きみとしたいこと。















《甘える》







俺が常々思っている事で、隆にして欲しい事って色々あるけどね。
でもその中でも、なかなか思うようにしてくんない事がある。

いいのに。
もっといいのにって、ちょっともどかしくもなる。



隆を見るたび、心の中で願うんだ。




なぁ、もっと甘えていいんだよ。













スタジオの片隅の。
年季の入ったソファーの端に隆はいた。
靴を脱いで、裸足になって。
膝を抱えてソファーの隅で丸まってる。

まるで蛹みたいに、ぎゅっと。





「ーーー隆?」

「ーーー」





返事がない。

でも、眠っているんじゃないっていうのはわかる。
何でって、そこはさ。
一応俺は、隆の恋人であるわけで。
小さな変化は見逃さない自信は持ち合わせてるつもりだ。

膝を抱えて眠ってるんじゃない。
きっと…
きっとね。





ギシ…




隆の座る反対側の端に俺も腰を下ろす。
俺と隆の間には約60センチくらいの隙間。
それを遠いと思うか、近いと思うかは、その時の状況にもよると思うけど。

今はね。
これくらいがちょうどいいんだ。


見守る距離。
そっと寄り添う距離。
離れ過ぎず、近過ぎず。
彼のひとりの空間も確保しつつ、側から見れば一緒にいるようにも見える。

そんな距離感。







「ーーーーー」

「ーーー」

「ーーーーーーーー隆、」

「ーーー」

「…なぁ」

「ーーー」

「ーーーあのさ」

「ーーー」

「隆」





そっと声を殺して泣いてる君。
俺にはわかるよ。






「俺もここで自由にしてんね」

「ーーーっ…」




お前の側で。
ここにいるからさ。


だから…







「ーーーイノちゃん…」

「ん?」

「ーーーーーそっち、側に」

「ーーー」

「行っていい?」




「いいよ」

「ぅん」

「おいで」

「っ…ん、」




すりすりと横にずれて、隆は俺の隣にピッタリくっついて。
コテン、と。
俺の肩に頭を凭れる。




「ーーーちょっと、」

「ん?」

「…こぅ、してて…」

「ーーーん、いいよ」


コクンと小さく頷いた反動で、隆の瞳から落ちた雫。
それが俺の手のひらにぽつんと落ちて。
それを見て。



俺は嬉しい。

甘え下手な君が甘えてくれた瞬間。
弱さを見せてくれた瞬間。



君を世界一愛おしく思う。








end






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