もうすぐイヴが終わるとき。















見つけようと躍起になればなるほど、こういうのは上手くいかないもんだ。


スタートしてすぐは、隆とよく行く場所とか、店とか喫茶店。海岸、並木道、公園…etc。
俺ってこんな行動力あったんだ?って自分に感心するくらい歩き回った。



「しっかし見つかんない‼︎」



巡って来た場所もタイミングがズレれば終わり。
せめて時間くらいは合わせるべきだったかなぁ…って、ちょっとだけ後悔したけど。



「でも、それじゃあさ」


言うなれば今回のデートは、俺と隆の愛の深さを再確認するものでもある気がする。
ハードルは高い方が、出会えた時の感動もデカいんだろう。


「ーーーんー…。次はどこを探そうか…」


公園のど真ん中で腕組みして唸る俺。
側から見たらさぞかし異様な光景…⁇





「サンタさんはいつきてくれるのー⁇」




ハッとしたのは、すぐそばを通りかかった子供の声。
母親と手を繋いで、サンタの赤い帽子を被って。
プレゼントくれるかなぁ?って、嬉しそうに歩いてる。

ーーーそうだ。


今日はクリスマスイヴ。
今夜はサンタクロースが街にやって来るんだ。



「ーーーちょっと忘れてたかも」


隆探しに夢中になって、今日っていう日を少しだけ失念してた。
そして意識を上へ上へって向けると。
いつのまにか夕闇迫る空。
街には細かなイルミネーションが輝き始める。
ーーークリスマスソングが、どこからともなく、聞こえてくる。





〝ねぇ、イノちゃん。


また来年も、その次も、その次も。
ずっとずっと、一緒にこの季節を迎えられたらいいね〟




「ーーーあ、」



いつだったか。
こんな寒さの中で、隆の言ってくれた言葉を思い出す。

あの時は、まだクリスマスじゃなったけど。
街には大きなツリーが立って。
きらきらした光を散りばめて、クリスマスを待っていた時期だったと思う。



「ーーーそうだ」



〝プレゼントはね、物じゃなくていいの。

イノちゃんと一緒にいる事。
それが一番欲しいもの。


イノちゃんの側で

ずっとずっと歌っていたい。

ーーーだからね、〟




「そうだ、」



〝どうかこの手を

離さないでね?〟





ーーーそうだ。

そうだよ。




隆はもう、居場所を教えてくれていたんじゃないか。

ずっと前に。
この冬の季節に。















□□□隆







「難しいなぁ…」


もう暗くなってきちゃった。

家を出てからあちこち回った。
イノちゃんの好きな場所。一緒に行ったお店や喫茶店。いつも行く海、散歩する並木道や公園。

ーーーでも会えなくて。



「仮に同じ場所を探しててもタイミングが合わなきゃ…」

意味ないよね。



ーーー会いたいのに、会えない。
会いたい気持ちは今にも溢れそう。
…っていうか、溢れてる。


「ーーー…」


溢れて溢れて…
溢れ続けて。

俺はどうなっちゃうんだろう。

ーーーそうだ。
結局それが怖い。
わからないから怖い。
自分がどうなっちゃうかわからないのが怖い。

…それで、こないだみたいにキスを拒んで。もしもイノちゃんを傷つけたら…もっと怖い。





♪~♫



鈴の音。
クリスマスソング。

どこからか聞こえてくる。

きっと今の俺は、それに似合わない顔してる。
泣きそうで、情け無い顔してる。







「ねぇ、今年も飾ってあるかなぁ。あの大きなツリー」



ハッとしたのは、側を通りかかった女の子の声。
彼氏なのかな?
手を繋いで、寄り添って歩いていく。


「見に行ってみようか」

「うん!」



ーーーーーツリー。
クリスマスツリー。


手を繋いで、寄り添って。







〝また来年も見に来ような〟



「ーーーあ、」



〝どんなに忙しくてもさ。少しでもいいから時間取って、隆と見たい。
このツリー〟


〝そしたらここで…〟




「ーーーーーそうだ。…」




思い出した。
あれは去年の冬の事。
あの日もお互い仕事があって。
仕事の後に待ち合わせて、ゆっくり街を歩いて、大きなツリーを見た。



「ーーーそうだよ」



大きな木いっぱいについた電飾。
クリスマスツリーの下で、イノちゃんは笑ってくれた。




「っ…ーーー俺、」


また一緒に見ようって。
約束したんだ。



「なんで忘れちゃってたんだろう⁈」



あの時既に、イノちゃんは居場所を教えてくれていたのに。

ーーーそれに俺だって…



「知りたかった答え、自分でちゃんとわかってたんだ」




見失ってただけなんだ。




「イノちゃんっ…」

「ーーーイノちゃん…っ…」




早く。
いますぐ会いたいよ。

















□□□INO





ヤバい…。
暗くなってきた。

今日という一日が終わりに向かってる。




革靴履いてきたから、アスファルトの上を小走りで駆け抜ける音がコツコツコツコツ響く。

でも足は止められない。

向かうべき場所を決めたから。
今日が終わる前に。
隆が寂しさで泣き出す前に。

人の流れに逆らって。
とにかく前へ、前へ。




「っ…赤信号」



僅かな時間すら、立ち止まると足踏みしてしまう。
こうしている間も隆を待たせているんじゃないかと思うと、居ても立っても居られない。

まだか…。
まだか⁇



「ーーー隆っ…」



思わず口をつくのは恋人の名前。



「頼むから…泣いたりなんかしてるなよ」





「今すぐ行くから!」
















□□□隆







ツリーの下。

そうだ、確かにここだ。



ここは大きな広場の、一番大きなクリスマスツリーの下。




いつの間にか、もう24時に近づいている。
こんな遅い時間になると、人もだいぶ疎らだ。
カップル達は、お互いの恋人に夢中。

ひとりでここで佇むのは…俺だけみたいだ。





「ーーーイノちゃん…」



絶対もうここしかないって思って来たけれど。
イノちゃんはいない。
イノちゃんにとっては、ここじゃないのかもしれない。
違うのかもしれない。



「…もうこんな時間」



ひとりきりでツリーの下に佇むのが、寂しくて。
ツリーの側の、少し離れた噴水のコンクリート台に腰かけた。




「ーーー…」



空を見上げる。

クリスマスイヴの夜空。
今夜は晴天。

真っ黒な空に、ちかちかと星と月が光ってる。



「ーーーあの月にならわかるんだろうな…」



俺とイノちゃんが、どんな距離で迷子になってるかって。


すぐそばだよ。
すぐ近くにいるんだよ。


そんな風に励ましてくれてるみたいに思う。
月。



「ーーーーーでも、」

「会えないんじゃ、意味ないんだよ」



イヴが終わる前に。
約束の場所で。



「イノちゃん…」

「ーーーイノちゃん、今どこ?」



じんわりと、視界が揺らぐ。
それが涙のせいなんだと自覚した途端、瞬きした瞬間に涙が溢れた。


どうしよう…。
とまらない。




「イノちゃんっ…」


「ーーーーーどこ…?」



俺たちは、もう会えないのかな…



こんな外なのに。
もうどうしようもなくなって、ぎゅっと膝を抱えた。
白いコートに、涙が吸い込まれていく。


とまらない。
とまらない。

涙がとまらないよ…。



「イノちゃっ…」





「隆っ…」





コツコツコツコツって、すごい足音が迫ってくるのに気が付いて顔をあげた。




ふわっ…。

少しだけあげた視界が、真っ黒。

夜空の色?って思ったけど、ちょっと違う。
だって、あったかい。
それに、いい匂い。





「ーーーっ…ごめん!待たせた」


「ぇ、」


「隆ちゃんっ…ーーーよかった!会えた!」





「ーーーーーイ…」




抱きしめられてるんだって、見慣れた茶色の髪に触れて、わかったんだ。
俺が格好いいって言った黒いコートに包まれているって、気が付いたんだ。



「イノちゃん…っ…」







クリスマスイヴが終わる、ほんの少し前。
俺たちは、会えたんだ。

同じ場所で。

出会う場所は、ここだと信じて。















イノちゃんの指先が、涙を拭いてくれる。
ずっと走ってきたんだ。
指先が、ひんやりと冷たい。




「ーーー冷たくなっちゃったね。…手」

「ん?ああ、悪い。冷たいよな?」

「ううん。いいの」

「え、?」

「どんな手も好き。イノちゃんのなら、どんなのだって」

「隆」

「大好きだよ?イノちゃん」




ーーーねぇ、サンタさん。見つけたよ?
馬鹿みたいだ。俺。

何を怖がってたんだろう。
想いの先を怖がるなんて、なんて勿体ない事したんだろう。

好きだって思えたなら、進めばいいのに。
進んで進んで、未開の地だって行けばいいのに。

だって。
手を繋いでいてくれるひとが、ここにいるんだから。


怖いことなんか、最初から無かったのに。








「っ…ん」



ひんやり。
唇に触れるもの。

でもすぐに、柔らかくてあったかい…



「んっ、」


ちゅっ…


ーーーあ。

キスしてるんだ、ここで。
ツリーの側で。
イノちゃんと。




「ーーーっ…ふ、ぅ」

「りゅ…」



コツ。

唇を触れ合わせながら、おでこがぶつかった。
目の前には、幸せそう微笑むイノちゃん。




「ーーーもう拒まない…だろ?」

「!」

「だって隆、めちゃくちゃイイ顔してる」

「え、?」

「可愛くて綺麗で、最高に色っぽくてエロい顔」

「っ…な、なにそれ⁉」

「そのまま。言葉通りだよ」

「ーーーっ…もぅ」

「な、」

「え?」

「せっかくのイヴだ。出会えた奇跡、このまま終わりじゃないよ?」


「ーーーえ、」



「一緒にいよう?今夜も、これからも。」

「ーーーーーずっと?」

「ずっと」

「っ…ずっと!」

「約束だ」












end…?




























「ーーーっ…あ、」





ここはどこ?
ここはホテル。

ちゃっかりイノちゃんが予約しててくれた、夜景の綺麗なホテルの最上階。

万が一会えなかったらどうしたの?って訊いたら。



「出会えないわけないって信じてたし」

…だって。





あのあと手を繋いで連れ込まれたホテル。
すっごい夜景!って感動している間もなく、イノちゃんにコートも服も脱がされて、あっという間にベッドの上。




「ぁんっ…イノちゃっ…待っ…」

「ん?」

「待っ…て、ぇ」



だって電気も点いたまま、シャワーもまだ!



「気にすんな」

「っ…す、る!」

「いいの。ーーー隆の匂い好きだし、堪んない」

「ーーーっあ、ゃ、あん」

「その声ヤバい…」

「んっ…、んっ…」

「ーーー好きだよ」




どきん。
跳ねる鼓動。

ーーーもう、ズキンって痛む胸じゃない。

どきどきした胸は、イノちゃんを求めてる。




「好きだ」

「ーーーっ…イノ」

「好きだよ隆」

「イノちゃん…っ…」

「ーーーもっと言っていい?」

「っ…ーーー俺も」

「ん?」

「俺も…っ…言いたい」




身体を起こして、裸の胸を擦り合わせて。
腕を絡ませて、ぎゅっと抱きついて。

ーーー鼓動が、伝わるといいな。


あなたに触れるから、こんなにどきどきしてるんだよって。





「イノちゃん大好き。ーーーずっと、好きだよ?」



また来年も、一緒にいようね。




Merry Christmas.








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