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前編
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「チッ……他愛もねェ」
累々と重なった海賊達の山の上で、男は葉巻を咥え、ふーっと息を吐いた。煙に咽た足元の海賊を踏みつけ、舌打ちをする。
――こんな奴らに賞金を懸けるなんて、上の連中は何を考えてやがるんだ。
この町はかつて海賊王と呼ばれた男が処刑された場所だというのに。そこを訪れる海賊共は、海賊とは名ばかりの物見遊山の連中ばかりで、男は辟易していた。
「あ、やっと見つけた! スモーカーさーん!!」
呼ばれて振り返ると、山の下ではショートカットに眼鏡の女海兵がこちらに向かって手を振っていた。男――海軍本部大佐・白猟のスモーカーは、呑気な部下に睨みをきかせ、呼び声に応える。
「――たしぎ。テメェ、今までどこに行ってやがった?」
「す、すみません! ちょっと道に迷ってしまって……」
「その『ちょっと』は何度目だ? 腕はあるのに、なんでテメェはいつまで経ってもそうなんだ!」
「う……返す言葉もありません……」
しゅん、としてしまった部下を見て、スモーカーは溜息を吐く。彼は足元の海賊を踏みつけると、山頂から飛び降りる。あ、と声をあげようとしたたしぎの目の前で、彼は自身の姿を「煙」へと変えて、ふわりと地上に降り立った。
「手錠をかけておけ。能力者じゃない。海楼石入りなんて上等なモンは使わなくていい」
「は、はいっ!」
すっかりのびている海賊達の山をよいしょよいしょ、と登っていくたしぎを眺めながら、スモーカーはまた1つ、溜息を吐いた。
「そういえば、スモーカーさん。本部から協力要請の連絡がありました。なんでも、最近“偉大なる航路 ”を荒らしている義賊を捕まえる作戦だとかで」
「あァ? なんで偉大なる航路 のことを“東の海 ”に持ち込むんだ」
「そんなこと、私に言われましても……でも、相当な手練れなんでしょうかね?」
たしぎの言葉に、スモーカーはピクリと反応する。なるほど確かに、少なくとも今目の前で部下に手錠をかけられている海賊共よりはマシな奴なのかもしれない。
「断っておきましょうか。こちらだって暇じゃないんだし、そもそも管轄外ですし……」
「いや、協力しよう。行くぞ、たしぎ」
「え?! は、はいっ!」
鼓動が早まるのを感じる。まだ見ぬ獲物に高まった期待を抑えきれずに、スモーカーはその身を煙に変えて駆け出す。たしぎが追い付けずに後ろで派手にすっ転んでいる音が聞こえるが、そんなことに構っている時間さえも惜しかった。
翌日、スモーカーとたしぎの姿は洋上にあった。軍の寄越した迎えの軍艦の上で、スモーカーは葉巻を吹かしながら舌打ちをする。
「ちっ……“ビローアバイク”で昨日のうちに出てりゃァ、朝には着いてたってのに……」
「無茶言わないでください! “凪の帯 ”を越えないと偉大なる航路 には入れないんですから、ビローアバイクでは……」
「海王類を仕留めりゃいいだけの話だろう。何を無茶なことがある」
「~~~……もう! 他にも召集がかかっていた方々と乗合なんですから、どっちにしたってダメです!!」
たしぎに窘められ、やれやれ、とスモーカーは溜息を吐く。右手に握られた報告書には、今日の捕物の標的に関する情報が載せられていた。スモーカーは今一度、その報告書に目を落とす。
【拿捕対象:「女義賊」雪櫻
このところ、偉大なる航路 近海を荒らしてまわっている女義賊。海賊・賞金稼ぎなどから金品を奪い、それを貧しい人々に分け与えているという情報があるため、「海賊」でなく「義賊」の扱いとする。そのため、賞金は懸かってはいない。
最近では海兵、はたまた貴族まで盗みの対象とし始めたため、今回の作戦を決行する。得物は銃。充分に気を付けること】
(貴族にまで手を出しやがるとは、なかなか骨がありそうだな……)
昨日感じた鼓動の高鳴りは、今でも続いていた。自身の得物である海楼石仕込みの十手を握る手にも、自然と力が籠る。
(だが、何故海兵を襲う必要がある……? 海賊や賞金首、貴族なら金目のものを持っているだろうから分かるが……)
「あ、スモーカーさん! そろそろ着くみたいですよ!!」
たしぎの声に振り返ると、彼女が指差した先には小さな島があり、確かに船はその島の港に入っていくようだった。だが、島が近付くにつれて、その異様な雰囲気に、船上の海兵達が皆ざわつき始める。
「おい、ここに本当に雪櫻が現れるっていうのか?」
「まるで盗める物なんてなさそうじゃねェか!」
海兵達の声に、スモーカーも島の方へと視線を送る。視線の先には、見るも無惨な元・港町の姿しかなかった。
「こりゃひでェな……」
スモーカーの口からも、呟きが漏れる。たしぎも怒りなのか、悲しみにか、その肩を戦慄かせていた。
その光景は、さながら戦場のようだった。大砲を撃ち込まれたのであろう、跡形もなく屋根から潰れてしまった家。そこから延焼したのであろう、人々が生活していた痕跡を残したままに燃えてしまった家々。その所々では、未だ火が燻り続けていた。ドアノブや窓は斧か何かで滅多打ちにされ、略奪の跡が窺える。人影も疎らに見えたが、子供達は悲痛な泣き声をあげ、大人達は泣く気力もないのか、息を殺してただじっとしていた。
「本部の見解だと次はこの島に現れるだろう、って話だが……こりゃァ当てが外れたな」
「そうだな。盗めそうな物なんてありゃしねェ」
「本部に連絡して、どこか次に現れそうな島を聞こう。無駄足だ」
名も知らない他の管轄の将校達が、口々にここではないだろう、と言い始める。その雰囲気を見て、たしぎが小声で不安そうに話し掛けた。
「スモーカーさん、どう思いますか? 私も、ここには現れないように思いますが……」
「――そうか。ならお前達だけ行け。俺はここに残る」
その場にいた海兵達が一斉に振り返る。何を考えているんだ? とでも言いたげな視線がスモーカーに注がれ、彼は怒りを露にした。
「雪櫻が現れるとか現れねェとか、今はそんなことどうだっていいだろうが! 目の前に海賊共のせいで苦しんでいる人間がいるのに、テメェらはそれを見捨てて次の島へ行けるっていうのか?!」
累々と重なった海賊達の山の上で、男は葉巻を咥え、ふーっと息を吐いた。煙に咽た足元の海賊を踏みつけ、舌打ちをする。
――こんな奴らに賞金を懸けるなんて、上の連中は何を考えてやがるんだ。
この町はかつて海賊王と呼ばれた男が処刑された場所だというのに。そこを訪れる海賊共は、海賊とは名ばかりの物見遊山の連中ばかりで、男は辟易していた。
「あ、やっと見つけた! スモーカーさーん!!」
呼ばれて振り返ると、山の下ではショートカットに眼鏡の女海兵がこちらに向かって手を振っていた。男――海軍本部大佐・白猟のスモーカーは、呑気な部下に睨みをきかせ、呼び声に応える。
「――たしぎ。テメェ、今までどこに行ってやがった?」
「す、すみません! ちょっと道に迷ってしまって……」
「その『ちょっと』は何度目だ? 腕はあるのに、なんでテメェはいつまで経ってもそうなんだ!」
「う……返す言葉もありません……」
しゅん、としてしまった部下を見て、スモーカーは溜息を吐く。彼は足元の海賊を踏みつけると、山頂から飛び降りる。あ、と声をあげようとしたたしぎの目の前で、彼は自身の姿を「煙」へと変えて、ふわりと地上に降り立った。
「手錠をかけておけ。能力者じゃない。海楼石入りなんて上等なモンは使わなくていい」
「は、はいっ!」
すっかりのびている海賊達の山をよいしょよいしょ、と登っていくたしぎを眺めながら、スモーカーはまた1つ、溜息を吐いた。
「そういえば、スモーカーさん。本部から協力要請の連絡がありました。なんでも、最近“
「あァ? なんで
「そんなこと、私に言われましても……でも、相当な手練れなんでしょうかね?」
たしぎの言葉に、スモーカーはピクリと反応する。なるほど確かに、少なくとも今目の前で部下に手錠をかけられている海賊共よりはマシな奴なのかもしれない。
「断っておきましょうか。こちらだって暇じゃないんだし、そもそも管轄外ですし……」
「いや、協力しよう。行くぞ、たしぎ」
「え?! は、はいっ!」
鼓動が早まるのを感じる。まだ見ぬ獲物に高まった期待を抑えきれずに、スモーカーはその身を煙に変えて駆け出す。たしぎが追い付けずに後ろで派手にすっ転んでいる音が聞こえるが、そんなことに構っている時間さえも惜しかった。
翌日、スモーカーとたしぎの姿は洋上にあった。軍の寄越した迎えの軍艦の上で、スモーカーは葉巻を吹かしながら舌打ちをする。
「ちっ……“ビローアバイク”で昨日のうちに出てりゃァ、朝には着いてたってのに……」
「無茶言わないでください! “
「海王類を仕留めりゃいいだけの話だろう。何を無茶なことがある」
「~~~……もう! 他にも召集がかかっていた方々と乗合なんですから、どっちにしたってダメです!!」
たしぎに窘められ、やれやれ、とスモーカーは溜息を吐く。右手に握られた報告書には、今日の捕物の標的に関する情報が載せられていた。スモーカーは今一度、その報告書に目を落とす。
【拿捕対象:「女義賊」雪櫻
このところ、
最近では海兵、はたまた貴族まで盗みの対象とし始めたため、今回の作戦を決行する。得物は銃。充分に気を付けること】
(貴族にまで手を出しやがるとは、なかなか骨がありそうだな……)
昨日感じた鼓動の高鳴りは、今でも続いていた。自身の得物である海楼石仕込みの十手を握る手にも、自然と力が籠る。
(だが、何故海兵を襲う必要がある……? 海賊や賞金首、貴族なら金目のものを持っているだろうから分かるが……)
「あ、スモーカーさん! そろそろ着くみたいですよ!!」
たしぎの声に振り返ると、彼女が指差した先には小さな島があり、確かに船はその島の港に入っていくようだった。だが、島が近付くにつれて、その異様な雰囲気に、船上の海兵達が皆ざわつき始める。
「おい、ここに本当に雪櫻が現れるっていうのか?」
「まるで盗める物なんてなさそうじゃねェか!」
海兵達の声に、スモーカーも島の方へと視線を送る。視線の先には、見るも無惨な元・港町の姿しかなかった。
「こりゃひでェな……」
スモーカーの口からも、呟きが漏れる。たしぎも怒りなのか、悲しみにか、その肩を戦慄かせていた。
その光景は、さながら戦場のようだった。大砲を撃ち込まれたのであろう、跡形もなく屋根から潰れてしまった家。そこから延焼したのであろう、人々が生活していた痕跡を残したままに燃えてしまった家々。その所々では、未だ火が燻り続けていた。ドアノブや窓は斧か何かで滅多打ちにされ、略奪の跡が窺える。人影も疎らに見えたが、子供達は悲痛な泣き声をあげ、大人達は泣く気力もないのか、息を殺してただじっとしていた。
「本部の見解だと次はこの島に現れるだろう、って話だが……こりゃァ当てが外れたな」
「そうだな。盗めそうな物なんてありゃしねェ」
「本部に連絡して、どこか次に現れそうな島を聞こう。無駄足だ」
名も知らない他の管轄の将校達が、口々にここではないだろう、と言い始める。その雰囲気を見て、たしぎが小声で不安そうに話し掛けた。
「スモーカーさん、どう思いますか? 私も、ここには現れないように思いますが……」
「――そうか。ならお前達だけ行け。俺はここに残る」
その場にいた海兵達が一斉に振り返る。何を考えているんだ? とでも言いたげな視線がスモーカーに注がれ、彼は怒りを露にした。
「雪櫻が現れるとか現れねェとか、今はそんなことどうだっていいだろうが! 目の前に海賊共のせいで苦しんでいる人間がいるのに、テメェらはそれを見捨てて次の島へ行けるっていうのか?!」
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