光明捧げる『が…』の後
杉田 光
【20XX年の7月2日/18時38分/一週間前の私の家のリビングにて】
7月9日は凱斗__続柄でいうと、はとこのお兄ちゃんの誕生日で、今日は丁度その一週間前になる。
一緒に暮らし始めたのが去年の7月下旬頃。
大人になってちゃんと誕生日を祝ってあげるのは今回が初めてのことだった。
私の中では、''家族''として再出発する上でとても大きな意味のある行事なので、どうせなら盛大にやってあげたい。
でも、おにいに以前からそれとなく欲しいものを聞いても、金銭的な面を気にしてか、返事は毎回「特に」とそっけない。
そういえばずっと前、一緒にファミレスに行った時に、「子供ン頃さー、お子様ランチたらふく食べるのが夢だったけど、大人になったら注文すらできなくなんだよな。叶わぬ夢になってしもた」とキッズメニューの欄を見てボヤいていたっけ。
どうせなら手作りの何かを贈れたらいいな!とは考えていたので、思い立ったが吉日。さっそく作り方を調べたが、料理初心者には品数が多いだけあって、中々に敷居が高い。なにかこう、簡単そうなのがないかな〜?なんて、検索結果をひたすら下にスクロールしていくと一枚の画像に目が留まった。
「オムライス……」
記事のタイトルこそ"ワンプレートお子様ランチ"とは書かれていたが、端に添えられた一口サイズのハンバーグ、唐揚げ、ポテトサラダを除けばほとんどがオムライスで占められている。
ここで天啓を得た。オムライス部分はレシピを参考に自力で作って、他は冷凍食品に任せれば立派なお子様ランチになるのでは……?
つい、「これだ!」と声が出た。
「なんや、お前、そないオムライス食いたいんけ?」
耳元から聞こえたおにいの声に、反射で体が跳ね、そのまま勢いよく脛が机の縁に当たった。
「あっ、悪い……。近かったな。大丈夫か?」
うめきながら頷く私を見て、バツが悪そうに少し距離を置く。
「晩飯今作り終わったとこなんよ。オムライス、明日でもいいか?」
「__ちっ!違う!いろいろ違うから!」
色々な誤解を解きたいのと、痛いのとで身振り手振りが激しくなる。
「あのっ!まず、距離感は、大丈夫でっ!!」
その一言に「そっか」と安堵の表情を見せ、こちらの次の言葉を待つ。
「あの、オムライスの方は、作ってあげたいなって……思ったから」
聞き終わると、穏やかな表情から一転して、ムスッとした顔になる。
「……誰に?迅?」
「えっ全然、違うって!!!やめてよ!」
「ほしたら、もしかして俺?」
ドキっとした。今度はムスッとした表情から少しニヤけた表情に変わってく。
「……誕生日、気にしてくれよるん?」
まずい。図星だ。だけども、面と向かって、はいそうです!サプライズしたくて下調べしてました!など恥ずかしくてとてもいえないし、やれやれ……みたいなしたり顔と浮き立つ声色が無性に腹立たしくて、今ここで認めたくなかった。断固として。
「……違う……全然、違うけど?」
「じゃあ誰なんだよ?」
「さぁ?神のみぞ知る、じゃない?」
「お前な、ソクラテスはそんなくだらんノリに使われるために人々へ教えを説いたんじゃないぞ」
「そくてらす?誰それ?」
「……ドアホ」
軽蔑するように吐き捨てて目の前にお皿を並べていく__が、さっきの問答でイライラしたのか、やや乱雑だ。
「なにさ、嫉妬しちゃって」
「しとらん!お前みたいなガキに、誰が…」
「そうやって癇癪おこしてる方がよっぽど"お子様"なんだけどね」
露骨に顔が歪んでく。どうやら、カチンときた様子みたいだ。
「癇癪起こさせるようなことしてんのは、どこのどいつだ!」
「はぁ!?」
「お前の都合で振り回される人間の気持ちも、少しは考えろよ!!」
徐々に、引くに引けなくなっていく。
「都合が悪くなったら逃げるヤツにっ……そんなこと、言われる筋合いない!」
「ッ!あの時は!俺だって子供だったんだッ!出来ることなんて限られてるだろ!」
「昔の話してるんじゃなくて!!今の話してるのっ!」
つい、怒りに任せて、言わなくていいことまで言ってしまう。
「そんなんだから、誰彼から見限られんじゃないの!?」
あって思った。恐る恐る顔に視線を向けると、子供がひどく叱られた後のような表情で震えてる。
「もう勝手にしろッ」
という声の後、玄関の締まる音がして、それっきりだ。
残ったのは後悔だけ。すぐにでも、「いじはっちゃった、ごめん」って、飛び出して言えばよかったのに。
あれから数時間経ったが、待てども帰ってくる気配が一向にない。心配で電話を掛けてみたけど、部屋の中から虚しく響いた。
「タバコと財布はちゃっかり持ってくのに、なんで携帯はおいてくのよ!!もう!」
いつも騒がしい部屋が、シンと静まりかえってるのが寂しい。父と私だけになった昔の生活を思い出して、呼吸が浅くなる。
いてもたってもいられなくて、かけだしていく。
行き先は分からないけど、粗方想像つく。しらみつぶしにまわってたら、そのうち見つかるだろう。
だって、そう、私たち……家族、みたいなもんだし。
