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後編
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なんか分かりやすくていいなぁ、と、雪櫻は思った。自分の目に映る事実のみを信じる。日頃海賊やそれを狩る者達を騙くらかしている身としては、1番やりづらい相手だ。これは、隙をつくのは難しいかもしれない。雪櫻は思案を巡らせた。
「実を言うとさ」
目の前の海賊に嘘や誤魔化しは通用しない。そうと分かれば、あれ以来自分の中に燻っていた思いを吐露する他なかった。
「『海軍に入らないか』って誘われてもいて、迷ってるんだ」
「……ほう。誰に誘われているんだ?」
「ん――スモーカーって奴」
あの一件の後、雪櫻は馬鹿げた理想を掲げ、自分を海軍に誘った奇特な男の名前を調べに海軍基地に潜入していた。「ローグタウン」「煙の能力者」という情報だけで男の名前が分かったのには笑ってしまったが、それ以降、ふとした瞬間にその顔と名前と言葉を思い出すようになってしまっていたのは、紛れもない事実だった。
誰とも与する気はなくても、自分1人の力では限界があるというのには、雪櫻とてとっくに気が付いていた。毎日ニュースクーで見かける、どこそこの町が海賊に襲われたという話題。雪櫻が手を差し伸べられているのはその中でもほんの僅かだし、まして海賊による一般人からの略奪行為は、今雪櫻のいる
「あァ、アイツか――厄介な奴に気に入られたもんだな」
「知ってるの?」
「当たり前だ。俺は“王下七武海”だぞ? 海軍の情報もある程度耳に入る。奴は自分の見込んだ賊のことは徹底的に追い回すって話だ」
「はは、それは困るなぁ」
スモーカーの言うように、海軍が誰彼構わず高額な懸賞金を懸けずにその金を復興支援に充てるようになれば、故郷そのものを失う人達は減る。けれど、それだって対症療法だ。
クロコダイルの言う「理想国家」とやらが実現すれば。そこに手出しをする海賊共はいなくなるかもしれない。だがそれで海賊共の略奪行為自体がなくなるわけではない。どこかの海で、誰かが苦しむ。それは変わらないだろう。
「――悩んでいるのか」
「ん、ちょっとね。すぐには答えは出そうにない」
「そうか。それならゆっくり考えるといい。俺の計画は順調に進んでいる。そうだな――その傷が癒える頃までは待ってやろう。俺と組む気になったら、アラバスタまで来い」
思いがけない言葉に、雪櫻は目を丸くする。まさかクロコダイル自ら解放してくれるとは思わなかったからだ。
「どうして。組む気になるとも限らないのに」
「クハハ……自信があるのさ。俺は女にフラれたことなんざァないからな」
「……私が初めてになるかもよ?」
「そのときは、消えてもらう。お前は色々知り過ぎたからな……」
そう言うと、クロコダイルは右手で左手の鉤爪を一撫でする。その仕草に、いつの間にか消え去っていた恐怖心が再び首を擡げるが、ほら、と差し出された右手を取ると、クロコダイルはいたって紳士的に雪櫻を立ち上がらせてくれた。
「昼になれば、この港からドラム王国行の貨物船が出るはずだ。医療大国と言われる国だ、そこで傷を診てもらえ」
「そんな大げさな……」
「その傷を見ると、あの男を思い出すんだろう? 不愉快だ。綺麗に治さなければ、例え俺を選んでアラバスタに来たとしても拾ってやらんぞ」
「はは――考えとく」
机の上の愛銃を取り上げ、雪櫻は船室のドアを開けて駆け出した。勢いよく甲板を駆け抜けて、そのままヒラリと船から飛び降りた雪櫻を見て、クロコダイルはぎょっとする。慌てて見下ろすと、雪櫻はタン、タン、と独特なステップで階段を降りるように空中を「駆け下りて」いく。その後ろ姿を眺めながら、クロコダイルはクハ、と小さく笑った。
「ふん……スモーカーなんぞにくれてやるには惜しい女だ」
葉巻を取り出し、火を点ける。その香りを楽しみながら、クロコダイルは去っていく雪櫻の後ろ姿を、いつまでも目で追っていた。
……End.
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