きみとしたいこと。












《待ち合わせ》









シャツはどれにしよう?
今日はちょっとジメッとしてるから、サラサラする素材のがいいね。
…って事はこれかこれか…これ。
濃い色の服は好きだけど、でも彼はいつも言ってくれる。
白いのが似合うなって。
だから…これがいいかな。
オフホワイトのシャツ。
それに合わせるのは細身のデニム。こっちは黒っぽい色合いのにしよう。
ーーーアクセサリーは?靴は?
雨予報だから傘も選ぼう。
ビニール傘は光を透してきらきらするから好きだ。
水滴が綺麗。
でもこの間買った新しい傘もいいな。


ーーーーーーーなんて。


俺はさっきからいそいそと忙しない。
なんでって?
だって今日はこれから出掛けるんだ。
誰とって?
それは俺の様子を見ればわかる?
どきどきして、そわそわして。
気を抜くと顔が緩んじゃう。
ーーーそう、好きなひとと会うんだよ。



「ーーーイノちゃんと、」



数日前に決めた。
急に重なったオフ。
これはもう一緒に過ごすしかないよね!って、メンバーもいる前で大喜びした俺とイノちゃん。(生温い笑顔で送り出してくれたメンバー達だったけど…)



そんなわけで、梅雨空の下。
俺は張り切って家を出た。












「ーーーちょっと早く着いちゃった」



待ち合わせはいつも行く公園のベンチ。…の予定だったけど。
雨が降ったらその隣のカフェでねって決めてたから、勝手知ったるいつも店内。
雨だから空いてる。
お気に入りの窓辺のカウンター。
ここからは目の前の道が見える。
イノちゃんが来てもここから見えるんだ。






かたん。



トレーの上にはレモンティーとドーナツ。期間限定のレモンクリームがかかったの。


パクッとひとくち。


「うん、美味しい!」


ーーーって、先に食べてて悪いかなぁ。
イノちゃんももうちょっとで来ると思うけどね。…って思ってたら。
向こうの方から…



「ーーーぁ、」


黒い人影。
梅雨の白っぽくぼんやりした景色に、パキッとした黒い色。
ーーーイノちゃんだ。


このカフェに入るには、今俺がいるカウンターのガラス越しの歩道を通らないと入れない。
イノちゃんはすたすたとこっちへ来る。
ーーーもうちょっとで俺の前を通り過ぎる。
でも俺がここに座ってるって向こうからは気付かないよね…

なんて思って呑気にドーナツを齧っていたら。





「っ…!」



ごっくん。


…ドーナツ、詰まるかと思っちゃった。
だって、イノちゃんが。
ーーー俺の前で。






「………イ、」


こんこん。

「…ノ、」



イノちゃん。
俺の前でぴたっと止まって。
ガラスの前で、じっと俺を見て。
軽くガラスをノックして。
ドーナツ持って止まってる俺に…



にこ。



「ーーーっ…」


笑顔!
あの、蕩けそうなイノちゃんの!
不意打ち!卑怯だよ!なんて思ってたら。



『い ま い く ね』


「っ…ぅ、うん」


『りゅ う』


「ーーーぇ、?」


『す き だ よ』


「ーーーーーーーっっ…!」





にこ。












ーーーーーーー卑怯だ。
反則だ。




「ーーーーもぉ…。ーーーーーどうしよう…」




顔、合わせらんないよ。
恥ずかしくって、照れちゃって…


イノちゃんがここへ来るまでに体裁を整えないと…だけど。
もう無理そう。







カラン、カラン♪





「あぁ…ほら…。もう来ちゃった…」




どんな顔しよう?
ーーーでも、俺はきっとね。

すごく嬉しい顔してるって、自分でわかるんだ。








end






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