prli
☆糖度100%の匋依♡
★全年齢向けですがとろけるちゅーはしてます
ノックもせず自室に入ってきた男は、俺が読んでいる雑誌を引ったくって放り投げると、女に殴られたばかりの赤い頬を撫でながら「聞いてくれ依織!」と耳元で叫んだ。キーンと鼓膜が反響する。
あ、フラれたんだな、わかりやすいやつ。
「フラれた」
「だろうな」
はたき落とされた雑誌を拾って手元に戻し、再び視線を文章に落としながら、まぁその女は見る目が無いんだろうと思った。少し掠れたような甘い声、笑うと高い鼻にくしゃっとしわが寄る色男は、同性から見ても人たらしのお手本のようなビジュアルをしているからチャラそうと見た目で判断されて逆に損をすることもあるのだろう。本当は真面目で、正直で、素直で、人情深い男なのに。
「はーあ。18になっても彼女ができなかったら俺、お前でいいわ、セックスはできねぇけど」
………前言撤回である。
マメじゃないし、不器用だし、そういう馬鹿でガサツでデリカシーがないところが全然ダメだ。俺、で、いいってなんだ、どこから目線だ。こっちだってお前とセックスなんて願い下げだよ。本気で呆れ返りながら半ば皮肉の意を込めて「俺も18になっても彼女ができなかったらお前でいいわ」と返した記憶がある。
「まじで?」
「冗談に決まってんだろ。こっちこそお前とセックスなんてできるか、ばーか」
「ふぅん。じゃあ、キスは?」
……は、?と瞬いた唇はすでに塞がれていた。荒っぽい男からは想像もつかない柔らかな速度で、ふに、と、触れる。鼻と鼻がぶつかる不器用で唇をくっつけるだけのキスは、ちゅ、と漫画みたいなリップ音を立てながらすぐに離れていったけれど、暫く身動きが取れなかった。ぽかんと呆気に取られている俺の前で何故か真顔のクソ野郎。じわじわと腹が立ってきて、丸めた雑誌で思い切りぶん殴った。女にフラれてヤケクソになっているのなら最低だ。思い浮かぶ全ての罵声を浴びせたかったのに、出てきたのは「ヘタクソ」というキスの感想で、行為自体を肯定とも否定ともとれない言葉に、羞恥で首筋まで真っ赤に染まってしまったのだった。
その当たり屋みたいな、信号無視の交通事故みたいなキスの、あるはずも無い理由を俺はずっと探してしまって暫くまともに顔が見れない日々が続く。しかし妙なことにその行為は一度で終わらず、目と目が合って、ちり、と静電気が走るような時は、事務所の給湯室、カーテンの裏、階段の裏、大人の目を盗んでは触れるだけのキスをした。何度も、何度も。
17になる頃には首の角度も完璧になってしまっていて、重ねるだけのキスはずなのに、何故か身体中があつくて、のぼせそうになって、蕩けた目でじっと見つめたり、して。そういう時は何か言いたげな匋平が、すり、と指先で俺の輪郭をなぞったり、した。
どうして、は言わなかった。答えを出したら終わってしまうような気がして。名前のないこの曖昧な関係性は、もしかすると彼が18になったら俺をカノジョとやらにして名前が付くのだろうか。そして、もし、俺がしたいと言えば、セックスもしたりするんだろうかなどと考えて、期待をしていていたのかもしれない。
結局、18になる前、彼女なんてできてないくせして俺の目の前から忽然と消えたのだけれど。
俺でもいいって、言ったのに。
運命とは摩訶不思議なもので、二度と会うことはないだろうと思っていた相手とひょんなことで再開した。久しぶりじゃねぇか、と笑った彼の高い鼻には相変わらずくしゃりとシワが寄っていたけれど、昔よりも溝が深くなっていた。たまに連絡を取り、酒を飲み交わすようになると、携帯の着信音を大にして眠るようになるくらいには期待をしてしまっていた。
けれども、グラスを付き合わせて話す内容といえばカノジョもケッコンもすっとばして家族のことで。あんなに乱暴だったガキは、今ではジャズピアノのバックミュージックが流れる薄暗いバーでしっとりと杯を傾けながら、掃除や洗濯などの主婦みたいなグチや、バーに住み着いている子供の進路の話だったりするから笑ってしまった。丸くなったなぁというのが素直な感想で、酸いも甘いも噛み砕き、くたりと疲れた様子の彼は一言で表せばめちゃくちゃいい男になっていた。それが心の底から嬉しくもあり、少し寂しくもあるのだ、なぜなら、今の彼なら、キスしてみる?などの軽いノリで唇を奪う浅はかな行為はしないし、その証拠に、目と目が合って数秒見つめ合ったりしても、キスは、してこなかった。飲み帰り、タクシーの中。シートの上に放り出した左手に旦那の右手がぽすん、と重ねられたことがあったけれど、握ってきたりはしなかったし俺もそれを握ったりなどはせず、お互い無言で窓の外を睨んでいただけで、じゃあお休み、とお互いの家の前で降車して別れた。
つまり、まとめると、アレは単なる若気の至りで、意味などなかったということだ。曖昧な関係は、名前がつかないまま自然消滅した。
よくある話だ。
だから。誕生日前日の、日付が変わる少し前。妙に洒落込んだ旦那が真っ赤な薔薇の花束を抱えて現れて
「お前のことが、ずっと好きだった」
と、口にした時、プツリと自分の中で何かがちぎれる音を聞いた。
「ふ、ふざけんな」
気づいたら手渡された花束でぶん殴っていた。旦那の前髪を揺らしながら真っ赤な薔薇の花びらがはらはら舞う。
軽々しく、それを、言うな。俺が、どんな、気持ちでこの十数年、やっと、踏ん切りをつけたと思っているんだ。あんなことをして、期待させて、何の釈明もせず勝手に消えやがって。
街中で、お前と似たような声や背格好、同じ銘柄のたばこの香りが掠めるたびに振り返り、知らない誰かのシルエットにお前を重ねて、自分の愚かさに絶望してきたかなんて、知らないくせに。俺の気も、知らないで。
「ふざけてねぇ」
「はぁ?じゃあ、なんなん。俺が29になっても彼女がおらんかったら、そんとき」
カノジョにでもしてくれるん?阿保か。
皮肉を言い切る前に唇は塞がれていた。下顎を指先でくいと持ち上げられて、斜め45度の完璧な角度から覆い被されられるような口付け。嘘、やろ、俺とこいつ同じくらいの身長なんに。相変わらず当たり屋みたいな、信号無視の交通事故みたいなキスだけれど、違うのは、薄く開かれた歯列から熱をねじ込まれ、掻き回され、全て奪われるような、大人のキス。
「んうっ」
柔らかな内頬から敏感な上顎まで余すことなくなぞられて、ん、ふ、と息継ぎの合間で上擦った吐息が溢れてしまう。唇を重ねるだけのキスしか知らなかったから、なに、こんな、ふざけんな。めちゃくちゃ上手いやんか。
「ふ、ぁ」
指の先を耳の中に突っ込まれて塞がれると、じゅる、と卑猥な水温が脳いっぱいに反響する。まるで水の中にいるような錯覚に、酸素が欲しくなるけれど息継ぎも許されない程に激しくて、苦しい、のに、ざらりとした舌先が粘度を増した唾液を絡めて柔らかくなっていって、きもち、ええ。う、ぁ、もっと。身悶えるような快感を逃がそうと内股を擦り合わせても有り余るほどの熱に尾骨から頚骨まで仰反る。もう、どこまでも溺れてしまいそうになって、縋り付くように旦那のシャツを握りしめると、掬い上げられるように腰に手を回され、その優しさにまた蕩けそうに、なって。
「ん、く」
分け与えられる唾液をこくりと飲み落とせば、まるでそれが毒であったかのように全身から力が抜け、へなへなと崩れ落ちてしまった。
「お、おい、大丈夫か?」
大丈夫なわけ、あるか。こんな、キスひとつで、
「あかん。腰、抜かしてもうた」
俺だってお前のことがずっと好きだったわ。
翠石依織生誕祭2021
★全年齢向けですがとろけるちゅーはしてます
ノックもせず自室に入ってきた男は、俺が読んでいる雑誌を引ったくって放り投げると、女に殴られたばかりの赤い頬を撫でながら「聞いてくれ依織!」と耳元で叫んだ。キーンと鼓膜が反響する。
あ、フラれたんだな、わかりやすいやつ。
「フラれた」
「だろうな」
はたき落とされた雑誌を拾って手元に戻し、再び視線を文章に落としながら、まぁその女は見る目が無いんだろうと思った。少し掠れたような甘い声、笑うと高い鼻にくしゃっとしわが寄る色男は、同性から見ても人たらしのお手本のようなビジュアルをしているからチャラそうと見た目で判断されて逆に損をすることもあるのだろう。本当は真面目で、正直で、素直で、人情深い男なのに。
「はーあ。18になっても彼女ができなかったら俺、お前でいいわ、セックスはできねぇけど」
………前言撤回である。
マメじゃないし、不器用だし、そういう馬鹿でガサツでデリカシーがないところが全然ダメだ。俺、で、いいってなんだ、どこから目線だ。こっちだってお前とセックスなんて願い下げだよ。本気で呆れ返りながら半ば皮肉の意を込めて「俺も18になっても彼女ができなかったらお前でいいわ」と返した記憶がある。
「まじで?」
「冗談に決まってんだろ。こっちこそお前とセックスなんてできるか、ばーか」
「ふぅん。じゃあ、キスは?」
……は、?と瞬いた唇はすでに塞がれていた。荒っぽい男からは想像もつかない柔らかな速度で、ふに、と、触れる。鼻と鼻がぶつかる不器用で唇をくっつけるだけのキスは、ちゅ、と漫画みたいなリップ音を立てながらすぐに離れていったけれど、暫く身動きが取れなかった。ぽかんと呆気に取られている俺の前で何故か真顔のクソ野郎。じわじわと腹が立ってきて、丸めた雑誌で思い切りぶん殴った。女にフラれてヤケクソになっているのなら最低だ。思い浮かぶ全ての罵声を浴びせたかったのに、出てきたのは「ヘタクソ」というキスの感想で、行為自体を肯定とも否定ともとれない言葉に、羞恥で首筋まで真っ赤に染まってしまったのだった。
その当たり屋みたいな、信号無視の交通事故みたいなキスの、あるはずも無い理由を俺はずっと探してしまって暫くまともに顔が見れない日々が続く。しかし妙なことにその行為は一度で終わらず、目と目が合って、ちり、と静電気が走るような時は、事務所の給湯室、カーテンの裏、階段の裏、大人の目を盗んでは触れるだけのキスをした。何度も、何度も。
17になる頃には首の角度も完璧になってしまっていて、重ねるだけのキスはずなのに、何故か身体中があつくて、のぼせそうになって、蕩けた目でじっと見つめたり、して。そういう時は何か言いたげな匋平が、すり、と指先で俺の輪郭をなぞったり、した。
どうして、は言わなかった。答えを出したら終わってしまうような気がして。名前のないこの曖昧な関係性は、もしかすると彼が18になったら俺をカノジョとやらにして名前が付くのだろうか。そして、もし、俺がしたいと言えば、セックスもしたりするんだろうかなどと考えて、期待をしていていたのかもしれない。
結局、18になる前、彼女なんてできてないくせして俺の目の前から忽然と消えたのだけれど。
俺でもいいって、言ったのに。
運命とは摩訶不思議なもので、二度と会うことはないだろうと思っていた相手とひょんなことで再開した。久しぶりじゃねぇか、と笑った彼の高い鼻には相変わらずくしゃりとシワが寄っていたけれど、昔よりも溝が深くなっていた。たまに連絡を取り、酒を飲み交わすようになると、携帯の着信音を大にして眠るようになるくらいには期待をしてしまっていた。
けれども、グラスを付き合わせて話す内容といえばカノジョもケッコンもすっとばして家族のことで。あんなに乱暴だったガキは、今ではジャズピアノのバックミュージックが流れる薄暗いバーでしっとりと杯を傾けながら、掃除や洗濯などの主婦みたいなグチや、バーに住み着いている子供の進路の話だったりするから笑ってしまった。丸くなったなぁというのが素直な感想で、酸いも甘いも噛み砕き、くたりと疲れた様子の彼は一言で表せばめちゃくちゃいい男になっていた。それが心の底から嬉しくもあり、少し寂しくもあるのだ、なぜなら、今の彼なら、キスしてみる?などの軽いノリで唇を奪う浅はかな行為はしないし、その証拠に、目と目が合って数秒見つめ合ったりしても、キスは、してこなかった。飲み帰り、タクシーの中。シートの上に放り出した左手に旦那の右手がぽすん、と重ねられたことがあったけれど、握ってきたりはしなかったし俺もそれを握ったりなどはせず、お互い無言で窓の外を睨んでいただけで、じゃあお休み、とお互いの家の前で降車して別れた。
つまり、まとめると、アレは単なる若気の至りで、意味などなかったということだ。曖昧な関係は、名前がつかないまま自然消滅した。
よくある話だ。
だから。誕生日前日の、日付が変わる少し前。妙に洒落込んだ旦那が真っ赤な薔薇の花束を抱えて現れて
「お前のことが、ずっと好きだった」
と、口にした時、プツリと自分の中で何かがちぎれる音を聞いた。
「ふ、ふざけんな」
気づいたら手渡された花束でぶん殴っていた。旦那の前髪を揺らしながら真っ赤な薔薇の花びらがはらはら舞う。
軽々しく、それを、言うな。俺が、どんな、気持ちでこの十数年、やっと、踏ん切りをつけたと思っているんだ。あんなことをして、期待させて、何の釈明もせず勝手に消えやがって。
街中で、お前と似たような声や背格好、同じ銘柄のたばこの香りが掠めるたびに振り返り、知らない誰かのシルエットにお前を重ねて、自分の愚かさに絶望してきたかなんて、知らないくせに。俺の気も、知らないで。
「ふざけてねぇ」
「はぁ?じゃあ、なんなん。俺が29になっても彼女がおらんかったら、そんとき」
カノジョにでもしてくれるん?阿保か。
皮肉を言い切る前に唇は塞がれていた。下顎を指先でくいと持ち上げられて、斜め45度の完璧な角度から覆い被されられるような口付け。嘘、やろ、俺とこいつ同じくらいの身長なんに。相変わらず当たり屋みたいな、信号無視の交通事故みたいなキスだけれど、違うのは、薄く開かれた歯列から熱をねじ込まれ、掻き回され、全て奪われるような、大人のキス。
「んうっ」
柔らかな内頬から敏感な上顎まで余すことなくなぞられて、ん、ふ、と息継ぎの合間で上擦った吐息が溢れてしまう。唇を重ねるだけのキスしか知らなかったから、なに、こんな、ふざけんな。めちゃくちゃ上手いやんか。
「ふ、ぁ」
指の先を耳の中に突っ込まれて塞がれると、じゅる、と卑猥な水温が脳いっぱいに反響する。まるで水の中にいるような錯覚に、酸素が欲しくなるけれど息継ぎも許されない程に激しくて、苦しい、のに、ざらりとした舌先が粘度を増した唾液を絡めて柔らかくなっていって、きもち、ええ。う、ぁ、もっと。身悶えるような快感を逃がそうと内股を擦り合わせても有り余るほどの熱に尾骨から頚骨まで仰反る。もう、どこまでも溺れてしまいそうになって、縋り付くように旦那のシャツを握りしめると、掬い上げられるように腰に手を回され、その優しさにまた蕩けそうに、なって。
「ん、く」
分け与えられる唾液をこくりと飲み落とせば、まるでそれが毒であったかのように全身から力が抜け、へなへなと崩れ落ちてしまった。
「お、おい、大丈夫か?」
大丈夫なわけ、あるか。こんな、キスひとつで、
「あかん。腰、抜かしてもうた」
俺だってお前のことがずっと好きだったわ。
翠石依織生誕祭2021
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