「え?あーん」


…素直すぎる…。そこがまたいいんだけど…少しは警戒もさせなきゃな…


「チョコ、どうぞ」

「もご、ひょこ?…ーーーん、おいひい!」

「良かった」



むぐむぐする隆を見つめる俺はどんなカオしてんだろう…?
もう察しの通り、隆にあげたのは一粒のチョコ。
その中には、ちょっとだけ。
色っぽい気持ちになる成分が混じってる。
どれくらい効くとか、それは個人差もあると思うけど。
クリスマスっていう、いつもよりもっと愛してあげたい日に。
初めて君に。







「ーーーーーイノちゃん、」

















即効性はそこまで…って書いてあったと思うけど。
それとも隆が効きやすいのか。



「隆?」

「…ん、」


コテン、と身体を傾けて。
とろん…としたカオで、隆はじっと俺を見上げてた。































まだ明るい時間だから電気はつけていない。
気持ち程度引いたカーテンから注ぐ陽の光で。
部屋は程よく明るい。

普段はこんな明るい部屋で…なんて、隆は恥ずかしがって嫌がるのに。
今は、それどころじゃないんだろう。











「…ふぁ、」

「ーーー隆ちゃん、まだキスしかしてないよ?」

「んっ…」




ソファーの上で、さっきからキスを繰り返してる。
触れるだけのものじゃ、早々に物足りなくなったみたいで。
濡れた唇でもっとって、両手を絡ませて、舌先で奥まで強請る。
ーーーチョコの効果なのかどうなのか、もうよくわからないけど。
俺も早々に、余裕を失くす。




「隆ちゃん…足んない?」

「んっ…ぜん、ぜ…」

「ん?」

「もっと、イノちゃん…」




ぎゅっとしがみつく。
熱い隆の身体。
それだけで、鼓動がうるさいくらい。
どきどき、隆に魅せられる。



「ーーー待ってな」

「っ…ひゃ、ぁ」


隆の下着ごと下を脱がせると。
シャツだけを羽織らせた姿で抱き上げる。
急に抱え上げられてびっくりしたカオの隆を連れてきたのは、リビングの大きな鏡の前。
ここからだとツリーも、あのスノードームも鏡に映り込む。
クリスマスだから、今日はさ。




「鏡見ながら、しよ」

「えっ…ぁ、やだ」

「だめ。ーーー二人の時間って言っただろ?」

「っ…でも、鏡…やだぁ」



恥ずかしいんだ。
そりゃ俺だって恥ずかしくないって言えば嘘になる。
でもさ。
今日くらいは、ちょっとだけ。
いつもと違う場所で、いつもよりももっと。
こんなに愛し合ってるんだって、確認し合うのもいいと思わないか?
鏡に映る、俺たちを見て。




鏡の方を向いて、隆の背後から抱きしめて。
シャツの隙間から覗く、ぷくんとした隆の胸を弄る。
手のひらで柔らかく揉んで、もう硬くなってる先端を、指先でしつこいくらいに摘んだり突いたりすると。
隆は唇を噛んで目をぎゅっと閉じてしまう。
恥ずかしくて見られない。
そんな気持ちもわかるけど。



「目、開けて?」

「っ…ゃ、」

「ーーーほら」

「ん…んんっ…」



裾から手を入れて、今度は隆の…勃ち上がっているそれを弄る。隆に見えるように、脚を開かせて。強すぎないように手のひらで包んで上下に扱く。先端を指先で穿るように愛撫すると、トロトロと先走りの愛液が溢れ出た。


くちゅっ…くち…っ


濡れた音が、麻痺させる。



「ぁっ…ああ、ゃあ」

「見ろよ、ほら。ーーー隆のココ、ぐちゅぐちゅに濡れてる」

「ーーーーーっ…や、」

「すげ、可愛い」




すごく自分がやらしい言葉を言ってる気がする。
でも、興奮してるってわかるから、止められない。
隆が愛おしくて、止まらない。



「…なぁ、いま、誰に抱かれてる?」

「っ…!」

「お前をこんなにしてるのは誰?」


手でカオを隠してしまっていた隆が、俺の問い掛けで、そっと。
その手をゆっくり下ろしていって。
涙で潤んだ目で、恥ずかしさで上気した頬で。
鏡の中の俺を、見てくれる。



「ーーーっ…イ、」

「ん、?」



お前を抱いてるのは、誰?



「イノちゃ…」



にこ、




ーーー花が綻ぶみたいな微笑みと、張り裂けそうに愛おしい気持ちって。
こんななんだ。





「ーーーーーっぁ、あぁんっ…」

「ーーーりゅ、!」



隆の肩を引いて、向かい合わせて。
もう限界まで張り詰めていた自身の上に跨がらせて。
いきなりだから、せめてゆっくりと。
先端で隆の秘部を慣らしながら、解しながら挿入する。
するとさっきまで恥ずかしさでおさまっていた媚薬の効果が、また…?



「ん、ぁんっ…ああっ…」

「隆っ、おまえ、」


自ら腰を動かして、もっともっと奥までと。
俺を誘うように抜き挿しを繰り返す。
俺の腹に隆のものが擦れる度に、その硬さが増していって。
熱くて、苦しそうで。
片手で何度か扱いてやると、すぐに一度達した隆。
ーーーでも、まだ挿れたまま。



「ーーーもっ…と、イノ、ちゃ…」

「いいよ、ーーーっ…もっと」

「ぅん!ーーーぁ、」

「隆っ…エロ過ぎ、」

「っ…くぅ、ん…ぁ、あ、気持ち…イ…よぉ」



隆の喘ぎ声を耳元で聴きながら。
快感で霞む視界で、鏡に映る二人を見る。


俺の背中に爪を立てる、必死な隆。
でも、涙を零しながらも、色っぽくて可愛い顔で微笑んでる。
俺も、自分じゃ知らないめちゃくちゃ優しいカオして。
好きなひとと、こんな風にセックスして。
誰にも見せない姿をお互いにだけは、こうして曝け出して。


それってさ?




「ーーーっ…ぁん、あんっ…ああぁあっ…」

「っ…りゅ、いち」





幸せなんだ、俺たち。
どうしようもないくらいに。

























やっぱり、落ち着いたのは夕方。
くったりとした隆を抱きしめながら、呼吸が整うまで、俺は彼の背を撫でていた。

それから、ずっとしてた鏡の前の床を見ると。
思わず苦笑い。



「ーーーちょっと恥ずかしいね…」

「な。二人分ので、ぬるぬる」

「ばか!」


ぺし!


「イテ、」

「そーゆうことわざわざ言わないの!」

「はいはい」

「もぅ、お掃除しなきゃ」

「だな、掃除して、風呂入って」

「うん」

「そのあとはさ、」

「ん?」

「行こうな?クリスマスディナー」

「イノちゃん!」



ありがとう!
ぎゅっとしがみついて、超嬉しそう。
約束だもんな?
支度して、行こうか。








身支度を終えて、でも、ちょっと気怠いって、照れ臭そうに微笑んで脚をさする隆。
そんな隆を気遣いながら、コートを着せてやって、玄関へ。
部屋の照明は消したけど、ツリーのライトはそのままつけておくことにして。
そうだ財布と鍵って、ツリーの隣の棚の上に引き返す。







きらっ



その時視界に入った小さな煌めき。
今日トムテから預かった、サンタクロースからのプレゼントのスノードームだ。

そう言えば中身は空で、なんだっけ…
今日一番幸せな瞬間が入るって言ってたっけ。
ーーー今日一番幸せな瞬間か。
それは隆といればいつだってそうだと思えるけど…



「ーーー…ん?」








「イノちゃん、用意いいよ?どうしたの?」



忘れ物を取りに行った俺がなかなか来ないから、隆も引き返して来た。
俺の手元の例のスノードームを見つけて、パッと顔を輝かせる。



「サンタさんからの贈り物!中身は無いけど粉雪が綺麗だよね!」

「ーーー隆、」

「ぅん?」

「見てよ、ほら」

「ーーーえ、?」




きらきらきらきら…



「…ぁ、」



ほわん…とした、隆の吐息とかすかな驚きの声。
それは甘くて、密やかで。
このスノードームにぴったりだと思った。

そう、中身が入っていたんだ。
いつのまにか…





ツリーの下で。
キスするふたり。
ひとりは黒いリボンタイを着けて。
もうひとりは赤いケープを着て。
その小さな人形達は、可愛らしく寄り添って。
粉雪が舞う度に、微笑んでいるようだ。





「…これ、」

「ーーー今日の、俺たちの?」

「確かに、さっき隆とキスしてる時、」

「え?」

「すごく、幸せだって思った」

「っ…イノちゃん、」

「隆ちゃんは?」

「!」

「隆ちゃんもそうだったら、嬉しい」

「ーーーっ…」

「それだけで何もいらないくらい」

「ーーーお、俺も」

「ーーー」

「俺も思ったよ?イノちゃん」

「ん、」

「あなたがいればいいの」




頬に触れて、また、おさまっていた熱があがってくる。
隆に触れれば、いつだってそうなんだ。

スノードームを抱きしめた隆を、もう一度。
最高に幸せな瞬間な俺たちを、この先も嘘のものにしないように。
再現するように、もう一度。




「ふふっ、もう行かなくていいの?」

「少しだけ。もう少しくらいなら平気だよ」

「ぅん、」

「ーーー隆、」


「…っん、」







クリスマス。
今年は特別。
素敵な体験も、君を想う気持ちも。
全部、このスノードームに閉じ込めて。

この瞬間に負けないくらいの想いを、これから先も、ずっと君に。








HOーHOーHOー‼
Merry Christmas ‼



サンタクロースの愉快な声が、聴こえた気がした。








END





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