きみとしたいこと。
















《側にいる》







「ーーーーーーーあー…」




「…あ。ーーーーーくそ、」








せっかくのオフ。
せっかくの、梅雨の休日。

それなのに俺ときたら…









「イノちゃん、起きた?」

「ーーーん、」

「どう?ちょっとはマシ?」

「…よくわかんねぇ」



そっか。
そう言って隆は向こうから持ってきた綺麗に畳まれたタオルを俺の枕元に置いた。
俺は隆が来てくれたから起き上がろうとして上体を上げたら、あ!いいよいいよ寝てて!って、隆に押し戻された。

ーーー隆に、ベッドに押し戻される。
いつもはそれをするのは俺の方。
まぁ、シチュエーションは今と全く違うんだけど…
隆を押し倒すのは俺でありたい。

ーーーなんて取り留めない事をぼんやり考えていたら、だ。




「あっつい。イノちゃんのおでこ熱々」


ーーーって、隆のデコが俺のデコにコツン。
いきなり超至近距離に隆がいてびっくり。
あ、熱みてくれたのか。
せっかくのオフに熱出して寝込みやがってる俺の為に…。
ごめん。
出掛ける予定も立ててたのに。
隆だって楽しみにしてくれてたの知ってたのに。
それなのにこんなに献身的に看病してくれてさ。
申し訳ないわ、有り難いわで…本当に…



ーーーっていうか…





「隆、可愛い」

「ーーーーーふぇ、?」


その素っ頓狂な隆の反応は正確だと思う。
なに言ってんだ、俺。
こんな時に、その台詞は何だ。


「めちゃくちゃ近くに隆の顔。すっげぇ好きな隆が超近くにいてくれてんの」

「ーーーっ…だ、だって、」

「条件反射でどきどきする」



そう、この距離感は、キスの時と同じだ。
互いの睫毛の先まで見つめられるような、そんな距離。
隆にしか許さない。
隆も俺にだけ許してくれる、吐息を感じられる場所。
隆の蕩けるような体温を側で感じたら、発熱の気怠さはどこか遠くへ行って。
目の前の恋人に惹き込まれる。










「ーーーばか、」

「俺?」

「風邪っぴきのくせに…。なんなの?」

「ん、?」

「ーーー我慢してんのにさ」

「ぇ、」

「イノちゃんの側にいて、」

「ーーー」

「平気だと思うの?」





とさっ。


「ふにゃっ…」

「ごめん、びっくりした?」

「…いきなり」

「うん」



ベッドで寝転んでる俺は、隆の後頭部を引き寄せて。
そのまま俺の上に…引き倒す。
俺の胸の上に乗っかって、俺に抱きしめられてる感じだ。
いきなりバランスを崩した隆は暫しジタバタしてたけど。
俺が離す気が無いと分かると大人しくなった。

いつもは隆の方があったかくて気持ちいいって思ってるけど。
今は逆。
隆がひんやりしてて、気持ちいい。





「ーーーーーーイノちゃん、心臓の音…」

「ん?」

「いつもよりちょっとだけ早いね」

「…ん、まぁ。そりゃあさ」

「熱があるもんね」

「それもそうだけどそれだけじゃないよ」

「ん?」

「ーーーだってさ、やばいじゃん。今の俺らの…この、」

「っ…ぁ、」




ベッドの上で抱き合って。
熱があるときは、いつもより更に人肌恋しくなるもんだ。





「隆が薬。速攻で治すから」

「…大袈裟」

「本当だよ」

「えー?」

「隆がそばにいてくれたら平気」

「ーーーいるよ」

「ーーー」

「ここにいるよ」



そう言って。
隆ははにかんで、顔を寄せて。
してくれたのは、万能薬みたいなキスだった。







end






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