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匋依の二人旅
シリアスです、未遂、首絞めセの描写があるので苦手な方はBB
R18 ぬるい
しあわせの終点
助手席に無言で座っていた依織だったが「恋人岬、200m、このさき右折」と流れ行く標識をと読み上げた。「いきたいのか?」と聞いてみるが返事はなく黙りこくっている。ハンドルを握ったまま視線だけで様子を伺うと、こちらに背を向け窓の外を睨んでいたのでその表情は見えない。しかし、心なしか耳の先っぽがほんのりと赤く染まっている気がして、本当は行きたいくせに言い出せないのだろうと思いハンドルを右に切り海を目指した。
冬の海は暗く、寒かった。緩やかな波が小さな漁船を揺らしてトプリと音を立てる。いつだったか依織が冬の海が好きだと言った。静かで、大きくて、落ち着いているけれど、冷たい風が厳しくて、父親みたいで、好き、と言った。父親の話を聞くのは実はそれが初めてで、会ったことなど一度もないが、もしかすると死んだ組長に似てるのかもしれないと思ったりした。依織は頭がいいくせして少し風変わりな独特の感性を持ち合わせていて、結構情緒のある人間だった。ときどき訳のわからないことを言ったり、なにを考えているかわからない深い紫色の瞳は、俺の好奇心をくすぐって、ずっと離さなかった。
岬に先客は一人も居なくて、駐車場にはがらんどうとした巨大な空間が広がっている。車のドアを開けると、冷たい潮風が車内に滑り込んできて、暖房であたたまった空気をあっという間に冷やした。依織が寒いと呟くので自分の革ジャケットを羽織らせると、旦那の香りだ、と、すん、と鼻を鳴らすのが可愛らしくて一文字に結んだ口角がつい緩んでしまう。
港には売店が数店立ち並んでいたが、不況なのだろうか、半分以上がシャッターを下ろしていた。看板は色あせて剥がれ落ち、ところどころ文字が読めなかったりする。アイスクリーム、氷、干物、そば、うどん、お土産。辛うじて開店している売店では、深いシワを刻んだ老婆が警戒するようにじろじろとこちらを睨んでいて、そこに恋人岬と書かれたハート型の巨大なアーチがぽっかり口を開けているのが不気味な感じがした。しかし依織は寒いと言っていたばかりなのに季節外れのご当地アイスクリームを頬張って、土産の試食を繰り返し、すっかり老婆に可愛がられて、これももって行きなさい、これもつけてやるわ、と、オマケをたくさんもらっていた。連れて行く高級レストランやバーよりも楽しそうだ。金のかからないやつ。とはいえ、久しぶりに依織のはしゃぐ姿を見ることが出来て嬉しく思った。
「ようへい」
依織が、色あせた観光案内看板を指差し俺の名を呼んだ。風音がうるさくて声が聞き取りづらかったので、頬を寄せるとふわりと甘い香りが漂う。整髪料なのか、柔軟剤なのか、いや、これは様々なものが混ざり合って形成された依織の香りだ。ずっと、横でかいできた、大好きな匂いだ。看板の内容を読むつもりだったのに、依織の横顔があまりにも美しくてつい見惚れていると「俺じゃなくて、こっち見ろ」と怒られた。その少しむくれた顔も、可愛い。
「この石段を登りきって、岬にたどり着いたら、沖の方に岩が二つ見えるんやって。それ、夫婦岩って言うらしいんやけど、お祈りしてキスした二人は、永遠に結ばれるんやって」
もつれたような喋り方は劣情を煽る。切れ長のアーモンド型の瞳をすうと細めて、睫毛がふるふると小刻みに震えているのは、期待、してるからだろうか。正直、こんなただの岩に適当な理由づけをして客を寄せる魂胆丸見えの商売に、純粋に胸を高鳴らせる様は子供のようだった。
「よし、登るか」
「え?いややわ、寒そうやし」
「いいから行くぞ」
嫌がる依織のシャツの袖を強引に引いて、石段を踏みしめる。大した舗装もされていない階段から下を覗き込むと、まるで火曜昼のサスペンスドラマのクライマックスシーンのような岩場が広がっていた。そこに波が激しく打ち付けられて白く泡立ち、時折しぶきがこちらまで舞い上がってくる。依織のシャツがしっとりと湿って肌に張り付き、潮風が前髪を巻き上げてなびいては、パタパタと上気した赤い頬を叩いている。それはまるで、自分の腹の上で夜な夜な乱れる時のような色香を放っていて、思わず、生唾を飲みこんだ。
案内板によると、今自分たちは岬の先端までのちょうど中間地点に立っているようだった。ここまで来るのにもう随分と石段を登ったはずなのに、まだ道中の半分という事実に二人で眉尻を垂らして笑った。観光客は自分たち以外に一人もいなくって、まるで、世界で二人きりみたいだと思った。もし誰か居たならば俺たちはどういう二人組に見えるのだろうか。願わくば幸せな二人組に見えていてほしいところなのだが。
もう少し登ると、小さなお堂があり、その中央に御地蔵尊がちょこんと佇んでいた。こんな僻地の荒くれだった岩場で一人海を眺め続けるなんて、寂しいなぁと依織が言う。案外楽な仕事でいいじゃねぇかと、罰当たりな返事をして賽銭を投げて手を合わせた。お堂の下には小箱が置いてあり、中には絵馬が数百円で売られていたので、やりたいか。と尋ねると、そんなもんやらねぇと吐き捨てられてしまった。お堂の近くの柵には、皆それぞれの願いを綴った絵馬が無数にぶら下がっていて、潮風で色褪せて読めないものも中にはあったが様々な筆跡で願いが綴られていた。
、恋人とずっと一緒にいられますように。
、彼と結婚できますように。
、この幸せが永遠に続きますように。
老若男女の微笑ましい願いの数々に口角が緩むが、依織は無表情で絵馬が潮風に靡くのを睨んでいた。
「このなかの、どれくらいの人間が、いまも幸せだと思うか?」
灯台まで続く石段はまだまだ続いていた。大の大人が息を切らして必死で登る。もう、だめ。つかれた。引き返すか?ここまできて?お前がきめろ。なんだそれずるい。引き返す気なんて二人ともないくせに、そんな会話を繰り広げながら必死に階段を登る。
「夫婦岩、見えるかな」
「あれ?行きたくなかったんじゃないのか?」
「うるせ」
そうこうしているうち最後の一段を踏破して、遂に岬の先端に到着した。高台の断崖絶壁からは見渡す海はまさしく絶景ではあったのだが、本日は生憎の曇りで目当ての夫婦岩は見えなかった。空と海の色が混じりあい、ただ黒々とした水平線が広がっていただけだった。依織は残念そうに深くため息を吐いて、何か思い立ったように歩きだし断崖絶壁のガードレールから身を乗り出した。野晒しで錆びたガードレールが、ぎしり、と音を立てて軋みしなる。錆びた鉄柱が折れたら粗い岩場に真っ逆さまだ。そのまま荒波に攫われてしまうのではないかと、急に不安が襲う。危ねぇことすんなと、腕を掴んで引き寄せ背後からぎゅっと強く抱きしめた。
「なんや、」
「このまま消えたらどうしようかと思った」
「はは、そんなことせんわ、だって約束やろ」
水平線の向こう、ぼんやりと小さな街並みのシルエットが見える。あそこらへんから俺たちは来たのだ。随分と、遠くまで来たと思ったけれど、まだ引き返せる距離ではあった。
その夜、適当に見つけた古ぼけた小さな旅館で、カーテンも引かずに激しく求めあった。この骨盤の、どこに収まっているというのだろう。太い杭を受け入れて、あ、ぅ、と切ない喃語を繰り返す依織の下腹部を指でさすると、ここまで入ってる、と、臍の横に俺の指先を導いた。ようへいでお腹のなか、いっぱいになってる。と、潤んだ瞳を蕩けさせるその表情に全身の毛が逆立つほど欲情して、腰を掴んで乱暴に揺さぶった。気持ちいい、もう、だめ、死んじゃう、と辛そうに泣く依織に、こんなものを咥えこんで苦しくないのか、と、濡れた頬を撫でると、苦しくなきゃ、意味がないと言っていた。そういうものなのだろうか、気持ちいいだけじゃ、だめなのだろうか。この空洞に、何を満たせば、依織は快楽だけで満たされるのか。俺に跨った依織が、お願い、いつもの、とねだる。俺は正直気が進まず眉を顰め、応えあぐねていると、お願いやあと駄目押される。理解不能なその性癖でも、お前が満足するならば、と、掌を広げ、細い首に指を這わせ、ゆるゆると締め上げた。首を絞めながら突き上げると悲鳴を上げて白い喉元をのけぞらせる。同時に下の締め付けがきゅうと一層強くなり、射精感が高まり自然と手元に力がこもる。このままじゃ、まずい。加減がきかなくなり、細い首がいとも簡単に折れてしまうのではないかと恐怖で手を緩めると、そんなんじゃイけない、と依織が声を荒げ、いやいやと首を左右に振った。だめだ、これ以上力を入れると死んでしまうかもしれない、だから、そんなことは出来ない。と、そう、要求を拒むと「当初の目的思い出せよ」と笑った。ああ、そうか、死にたかったんだった。そのための旅行だったと目的を思い出す。
互いの熱を吐き出した後、荒い息を整えながら、ぐったりと横たわる依織のまだ火照ったままの依織の背中に指を這わせ、浮き出た椎体をなぞった。「愛してる」と小さく呟けば、もう寝たと思っていた依織がこてんと寝返りをうち、こちらを向く。情事の余韻だろうか、翡翠の瞳をとろけさせ、焦点の合わない目で、言った。
「今最高に幸せ、だから、はやく殺せ」
戦いの全てが終わった後、彼の家族は各々の夢のために巣立ち、一人取り残された依織は半ば燃え尽き症候群のように空っぽになって、睡眠薬を酒で大量に流し込んでは眠るという自殺未遂を繰り返した。誰かになりかわって誰かのために生きてきた半生だったから、今更自分のために生きるなんてどうしていいかわからないと言って。そんな姿を見かねて、だったら俺が殺してやるよ、けど一つ条件がある、と言って連れ出したのがこの旅行だった。「お前が幸せになったら、殺してやるから自殺なんてするな」提示した条件に、まるで意味がわからんと首を捻っていたが、まぁついてこいと強引に車に乗せてナビも入れずに走り出したのだった。
早く殺せとうめく依織の唇を指先でなぞる。
「きっとみんな、今も幸せだと思うぜ」
「いや、なんの話?」
「絵馬の話だよ」
乱れた髪を撫でつけてやると、そんなわけあるかあほと、依織がちょっと泣きそうな顔をした。
「なぁ、幸せを願えよ」
まだ殺すには足りない。苦しいセックスなんかで幸せとか言っているうちは、まだ、全然。お前が今までしてこれなかったやりたいこと、したいこと、好きなこと、全部すればいい、フルコースだ、どこまでも付き合ってやる。そして、空の器を満たして、お前が心から幸せで祝福されて、その果てにたどり着いた先で願うのが死であるとするならば、俺がお前を幸せなまま殺してやる。
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シリアスです、未遂、首絞めセの描写があるので苦手な方はBB
R18 ぬるい
しあわせの終点
助手席に無言で座っていた依織だったが「恋人岬、200m、このさき右折」と流れ行く標識をと読み上げた。「いきたいのか?」と聞いてみるが返事はなく黙りこくっている。ハンドルを握ったまま視線だけで様子を伺うと、こちらに背を向け窓の外を睨んでいたのでその表情は見えない。しかし、心なしか耳の先っぽがほんのりと赤く染まっている気がして、本当は行きたいくせに言い出せないのだろうと思いハンドルを右に切り海を目指した。
冬の海は暗く、寒かった。緩やかな波が小さな漁船を揺らしてトプリと音を立てる。いつだったか依織が冬の海が好きだと言った。静かで、大きくて、落ち着いているけれど、冷たい風が厳しくて、父親みたいで、好き、と言った。父親の話を聞くのは実はそれが初めてで、会ったことなど一度もないが、もしかすると死んだ組長に似てるのかもしれないと思ったりした。依織は頭がいいくせして少し風変わりな独特の感性を持ち合わせていて、結構情緒のある人間だった。ときどき訳のわからないことを言ったり、なにを考えているかわからない深い紫色の瞳は、俺の好奇心をくすぐって、ずっと離さなかった。
岬に先客は一人も居なくて、駐車場にはがらんどうとした巨大な空間が広がっている。車のドアを開けると、冷たい潮風が車内に滑り込んできて、暖房であたたまった空気をあっという間に冷やした。依織が寒いと呟くので自分の革ジャケットを羽織らせると、旦那の香りだ、と、すん、と鼻を鳴らすのが可愛らしくて一文字に結んだ口角がつい緩んでしまう。
港には売店が数店立ち並んでいたが、不況なのだろうか、半分以上がシャッターを下ろしていた。看板は色あせて剥がれ落ち、ところどころ文字が読めなかったりする。アイスクリーム、氷、干物、そば、うどん、お土産。辛うじて開店している売店では、深いシワを刻んだ老婆が警戒するようにじろじろとこちらを睨んでいて、そこに恋人岬と書かれたハート型の巨大なアーチがぽっかり口を開けているのが不気味な感じがした。しかし依織は寒いと言っていたばかりなのに季節外れのご当地アイスクリームを頬張って、土産の試食を繰り返し、すっかり老婆に可愛がられて、これももって行きなさい、これもつけてやるわ、と、オマケをたくさんもらっていた。連れて行く高級レストランやバーよりも楽しそうだ。金のかからないやつ。とはいえ、久しぶりに依織のはしゃぐ姿を見ることが出来て嬉しく思った。
「ようへい」
依織が、色あせた観光案内看板を指差し俺の名を呼んだ。風音がうるさくて声が聞き取りづらかったので、頬を寄せるとふわりと甘い香りが漂う。整髪料なのか、柔軟剤なのか、いや、これは様々なものが混ざり合って形成された依織の香りだ。ずっと、横でかいできた、大好きな匂いだ。看板の内容を読むつもりだったのに、依織の横顔があまりにも美しくてつい見惚れていると「俺じゃなくて、こっち見ろ」と怒られた。その少しむくれた顔も、可愛い。
「この石段を登りきって、岬にたどり着いたら、沖の方に岩が二つ見えるんやって。それ、夫婦岩って言うらしいんやけど、お祈りしてキスした二人は、永遠に結ばれるんやって」
もつれたような喋り方は劣情を煽る。切れ長のアーモンド型の瞳をすうと細めて、睫毛がふるふると小刻みに震えているのは、期待、してるからだろうか。正直、こんなただの岩に適当な理由づけをして客を寄せる魂胆丸見えの商売に、純粋に胸を高鳴らせる様は子供のようだった。
「よし、登るか」
「え?いややわ、寒そうやし」
「いいから行くぞ」
嫌がる依織のシャツの袖を強引に引いて、石段を踏みしめる。大した舗装もされていない階段から下を覗き込むと、まるで火曜昼のサスペンスドラマのクライマックスシーンのような岩場が広がっていた。そこに波が激しく打ち付けられて白く泡立ち、時折しぶきがこちらまで舞い上がってくる。依織のシャツがしっとりと湿って肌に張り付き、潮風が前髪を巻き上げてなびいては、パタパタと上気した赤い頬を叩いている。それはまるで、自分の腹の上で夜な夜な乱れる時のような色香を放っていて、思わず、生唾を飲みこんだ。
案内板によると、今自分たちは岬の先端までのちょうど中間地点に立っているようだった。ここまで来るのにもう随分と石段を登ったはずなのに、まだ道中の半分という事実に二人で眉尻を垂らして笑った。観光客は自分たち以外に一人もいなくって、まるで、世界で二人きりみたいだと思った。もし誰か居たならば俺たちはどういう二人組に見えるのだろうか。願わくば幸せな二人組に見えていてほしいところなのだが。
もう少し登ると、小さなお堂があり、その中央に御地蔵尊がちょこんと佇んでいた。こんな僻地の荒くれだった岩場で一人海を眺め続けるなんて、寂しいなぁと依織が言う。案外楽な仕事でいいじゃねぇかと、罰当たりな返事をして賽銭を投げて手を合わせた。お堂の下には小箱が置いてあり、中には絵馬が数百円で売られていたので、やりたいか。と尋ねると、そんなもんやらねぇと吐き捨てられてしまった。お堂の近くの柵には、皆それぞれの願いを綴った絵馬が無数にぶら下がっていて、潮風で色褪せて読めないものも中にはあったが様々な筆跡で願いが綴られていた。
、恋人とずっと一緒にいられますように。
、彼と結婚できますように。
、この幸せが永遠に続きますように。
老若男女の微笑ましい願いの数々に口角が緩むが、依織は無表情で絵馬が潮風に靡くのを睨んでいた。
「このなかの、どれくらいの人間が、いまも幸せだと思うか?」
灯台まで続く石段はまだまだ続いていた。大の大人が息を切らして必死で登る。もう、だめ。つかれた。引き返すか?ここまできて?お前がきめろ。なんだそれずるい。引き返す気なんて二人ともないくせに、そんな会話を繰り広げながら必死に階段を登る。
「夫婦岩、見えるかな」
「あれ?行きたくなかったんじゃないのか?」
「うるせ」
そうこうしているうち最後の一段を踏破して、遂に岬の先端に到着した。高台の断崖絶壁からは見渡す海はまさしく絶景ではあったのだが、本日は生憎の曇りで目当ての夫婦岩は見えなかった。空と海の色が混じりあい、ただ黒々とした水平線が広がっていただけだった。依織は残念そうに深くため息を吐いて、何か思い立ったように歩きだし断崖絶壁のガードレールから身を乗り出した。野晒しで錆びたガードレールが、ぎしり、と音を立てて軋みしなる。錆びた鉄柱が折れたら粗い岩場に真っ逆さまだ。そのまま荒波に攫われてしまうのではないかと、急に不安が襲う。危ねぇことすんなと、腕を掴んで引き寄せ背後からぎゅっと強く抱きしめた。
「なんや、」
「このまま消えたらどうしようかと思った」
「はは、そんなことせんわ、だって約束やろ」
水平線の向こう、ぼんやりと小さな街並みのシルエットが見える。あそこらへんから俺たちは来たのだ。随分と、遠くまで来たと思ったけれど、まだ引き返せる距離ではあった。
その夜、適当に見つけた古ぼけた小さな旅館で、カーテンも引かずに激しく求めあった。この骨盤の、どこに収まっているというのだろう。太い杭を受け入れて、あ、ぅ、と切ない喃語を繰り返す依織の下腹部を指でさすると、ここまで入ってる、と、臍の横に俺の指先を導いた。ようへいでお腹のなか、いっぱいになってる。と、潤んだ瞳を蕩けさせるその表情に全身の毛が逆立つほど欲情して、腰を掴んで乱暴に揺さぶった。気持ちいい、もう、だめ、死んじゃう、と辛そうに泣く依織に、こんなものを咥えこんで苦しくないのか、と、濡れた頬を撫でると、苦しくなきゃ、意味がないと言っていた。そういうものなのだろうか、気持ちいいだけじゃ、だめなのだろうか。この空洞に、何を満たせば、依織は快楽だけで満たされるのか。俺に跨った依織が、お願い、いつもの、とねだる。俺は正直気が進まず眉を顰め、応えあぐねていると、お願いやあと駄目押される。理解不能なその性癖でも、お前が満足するならば、と、掌を広げ、細い首に指を這わせ、ゆるゆると締め上げた。首を絞めながら突き上げると悲鳴を上げて白い喉元をのけぞらせる。同時に下の締め付けがきゅうと一層強くなり、射精感が高まり自然と手元に力がこもる。このままじゃ、まずい。加減がきかなくなり、細い首がいとも簡単に折れてしまうのではないかと恐怖で手を緩めると、そんなんじゃイけない、と依織が声を荒げ、いやいやと首を左右に振った。だめだ、これ以上力を入れると死んでしまうかもしれない、だから、そんなことは出来ない。と、そう、要求を拒むと「当初の目的思い出せよ」と笑った。ああ、そうか、死にたかったんだった。そのための旅行だったと目的を思い出す。
互いの熱を吐き出した後、荒い息を整えながら、ぐったりと横たわる依織のまだ火照ったままの依織の背中に指を這わせ、浮き出た椎体をなぞった。「愛してる」と小さく呟けば、もう寝たと思っていた依織がこてんと寝返りをうち、こちらを向く。情事の余韻だろうか、翡翠の瞳をとろけさせ、焦点の合わない目で、言った。
「今最高に幸せ、だから、はやく殺せ」
戦いの全てが終わった後、彼の家族は各々の夢のために巣立ち、一人取り残された依織は半ば燃え尽き症候群のように空っぽになって、睡眠薬を酒で大量に流し込んでは眠るという自殺未遂を繰り返した。誰かになりかわって誰かのために生きてきた半生だったから、今更自分のために生きるなんてどうしていいかわからないと言って。そんな姿を見かねて、だったら俺が殺してやるよ、けど一つ条件がある、と言って連れ出したのがこの旅行だった。「お前が幸せになったら、殺してやるから自殺なんてするな」提示した条件に、まるで意味がわからんと首を捻っていたが、まぁついてこいと強引に車に乗せてナビも入れずに走り出したのだった。
早く殺せとうめく依織の唇を指先でなぞる。
「きっとみんな、今も幸せだと思うぜ」
「いや、なんの話?」
「絵馬の話だよ」
乱れた髪を撫でつけてやると、そんなわけあるかあほと、依織がちょっと泣きそうな顔をした。
「なぁ、幸せを願えよ」
まだ殺すには足りない。苦しいセックスなんかで幸せとか言っているうちは、まだ、全然。お前が今までしてこれなかったやりたいこと、したいこと、好きなこと、全部すればいい、フルコースだ、どこまでも付き合ってやる。そして、空の器を満たして、お前が心から幸せで祝福されて、その果てにたどり着いた先で願うのが死であるとするならば、俺がお前を幸せなまま殺してやる。
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