番外編
【初デートで遊園地ってありですか?】
「……って議題が来てるねえ。カップルで遊園地に行くと高確率で別れるらしいよぉ」
「なし、かなぁ」と、静まり返った生徒会室で美雪がボソリと言った。
「でも、観覧車の頂上でキスとか、めちゃくちゃロマンチックだよねぇ! めちゃくちゃ憧れるんですけどぉ~」
いやいや、ちょっと待って。これ完全に議題箱じゃなくて個人的なお悩み相談だよね? 議題箱に入れた生徒は一体誰なのよ。
「どうしてそう思うの?」
モッチーの疑問に美雪は答える。
「アトラクションの待ち時間で話す話題がなくなっちゃって気まずくなるんだってぇ」
「でも、遊園地に行ってるカップルなんて、たくさんいるじゃない」
私は美雪に反論してみた。だって、遊園地に行った人たちが次々と別れるなんて考えらえない。すると、美雪が私に人差し指を突き付けた。
「ずばり、理由は2つあるのですよぉ」
恋愛相談に関しては美雪は得意げに話す。彼女は椅子から立ち上がり、ホワイトボードの前に立って文字を書き始めた。
①付き合って日が浅い
②彼氏の性格による問題
「②番は何なのよ…」
「①はさっきわたしが言った通り。話題がなくて気まずくなる。遊園地って1日いることが多いじゃん? 疲れるとお互いの本性が見えちゃうんだよねぇ」
それで幻滅して別れる、と。美雪はやれやれと首を横に振る。
「②はねぇ、要は彼氏の性格なのですよぉ」
「そのままじゃない」
「男子がいかに彼女をエスコートできるか。その話題がなくなったときに上手くフォローできるかが問題なのですよぉ。だから、その人の性格次第ってわけ」
なんかよくわからないけど、男子も大変ね。
「でも、決めつけはよくないと思うわよ」
「それじゃあ、試してみる?」
「試す? 何を?」
美雪は私を見てニヤリと笑った。
☆ ★ ☆
「会長のオレがいない間に議題会をするなって言っただろ」
週末になり、私は秋元と遊園地に来た。
美雪が割引券を持っているということで、それを譲ってもらったのだ。
「で、どんな議題をしたんだよ」
「それは……」
美雪から口止めをされているから言えない。今回の議題(ミッション)は『デートに遊園地を選んだカップルは別れるのか?』だ。いや、それを証明するのにどうして私たちなのだろうか。
まあ、遊園地はデートでいつか行ってみたいとは思っていたから丁度良かったのかもしれない。(別れるのは勘弁だけど)
「それより、何か乗りたいものある?」
「は? そっちから誘ってきたのに乗りたいものないのかよ」
マップを見ながら秋元は「うーん」とうなった。
「お化け屋敷に行こうぜ」
「絶っっっ対イヤ!」
秋元、私が散々怖いものを嫌いなの分かってるのにあえて選んでるの!? ……でも、今のは私も悪かったわ。人に振っておいて、拒否するなんて失礼よね。でも嫌なものはイヤなの。
「じゃあ、観覧車に乗らない? その間に決めればいいでしょ」
☆ ★ ☆
幸い、待ち時間は5分ほどだったので、この時点で会話が途切れることはなかった。問題は観覧車に乗っている間だ。
「ねえ、秋元聞いてる?」
「え? ああ、うん」
なんで今日の秋元、こんなに乗り気じゃないんだろう。秋元が来ない間に議題会を進めてたことにすねてるのかな。それとも、私と遊園地に来るのが嫌だったのかな。
「ごめん、急に遊園地に行きたいだなんて言って。実は――」
私が種明かしをしようとしたとき、強風が吹いたのかゴンドラがゆらりと大きく揺れた。
「わっ、風強いわね」
「…………」
秋元を見ると、下を見て縮こまっている。明らかに様子がおかしかった。
「ね、ねえ秋元ってば」
「バ、バカ。揺らすな!」
声が震えていた。ああ、なるほど。わかってしまった。
「……もしかして、高所恐怖症なの?」
秋元は気まずそうな雰囲気で私から目をそらした。
ビンゴだ。秋元の弱点を見つけた嬉しさと、めったに見れない静かな生徒会長の物珍しさにスイッチが入ってしまったのかもしれない。
私は立ち上がって、秋元のとなりへと席を移した。当然、ゴンドラの重心は傾く。
「――っ!!」
秋元はビクリと身体を震わせると、となりに座った私に無言で訴えた。もちろん「席を戻れ」と言いたいのだろう。でも、そんな言葉も出てこないくらいに怖いらしい。
「そうだ、次に乗るもの、どうしようかしら。もうすぐ頂上着いちゃうから決めなきゃ」
そう言って私はバッグからマップを取り出す。また台車が揺れる。秋元が歯を食いしばりながら私を睨みつけた。
……もうすぐ頂上なのにロマンチックの欠片もないわよ、美雪。私、殺されそうな形相で睨まれてるんだけど。
でも、私も観覧車の頂上でキスとかしてみたいな――なんて。
「……おまえ、次揺らしたらマジで許さないからな」
ああ、これは無理だわ。そう悟った。
「ダメなら言ってくれれば良かったのに」
「だって。かっこ悪いだろ、こんなの」
秋元は足元に目線を落とした。
「なによ、それ。そんなこと気にしてたの?」
私はゴンドラをなるべく揺らさないように、そっと震える秋元の手をにぎった。
「じゃあ、観覧車降りるまでこうしててあげる」
「……春樹と柊には絶対に言うなよ」
こんな恥ずかしいこと言えるわけがない。
ちょうど頂上に差し掛かったときだった。
「拓海」
なんとなくいい雰囲気になったので、もしかしたら――と思って彼の名前を小さく呼んだ。秋元は驚いたように目を丸くした。
「目、つぶって」
「……え? あ、ああ……」
向こうも察したのだろうか。緊張なのか、繋いでいた彼の手に力が入った。
ゴンドラを揺らさないように、そっと彼に近づく――。
ガコン。
「――!!」
大きな音でハッとして、彼から離れた。
『しばらくの間、停止します。座ったままでお待ちください』とアナウンスが流れる。急に止まった振動か、ゴンドラが大きく揺れる。それも、頂上で。
「……」「……」
秋元と私は、それぞれ違った意味で固まっていた。再び動き出すまでの3分間、そのまま頂上で強い風を受けながら。
☆ ★ ☆
「なるほどぉ。それで、仕返しにお化け屋敷に連れて行かれて、夕夏が激オコになっちゃったわけ?」
美雪は笑っているが、笑い事ではない。
あの後、調子に乗った秋元に無理やりお化け屋敷に連れて行かれて、その後は口を聞かずに解散したのだった。私が最後に「もう一生観覧車に乗ってなさい!」と一言だけ言って。
「でも、話を聞いてると夕夏も悪いと思うけどぉ」
「わ、わかってるわよ」
確かに、面白くなってわざと揺らしたのは悪かったと思っている。でも、それにしてもだ……。
「まあ、仲直りしなよぉ。もう口聞いてないで1週間でしょお?」
「……うん」
どっちが先に謝るか。相手の様子を伺いつつも、お互いが無視をし続けて約1週間が経とうとしている。
「まったく、2人とも似たもの同士だねぇ」
「うるさいわよ」
今回の教訓。
遊園地に行く前は、事前に乗れるものの確認が必要。コミュニケーションが取れていないと、後ほど痛い目にあう。
検証結果は……別れてはいないけど、それに近い状況になりかねない。※個人の感想です
ちなみに、後日に美雪が聞いた話では、秋元は絶叫系もダメということで、もはや遊園地デートには不向きだったことが判明したのだった。
「……って議題が来てるねえ。カップルで遊園地に行くと高確率で別れるらしいよぉ」
「なし、かなぁ」と、静まり返った生徒会室で美雪がボソリと言った。
「でも、観覧車の頂上でキスとか、めちゃくちゃロマンチックだよねぇ! めちゃくちゃ憧れるんですけどぉ~」
いやいや、ちょっと待って。これ完全に議題箱じゃなくて個人的なお悩み相談だよね? 議題箱に入れた生徒は一体誰なのよ。
「どうしてそう思うの?」
モッチーの疑問に美雪は答える。
「アトラクションの待ち時間で話す話題がなくなっちゃって気まずくなるんだってぇ」
「でも、遊園地に行ってるカップルなんて、たくさんいるじゃない」
私は美雪に反論してみた。だって、遊園地に行った人たちが次々と別れるなんて考えらえない。すると、美雪が私に人差し指を突き付けた。
「ずばり、理由は2つあるのですよぉ」
恋愛相談に関しては美雪は得意げに話す。彼女は椅子から立ち上がり、ホワイトボードの前に立って文字を書き始めた。
①付き合って日が浅い
②彼氏の性格による問題
「②番は何なのよ…」
「①はさっきわたしが言った通り。話題がなくて気まずくなる。遊園地って1日いることが多いじゃん? 疲れるとお互いの本性が見えちゃうんだよねぇ」
それで幻滅して別れる、と。美雪はやれやれと首を横に振る。
「②はねぇ、要は彼氏の性格なのですよぉ」
「そのままじゃない」
「男子がいかに彼女をエスコートできるか。その話題がなくなったときに上手くフォローできるかが問題なのですよぉ。だから、その人の性格次第ってわけ」
なんかよくわからないけど、男子も大変ね。
「でも、決めつけはよくないと思うわよ」
「それじゃあ、試してみる?」
「試す? 何を?」
美雪は私を見てニヤリと笑った。
☆ ★ ☆
「会長のオレがいない間に議題会をするなって言っただろ」
週末になり、私は秋元と遊園地に来た。
美雪が割引券を持っているということで、それを譲ってもらったのだ。
「で、どんな議題をしたんだよ」
「それは……」
美雪から口止めをされているから言えない。今回の議題(ミッション)は『デートに遊園地を選んだカップルは別れるのか?』だ。いや、それを証明するのにどうして私たちなのだろうか。
まあ、遊園地はデートでいつか行ってみたいとは思っていたから丁度良かったのかもしれない。(別れるのは勘弁だけど)
「それより、何か乗りたいものある?」
「は? そっちから誘ってきたのに乗りたいものないのかよ」
マップを見ながら秋元は「うーん」とうなった。
「お化け屋敷に行こうぜ」
「絶っっっ対イヤ!」
秋元、私が散々怖いものを嫌いなの分かってるのにあえて選んでるの!? ……でも、今のは私も悪かったわ。人に振っておいて、拒否するなんて失礼よね。でも嫌なものはイヤなの。
「じゃあ、観覧車に乗らない? その間に決めればいいでしょ」
☆ ★ ☆
幸い、待ち時間は5分ほどだったので、この時点で会話が途切れることはなかった。問題は観覧車に乗っている間だ。
「ねえ、秋元聞いてる?」
「え? ああ、うん」
なんで今日の秋元、こんなに乗り気じゃないんだろう。秋元が来ない間に議題会を進めてたことにすねてるのかな。それとも、私と遊園地に来るのが嫌だったのかな。
「ごめん、急に遊園地に行きたいだなんて言って。実は――」
私が種明かしをしようとしたとき、強風が吹いたのかゴンドラがゆらりと大きく揺れた。
「わっ、風強いわね」
「…………」
秋元を見ると、下を見て縮こまっている。明らかに様子がおかしかった。
「ね、ねえ秋元ってば」
「バ、バカ。揺らすな!」
声が震えていた。ああ、なるほど。わかってしまった。
「……もしかして、高所恐怖症なの?」
秋元は気まずそうな雰囲気で私から目をそらした。
ビンゴだ。秋元の弱点を見つけた嬉しさと、めったに見れない静かな生徒会長の物珍しさにスイッチが入ってしまったのかもしれない。
私は立ち上がって、秋元のとなりへと席を移した。当然、ゴンドラの重心は傾く。
「――っ!!」
秋元はビクリと身体を震わせると、となりに座った私に無言で訴えた。もちろん「席を戻れ」と言いたいのだろう。でも、そんな言葉も出てこないくらいに怖いらしい。
「そうだ、次に乗るもの、どうしようかしら。もうすぐ頂上着いちゃうから決めなきゃ」
そう言って私はバッグからマップを取り出す。また台車が揺れる。秋元が歯を食いしばりながら私を睨みつけた。
……もうすぐ頂上なのにロマンチックの欠片もないわよ、美雪。私、殺されそうな形相で睨まれてるんだけど。
でも、私も観覧車の頂上でキスとかしてみたいな――なんて。
「……おまえ、次揺らしたらマジで許さないからな」
ああ、これは無理だわ。そう悟った。
「ダメなら言ってくれれば良かったのに」
「だって。かっこ悪いだろ、こんなの」
秋元は足元に目線を落とした。
「なによ、それ。そんなこと気にしてたの?」
私はゴンドラをなるべく揺らさないように、そっと震える秋元の手をにぎった。
「じゃあ、観覧車降りるまでこうしててあげる」
「……春樹と柊には絶対に言うなよ」
こんな恥ずかしいこと言えるわけがない。
ちょうど頂上に差し掛かったときだった。
「拓海」
なんとなくいい雰囲気になったので、もしかしたら――と思って彼の名前を小さく呼んだ。秋元は驚いたように目を丸くした。
「目、つぶって」
「……え? あ、ああ……」
向こうも察したのだろうか。緊張なのか、繋いでいた彼の手に力が入った。
ゴンドラを揺らさないように、そっと彼に近づく――。
ガコン。
「――!!」
大きな音でハッとして、彼から離れた。
『しばらくの間、停止します。座ったままでお待ちください』とアナウンスが流れる。急に止まった振動か、ゴンドラが大きく揺れる。それも、頂上で。
「……」「……」
秋元と私は、それぞれ違った意味で固まっていた。再び動き出すまでの3分間、そのまま頂上で強い風を受けながら。
☆ ★ ☆
「なるほどぉ。それで、仕返しにお化け屋敷に連れて行かれて、夕夏が激オコになっちゃったわけ?」
美雪は笑っているが、笑い事ではない。
あの後、調子に乗った秋元に無理やりお化け屋敷に連れて行かれて、その後は口を聞かずに解散したのだった。私が最後に「もう一生観覧車に乗ってなさい!」と一言だけ言って。
「でも、話を聞いてると夕夏も悪いと思うけどぉ」
「わ、わかってるわよ」
確かに、面白くなってわざと揺らしたのは悪かったと思っている。でも、それにしてもだ……。
「まあ、仲直りしなよぉ。もう口聞いてないで1週間でしょお?」
「……うん」
どっちが先に謝るか。相手の様子を伺いつつも、お互いが無視をし続けて約1週間が経とうとしている。
「まったく、2人とも似たもの同士だねぇ」
「うるさいわよ」
今回の教訓。
遊園地に行く前は、事前に乗れるものの確認が必要。コミュニケーションが取れていないと、後ほど痛い目にあう。
検証結果は……別れてはいないけど、それに近い状況になりかねない。※個人の感想です
ちなみに、後日に美雪が聞いた話では、秋元は絶叫系もダメということで、もはや遊園地デートには不向きだったことが判明したのだった。
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