きみとしたいこと。













《雨降りの夜》








窓を少しだけ開けたままにして、ベッドに潜り込んだ。



サァァァ…



静かな夜。
馴染んだ部屋の空気に混じる音は、静かな雨の音。
遠くの方で水溜りを走り抜ける車の音は聴こえるけれど、もう深夜と呼べるこの時間の外は静か。


恋人とのベッドタイムを楽しむ為の我が家のベッドは、実はそこまで大きいわけではない。
海外みたいなのびのびしたキングサイズとか憧れるけど、でも恋人…隆と過ごすならちょっと広いくらいがちょうどいい。
…だってデカ過ぎるとさ…。くっ付く時間が減る気がしない?

そんなわけで、微睡みの前の時間。
俺はというと、待ちの時間を楽しみつつ…思わず独り言。








「ーーーなんかさ」

「ん?」




静かだなって言おうとして、でも独り言だって思われてスルーされるかなとか思ってたのに。
思いがけず、隆からの返事はすぐにきた。
さっきから読み耽ってる車の雑誌に夢中だと思ったのに。
隣を見ると、こっちを向いてじっと俺を見つめる隆。






「雑誌はもういいのか?」

「だってもう二周は読んだもの。だから今はもういいよ」

「そっか」

「うん、イノちゃんお待たせ」

「待ちわびました」

「えー?」




くすくすと声を潜めて笑いながら、そんなやり取りを楽しむ。
照明も程よく落としているし、肩まで引き寄せた夏掛けの布団の中で隆と戯れ合うのは何とも言えない気分になる。

密やかで、甘美で、どきどきして。
窓の外の雨音と混じるから尚のこと。






「ね、もぅ寝る?」

「隆ちゃん眠れる?眠い?」

「ん、まだヘイキだよ?」

「そっか、俺もまだヘイキかな」

「うん。雨降ってるもんね」

「ーーー雨降ると眠れねぇの?」

「ん、っていうかね。ーーー勿体無いんだもの、寝ちゃうの」

「ん?」

「こんな静かな雨音って好きだし、ベッドの中もさらさらして気持ちよくて好きだし。ーーーイノちゃんもね?」

「ーーー」

「ーーー好きだから」

「ーーー」

「だから、勿体無いから、まだ寝ない」





ーーー好きだから…とか。
不意打ちに言うのやめてほしい。(めちゃくちゃ嬉しいんだけど)
でもいきなり言うからいいのか…
予告されたって嬉しくないもんな。


ーーーキスもそうか。






「…ん、」



不意打ちでしてやった。



っ…ちゅ、

ぴちゃ、



「ぁ、っ…ん、」

「はぁ、」



あっという間に深くなるキス。
並んでベッドに潜ってるから、それは簡単で。
隆の唇にそっと唇を押し付けて、至近距離の隆の顔を見たら。
たった一度の触れ合いで我慢できなくなって、隆の肩を押して、シーツの上に沈めた。





「ーーーーーっ…する、の?」

「ここまでしたらもう止まんないでしょ」

「ぅん…」

「ーーーっていうか、待ってたんじゃないの?隆」

「っ…‼」

「雑誌二周も読んでさ」

「ーーーーー」

「早寝のくせにこんな時間まで」

「ーーーーー」

「ーーーーーー隆ちゃん、」

「ーーーーー」

「隆、」

「ーーーーーーばぁか」



小さな悪態。
顔を赤くして、可愛いったら。
隆の両手が伸びて、俺の襟足あたりで絡む。





「…ね、はやく、」

「ん、お待たせ」




キシッ…



「ーーーぅん、ぁっ…」


「ーーーっ…すげ、好き」

「んっ…ん…ぇ?」

「その声」




もはや寝てる場合じゃなくて、今は目の前の恋人に夢中。
ーーーでも。恋人の温もりに触れると、まるで麻酔みたいに抗えない微睡みがやがて襲ってくるって知ってる。
だからそれまで、存分に。


この声を、味わう。















サァァァ…




深夜になっても雨は静かに降り続く。
情事のあと、隆は今度こそ眠くなったみたいで俺にくっついてウトウトしてる。

ーーーもう寝よっか。




「眠い?」

「ーーーーーぅ、ん」

「いいよ、寝な」

「ーーーん、」




眠り間際の語りは何がいいかな。
ほんのすこしの、恋人同士の語らいは。
別になくても隆はすぐ眠りそうだけど、今夜はあまりに気持ちよくてしてあげたい気分。
ーーーそれでちょっと考えて、思いついた。

囁くように、言った。






「ーーー今度さ、したい事あるんだけど」

「ーーーーーん、なぁ…に?」

「例えば仕事で会えない夜とか、でも会いたくてたまんない時とかに」

「ーーーーーーん、」

「今度、しようよ」

「ーーーーーー?」

「電話越しの、」

「ーーーぇ、?」

「セックス」

「っ…」

「どぅ?」

「ーーーーーーーーーーーーーーばぁか」





二度目の悪態。
でも、やっぱり顔が赤くて可愛いったら。


俺は今提案した事がえらく楽しみになって。
その瞬間を思い描きながら、俺も瞼を閉じたんだ。







end




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