貴方という秩序
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困ったように呟いたみょうじを、俺は衝動的に抱き締めていた。みょうじの顔を彩る化粧が、真新しいキートンの胸元を汚す。自らもそれに気付き、慌てて体を離そうとするみょうじであったが、俺はそれを許さなかった。
「……社長……ッ?!」
この女は、俺に付き従うことを、それが自分にとっての秩序であるという。こんなにも馬鹿で、直向きな女が、他にいるだろうか。抱き締めた肩に顔を埋めて、俺は小さく呟いた。
「秩序なら――俺だってとうに、乱されてる」
「……え……?」
秘書なんざ道具と変わらないと、そう思っていた。社屋の水槽で飼っているバナナワニのように愛着を持つでもなく、ただ傍にいて仕事を熟す、それだけの存在だと。「あの女」が秘書であったときは、特にそう感じていた。それなのに。
(――どうやら俺も、焼きが回ったらしい)
この女の仕事に対する直向きさと、自分に対する忠誠心。それはいつしか、「秘書は物だ」と思う俺の秩序を乱していたらしい。この女の、恋しい男にしか見せない表情を、見てみたいと感じるようになる程までに――。
息苦しささえ感じさせる程の愛しさに、肩に埋めていた顔を上げてみれば、いつものキリッとした様子とはかけ離れたきょとんとした顔で、みょうじがこちらを見つめ返している。その間抜け面が可笑しくて、俺は思わず噴き出してしまった。
「……! な、何なんですか、さっきから!!」
「クハハハハ! お前、なんて面してやがる!!」
あどけなさの残るその表情を見て、ひょっこりと顔を出した興味と嗜虐心。このまま、気持ちを伝えることなく、コイツの「秩序」を乱し続けたとしたら。
(お前は、どんな顔を見せてくれるんだ――?)
恥ずかしさと僅かな苛立ちで赤く染まったその顔を引き寄せて、俺はみょうじの唇を奪う。小さく音を立てて唇を離したとき、みょうじが見せた表情は――。
……End.
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