砂漠鰐は向日葵畑の夢を見るっぽい?

「行楽の秋だ」



 唐突に言われ、私は目をぱちくりとさせる。クロコダイルはそんな私の様子には目もくれず、革張りのソファに腰掛けて、長い脚を組み替えながら、膝の上で雑誌を捲った。



「ベタだが秋島に紅葉を見にでも行くか? それとも、お前のことだから食欲の秋、なんて言ってグルメ旅の方がいいか?」
「あの、全然話が見えないんですけど」



 おずおずとクロコダイルの顔を覗き込むと、彼は呆れたように眉を寄せる。



「あのなァ……旅行の計画を立てるって話に決まってるだろう。なんだ? 行きたくないっていうのか?」
「いやいや初耳だから。行きたくなくはないけど、それって、そのー……」
「なんだ、何か言いたいことでもあるのか?」



 こんなこと聞いたら怒られるか馬鹿にされるんだろうな、と思いながらも、私は頭に浮かんでいた疑問を口に出す。



「……お、お泊まりデートってやつ、ですか?」
「……ッ! 馬鹿言え!! 社員旅行に決まってるだろう!」



 やっぱり怒られた。しょぼん、としながらも私は安堵する。2人っきりで旅行だなんてことになったとしたら、絶対に身が持たない。



「ま、まァ、お前が看板ディーラーとして頑張っているのは俺も認めているからな。それでお前だけ特別に――」
「ミス・オールサンデー! オーナーが社員旅行に連れて行ってくれるそうですよー!!」
「あら本当? 楽しみね。他のディーラーの皆にも知らせてあげなきゃ」
「……おい、テメェ……!」



 クロコダイルが何故か蟀谷に青筋を浮かべている。私は反射的に逃げ出した。すかさずクロコダイルもその身を砂に変えて追ってくる。ミス・オールサンデーが、そんな私達の様子を眺めながらクスクスと笑っていた。





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■素直になれない。

2015.11
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