長いお話 (ひとつめの連載)













「はぁ…。」



イノランの大きなため息が、異国の夜空に溶けていった。







最愛のひとと一生の愛を誓い合えたのが数時間前。


教会という場所に後押しされて。
もうこれ以上留めることが出来ないくらいに、イノランの中で想いが溢れて。
機が熟した…と言うのだろうか。ついには隆一に、イノランはプロポーズをした。
それを隆一は、幸せそうに涙を零して受け入れた。


ホテルの主人達によって、花嫁仕様に花冠を戴いた隆一は本当に綺麗で。
それだけでも舞い上がりそうな喜びだったのに。
隆一はこのタイミングで、記憶を取り戻してくれた。


何やらわからないけれど、身体中で喜び合うイノランと隆一を見たホテルの主人達は。
めでたい事に変わりは無いと思ったようで。その晩、二人の為に心からの祝いのディナーを用意してくれた。
どんどん運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、地ワインもとても美味しくて。それほど酒に強いわけではない隆一も、すすめられるままにグラスを空にしていった。

隆一の様子を見ながらとめておけば良かったと、イノランは後に後悔するのだが。主人によって持ち込まれたギターの演奏が始まると、ついついイノランも楽しくなって、あっという間に時間が過ぎて行ったのだった。








「隆ちゃん大丈夫?」

「ん~…」




フラつく足取りの隆一を肩に寄りかからせながら、食堂のある一階から泊まり部屋のある三階まで階段を登る。
内装はほぼ木製のこのホテル。歩く度に階段も通路も、コツコツとウッドデッキを進むような心地よい音が響く。



酔って、ふらふらと自分一人で歩く事もむずかしそうな隆一を抱えて、イノランは盛大に後悔していた。

嬉しかったし、楽しかったから致し方ないのだが…。
隆一が、イノランにとっては少ない量の酒でも酔ってしまう事。
知っていた筈なのに。




「ーーーーーーーはぁ…。」



さっきからイノランはため息の連続だ。


隆一だって楽しい夜を過ごせていたのだから良いじゃないか。
ーーーーそう思おうとしても。やはり出てくるのはため息で。
イノランは自嘲気味の笑みを無理矢理作る。


何故ため息ばかりーーーと言うと。
これもまた、仕方がないこと故にだろう。


プロポーズをしたイノラン。
それを受けた隆一。

法を動かすものでは無いけれど。その誓いは、二人にとっては大きなものだった。
さっきまでの恋人同士は、誓いを経て、共に在る者同士になった。
夫婦では無いけれど。愛し合って、この先も共にいたいと手を取り合ったのだから。夫婦と何ら変わりは無いのだろう。

そんな誓いをした特別な日。
結婚をした日。
そして今夜は、言うなれば初夜だ。




「ーーー結婚式で勧められるまま呑んで酔っ払って、結局初夜が駄目になるエピソードってよく聞くけど…」


まさか当事者になるなんてさ…。と、イノランはまた深い深いため息。

昨夜だって求め合うままに隆一と抱き合った。でも、やっぱり今夜は特別だから。いつもよりもっともっと…と思い描いて望んでいた。

ーーーーなのに。



「んーー~イノちゃん…」

「ほら、しっかり掴まんな」

「……ん」


( こりゃ今夜は無理かな…)


未練がましいと思いつつ、はぁ…。と息をついて。
イノランは隆一を抱えて、部屋までの道のりを一気に進んで行った。









ボフン…っと、隆一をベッドに横たえると、イノランは部屋の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注ぐ。

横たわる隆一の上体を抱き起すと、冷たい水を飲ませる。
んっく…んっく…と飲み切ると、ぷはっ!と、隆一は満足そうに笑った。



「水、美味しかった」

「ん?良かったな」

「イノちゃんは?お水飲まないの?」

「俺はさっき飲んだ。つか、隆ちゃん大丈夫?ふらふらだけど」

「ヘイキだよ?」

「ーーー舌ったらずだけど…」

「大丈夫!ヘイキだってば」

「ホントかよ…」

「本当っ!ーーーだって、今夜は特別だよ?」

「え?…」

「ーーーイノちゃんと俺…結婚して、初めての…」

「ーーー」

「ーーーーー…初めての…夜だよ?」



酔ってくったりとしていた隆一の手が、いつの間にかイノランの服をぎゅっと握りしめていた。















潤んだ瞳が見上げている。
その視線は、懸命にイノランを捉えて離さない。

どくん…と、今夜は諦めていた熱が、イノランを襲う。
そんな目で見られて、もう今更抑えるなんて無理だけれど。

隆一に問いかけた。



「ホントに、平気?」

「平気」

「止まる自信ないよ?」

「いいよ」

「隆ちゃん…」

「俺、イノちゃんのものになったんだもん。好きっていっぱい言いたいし、何度だってしたいよ」


ぎゅっとしがみつく手が震えてる。
震えながら隆一は微笑んで。
ーーーそれに…。と続けた。



「記憶が戻ってから、初めての…だよ?」



「ーーーーー隆…」



胸に抱いた隆一が、愛おしくて。
悪戯っぽく笑う隆一に魅せられて。

イノランは肩を押して、隆一に身を沈めた。












「ぁっーーーーん…っ」


くっ…と、指先を噛んで、声を出すまいと耐える隆一。
この建物の中にいるホテルの主人達に聴こえたらーーーと、気にしているのかもしれないけれど。



「声、我慢すんな」


噛んでいる手を強引に離すと、隆一は眉を寄せて見上げてきた。


「ーーーゃ…っ…」

「声聞かせて」

「っ…ん…」

「ここ、弱いよな?」



隆一の気持ちいいところは知ってる。
イノランは楽しそうに口元を歪めると。両手を押さえ付けたまま、隆一の胸の突起を甘噛みした。




「ぃや…っ…っ…」

「もっと」

「あっ…ぁあっ…やぁ…っ」

「やなの?」



わざと音を響かせながら胸を吸って、片手で隆一自身を扱いてやると。すぐに先端を濡らして硬くなった。
イノランが舌先でそこを舐めると、隆一は涙を散らしながら首を振る。
隆一が嫌がっている訳では無いことは、イノランは百も承知だ。
気持ち良くて、強すぎる快感に必死に耐えている。

だからイノランは、隆一に優しく微笑んで見せる。
安心できるように、キスをおとす。
耐えなくて良いんだよ。と、耳元で囁いた。



「全部見せて?ーーーー俺の、隆」





濡れて熱くなった隆一のそこを。イノランは勃ち上がった自身で一気に貫いた。




「ンーーーーっ…」

「っはぁ…っ」

「あっ…ぁん…イノ…ちゃ…ぁっ」

「りゅうっ…りゅうっっ!」

「ンっ…ぁっ…好きっ……イノちゃんっ 」

「隆っーーーーっ …」





最奥を突くと、隆一は身体を震わせて声にならない声で喘いで。
しがみ付いたイノランの肩や背中に爪痕を残す。



「ーーーーーーーーっ…」




二人同時に熱を吐き出すも、すぐに離れるなんて出来なくて。
繋がったまま、イノランは覆い被さるように隆一を抱いて。隆一の脚もイノランに絡んで、噛み付き合うようなキスをする。



「隆っ…」

「やだっ…もっとしたい」

「キス?」

「ん…」

「ーーーセックス?」

「うんっ」

「いいよ、何度だって」


イノランの言葉に隆一はぎゅっとイノランに抱きついて、目の前にある顔ににっこり笑ってキスをする。
その笑顔に溶かされそうで、イノランは繋がったままのそこをぐいっと突いた。




「隆ちゃん可愛すぎ」

「ぁんっ 」

「honey moon だから隆ちゃんはハチミツみたいだ」

「んっ…ぇ?」

「新婚の俺らだから良いんだよ」

「あっ…ん…っん」

「愛してるよ隆」


好き、イノちゃんが好き。と、最初の宣言通り何度も好きと喘いで、朝までセックスして。それでも足りなくて、疲れ知らずで不思議で、キリがなかった。








朝日を浴びながら、さすがの空腹のお腹をおさえつつ。
戯れ合うみたいに部屋に付いているバスルームのバスタブに浸かって。
溢れるお湯と泡立て過ぎた石鹸の泡で、また戯れ合って。



そして、一瞬の隙を突いて。
イノランは隆一をふんわりと抱きしめる。
ちゅ…ちゅ…と。顔中にキスをされて隆一はくすぐったくて身を捩る。


そっとイノランの顔を伺うと、蕩けそうな優しい表情があって。
目が離せなくて、潤む瞳で見つめていたら。
イノランが、こう言った。






「俺の、隆」







end.





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